センニンソウの代わりを探して
 
センニンソウの茎は切片を作りやすい上に,典型的な組織を観察出来ることから,優秀な教材として古くから観察に用いられてきました。決して珍しい植物ではないのですが,山野草なので知っている人でないと採集は難しいかもしれません。センニンソウに近い仲間(センニンソウ属)で代用出来ないか,近縁種のハンショウヅル,ボタンヅル,園芸店で鑑賞用に売られているクレマチスについて切片を作り,比較します。
 
センニンソウ Clematis terniflora
 
センニンソウ Clematis terniflora
 
羽状複葉で縁辺は全縁です。
 
ハンショウヅル Clematis japonica
 
 
 
切れ込みのある三出複葉です。縁辺は切れ込みますが,切れ込みの深さは浅裂するものから深裂するものまで変化に富んでいます。葉だけではシロバナノハンショウヅルやボタンヅルとの区別が困難なことがありますが,小葉に柄が無いことから区別されます。花は名前の通り鐘形をしており,花が咲いていれば他種と間違えることはありません。
 
ボタンヅル Clematis apiifolia
 
 
 
 
 
切れ込みのある三出複葉で,ハンショウヅルに良く似ていますが,小葉に柄があることで区別されます。花はセンニンソウに良く似ており,花と葉が揃っていれば他種と間違えることはありません。センニンソウ,ハンショウヅル,ボタンヅルはしばしば混生することがあるため,同定には注意が必要です。
 
茎の横断面
 
センニンソウ *サフラニン・グリセリンアルコールで染色
 
 
ハンショウヅル *ひどい写真なので機会を見て差し替えます。   ボタンヅル *サフラニン・グリセリンアルコールで染色
 
どの種も六稜形(六角形)ですが,ハンショウヅルとボタンヅルの茎はより深く切れ込んでいます。いずれも典型的な真正中心柱 eusteleを観察出来ます。
 
維管束
 
センニンソウ
 
 
ハンショウヅル   ボタンヅル
 
どの種も表皮から内側に向かって厚角組織,厚壁組織,維管束が観察出来ます。
 
厚角組織 collenchyma
 
センニンソウ
 
 
ハンショウヅル   ボタンヅル
 

どの種でも厚角組織が見られますが,ハンショウヅルではセンニンソウほど発達しません。ボタンヅルの厚角組織は板状肥厚か角隅肥厚か区別が曖昧です。

 
厚壁組織 sclerenchyma
 
センニンソウ
 
 
ハンショウヅル   ボタンヅル
 
どの種も厚壁組織が見られますが,ハンショウヅルでは他種ほど明瞭な厚壁組織が見られません。
 
維管束 vascular bundle
 
センニンソウ
 
 
ハンショウヅル   ボタンヅル
 
どの種でも師部 phroemと木部 xylem をはっきりと観察出来ます。
 
形成層 cambium
 
センニンソウ *トルイジンブルーで染色
 
 
ハンショウヅル   ボタンヅル
 
どの種でも師部と木部の間に形成層を確認することが出来ます。
 
観察結果
3種を比較したところ以下の表のようになりました。
 
  厚角組織 厚壁組織 師部 木部 形成層
センニンソウ
ハンショウヅル
ボタンヅル
 
3種はいずれも師部,木部,形成層の観察には問題無いと考えられます。ハンショウヅルは,厚壁組織と厚角組織との境界があいまいで分かりづらく,センニンソウと比べてやや観察が難解でした。ボタンヅルは厚角組織が板状と角隅のどちらともつかないという点を除けば,センニンソウとほぼ等しい断面を観察出来ました。

真正中心柱や維管束だけを観察したい場合は,3種のどれを用いても観察に支障はないようです。厚角組織と厚壁組織について比較すると,やはりセンニンソウが最も優秀な教材と考えられます。3種の内,最も観察しづらかったのはハンショウヅルでした。ボタンヅルは採集が難しいかもしれませんが,概ねセンニンソウと同様な切片を観察出来ます。野外でセンニンソウあるいはボタンヅルが採集出来なかった場合は,園芸店で売られているクレマチスで代用することも可能かもしれません。クレマチスの園芸品種は様々なので,よりセンニンソウに近い品種を見つけて教材化すれば,センニンソウの入手が難しい地域の先生方でも植物組織の観察が容易になるでしょう。今後の課題です。

 
問題点
 センニンソウ,ハンショウヅル,ボタンヅル,クレマチスなど,センニンソウ属のメンバーは,いずれも毒草です。茎や葉を切った時に出る汁に触れるとかぶれることがあります。切片を作る際は,手袋をするなど,扱いに注意する必要があります。
 
実験・観察の紹介植物組織の観察
 
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