ワカメ Undaria pinnatifida
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年1月27日(2019年5月11日更新)
 
ワカメ(若布,古語)
Undaria pinnatifida (Harvey) Suringar 1872: 77, pls VI, VII
 
黄藻植物(オクロ植物)門(Phylum Ochrophyta),クリシスタ(Chrysista),褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ亜綱(Subclass Fucophycidae),コンブ目(Order Laminariales),チガイソ科(Family Alariaceae),ワカメ属(Genus Undaria
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:緑藻綱(Class Chlorophyceae),褐藻綱(Class Phaeophyceae),コンブ目(Order Laminariales),チガイソ科(Family Alariaceae),ワカメ属(Genus Undaria
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),コンブ目(Order Laminariales),チガイソ科(Family Alariaceae),ワカメ属(Genus Undaria
 
Basionym
  Alaria pinnatifida Harvey 1859: 329.
Homotypic synonym
  Ulopteryx pinnatifida (Harvey) Kjellman in Kjellman & J.V. Petersen 1885: 275.
Heterotypic synonyms
  Alaria amplexicaulis Martens 1866: 114.
  Undaria pinnatifida var. vulgaris Suringar 1872: 77, pls. V-VII.
  Undaria pinnatifida var. elongata Suringar 1872: 77, pls. VIII.
  ナンブワカメ Undaria pinnatifida var. distans Miyabe & Okamura in Okamura 1902: 128.
  ナンブワカメ Undaria pinnatifida f. distans (Miyabe & Okamura) Yendo 1911. (?) *記載年と発表論文は要確認
  ナンブワカメ Undaria distans (Miyabe & Okamura) Miyabe & Okamura in Miyabe 1957: 36, pl. 26 (?) *記載年と発表論文は要確認
  ナルトワカメ Undaria pinnatifida f. narutensis Yendo 1911. (?) *記載年と発表論文は要確認
  Undaria crenata Y.-P. Lee & J.T. Yoon 1998: 438, Text figs 7-10.
 
Type locality: 静岡県 下田市
Holotype specimen: TCD
 
ワカメ Undaria pinnatifida
 
ワカメ Undaria pinnatifida
撮影地:兵庫県 淡路市 絵島(淡路島);撮影日:2015年4月22日;撮影者:鈴木雅大
 
ワカメ Undaria pinnatifida
 
撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 竹野 大浦湾;撮影日:2019年5月8日;撮影者:鈴木雅大
 
ワカメ Undaria pinnatifida
 
ワカメ Undaria pinnatifida
撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 竹野 大浦湾;撮影日:2015年5月8日;撮影者:鈴木雅大
 
ワカメ Undaria pinnatifida
撮影地:兵庫県 淡路市 大磯(淡路島);撮影日:2017年3月29日;撮影者:鈴木雅大
 
ワカメ Undaria pinnatifida
 
ワカメ Undaria pinnatifida
撮影地:青森県 下北郡 東通村 白糠;撮影日:2005年8月5日;撮影者:鈴木雅大
 
海藻学者の憂鬱(?)
ワカメの色をご存じでしょうか?本サイトで紹介している通り,ワカメは褐藻類の一種で,生きているときの色は黄色もしくは茶色(褐色)です。しかし,世間一般のイメージ及び各地で見られるワカメのイラストはどれも緑色です。味噌汁に入れるワカメや酢の物に入れるワカメはいずれも湯通ししたものなので,「ワカメは緑色」と思われるのも仕方ないかもしれません。著者も含め,海藻学者は各地で「ワカメは茶色(褐色)」と言い続けていますが,黄色茶色(褐色)で描かれたワカメのイラストにはついぞお目にかかったことがありません。己の力不足を痛感します。いつか,「ワカメは黄色」が一般的になる日まで,海藻学者達の戦い(努力)は続きます。
 
 ワカメ Undaria pinnatifida
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 大浦海岸;採集日:2005年5月10日;採集者:鈴木雅大)
 
ワカメのタイプ産地である下田で採集したワカメです。ワカメのような大型の海藻,特に「めかぶ」のように分厚く粘液に富んだ部分は,乾燥するのが難しく,ホルマリン固定していないものは乾燥中にカビが生えることもあります。この標本は,熱湯にくぐらせた後,「めかぶ」の裏半分をハサミで切り取ってから,押したものです。
 
ワカメ Undaria pinnatifida
押し葉標本(採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 田の浜荒神;採集日:2004年7月4日;採集者:鈴木雅大)
 
三陸のワカメはとても大きくなります。3 mを超えるものが磯に普通に生えています。この標本は,150 cm位のワカメを台紙の表と裏を使って押し葉としたものです。茎が細長く典型的なナンブワカメ型です。ワカメの茎の長さは生育状態によって変わることから,分類学的にはナンブワカメ(Undaria pinnatifida var. distans)とナルトワカメ(U. pinnatifida f. narutensis)の区別はしません。ただし,これらの変種・品種は,歯応えや味に違いがあるため,流通の上では区別されます。また,産地によってブランド化しているところもあります。論文等で学名を用いる時には注意が必要ですが,普段の生活において,大きな問題はないと考えています。
 
ワカメ Undaria pinnatifida
押し葉標本(採集地:新潟県 佐渡郡 真野町 滝脇(現 佐渡市 滝脇);採集日:2003年2月28日;採集者:鈴木雅大)
 
ワカメ Undaria pinnatifida   ワカメ Undaria pinnatifida
幼体の押し葉標本(採集地:北海道 函館市 住吉;採集日:2012年4月7日;採集者:鈴木雅大)
 
紅藻ダルス(Palmaria cf. mollisを採集していたところ,紛れ込んできたものです。うっかり間違えそうになりましたが,かすかに見える中肋と羽状に生じた裂片からワカメの幼体だと気が付きました。本来,幼体のような特徴の無い個体を紹介すべきではありませんが,幼体ながらワカメの特徴をはっきりと備えていたため,紹介することにしました。
 
ワカメ Undaria pinnatifida   ワカメ Undaria pinnatifida
葉の縦断面 ラッパ状細胞(矢頭)が見られます。維管束植物の師管に良く似ています。
 
胞子葉(めかぶ)の遊走子嚢から泳ぎ出した遊走子です。
 
ワカメ Undaria pinnatifida
 
ワカメ Undaria pinnatifida
沖出し養殖の様子(撮影地:三重県 鳥羽市;撮影日:2014年1月21日;撮影者:鈴木雅大)
 
ワカメ Undaria pinnatifida
 
ワカメ Undaria pinnatifida
撮影地:新潟県 両津市 見立(現 佐渡市 見立);撮影日:2003年3月6日;撮影者:鈴木雅大
 
養殖ワカメを採集(収穫)し,戻って来たばかりの船です。密植状態で養殖されたワカメは,どれも茎が長く,ナンブワカメ型になります。
 
ワカメ,ヒロメ,アオワカメは同じ種類?
 
Uwai et al. (2007) は,ミトコンドリアにコードされるcox3遺伝子を用いた遺伝子解析の結果,ワカメ(Undaria pinnatidida),ヒロメ(U. undarioides),アオワカメ(U. petersenianaは同種であると述べています。また,Saito (1972) は,交雑実験により3種はどの組み合わせでも雑種第一代(F1)を作ること,ワカメとヒロメでは雑種第二代(F2)まで作ることを報じています。自然界でもワカメとヒロメあるいはアオワカメとの雑種と考えられる個体がしばしば採集されており,Lee & Yoon (1998)が記載したUndaria crenataはワカメとアオワカメの雑種であると考えられています。これらの結果は,ワカメ,ヒロメ,アオワカメが生物学的に同種であることを強く示唆していますが,ヒロメとアオワカメをワカメと呼ぶのは,ワカメ属(Undaria)の歴史的背景や,3種が一般的に広く浸透していることから難しいかもしれません。

この状況は,マコンブ(Saccharina japonica var. japonicaとオニコンブ(S. japonica var. diabolica),リシリコンブ(S. japonica var. longipedalis),ホソメコンブ(S. japonica var. religiosaの関係に良く似ていると思います。マコンブの場合,遺伝子解析の結果を基に,それまで別種と考えられていたオニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブをマコンブと同種とし,それぞれを変種(variety)の階級で区別しました(Yotsukura et al. 2008)。当時は,コンブの仲間の多くがLaminaria属からSaccharina属に移され(Lane et al. 2006),リシリコンブやホソメコンブがマコンブの変種となるという日本産コンブ類の分類が激変した時期で,海藻の中でも水産業や私達の生活との関わりが強いコンブ類の分類が変わるということで,混乱や反発が大いに危惧されました。また,マコンブ1種に統一せず,各種を変種の階級として区別したのは,オニコンブ,リシリコンブ,ホソメコンブの和名を残すためのやむをえない処置であり,必ずしも系統関係や地理的な要因を反映したものではないとの批判も予想されました。それから数年以上が経過しましたが,著者の予想に反し,懸念された混乱や反発はほとんど無かったように思います。また,その後行われた遺伝子解析において,各変種は交雑があるものの,それぞれの変種の集団が遺伝的にある程度のまとまりを維持していることから(Yotsukura et al. 2016),変種としての扱いも分類学的に妥当なものであったようです。

マコンブの前例をふまえれば,ワカメ,ヒロメ,アオワカメの場合も,「種」はワカメ1種とし,ヒロメとアオワカメをワカメの変種か品種(forma)の階級で区別するのが良いかもしれません。ただし,ワカメ,ヒロメ,アオワカメの場合,マコンブと違い,それぞれの集団がきれいに分かれない可能性があり,少なくともcox3遺伝子を用いた遺伝子解析ではワカメ型,ヒロメ型,アオワカメ型のサンプル(ハプロタイプ)が系統内で複雑に入り組んでいます(Uwai et al. 2007)。仮にヒロメとアオワカメをワカメの品種として区別したとしても,マコンブほどスッキリとした結果にはならないかもしれません。いずれにしろ分類学的検討が俟たれており,ワカメの分類が今後どうなるのか,新たな展開があるのか,大変気になるところです。

 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2015. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 27 January 2011.
 
Harvey, W.H. 1859. Characters of new algae, chiefly from Japan and adjacent regions, collected by Charles Wright in the North Pacific Exploring Expedition under Captain James Rodgers. Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences 4: 327-335.
 
Kjellman, F.R. and Petersen, J.V. 1885. Om Japans Laminariaceer. Vega-expeditionens vetenskapliga iakttagelser, Stokholm 4: 255-280.
 
Lane, C.E., Mayes, C., Druehl, L.D. and Saunders, G.W. 2006. A multi-gene molecular investigation of the kelp (Laminariales, Phaeophyceae) supports substantial taxonomic re-organization. Journal of Phycology 42: 493-512.
 
Lee, Y.-P. and Yoon, J.T. 1998. Taxonomy and morphology of Undaria (Alariaceae, Phaeophyta) in Korea. Algae 13: 427-446.
 
Miyabe, K. 1957. On the Laminariaceae of Hokkaido. The Journal of the Sapporo Agricultural College 1: 1-50.
 
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙. 敬業社,東京.
 
Saito, Y. 1972. On the effects of environmental factors on morphological characteristics of Undaria pinnatifida and the breeding of hybrids in the same genus Undaria. In: Abbott, I.A. and Kurogi, M. eds. Contributions to the systematics of benthic marine algae of the North Pacific. pp. 117-132. Japanese Society of Phycology, Kobe.
 
Suringar, W.F.R. 1872. Illustrationes des algues du Japon. Musée Botanique de Leide 1: 77-90, Plates 26-33.
 
Uwai, S., Arai, S., Morith, T. and Kawai, H. 2007. Genetic distinctiness and phylogenetic relationships among Undaria species (Lamariales, Phaeophyceae) based on mitochondrial cox3 gene sequences. Phycologial Research 55: 263-271.
 
遠藤吉三郎 1911. 海産植物学. 博文館,東京.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌. 1222 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189.
 
吉﨑 誠 1999. 日本一のワカメ展. 鯨と海の科学館,岩手県山田町,10 pp.
 
吉﨑 誠 2005. ナルトワカメの謎 ー形態と味の地理的変異ー. 国立科学博物館ニュース 437: 10-11.
 
Yotsukura, N., Kawashima, S., Kawai, T., Abe, T. and Dreuhl, L.D. 2008. A systematic re-examination of four Laminaria species: L. japonica, L. religiosa, L. ochotensis and L. diabolica. Journal of Japanese Botany 83: 165-176.
 
Yotsukura, N., Maeda, T., Abe, T., Nakaoka, M. and Kawai, T. 2016. Genetic differences among varieties of Saccharina japonica in northern Japan as determined by AFLP and SSR analyses. Journal of Applied Phycology 28: 3043-3055.
 

写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインS A Rストラメノパイル黄藻植物(オクロ植物)門褐藻綱コンブ目

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