Gelidiophycus hongkongensis
作成者:鈴木雅大 作成日:2021年1月11日
 
Gelidiophycus hongkongensis Showe M. Lin & L.-C. Liu in Lin et al. 2018: 53. Fig. 3 A-H.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),テングサ目(Order Gelidiales),テングサ科(Family Gelidiaceae),ヒメテングサ属(Genus Gelidiophycus
 
* 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),テングサ目(Order Gelidiales),テングサ科(Family Gelidiaceae),テングサ属(Genus Gelidium)*Gelidium divaricatumとして
 
その他の異名
  ヒメテングサ Gelidium divaricatum auct. non G. Martens (1866); 岡村 1900: 6. Pl. 2. p.p.; 1902: 21. p.p; 1934: 38. Pl. 16, Figs 1, 2. p.p.; 1936: 456. p.p.; 吉田 1998: 634. p.p.
  Gelidiophycus divaricatus auct. non (G. Martens) G.H. Boo, J.K. Park & S.M. Boo; Boo et al. 2013: 1114. Figs 4, 5.
 
Type locality: Hong Kong, Lobster Bay.
Holotype specimen: HAST 142344 (Academia Sinica, Taiwan)
 
分類に関するメモ:Gelidiophycus hongkongensisはBoo et al. (2013) が"Gp. divaricatus"とした種です。Lin et al. (2018) はタイプ法に基づき,Boo et al. (2013) が"Gp. divaricatus"とした種を新種Gp. hongkongensisとして記載しました。日本産としては,Boo et al. (2019) が九州と南西諸島から報告した"Gelidiophycus divaricatus (= Gelidium divaricatum)"がGp. hongkongensisに相当します。

Gelidiophycus hongkongensisは,Gp. freshwateriと共に「ヒメテングサ」と呼ばれてきた種類ですが,Boo et al. (2013, 2019) とLin et al. (2018) によると,「ヒメテングサ」はGp. freshwateriGp. hongkongensisの2種類を含んでいると考えられます。本州太平洋沿岸に広く分布するGp. freshwateriの方が「ヒメテングサ」の実態に近いかもしれませんが,「ヒメテングサ」の和名をどちらの種類に充てるのが適当か検討が必要です。

 
「ヒメテングサ」の分類の混乱
 
Boo et al. (2013)は,日本と韓国で報告されているヒメテングサ(= Gelidium divaricatum)がG. divaricatumのタイプ産地である香港のものとは属のレベルで異なる新種であるとして,新属Gelidiophycus属を設立し,「ヒメテングサ」をGelidiophycus属の新種Gp. freshwateriとして記載しました。Boo et al. (2013)は,「G. divaricatum」もテングサ属(Gelidium)ではなくGelidiophycus属であるとしてG. divaricatumGelidiophycus属に組み替えています。日本産の「ヒメテングサ」はGp. freshwateriになったかと思われたのですが,九州や南西諸島にはBoo et al. (2013)が言う「Gp. divaricatus (= G. divaricatum)」が分布しており,Boo et al. (2019)は韓国と日本周辺におけるGp. divaricatusGp. freshwateriの分布と遺伝的パターンについて報じています。「ヒメテングサ」はGp. divaricatusGp. freshwateriの2種を含んでいたことが明らかになったのですが,Boo et al. (2013) が研究に用いた「Gp. divaricatus (= G. divaricatum)」は,G. divaricatumではないとする論文が発表されました。Lin et al. (2018)は,香港で採集したG. divaricatumに近似するサンプルには3種類含まれており,タイプに相当するMartens (1866)の図(注1)に従えば,真のG. divaricatumは従来通りテングサ属(Gelidium)の1種として存在し,Boo et al. (2013)がGelidiophycus属に組み替えた"Gp. divaricatus"はG. divaricatumではない別種であるとして,これをGelidiophycus属の新種Gp. hongkongensisとして記載しました。このため,Boo et al. (2013, 2019)が"Gp. divaricatus"としている種類はGp. hongkongensisということになりました。Boo et al. (2019)はLin et al. (2018)を引用しておらず(注2),韓国と日本周辺には"Gp. divaricatus"とGp. freshwateriの2種が分布すると報じていますが,Lin et al. (2018)に従えば,Gp. freshwateriGp. hongkongensisが分布していると修正すべきでしょう。結論として,日本で「ヒメテングサ」と呼ばれている種類は,本州太平洋沿岸から九州に分布するGp. freshwateriと,九州から南西諸島に分布するGp. hongkongensisの2種類が含まれることになります。和名としてどちらを「ヒメテングサ」と呼ぶのが適当か,検討が必要でしょう。

注1.Gelidium divaricatumはタイプ標本が残されていないので,原記載の図が選定タイプ(Lectotype)として指定されました。

注2. Lin et al. (2018) を知らなかったのか,あえて触れなかったのかは分かりません。ただ,Boo et al. (2019)の投稿時には既にLin et al. (2018)が出版されており,Lin et al. (2018)とBoo et al. (2019)には同一の著者(Dr. Put Ang Jr)が入っているので知らなかったというのは考えにくいかもしれません。

 
G. divaricatum, Gp. freshwateri, Gp. hongkongensisの分布
 
Gelidium divaricatum :2020年の時点では香港でのみ確認されている。
Gelidiophycus freshwateri :韓国,日本(本州太平洋沿岸,九州),中国に分布。
Gelidiophycus hongkongensis(Boo et al. (2013, 2019)におけるGp. divaricatus:香港,韓国,日本(九州,南西諸島),台湾に分布
 
参考文献
 
Boo, G.H., Park, J.K. and Boo, S.M. 2013. Gelidiophycus (Rhodophyta: Gelidiales): A new genus of marine algae from East Asia. Taxon 62: 1105-1116.
 
Boo, G.H., Qiu, Y.-X., Kim, J.Y., Ang Jr., P.O., Bosch, S., De Clerck, O., He, P., Higa, A., Huang, B., Kogame, K., Liu, S.-L., Nguyen, T.V., Suda, S., Terada, R., Miller, K.A. and Boo, S.M. 2019. Contrasting patterns of genetic structure and phylogeography in the marine agarophytes Gelidiophycus divaricatus and G. freshwateri (Gelidiales, Rhodophyta) from East Asia. Journal of Phycology 55: 1319-1334.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2021. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 11 January 2021.
 
Lin, S.-M., Liu, M.-C., Guiry, M.D., Ang, P., Jr., and Hsueh, H.-J. 2018. A reassessment of Gelidium divaricatum G. Martens (Gelidiaceae, Rhodophyta) from Hong Kong, including Gelidiophycus hongkongensis sp. nov. Phytotaxa 348: 49-55.
 
Martens, G. von 1866. Die Tange. In: Die Preussische Expedition nach Ost-Asien. Nach amtlichen Quellen. Botanischer Theil. (Decker, R. Y. eds), pp. 1-152. Verlag de Königlichen Geheimen Ober-Hofbuchdruckerei, Berlin.
 
岡村金太郎. 1900. 日本海藻圖説 第1巻 第1冊.敬業社,東京.
 
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙. 276 pp. 敬業社, 東京.
 
岡村金太郎 1934. 本邦産てんぐさ属及おばくさ属ニ就テ.水産講習所研究報告 29: 35-87.
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌. 964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生. 1998. 新日本海藻誌 1222 pp. 内田老鶴圃,東京.
 

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