スサビノリ Neopyropia yezoensis
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年1月15日(2020年5月31日更新)
 
スサビノリ(尻沢辺海苔)
Neopyropia yezoensis (Ueda) L.-E. Yang & J. Brodie in Yang et al. 2020: 869, Table 2.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),ウシケノリ綱(Class Bangiophyceae),ウシケノリ目(Order Bangiales),ウシケノリ科(Family Bangiaceae),ネオピロピア属(Genus Neopyropia
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),原始紅藻亜綱(Subclass Bangiophycidae),ウシケノリ目(Order Bangiales),ウシケノリ科(Family Bangiaceae),アマノリ属(Genus Porphyra)*Porphyra yezoensisとして
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),ウシケノリ目(Order Bangiales),ウシケノリ科(Family Bangiaceae),アマノリ属(Genus Pyropia)*Pyropia yezoensisとして
 
Basionym
  Porphyra yezoensis Ueda 1932: 12, 23, pl. I: 9, 14; pl. IV: 11-17, pl. XVI: 3-4.
Homotypic synonym
  Pyropia yezoensis (Ueda) M.S. Hwang & H.-G. Choi in Sutherland et al. 2011: 1145.
 
Type locality: 北海道 小樽市 祝津
Type specimen: 東京海洋大学 *吉田(1998)より
 
スサビノリ Neopyropia yezoensis
撮影地:千葉県 銚子市 海鹿島;撮影日:2014年2月20日;撮影者:鈴木雅大
 
スサビノリ Neopyropia yezoensis
縁辺部の表面観(採集地:千葉県 銚子市 海鹿島;採集日:2014年2月20日;採集者:鈴木雅大)
 
スサビノリ Neopyropia yezoensis
 
スサビノリ Neopyropia yezoensis   スサビノリ Neopyropia yezoensis
押し葉標本(採集地:千葉県 銚子市 海鹿島;採集日:2005年4月8日;採集者:鈴木雅大)
 
スサビノリ Neopyropia yezoensis
押し葉標本(採集地:北海道 室蘭市 母恋南町 チャラツナイ浜;採集日:2004年3月30日;採集者:鈴木雅大)
 
スサビノリ Neopyropia yezoensis
押し葉標本(採集地:新潟県 両津市 浦川漁港(現 佐渡市 浦川漁港);採集日:2003年5月1日;採集者:鈴木雅大)
 
Niwa et al. (2014) によると,本種は複数の種類を混同していると考えられます。同じ採集地,同じ岩の上に2種以上が混生しているといいます。これらの隠蔽種は,外形,体構造,生殖器官のいずれの形態的特徴でも区別することが困難です。区別するには,DNAを抽出し,分子マーカーを使って解析する他ありません。従ってスサビノリを分類学的に整理し,隠蔽種を新種として記載することが難しい現状だと思います。本種に限らず,形態的に類似し,系統的にも近縁な種が同一採集地から複数見出されるのは良く知られたことではありますが,本種及びその隠蔽種においては,形態的特徴による種の区別がほぼ不可能であり,採集した現場で種を正しく識別することが極めて難しいと考えられます。本サイトでは,本種が複数の隠蔽種を含有していることを考慮しつつも,外形的に区別が付かないことから全てスサビノリとして扱いました。今後,スサビノリとその隠蔽種を分類学的にどのように解決するかが注目されます。
 
スサビノリ(尻沢辺海苔)の和名の由来について
 

本種は著名な海苔ですが,意外なことに和名の「スサビノリ」の由来はあまり知られていないようです。スサビノリの和名の由来は福原(1967)が解説しており,福原(1967)によると,「スサビノリ」の和名は遠藤吉三郎博士が付けたもので,遠藤先生が1908年に書かれた「函館支庁管内ニ於ケル海苔業ノ将来」の中で「すさびのりトハ余ガ今回新タニ命名セル所ニシテ本種ノ産地タル函館尻沢辺ノ地名ヨリ取レルナリ」と記述されています(注)。殖田(1932)がスサビノリを記載した際,和名は遠藤(1908)に従ったのですが,「スサビ」の意味が分からなかったため,和名の由来については触れられなかったそうです。「スサビ」は,函館市にかつてあった「尻沢辺」という地名に由来し,「尻沢辺」はアイヌ語のシリシャンペに対する当て字で,シリシャンペ→シサベ→スサビと簡略化されたものです。また,函館市住吉沿岸は「スサビの浜」と呼ばれており,遠藤先生が本種をはじめ,コスジフシツナギ(Lomentaria hakodatensisなどの海藻を採集されたところです。従って,「スサビノリ」とは,「スサビの浜で採れる海苔」という意味になります。

注.1967年の時点で既に入手困難な文献であったそうで,著者も原文を読んだことはありません。

インターネット上(wikipediaなど)で「スサビノリ=荒び海苔」と書かれているのを見かけ,間違いを正すため和名の紹介を書きましたが,実は著者もある時まで「スサビノリ=荒び海苔」だと思っており,精子嚢班が縦に走る縞状に作られる様子を「荒び模様」とでも言うに違いないと自分なりに解釈しておりました。著者が間違いに気が付いたのはコスジフシツナギのタイプ産地を調べていた時で,コスジフシツナギのタイプ産地の地名が「尻沢部(=尻沢辺)」だったため,地名と読み方について調べていたところ,「スサビノリ=尻沢辺海苔」にたどり着きました。福原(1967)に解説があるとはいえ,「スサビノリ=尻沢辺海苔」はなかなか難しいと思いました。

 
住吉神社とドゥルー祭
 
キャサリン・ドゥルー博士 Dr. Kathleen Mary Drew Baker   キャサリン・ドゥルー博士 Dr. Kathleen Mary Drew Baker
ドゥルー博士の顕彰碑(撮影地:熊本県 宇土市 住吉町 住吉神社;撮影日:2014年3月22日;撮影者:鈴木雅大)
 
熊本大学で日本植物分類学会の大会が開催された時,著者は学会を途中で抜け出して住吉神社を訪ねました。キャサリン・ドゥルー博士の顕彰碑を見たかったためです。毎年4月14日にはここで「ドゥルー祭」が開催されているそうです。我が国の海苔養殖の歴史において,ドゥルー博士(Dr. Kathleen Mary Drew Baker, 1901-1957)の功績は計り知れないものがあります(参照)。1949年にNature誌に発表した貝殻に穿孔する海苔の糸状体(コンコセリス世代)の発見は,その後の海苔の人工採苗に革命的な進歩をもたらしました。著者の恩師である故 吉﨑 誠博士(東邦大学名誉教授)は,藻類の講義の中で1時間まるごと海苔の話をしておられたほどで,海藻学の中でも伝記として語り継がれる名エピソードです。
 
参考文献
Drew, K.M. 1949. Conchocelis-Phase in the life-history of Porphyra umbilicalis (L.) Kütz. Nature 164: 748-749.
 
福原英司 1976. スサビノリの和名と,いわゆるトモエノリについて.藻類 15: 48-51.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 15 January 2011.
 
Niwa, K., Kikuchi, N., Hwang, M.S., Choi, H.-G. and Aruga, Y. 2014. Cryptic species in the Pyropia yezoensis complex (Bangiales, Rhodophyta): Sympatric occurrence of two cryptic species even on same rocks. Phycological Research 62: 36-43.
 
Sutherland, J.E., Lindstrom, S.C., Nelson, W.A., Brodie, J., Lynch, M.D.J., Hwang, M.S., Choi, H.-G., Miyata, M., Kikuchi, N., Oliveira, M.C., Farr, T., Neefus, C., Mols-Mortensen, A., Milstein, D. and Müller, K.M. 2011. A new look at an ancient order: Generic revision of the Bangiales (Rhodophyta). Journal of Phycology 47: 1131-1151.
 
殖田三郎 1932. 日本産あまのり属ノ分類學的研究.水産講習所研究報告 28: 1-45.
 
Yang, L.-E., Deng, Y.-Y., Xu, G.-P., Russell, S., Lu, Q.-Q. and Brodie, J. Redefining Pyropia (Bangiales, Rhodophyta): four new genera, resurrectio of Porphyrella and description of Calidia pseudolobata sp. nov. from China. Journal of Phycology 56: 862-879.
 
遠藤吉三郎 1908. 函館支庁管内ニ於ケル海苔業ノ将来.北海道水産調査報文 第一巻.*引用のみで文献は未入手
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌. 1222 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189.
 

写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門ウシケノリ綱

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