作成者:鈴木雅大 作成日:2016年8月22日(2020年11月10日更新) |
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ナガオバネ(長尾羽) |
Schimmelmannia benzaiteniana M. Hoshino, C. Ino, Kitayama & Kogame 2020: 292, Figs 3-13. |
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紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),アクロシンフィトン目(Order Acrosymphytales),ナガオバネ科(Family Schimmelmanniaceae),ナガオバネ属(Genus Schimmelmannia) |
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*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),イトフノリ科(Family Gloiosiphoniaceae),ナガオバネ属(Genus Schimmelmannia)*S. plumosaとして |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),スギノリ目(Order Gigartinales),イトフノリ科(Family Gloiosiphoniaceae),ナガオバネ属(Genus Schimmelmannia)*S. plumosaとして |
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その他の異名 |
Baylesia plumosa auct. non Setchell (1912); Okamura 1927: 167-169. 178-180. Pl. 245; 1936: 480. Fig. 222; 瀬川 1938: 1987. Fig. 1. |
Schimmelmannia plumosa auct. non (Setchell) I.A. Abbott (1961); Abbott 1961: 379. p.p.; Umezaki 1967: 170-172. Fig. 2; Chihara 1972: 316. Pl. 3; 吉田 1998: 696. Pl. 3-45, Fig. H. |
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Type locality: 神奈川県 藤沢市 江ノ島. |
Holotype specimen: SAP091525(北海道大学大学院理学研究院植物標本庫) |
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環境省レッドリスト2019:情報不足 (DD) |
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分類に関するメモ:ナガオバネは従来,カリフォルニアに生育するSchimmelmannia plumosaとされてきましたが,Hoshino et al. (2020) は遺伝子解析と形態的特徴を基にナガオバネを新種S. benzaitenianaとして記載しました。 |
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撮影地:東京都 江戸川区 臨海町 葛西臨海水族園;撮影日:2019年4月27日;撮影者:鈴木雅大 |
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撮影地:東京都 江戸川区 臨海町 葛西臨海水族園;撮影日:2016年7月23日;撮影者:鈴木雅大 |
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関東地方から伊豆地方において,「幻の海藻」として知られている紅藻類です。紅藻類の中では大型の部類に入りますが,報告例が極めて少なく,生きている個体に出会う機会は少ないと言われています。高さは大きいもので30 cmを超え,岩に垂れ下がるように群生します。見つかるときには必ず複数個体見つかるので,押し葉標本はたくさん残されているのですが,一月後,あるいは一年後に同じ場所に行ってみると,跡形もなく無くなっていると言われています。著者の恩師 故吉﨑 誠 先生(東邦大学名誉教授)も,磯で生のナガオバネを見つけ,標本を作られた方の一人です。吉﨑先生とともに,ナガオバネが生えていたという茨城県日立市の磯を何度か訪ねましたが,欠片も見つけることは出来ませんでした。これまでにナガオバネの生育が確認されたのは,茨城県日立市,千葉県銚子市,神奈川県江の島,神奈川県葉山,伊豆半島下田,静岡県相良などです。いずれも著名な海藻採集地で,これまで何十人(100人以上?)もの海藻研究者が採集に訪れていますが,ナガオバネを採集したのは10数名程度,ほとんどは一度見たきりで,その後二度と見ることはなかったといいます。他に似ている海藻はなく,これだけ目立つ海藻がなぜ見つからないのか,本当に不思議です。
関東地方の磯場を主なフィールドとしてきた者として,「標本ではなく生きているナガオバネを見たい」と思いながら何年も経ちましたが,2016年,ようやく目にする機会が訪れました。3歳になる娘を連れて葛西臨海水族園に行ったときです。人工の磯場の壁に房状の紅藻を見つけました。すぐに「ナガオバネだ!」と思いました。実は,葛西臨海水族園では過去に水槽でナガオバネが見つかったことがあり,もしかしたらと思っていました。残念ながら人工環境で採集したものは,どこから来たものか由来がはっきりしないため,研究用のサンプルとしては使えず,写真だけ撮って戻しましたが,著者の長年の夢が一つ叶いました。次の目標は,本種を自然の磯場で見つけることです。 |
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Schimmelmannia benzaitenianaとS. formosana |
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ナガオバネは従来,カリフォルニアに生育するS. plumosaとされてきましたが,Hoshino et al. (2020) は遺伝子解析と形態的特徴を基にナガオバネを新種S. benzaitenianaとして記載しました。北太平洋西岸に生育するSchimmelmannia属について,Yeh & Yeh (2008) は,台湾北東部で採集したサンプルをS. plumosaとは形態的に異なる新種であるとしてS. formosanaを記載しています。見た目や生育の様子がナガオバネにそっくりで,著者が2009年に台湾海洋大学でポスドクをしていた時,ラボのボスとナガオバネはS. formosanaではないかという話をしておりました。Yeh & Yeh (2008) はS. formosanaについて,日本からの移入の可能性を論じていますが,台湾北東部は本州太平洋沿岸中部と共通する種類が多いので,ナガオバネが分布していてもおかしくはないだろうと思っていました(注)。S. formosanaは遺伝子配列が決定されておらず,ナガオバネ(= S. benzaiteniana)とは形態的特徴を比較するしかありません。Hoshino et al. (2020) によると,両種は体構造において,周心細胞の数に違いがあり,S. formosanaは周心細胞が4個,ナガオバネ(= S. benzaiteniana)は5個です。Yeh & Yeh (2008) に掲載されているS. formosanaの周心細胞の写真には若干違和感を覚えるものの,Yeh & Yeh (2008) はSchimmelmannia属の種を区別する特徴として周心細胞の数を挙げているので,よもや間違いということはないでしょう。周心細胞の数以外に決定的な違いがないため一抹の不安は残るものの,幻とも言われたナガオバネの分類が整理されたことは喜ばしく,感慨深いものがあります。
注.S. formosanaは2005年に採集されたきり,その後見つかっておらず,Yeh & Yeh (2008)は移入した個体が定着出来ずにいなくなったと考えているようです。繁茂した後,突然いなくなるというのもナガオバネっぽいと思いました。 |
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参考文献 |
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Umezaki, I. 1967. Notes on some marine algae from Japan (1). Journal of Japanese Botany 42: 169-174. |
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Yeh, W.-J. and Yeh, C.C. 2008. Schimmelmannia formosana (Acrosymphytaceae, Rhodophyta) from Taiwan. Phycologia 47: 337-345. |
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吉田忠生 1998. 新日本海藻誌 1222 pp. 内田老鶴圃,東京. |
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吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189. |