カクレイト目 vs イソノハナ目

執筆:鈴木雅大・大田修平 作成日:2011年2月9日
 
 ムカデノリ科(Halymeniaceae)は,ムカデノリ(Grateloupia asiatica),フダラク(G. lanceolata),マツノリ(Polyopes affinis)など,磯を歩くと普通に見られる海藻が含まれており, 私たちにとって身近な仲間の多い科です。ところが,現在ムカデノリ科をどの目のメンバーとするかが大きな問題となっています。事の発端は,Saunders & Kraft (1996)がイソノハナ目(Halymeniales)を記載し,ムカデノリ科とヒカゲノイト科(Tsengiaceae)をイソノハナ目のメンバーとした事で,イソノハナ目の設立に異論を唱える研究者が頻出しました。イソノハナ目に反対する研究者の多くは,Schmitz (1892)以来使われてきたカクレイト目(Cryptonemiales)を用いるべきだと主張しています(Masuda et al. 1999など)。この問題は紅藻の分類をやっている者には深刻で,強い不快感を露わにする研究者もいます。 また最近では,雑誌の査読者(レビュアー)と編集者で,投稿した論文の目名を直すように言わることがあります。 査読者の間で 分類学的見解の意見が分かれるケースもあるため,著者を始めとして,事情を知っている人は,論文中で目名を出す事を極力避け,科名であるムカデノリ科(Halymeniaceae)を使うようにしています。けれども,本ウェブサイトの日本産海藻リストもそうですが,リストや図鑑,データベースなどを作る場合,目名の問題は避けて通れません。そこで,イソノハナ目かカクレイト目かで,なぜここまで問題になるのか, コラム として紹介したいと思います。
 
ムカデノリ科の仲間
 
Cryptonemia denticulata   フイリグサ(Halymenia dilatata
     
   
左:ムカデノリ(Grateloupia asiatica),右:フダラク(Grateloupia lanceolata   マツノリ(Polyopes affinis
 
表1. 近年の論文におけるムカデノリ科の目の扱い
カクレイト目 Cryptonemiales イソノハナ目 Halymeniales
Masuda et al. (1999) Saunders et al. (1999)
Masuda et al. (2000) Saunders et al. (2004)
Wang et al. (2000) Wilkes et al. (2006)
Kawaguchi et al. (2002) Figueroa et al. (2007)
Kawaguchi et al. (2003) Schneider & Wynne (2007)
Krayesky et al. (2009) Mineur et al. (2010)
*Algaebase (Guiry & Guiry 2011)はイソノハナ目を採用しています。
 
カクレイト目とイソノハナ目の分類学的な歴史
 
 まずはカクレイト目とイソノハナ目の記載された歴史を追ってみましょう。真正紅藻綱(Florideophyceae)の目の分類はSchmitz (1892)から始まります。Schmitz (1892) は,ウシケノリ目(Bangiales *広義の原始紅藻綱,現ウシケノリ綱)と共にウミゾウメン目(Nemaliales),カクレイト目(Cryptonemiales),スギノリ目(Gigartinales),マサゴシバリ目(Rhodymeniales)の4目を記載しました。Schmitz (1892)の中で,ムカデノリ科はカクレイト目のメンバーとして挙げられています。この4目は「Schmitzの4目」又は「最古の4目」と呼ばれています。この4目は果胞子体形成過程における助細胞の有無と形成位置によって区別されました。
 
Schmitz (1892)の4目と各目の特徴
 
ウミゾウメン目 Nemaliales     …助細胞を持たない
カクレイト目 Cryptonemiales   …助細胞を特別な枝に形成する
スギノリ目 Gigartinales       …助細胞を通常の体細胞枝に形成する
マサゴシバリ目 Rhodymeniales   …プロカルプを持つ
 
 Schmitz (1892) 以降,イギス目(Oltmanns 1904)とテングサ目(Kylin 1923)が新設された後,Kylin (1956,注)は紅藻類の分類体系を詳細に解説,記述しました。Kylin (1956)は紅藻の専門家ならば必ず読んで勉強するバイブルで,紅藻の専門家はこれを「Kylinの6目」と呼んでいます。Schmitz (1892) の4目はそのままで,ムカデノリ科もカクレイト目のメンバーです。
注.Herald Kylin (独,1879-1949)。紅藻類の分類の大家です。Kylinの分類体系をいかにして崩すかが 80年代以降の紅藻分類の命題でした。
 
Kylin (1956) の6目と各目の特徴
 
ウミゾウメン目 Nemaliales     …助細胞を持たない
テングサ目 Gelidiales       …助細胞を持たないが,栄養細胞を持つ
カクレイト目 Cryptonemiales   …助細胞を特別な枝に形成する
スギノリ目 Gigartinales       …助細胞を通常の体細胞枝に形成する
マサゴシバリ目 Rhodymeniales   …プロカルプを持ち,助細胞を受精前に形成する
イギス目 Ceramiales        …プロカルプを持ち,助細胞を受精後に形成する
 
 「Schmitzの4目」及び「Kylinの6目」の一つである事など,カクレイト目は,紅藻の専門家にとって馴染み深い目であったのですが,同時に「助細胞を特別な枝に形成する」というカクレイト目の特徴は,例外や特別な枝なのか通常の体細胞枝なのか区別が付かない仲間が知られており,カクレイト目の定義については,疑問が残されていました。80年代に入り, Kraft & Robins (1985) はカクレイト目の「助細胞が特別な枝に形成される」という特徴が,スギノリ目(Gigartinales)と区別出来ないことを挙げ,カクレイト目をスギノリ目に含 めました。Kraft & Robins (1985)のKraft博士はイソノハナ目を記載したSaunders & Kraft (1996)のKraft博士その人ですが,Kraft & Robins (1985)は,非難を受ける事も無く,むしろ歓迎される形となりました。現在でも多くの図鑑,文献がこれに従っており,ムカデノリ科もスギノリ目のメンバーとされています(吉田 1998;吉田・吉永 2010)。こうして,カクレイト目のメンバーがスギノリ目に移った事に前後し,Pueschel & Cole (1982)はベニマダラ科(Hildenbrandiaceae)をベニマダラ目(Hildenbrandiales)へ,Silva & Johansen (1986)はサンゴモ科(Corallinaceae)をサンゴモ目(Corallinales)としてそれぞれ独立の目としました。こうして,伝統的なKylinの分類体系から電子顕微鏡,さらにDNAを用いた分子系統解析に基づいた分類体系への変化が始まりました。
 

1. Schmitz (1892)とKylin (1956)において,カクレイト目に所属していた各科の1990年時点での目の所属

リュウモンソウ科 Dumontiaceae
フノリ科 Endocladiaceae
イトフノリ科 Gloiosiphoniaceae
ムカデノリ科 Halymeniaceae
ツカサノリ科 Kallymeniaceae
イワノカワ科 Peyssonneliaceae
ナミノハナ科 Rhizophyllidaceae
カレキグサ科 Tichocarpaceae
スギノリ目 Gigartinales
サンゴモ科 Corallinaceae サンゴモ目 Corallinales
ベニマダラ科 Hildenbrandiaceae ベニマダラ目 Hildenbrandiales
 
 1990年代半ば頃になると,DNAを用いた分子系統解析に基づいた系統分類が盛んに行われるようになりました。分子系統解析の隆盛はすさまじく,1990年時点で13目だった真正紅藻綱の目は, 2014年時点で28目まで急増しています。カクレイト目を含んで40科以上を含む大きな目となっていたスギノリ目は,系統分類学的には多系統群である事が分かり,目の解体が始まり,2011年時点でユカリ目(Saunders & Kraft 1994),イソノハナ目(Saunders & Kraft 1996),ヒメウスギヌ目(Saunders & Kraft 2002),ヌラクサ目,アクロシンフィトン目(Withall & Saunderes 2006),イワノカワ目(Krayesky et al. 2009)がスギノリ目から独立しています(表2)。
 
表2. 1990年の時点でスギノリ目(広義)に所属していた科の,2011年時点での所属。Schmitz (1892)とKylin (1956)においてカクレイト目に所属していた科を太字で示しました。和名の無いものは日本産種の無い科です。
Acrotylaceae
Areschougiaceae
Blinksiaceae
Catenellopsidaceae
イソモッカ科 Caulacanthaceae
Corynocystaceae
Crossocarpaceae
Cruoriaceae
Cubiculosporaceae
シストクロニウム科 Cystocloniaceae
ナミイワタケ科 Dicranemataceae
リュウモンソウ科 Dumontiaceae
フノリ科 Endocladiaceae

ススカケベニ科 Furcellariaceae
Gainiaceae
スギノリ科 Gigartinaceae
イトフノリ科 Gloiosiphoniaceae
Haemeschariaceae
イバラノリ科 Hypneaceae
ツカサノリ科 Kallymeniaceae
Mychodeaceae
Mychodeophyllaceae
Nizymeniaceae
キジノオ科 Phacelocarpaceae
オキツノリ科 Phyllophoraceae
Polyideaceae
ナミノハナ科 Rhizophyllidaceae
Rissoellaceae
Schmitziellaceae
ミリン科 Solieriaceae
Sphaerococcaceae
カレキグサ科 Tichocarpaceae
スギノリ目 Gigartinales
アクロシンフィトン科 Acrosymphytaceae アクロシンフィトン目 Acrosymphytales
ムカデノリ科 Halymeniaceae
ヒカゲノイト科 Tsengiaceae
イソノハナ目 Halymeniales
ヒメウスギヌ科 Nemastomataceae
ベニスナゴ科 Schizymeniaceae
ヒメウスギヌ目 Nemastomatales
ユカリ科 Plocamiaceae
アツバノリ科 Sarcodiaceae
ユカリ目 Plocamiales
イワノカワ科 Peyssonneliaceae イワノカワ目 Peyssonneliales
ヌラクサ科 Sebdeniaceae(注1) ヌラクサ目 Sebdeniales
ヌメリグサ科 Calosiphoniaceae(注2) 所属不明 Incertae sedis
注1.ヌラクサ科はSaunders & Kraft (1996)によってイソノハナ目のメンバーとされましたが,Withall & Saunders (2006) はヌラクサ目としました。
注2. ヌメリグサ科はマサゴシバリ亜綱の中でどの目に含まれるのか,もしくは新しい目として独立させるべきなのか結論が出ていません(Withall & Saunders 2006など)。
 
 スギノリ目は今なお多系統群ですが,問題となっているムカデノリ科は,Saunders & Kraft (1996)が記載したイソノハナ目のメンバーとなっています。最初に述べた通り,これに異論を唱え,カクレイト目を再評価すべきだとする研究者が少なくありません。ある海外の研究者は「自分達の名前で記載したい為だけに作った目だ。」と 批判しておりました(私信)。これに対してイソノハナ目の設立者の一人であるKraft博士は国際藻類学会の雑誌「Phycologia」に「Bringing order to red algae families: taxonomists ask the jurists ‘Who’s in charge here?’」というタイトルでイソノハナ目の正当性を訴えるコメンタリーを発表しました(Kraft & Saunders 2000)。この中でイソノハナ目に対する5つの批判とそれぞれの批判への返事を掲載しています。タイトルからして奮っており, 直訳すると「分類学者 はジュリスト(法学者)に問う!『ここでは誰が責任者か ?』」という感じでしょうか。次は,Kraft & Saunders (2000)に沿って紹介します。
 
Kraft & Saunders (2000)の問答
 
 生物の学名は命名規約によって厳密に規定されており,紅藻類の場合は国際植物命名規約(ICBN)に従います(コラム「トリパノソーマ・クルージィの学名について」)。イソノハナ目とカクレイト目の問題の解決は,ICBNに従うべきです。Kraft & Saunders (2000)の問答も,ICBNをどのように解釈するかが議論の中心です。
 

Objection 1. カクレイト目(Cryptonemiales)はイソノハナ目(Halymeniales)に対して優先権を持つ

 

 ICBNでは先に発表された学名に優先権があります(ICBN原則III)。このため,Masuda et al. (1999)は論文中で「カクレイト目はムカデノリ科(Halymeniaceae)を基にタイプ指定された目であり,Schmitz (1892)が先に発表したカクレイト目に優先権があり,イソノハナ目は命名規約上,非合法である」と述べています。カクレイト目を主張する研究者のほとんどはこの優先権を論拠として挙げています。

 目の学名はICBN勧告16Bによると,「科より上位のランクにある分類群の学名をタイプ指定された学名の中から選ぶ場合には,著者は一般に優先権の原則に従うべきである 」とあります。これは解釈の仕方によっては必ずしもカクレイト目がイソノハナ目に対して優先権を持つわけではないという事になります。そもそも勧告には強制力は無く,その上「一般に」というかなり弱い言葉が加えられています。つまりイソノハナ目は命名規約上,非合法ではありません。
 
Objection 2. 目の設立に関して議論の余地があり,目の地位としては曖昧である。
Objection 4. ICBNの精神にそぐわない。
 
 反論2, 4は対するKraft & Saunders (2000)の解答も良く似ているので,簡潔にまとめて紹介します。ICBNの精神として,前文1より抜粋すると「この国際植物命名規約は(中略),間違いやあいまいの原因となるようなあるいは科学を混乱させるような学名の使用を避けかつ拒否することを目的とする。次に重要な目的は不必要な学名が作られないようにすることである。」とあります。イソノハナ目(Halymeniales)には,確かに曖昧さや議論の余地があります。ただし,それはカクレイト目(Cryptonemiales)も同様で,Schmitz (1892)とKylin (1956)が定義したカクレイト目は,現在ほぼ否定され,カクレイト目はスギノリ目同様,多系統群である事が分かっています(表2参照)。イソノハナ目は目を特徴づける共有形質に乏しいものの,単系統群として良くまとまっています。カクレイト目を新たに再定義(emendation)して,Cryptonemiales Schmitz 1892 emend. Saunders et Kraftとする事も可能ですが,ICBNの精神に照らし合わせるならば,カクレイト目よりもイソノハナ目を用いた方が間違いや混乱が少ないのではないでしょうか。
 
Objection 3. 将来,ICBN勧告16Bが改正された場合はどうするのか?
 
 将来,ICBNが改正され,勧告16Bに強い強制力が備わったとすると,優先権の原則が目の階級にも厳密に適用されるかもしれません。実際,国際植物学会議では,改正の提案が出される事もあるそうです。こうなると確かに強制的にカクレイト目に変えなければならなくなるかもしれません。ただし,勧告16Bに強制力を持たせた場合,既に定着している学名を変更しなければならない事態が頻発する事も予想されるため,今後改正されるかどうかは未知数です。2006年に出版されたICBNウィーン規約でも改正されていません。
 
Objection 5. イソノハナ目の特徴が曖昧である。目の特徴である細胞壁の構成成分と分子系統解析に関する事柄が記載文に書かれていない。
 

 Saunders & Kraft (1996)がイソノハナ目の定義(特徴)として挙げたのは,細胞壁の構成成分とSSU rRNAに基づいた分子系統解析です。細胞壁の構成成分はマサゴシバリ目(Rhodymeniales)とも近似するため,実質的には分子系統解析によってのみ支持される目です。伝統的に紅藻類は体構造と生殖器官によって分類されてきましたが,イソノハナ目は形態的特徴からは,スギノリ目と区別する事が出来ません。イソノハナ目にはムカデノリ科とヒカゲノイト科の2科が含まれますが,この2科には目の特徴とするだけの形態的な共有形質がありません。どちらか1科だけだったならば,科の特徴をそのまま目の特徴として用いる事が出来るので,いっそヒカゲノイト科をヒカゲノイト目として独立させられれば形態的にも納得がいくかもしれませんが,系統解析の結果は,そこまでヒカゲノイト科の独立性を支持していませんし,目の乱立が好ましいとも思えません。

 新種,新属など新分類群を記載する際,ICBN第36条ではラテン語の記載文又は判別文を付けることが義務付けられています。イソノハナ目のラテン語の記載文には細胞壁の構成成分と分子系統解析について書かれていません。その目を特徴づける事柄が記載文に書かれていないのは確かに問題ですが,これは,形態的特徴以外の特徴を記載文に書かない事が慣例的になっていたからで,近年は記載文に塩基配列の情報を含める例も増えてきています。また,系統解析の結果だけを基に記載される新分類群も増加しています。
 
命名規約から見たイソノハナ目の正当性
 
 Kraft & Saunders (2000)の言う通り,Objection 1~5いずれの反論もイソノハナ目を非合法とするものではありませんでした。ICBN 勧告16Bの強制力はかなり弱いものであり,これを論拠としてイソノハナ目を否定する事は出来ません。明らかな多系統群であるカクレイト目をイソノハナ目の代わりに用いる事は,Schmitz (1892),Kylin (1956)のカクレイト目との混乱を呼ぶと考えられます。ただ,これまでの議論は,イソノハナ目の代わりにカクレイト目を用いる事を制限するものでもないので,結論としてはどちらを用いても構わないという事になります。ただし,ICBN(ウィーン規約)を良く読んでみると,第10.7条には,「タイプ指定の原則は,科より上位のランクの分類分の学名には適用されない。ただし,属名に基づいているために自動的にタイプ指定されてしまう学名(第16条をみよ)を除く。このような学名のタイプは,その学名が基づいている属名のタイプと同じである」とあります。つまり,そもそも目の階級においてタイプ指定された科というものはなく, 「カクレイト目(Cryptonemiales)がムカデノリ科(Halymeniaceae)を基にタイプ指定された目である(Masuda et al. 1999)」とするのは間違いです。また,Schmitz (1892)がカクレイト目を記載した当時,ムカデノリ科はCryptonemiaceae((J. Agardh) Decaisne 1842)と呼ばれていました。Cryptonemiaceaeはカクレイト属(Cryptonemia J. Agardh 1842)をタイプ属とする科でしたが,後にイソノハナ属(Halymenia C. Agardh, 1817)をタイプ属として記載されたHalymeniaceae(Bory de Saint-Vincent 1828)に優先権があるとしてHalymeniaceaeのシノニム(異名)とされました(ICBN 原則III)。すなわち,カクレイト目は特徴名でも自動的にタイプ指定された学名でもありません。従って,Kraft & Saunders (2000)におけるObjection 1, 3は議論 の前提が崩れています。結論として,イソノハナ目(Halymeniales)の使用を妨げる 命名法的な根拠はありません。もちろん,カクレイト目(Cryptonemiales)を用いるのも間違いではありません。イソノハナ目,カクレイト目のどちらが正しいか,分類学的に結論を下せないという大変難しい問題ですが,最後は各研究者の判断に委ねられる事になります。いずれどちらかが定着すると考えられるので,慎重に行方を見守りたいと思っています。
 
問題の背景にあるもの
 

 イソノハナ目が非難を浴びた背景には,伝統的な目であるカクレイト目を用いたいという気持ちもあると思いますが,分子系統解析のみによって新分類群を記載する事に対する不快感が大きかったと思います。著者らも分類学的研究の手法の一つとして分子系統解析を用いていますが, それだけに頼っている訳ではありません。しかし,現在ではイソノハナ目と同様にして記載される新分類群は珍しくなく,むしろ主流になりつつあります。伝統的な形態分類と系統分類とが一致しない事も多く,分類学者は常に頭を悩ませています。 分類学者は新種を書くばかりが仕事ではなく、むしろ高次分類体系における分子・形態情報の矛盾をどう解決するかという問題に取り組むほうがウエイトが大きいと思います。

 もう一つは, 国際命名規約は非常に複雑で,解釈が難しいため,命名法的に誤った解釈をしてしまう研究者が少なくないことです。著者(鈴木)も,命名法について無知だったと反省する事が良くあります。命名規約について学ぶ場所も少なく,独学による場合がほとんどです。大田は,仲田崇志博士と共に,生物の学名について議論,勉強するための会を立ち上げました。興味のある方はこちらを参照して下さい。
 
参考文献
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