用語解説

監修・執筆:大田修平・鈴木雅大 作成日:2010年10月4日

 
 大系統の研究は,既に生物学の知識を総動員しないと付いていくのが難しいほど複雑化しています。ここでは,主に藻類とプロチストの形態・分類・進化に関係する用語を中心に,大系統を勉強する上で欠かすことの出来ない用語について解説します。特に重要なものについては別ページで解説します。
 

五十音順です。( )は執筆者です。

 
~植物と~藻類
 一般的に光合成を行う生き物は「植物」と呼ばれています。後述しますが,その中で維管束植物とコケ植物を除いたものを「藻類」と呼んでいます。ただし,「植物」も「藻類」も総称であって,学術的な用語ではありません。このため,同じ生き物について~植物,~藻類と2通りの呼び方をする事が良くあります。例えば,クロララクニオンという単細胞の真核光合成生物について「クロララクニオン植物」と言ったり,「クロララクニオン藻類」と言ったりします。もう1件挙げると,二次植物の葉緑体の起源について,「紅色植物由来」と言ったり,「紅藻由来」と言ったりします。正式に表現するならば,「紅色植物門(紅藻植物門)に近縁と考えられる単細胞生物由来」と言うことになりますが,いちいちこのような表現をするのは大変です。また,渦鞭毛植物(渦鞭毛藻類)のように,同じグループに光合成を行う植物と従属栄養生物とが混在しているような生き物については,~植物もしくは~藻類と呼んで良いものか悩みます。学名で呼び合えば問題ありませんが,それが出来るのは専門家の間だけです。著者は一般の方や学生には~植物と言っていますが,専門家同士の間では~藻類と言っています。混乱のないよう,出来る限り統一するように努めていますが,~植物,~藻類は分類学及び生物学的な意味のある学術用語ではないので,どちらが正しいというものではありません。(鈴木)
 
一次共生・二次共生・三次共生(一次植物・二次植物)
 色素体/葉緑体の獲得は細胞内共生によるものです。「色素体/葉緑体の成立と多様性」のコーナーで詳しく解説します。
 
遺伝子水平伝達 Lateral gene transfer (LGT)
 
 
大型藻類と微細藻類
 藻類や原生生物という定義が実際の分類・系統を反映したものではないように,大型藻類と微細藻類にも明確な基準はありません。一般的に大型藻類は「手に取って見る事が出来る藻類」として,アオサ,シオグサ,ミル,ツルギミドロ,フシマダラなど(緑藻),アオミドロ,ホシミドロ(接合藻),シャジクモの仲間(車軸藻),アサクサノリ,カワモズク,オオイシソウ,テングサ,トサカノリなど(紅藻),モズク,ワカメ,コンブ,ヒジキなど(褐藻),クビレミドロ,フシナシミドロなど(黄緑色藻類)などの多細胞藻類が該当します。ところが,イシクラゲ,スイゼンジノリなどのシアノバクテリア(藍藻),ミズオ(黄金色藻),珪藻など,高さ数 cm以上に達する群体を作り,明らかに「手に取って見る事が出来る」ものであっても,図鑑などでは「微細藻類」のカテゴリーに入ることが多いですし,多細胞藻類であるスミレモ,アワビモ(緑藻),コレオケーテ(コレオケーテ植物),トリボネマ(黄緑色藻)なども「微細藻類」と呼ばれることが多いです。また,淡水藻類は全体的に「微細藻類」のカテゴリーに入れられる事が多いです。すなわち,大型藻類と微細藻類を厳密に分けているわけではなく,生育(生息)場所や研究手法,歴史的背景などによって用いられている言葉です。(鈴木)
 
眼点
 
 
原生生物(プロチスト)Protist
 原生生物(プロチスト又はプロティスト)とは,単細胞藻類(微細藻)と原生動物をまとめて呼んだもので,さまざまな系統群を含みます。単細胞の菌類を含む場合もあります。原生生物という場合,葉緑体の有無は関係ありませんが,原生動物と言う場合,葉緑体を持たない(従属栄養性)の真核単細胞生物群のみを指します。(大田)
 
細胞外被の多様性
 
 
スーパーグループ Supergroup

 生物を大きく括った時のグループを示す名称で,界,超界レベルに相当するグループです。wikipediaにはスーパーグループの説明として「真核生物の高次分類群のことを指す」としていますが,これは正しくありません。「分類群(taxon, 複taxa)」は界・門・綱・目・科・属・種などのように,あくまでもランク(分類階級)を持つ階級名であり,スーパーグループはランクの概念がありません。Adl et al. (2005) によれば,真核生物はクロムアルベオラータ,アーケプラスチダ,オピストコンタ,リザリア,アメーボゾア,エクスカバータの6つのスーパーグループから成ります。これは現時点での国際原生動物学会の公式見解と考えて良いですが,リザリアのようにほぼ間違いなく単系統であるグループもあれば,クロムアルベオラータのように単系統であるかどうかまだ決着のついていないものもありますので,今後の研究で見解の変わる可能性は十分に考えられます。スーパーグループを使う利点は,ランクを持たないので,研究者(研究グループ)が比較的自由にグループの命名を行えることですが,逆にさまざまなグループ名ができてしまい,多少の混乱が起こることもあります。(大田)

 
生育と生息
 広辞苑 第六版(新村 出 編 2008 岩波書店)によると,生育は「生まれ育つもの」,生息(棲息)は「動物が生きて住んでいること」とあります。植物の場合は「生育」を用いるのが通例です。植物が「生育」ならば藻類も「生育」を用いるかというとそういうわけではありません。藻類,原生生物(プロチスト),菌類,細菌の場合,大型藻類は「生育」で他は全て「生息」となります。キノコ(菌類)に関しては「生育」と「生息」の両方が見られます。このため,同じ分類群に対して「生育」と「生息」の両方が見られる事がしばしばあります。例.緑藻:アオサやシオグサは「生育」,ボルボックスやクンショウモは「生息」。紅藻:アサクサノリやテングサは「生育」,シゾン,イデユコゴメ,チノリモは「生息」。イシクラゲ,スイゼンジノリ(シアノバクテリア)や珪藻など大型の群体を作るものについてはどちらを用いたらよいか悩みますが,新聞記事などを見る限り,大きくて植物のように見えるものは「生育」を用いているようです。(鈴木)
 
藻類 Algae
 広辞苑 第六版(新村 出 編 2008 岩波書店)によると、「水産の下等隠花植物中、葉緑体を有して自営するものの総称」。さらに「酸素放出型の光合成を行う生物からコケ・シダ・種子植物を除いたもの」とあります。すなわち、「水中に生活し、維管束を持たず、花を咲かせることのない光合成生物」というのが藻類の一般的な認識でしょう。しかし、水中生活をしていてもオオカナダモやアマモなどの種子植物は維管束を持ち、花も咲かせるため、これらの植物は「藻類」には入りません。また「藻類」の生活場所は水中だけに留まらず、湿気のあるありとあらゆる場所に生育し、一部は砂漠のような乾燥地帯にも生育し、また他の生物に寄生するものなど様々です。そこで、今日の生物学では、「光合成の過程において酸素分子を放出する生物から有胚植物を除いたもの」(生物学辞典 第4版 1996 岩波書店)と定義しており,広辞苑第六版もこれに準じたものとなっています。すなわち、種子植物、シダ・コケ植物及び嫌気性光合成細菌を除いた全ての光合成生物の総称が「藻類」なのです。現在,「藻類」と呼ばれる生き物には,様々な分類群が含まれており,「藻類」と「原生生物」の間に明確な区別はなく,藻類研究者と原生生物研究者との交流も増えてきています。(鈴木)
 
盗葉緑体(クレプトクロロプラスト)現象
 従属栄養性の真核生物が光合成真核生物,すなわち藻類を細胞内に取り込み,葉緑体として利用する現象です。クレプトクロロプラストには幾つかのタイプがあり,上述の葉緑体成立の第1段階に相当すると考えられるものもあれば,この先第2段階に進むとは考えにくい,葉緑体の成立とは関係が無いかもしれないものもあります。近日中に改めて本HPのコラムとして解説したいと思います。
 
ドメイン Domain
 Woose et al. (1990) が提唱したグループ名で上界(Superkingdom),界(Kingdom)よりも上のレベルに相当します。Woose et al. (1990) によると,生物の世界は,真核生物ドメイン,古細菌ドメイン,真正細菌ドメインの3つのドメインに分けられます。「ドメイン」は「スーパーグループ」と同様に分類階級ではないため,「ドメイン」に対して,「帝又は園(Empire)」という分類階級に充てるべきとの見解もあります。(鈴木)
 
ヌクレオモルフ Nucleomorph
 二次植物のうち,クリプト植物とクロララクニオン植物に見られる共生藻の退化核のことを指します。渦鞭毛藻などの中には,共生者の核を持つものもいますが,これはヌクレオモルフとは呼びません。ヌクレオモルフとは,はっきりと形態とゲノムサイズが縮小している共生者核を指す用語となっています。さらに詳しくは,「色素体/葉緑体の成立と多様性」のコーナーや「クロララクニオン植物の形態・分類・進化」のページを参照して下さい。(大田)
 
ハテナ Hatena arenicola
 ハテナ (Hatena arenicola) は カタブレファリス類と呼ばれるクリプト植物と比較的近縁な原生生物です。この原生生物はプラシノ藻(単細胞緑藻)を餌として細胞内に取り込み,共生藻を葉緑体として使うことが知られています。ハテナが細胞分裂すると,片方の娘細胞のみに共生藻が受け継がれます。つまり細胞分裂後,一方は「藻類(光合成生物)」として、もう片方は「原生動物(従属栄養生物)」として生きることが知られており、この生活環を半藻半獣モデルと呼んでいます。ハテナの生活環や微細構造などの研究により,ハテナの共生藻は葉緑体になる過程の初期段階と考えられており,藻類の二次共生の研究,とくに葉緑体の進化に関する研究の研究材料として注目されています。(大田)
 
ヒドロジェノソーム Hydrogenosome
 エクスカベート(エクスカバータ)類と呼ばれるスーパーグループに所属する原生生物の内,ミトコンドリアを持たないグループに見られる細胞小器官です。ヒドロジェノソームを持つエクスカベート類は,嫌気環境や貧酸素環境に生息しています。かつて,ヒドロジェノソームは真核生物の起源となったバクテリアのなごりではないかと考えられていた事がありましたが,近年では,嫌気的な環境に生育している生き物が環境に適応するため,ミトコンドリアを変化させたものと考えられています。ミトコンドリア同様ATPを生成する働きがあり,その過程で二酸化炭素と共に水素を生じるのが特徴です。(鈴木)
 
ピレノイド Pyrenoid とカルボキシソーム Carboxysome
 
 
鞭毛と鞭毛装置
 
 
ポーリネラ Paulinella chromatophora
 Paulinella chromatophora(ポーリネラ クロマトフォラ)はケルコゾア(リザリア)の一種で,珪酸質の殻を持つアメーバ状生物。細胞内にシアノバクテリアを共生させています。最近の研究で、この共生藻シアノバクテリアは遺伝的に宿主生物と統合されていることが分かり,細胞内シアノバクテリアがオルガネラ化(共生藻から葉緑体になった)していることが明らかとなりました。現在,葉緑体が原核光合成生物(シアノバクテリア)起源であるのは,一次植物(緑色植物,紅色植物,灰色植物)しか知られておりません。したがってポーリネラは一次直物と別の系統群の生物がシアノバクテリアを葉緑体化させた唯一の例外であると言えます。ポーリネラにおける葉緑体の獲得時期は一次植物と比べると最近であり,葉緑体の成立過程の途中段階であると考えられています。したがって,ポーリネラは一次共生における葉緑体獲得機構や進化の研究材料として注目されています。(大田)

ポーリネラ(Paulinella chromatophora

撮影:鈴木雅大;千葉県 手賀沼

 
ミトコンドリアのクリステに見られる3タイプ

 ミトコンドリアは,ほとんど全ての真核生物が持つ細胞小器官で,酸素呼吸によるエネルギー生産の場所です。ミトコンドリア内膜はマトリックス(ミトコンドリア内部)に向かって陥入しており,この構造をクリステと呼びます。現在,3つのタイプのクリステが知られています。ミトコンドリアのクリステ構造は真核生物の系統をある程度反映していると考えられています。(大田)

         
   
         
板状クリステ   管状クリステ   盤状クリステ
         
 板状クリステは教科書の模式図でよく見かけるタイプで,ミトコンドリア内膜が板状にマトリックスに陥入しています。藻類では一次植物(緑色植物,紅色植物,灰色植物)とクリプト植物がこのタイプのミトコンドリアを持っています。ヒトを含む動物もこのタイプです。    ミトコンドリア内膜が管状にマトリックスに陥入しているタイプです。真核生物全体を見ると,この管状クリステのミトコンドリアが一般的なタイプと言えます。藻類では,不等毛植物,ハプト植物,渦鞭毛植物,クロララクニオン植物がこのタイプのクリステを持っています。    ミトコンドリア内膜がうちわ型(盤状)に陥入しているタイプです。真核生物では最もマイナーなタイプで,ユーグレナ植物(ミドリムシ)と原生動物のキネトプラステア類で見られるタイプです。キネトプラステア類とはトリパノソーマに代表される従属栄養性の生物で,ユーグレナ植物とは系統的に姉妹関係にあります(ユーグレナ植物およびその仲間については,中山 剛 2010. 植物科学の最前線1: 27-29をご参照ください)。
 
葉緑体タンパク質の輸送経路
 葉緑体のタンパク質は葉緑体自身が持つ遺伝子にもコードされていますが,その多くは核にコードされています(核コード葉緑体タンパク質遺伝子)。核コード葉緑体タンパク質遺伝子は翻訳された後,そのタンパク質を葉緑体まで輸送しなければなりません。核コード葉緑体タンパク質がどのような細胞内の経路をたどって,葉緑体まで届けられるのかは植物(藻類)グループによって異なります。また輸送の仕組み(例えると,荷物を送る際の荷札に相当する部分)もグループによって異なります。現在,いろいろな藻類グループを用いて葉緑体タンパク質輸送経路およびその機構の解明の研究が行われています。また,葉緑体タンパク質輸送経路を様々なクループで比較することで,葉緑体の成立機構やその進化を解明することにつながると期待されています。(大田)
 
Spheroid body
 
 

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