Pachymeniopsis gargiuloi
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2021年1月3日(2023年6月10日更新)
 
Pachymeniopsis gargiuloi S.Y. Kim, Manghisi, Morabito & S.M. Boo in Kim et al. 2014: 892. Fig. 4. "P. gargiuli"
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イソノハナ目(Order Halymeniales),ムカデノリ科(Family Grateloupiaceae),タンバノリ属(Genus Pachymeniopsis
 
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),スギノリ目(Order Gigartinales),ムカデノリ科(Family Halymeniaceae),タンバノリ属(Genus Pachymeniopsis
 
Type locality: off Hoedong, Jindo, Korea
Holotype specimen: CNU055670 (Chonnam National University)
 
分類に関するメモ:Kawaguchi (1997)はPachymeniopsis属を認めず,Pachymeniopsis属をムカデノリ属(Grateloupia)に含めました。Carderon et al. (2014) ,Kim et al. (2014) などによる遺伝子解析において,ムカデノリ属が多系統群であることが示され,Pachymeniopsis属は独立した属として再評価されました。Kim et al. (2014) は韓国からPachymeniopsis属の新種としてP. gargiuloiを記載しました。日本産のサンプルとしては福岡県と長崎県対馬から報告しています。
 
Pachymeniopsis gargiuloi
 
Pachymeniopsis gargiuloi
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2015年7月3日;撮影者:鈴木雅大
 
Pachymeniopsis gargiuloi
 
Pachymeniopsis gargiuloi
採集地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);採集日:2023年6月4日;撮影者:鈴木雅大
 
押し葉標本(採集地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);採集日:2015年7月3日;採集者:鈴木雅大)
 
押し葉標本(採集地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);採集日:2015年5月19日;採集者:鈴木雅大)
 
兵庫県淡路島で「フダラク(Pachymeniopsis lanceolata」と同定していたものです。採集時,フダラクとは「何か違う」ような気がしたので,採集してサンプルを保存していました。2022年にムカデノリ科の系統解析を行うため,シーケンスしてみたところ,フダラクではなく,P. gargiuloiであることが分かりました。著者の勘が当たった形になったのですが,フダラクと何が違うのかと問われると,答えに窮します。Kim et al. (2014) は,P. gargiuloiを新種として記載した際,フダラクとは内層の細胞糸が緩く配置し,皮層が薄いなどの違いが認められるものの,これらの違いは体の場所によって変わるため,「2種を形態的に区別するのは困難」と結論付けており,同定には遺伝子解析が必要と考えられます。Pachymeniopsis gargiuloiは,rbcL遺伝子の配列がフダラクと1.0-1.1%(13-14 bp)の差異があります。紅藻の中には,rbcL遺伝子の配列が1.6% (21 bp)異なっていても,同種とする例がありますが(カヅノイバラ Hypnea cervicornis),ムカデノリ科では,1.1%の差異は別種に相当するようです(注)。

注.藻類の進化速度は分類群によって異なるため,遺伝子配列の差異による種の境界は,分類群ごとに異なっており,他の分類群における基準をムカデノリ科に当てはめることは出来ません。

Pachymeniopsis gargiuloiは,rbcL遺伝子を用いた系統解析によると,フダラクとはクレードが分かれるので,「種」の違いかはともかく,フダラクとは異なる分類群となるようです。Kim et al. (2014) によると,P. gargiuloiは,日本では福岡県と長崎県対馬で確認されており,福岡県では,P. gargiuloiとフダラクの両種が確認されています。淡路島由良でも,P. gargiuloiとフダラクが同じ磯に生育していることが分かりました。形態が酷似する2種が同所的に生育する例は少なくないものの,遺伝子解析しないと同定出来ないのは,かなり不便です。厳密に形態的特徴を比較すると,明確な差異がないとしても,手触りや雰囲気などで区別出来るかもしれません。著者がP. gargiuloiについて「何か違う」と感じた理由は,P. gargiuloiは,フダラクよりも高い位置に生育していたことと,色が褐色で,フダラクほど柔らかくなかったからです。いずれも曖昧で確かな特徴ではありませんが,今後は,P. gargiuloiとフダラクが同所に生育している可能性を踏まえ,観察,採集していこうと思います。

 
参考文献
 
Calderon, M.S., Boo, G.H. and Boo, S.M. 2014. Morphology and phylogeny of Ramirezia osornoensis gen. & sp. nov. and Phyllymenia acletoi sp. nov. (Halymeniales, Rhodophyta) from South America. Phycologia 53: 23-36.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2021. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 03 January 2021.
 
Kawaguchi, S. 1997. Taxonomic notes on the Halymeniaceae (Gigartinales, Rhodophyta) from Japan III. Synonymization of Pachymeniopsis Yamada in Kawabata with Grateloupia C. Agardh. Phycological Research 45: 9-21.
 
Kim, S.Y., Manghisi, A., Morabito, M., Yang, E.C., Yoon, H.S., Miller, K.A. and Boo, S.M. 2014. Genetic diversity and haplotype distribution of Pachymeniopsis gargiuli sp. nov. and P. lanceolata (Halymeniales, Rhodophyta) in Korea, with notes on their non-native distributions. Journal of Phycology 50: 885-896.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イソノハナ目ムカデノリ科
 
日本産海藻リスト紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イソノハナ目ムカデノリ科タンバノリ属Pachymeniopsis gargiuloi
 
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