S A R (= ハロサ亜界 Subkingdom Harosa)
作成日:2010年10月20日(2019年7月20日更新)
 
 これまで別々のスーパーグループとして扱われていたストラメノパイル,アルベオラータ,リザリアを一つのグループとしてまとめたものです。ストラメノパイル(Stramenopiles),アルベオラータ(Alveolata),リザリア(Rhizaria)の頭文字をとって「SAR」と呼んでいます。ストラメノパイルとアルベオラータを合わせてクロムアルベオラータ(Chromalveolata)と呼ばれたこともあります。ハプト藻類とクリプト藻類については未だ所属が確定しておりませんが,Adl et al. (2019)に従い,暫定的にSAPに含みました。真核生物の中で最も大きなグループで,多様な分類群を含んでいます。光合成を行うものも従属栄養性のものもあります。グループに共通する形態形質は知られていませんが,このグループに属する光合成生物は紅藻類あるいは緑藻類などを二次細胞内共生,三次細胞内共生したものです(色素体/葉緑体の成立と多様性)。

 Cavalier-Smith (2010) とRuggiero et al. (2015) は,SARをハロサ亜界(Subkingdom Harosa)とし,クロミスタ界(Chromista)の下に置きました。しかし,彼らが提唱したクロミスタ界には,系統的に明らかに異なると考えられるクリプト藻類や,SARに近いと考えられますが系統関係が不明確なハプト藻類などが含まれており,そのまま用いてよいか疑問があります。本サイトでは,Adl et al. (2012, 2019) に従い,SARを単独のスーパーグループとして扱いました。Adl et al. (2012, 2019)は分類階級による整理はしておらずクレード名(スーパーグループなど)によってグループ分けをしていますが,下界以下の分類体系が提唱されているものについてはRuggiero et al. (2015) に従いました。分類階級及び体系が定まっていないハプト藻類とクリプト藻類については,Adl et al. (2019)に従い,ハプチスタ(Haptista)とクリプチスタ(Cryptista)というクレード名を用いました。

 上述の通りこのグループは未だ分類体系が定まっておらず,今後も変動する可能性があります。本サイトでは分類階級とクレード名が混在する形になっていますが,グループを整理する都合上の暫定的な処置です。

 
SARには色素体あるいは葉緑体を持つ光合成生物が多数含まれています。唯一の例外(ポーリネラ)を除き,二次細胞内共生によって色素体を獲得したと考えられています。色素体として成立する途中段階と考えられるもの(盗色素体),色素体の入れ替えを行ったと考えられるもの,色素体ではなく他の藻類を共生させているものなど,様々な方法で光合成を行う生物がみられます。
 
ハルバリア下界 Infrakingdom Halvaria (= Chromalveolata)
 
アルベオラータ上門 Superphylum Alveolata
渦鞭毛藻類,繊毛虫,アピコンプレクサ,クロメラなどが含まれます。細胞膜の直下にアルベオール小胞と呼ばれる構造を持つことで共通しており,グループとして良くまとまっています。このグループの祖先生物は紅藻植物を二次共生した色素体を持っていたと考えられ,現生種の多くが色素体又は退化した色素体を持ち,色素体を持っていないものは,かつて持っていた色素体を二次的に失ったと考えられています。
 
ストラメノパイル Stramenopiles (= ヘテロコンタ上門 Superphylum Heterokonta)
黄藻植物門,卵菌類,アクチノフリス類,オパリナ類,ビコソエカ類,ラビリンチュラ類などを含みます。Ruggiero et al. (2015) はヘテロコンタ上門(Heterokonta)としています。
 
リザリア下界 Infrakingdom Rhizaria
ケルコゾア,有孔虫,放散虫からなる群です。すべて原生生物からなります。今のところリザリアをまとめる形態形質は知られていませんが,多くのグループで糸状仮足と呼ばれる細いアメーバ状仮足(擬足)を形成します。分子系統的にはよくまとまった群です。
 
ハプチスタ Haptista
ハプト藻類(Haptophyta)と有中心粒太陽虫(Centroplasthelida)を含むグループです。クリプト藻類(Cryptophyta)や太陽虫門(Heliozoa)と単系統群となるとして「ハクロビア Hacrobia」,「CCTHグループ」としてまとめられたこともありますが,近年,これらのグループは系統解析の誤り,すなわちアーティファクトであることが指摘され,Adl et al. (2012) では所属不明の真核生物とされました。Nozaki et al. (2012) は寄生虫など,系統解析に誤りをもたらす配列を全て排除して解析したところ,ハプト植物門がSARと姉妹群となることを示しました。ハプト植物とSARに属する光合成生物,特にストラメノパイルに所属する光合成生物とは色素体の含有色素や構造などに共通点があり,Nozaki et al. (2012) の見解は妥当である可能性が高いと思います。Adl et al. (2019)はSARに含めました。所属を巡って未だ議論が続いておりますが,本サイトではAdl et al. (2019)に従い,SARに含めました。ハプチスタは界,門などの分類階級ではなく体系学上のクレード名です。
 
   
ハプト植物門   有中心粒太陽虫   有中心粒太陽虫
Emiliania huxleyi   Acanthocystis sp.   Acanthocystis sp.
撮影:大田修平;ノルウェー オスロ   撮影:鈴木雅大;東京都 文京区 三四郎池   撮影:鈴木雅大;兵庫県 淡路島 大谷池
 
       
有中心粒太陽虫        
Raphidiophrys sp.        
撮影:鈴木雅大;千葉県 手賀沼        
 
クリプチスタ Cryptista
クリプト藻類を含むグループです。ハプト藻類(Haptophyta),太陽虫門(Heliozoa)と単系統群となるとして「ハクロビア Hacrobia」,「CCTHグループ」としてまとめられたこともありますが,現在のところ近縁なグループがはっきりしません。Adl et al. (2012) では所属不明の真核生物とされました。クリプト植物門の詳細は「クリプト植物の形態・分類・進化」を参考にして下さい。所属を巡って未だ議論が続いておりますが,本サイトではAdl et al. (2019)に従い,SARに含めました。クリプチスタは界,門などの分類階級ではなく体系学上のクレード名です。
 
   
クリプト植物門 クリプト藻綱   クリプト植物門 クリプト藻綱   クリプト植物門 クリプト藻綱
クロオモナス属(Chroomonas sp.)   クリプトモナス属(Cryptomonas sp.)   クリプトモナス属(Cryptomonas sp.)
撮影:大田修平;ブルガリア 黒海   撮影:大田修平;茨城県 霞ヶ浦   撮影:鈴木雅大;山梨県 都留市
 
参考文献
 
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Adl, S.M., Simpson, A.G., Lane, C.E., Lukeš, J., Bass, D., Bowser, S.S., Brown, M.W., Burki, F., Dunthorn, M., Hampl, V., Heiss, A., Hoppenrath, M., Lara, E., Le Gall, L., Lynn, D.H., McManus, H., Mitchell, E.A., Mozley-Stanridge, S.E., Parfrey, L.W., Pawlowski, J., Rueckert, S., Shadwick, L., Schoch, C.L., Smirnov, A., Spiegel, F.W. 2012. The revised classification of eukaryotes. Journal of Eukaryotic Microbiology 59:429-493.
 
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