未記載種ウチウミハネモ

執筆:鈴木 雅大 作成日:2010年8月12日(2014年4月6日更新)
 
日本各地の内湾で見つかり,幾つかの報告や,フロラリストに名を連ねる未記載のハネモ属(Bryopsis)がいます。ウチウミハネモ(Bryopsis sinicola Kobara & Chihara)です。吉﨑 in 千原(1998)に写真と短い記載文が載っているものの,ラテン語の記載やタイプ指定が成されていないため,今なお未記載種(ineditus)のままです。
 
 

ウチウミハネモ標本写真1

採集地:岩手県下閉伊郡山田町浜川目

採集日:2004年12月1日

 

ウチウミハネモ標本写真2

採集地:新潟県佐渡郡相川町二見(現 佐渡市二見)

採集日:2003年11月7日

 

 体は高さ15 cmを超え,日本ではオオハネモ(B. maxima)に次いで大形となります(標本写真1)。内湾部に生育し,しばしば群生します。岩の上やホンダワラ属などの体上に着生していますが,房状の塊となって漂っていることも多いです。著者はこれまでに青森県陸奥湾,岩手県山田町,新潟県佐渡島,千葉県千葉市千葉ポートパーク,,千葉県木更津市金田海岸,愛媛県伊方町で生育を確認しています。ウチウミハネモは,既知の日本産ハネモ属植物である,オオハネモ,ハネモ(B. plumosa),オバナハネモ(B. hypnoides)などと同定されていると考えられ,おそらく各地で報告されているこれらの種を精査すれば,さらに多くの場所で生育が確認されると思います。

 ウチウミハネモは高さ10 cmを越えること,主軸が3回以上分枝すること,小羽枝が2列に並ぶことが特徴です。小羽枝は上方に向かって漸次短くなるので,ピラミッド形を呈しますが,しばしば小羽枝が細長く伸長し,房状の塊となります(標本写真2)。この状態になると見た目と手触りはホソツユノイト(Derbesia marina)そっくりですが,枝を良く見れば明瞭な主軸があることが分かります。ホソツユノイトは明瞭な軸を持たないことから区別出来ます。この枝の変化が季節的なものなのか,生育環境によるものなのかは分かりません。吉﨑 in 千原(1998)と吉田(1998)によると,ウチウミハネモはハネモに最も近い形態をしていますが,ハネモの主軸の分枝回数は2回以下です。小羽枝を密生することや,房状の塊になること,体が大きいことなどからも区別されます。オオハネモに次いで大形になるため,枝がピラミッド形を呈しているものはオオハネモのように見えます。しかし,オオハネモの主軸は直径1.5 mmに達するのに対し,ウチウミハネモの主軸の直径は1 mm以下です。小羽枝の分枝の様子もオオハネモとは異なります。房状の塊となったものは,オバナハネモに良く似ますが,オバナハネモは小羽枝を各方面に生じ,小羽枝そのものも分枝します。

 このように明らかな新種でありながら未記載種となっているのは残念でなりません。日本各地で見られる普通種である事からも正式な記載と,日本の海藻フロラへの掲載が待ち望まれています。吉﨑 in 千原(1998)から既に15年以上経過しているので,誰かが"Bryopsis sinicola Kobara et Chihara ex XXXX sp. nov.",あるいは全く別の新種(*)として記載しても構わないのではないでしょうか。ただ,著者が聞き及ぶ限りでは,高原博士にはまだ記載する意志があるとのことですので,いずれ正式に記載・発表されるのかもしれません。それまでは,このコラムを読んでくれた人がウチウミハネモという種を認識して頂ければ幸いです。参考までに各地で採集したウチウミハネモの標本写真を以下に掲載します。

*名前が付けられ,著書に掲載されているとはいえ,正式に記載・発表されたものではないので,命名規約上は誰かが新しく記載・発表しても問題はありません。ただし,命名者に記載する意志がある以上,無視するのは不義理かもしれません。もちろん著者は,ウチウミハネモの記載に口を出すつもりはありません。同様なケースとして,アミジグサ(Dictyota koreana Lee et al. (ineditus)),サイノメアミハ(Struvea enomotoi Chihara (ineditus)),ナンカイニセハウチワ(Rhipilia amamiensis Enomoto (ineditus) ),ミゾオキツノリ(Gymnogongrus incurvatus Chihara (ineditus))が挙げられます。アミジグサとサイノメアミハにおいては,ウチウミハネモと同じく普通種であるため,正式な記載・発表が待たれています。いずれにしろ,正式に発表されていない学名が一人歩きするのは望ましいことではなく,一刻も早い記載・発表が必要だと思います。教訓として,仮に発表予定であるとしても未記載の学名を不用意に著書・図鑑・図録等に掲載してはいけないということでしょうか。著者も分類学者の一人として肝に銘じたいと思います。

 
撮影地:千葉県 千葉市 中央区 中央港 千葉ポートパーク;撮影日:2014年4月5日;撮影者:鈴木雅大
 
採集地:千葉県 千葉市 中央区 中央港 千葉ポートパーク *打上げ 採集日:2003年1月9日
 
採集地:千葉県 木更津市 久津間海岸 採集日:2003年1月17日
 
採集地:愛媛県 西宇和郡 伊方町 三机港 採集日:2006年2月18日
 
採集地:新潟県 佐渡郡 相川町 二見元村(現 佐渡市 二見)*打上げ 採集日:2003年11月7日
 

採集地:新潟県 佐渡郡 相川町 二見元村(現 佐渡市 二見)*ミヤベモク体上 採集日:2002年11月5日
 
採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 浜川目 採集日:2004年12月1日
 
採集地:青森県 むつ市 川守町 採集日:2004年11月12日
 
参考文献
 
千原光雄(編集代表)1996. 千葉県の自然誌 本編4 千葉県の植物1. 千葉県.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌 1222 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 

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