原始紅藻は6綱に分けられた

執筆:鈴木雅大 作成日:2010年8月12日(2020年8月26日更新)

 
かつて,紅藻植物門(Rhodophyta)は原始紅藻綱(Bangiophyceae)と真正紅藻綱(Florideophyceae)の2綱,あるいは紅藻綱(Rhodophyceae)1綱とし,その下に原始紅藻亜綱(Bangiophycidae)と真正紅藻亜綱(Florideophycidae)の2亜綱をおく分類体系が用いられてきました。しかし,Saunders & Hommersand (2004)とそれに続くYoon et al. (2006)は,紅藻植物門(Rhodophyta)をイデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae),ロデラ綱(Rhodellophyceae),チノリモ綱(Porphyridiophyceae),ベニミドロ綱(Stylonematophyceae),オオイシソウ綱(Compsopogonophyceae),ウシケノリ綱(Bangiophyceae),真正紅藻綱(Florideophyceae)の7綱に分けました。かつて1綱であった原始紅藻綱は6つの綱に分けられる結果となりました。原始紅藻綱(Bangiophyceae)にはウシケノリ目(Bangiales)のみが含まれることとなったことから,神谷ら(2012)は,Bangiophyceaeの和名は「ウシケノリ綱」とし,鈴木(2014),神谷(2019)もこれにならっています。著者は,学生時代に紅藻は原始紅藻と真正紅藻の2つに分けられると習ったくちなので,Saunders & Hommersand (2004)が発表された時は違和感を覚えたものです。とはいえ,ウシケノリ目(海苔の仲間)が真正紅藻に近いという見解には納得でした。当時の教科書では原始紅藻と真正紅藻の違いは果胞子体の有無とされていましたが,海苔の仲間が受精後に分裂,形成する果胞子と真正紅藻の果胞子体で形成する果胞子は本質的に同じものだと思っていたからです。Yoon et al. (2006)以降,紅藻植物門を7つの綱に分ける分類体系が広く受け入れ,現在では紅藻植物門の綱レベルの分類体系のスタンダードとなっています。

論文を読んだだけでは,分類体系が良く分からなかったので,Saunders & Hommersand (2004)とYoon et al. (2006)が提唱した7綱について,各綱の特徴を以下の表にまとめてみました。

 

イデユコゴメ綱 ロデラ綱 チノリモ綱 ベニミドロ綱 オオイシソウ綱 ウシケノリ綱 真正紅藻綱
種数*注1 9種 7種 10種 51種 74種 186種 6991種
生育環境 淡水,高温(37-56℃)酸性(pH0.05-3) 海水 海水,淡水,土壌 海水,淡水 海水,淡水 海水,淡水 海水,淡水
形態 単細胞 単細胞 単細胞 単細胞*注2,偽糸状,多細胞 多細胞 多細胞 多細胞
運動性 *注3/無 *注4/無 *注4/無 *注4/無
ピットプラグ *注5/無 *注6/無
ゴルジ体のシス面 ER ER/核 ER, Mt ER ER ER, Mt ER, Mt
ミトコンドリアクリステ 板状 板状 管状 板状 板状 板状 板状
色素体の形 球状/こぶ状 星状/バルブ形 星状 盤状/星状など 盤状/星状など バンド状/星状 盤状/星状など
色素体の位置 側壁 側壁/中央 中央*注7 側壁 側壁/中央 側壁/中央 側壁/中央
ピレノイド 有/無 *注7 *注8/無 *注8/無 *注8/無 *注8/無
周縁ラメラ 有/無 有/無 有/無
カロテノイド*注9 β, Z β, Z β, Z   β, Z    
低分子量炭水化物*注10 F, I M F, (Di, T) (Di, Du, F, S, T) F, (Di, T) F, I F, (I. Di, T, M, Du, S, Dis, Tr)
無性生殖 二分裂*注11又は内生胞子 二分裂 二分裂 二分裂*注1または単胞子 単胞子 単胞子,殻胞子 単胞子,二分胞子,四分胞子,多分胞子など
有性生殖 不明 不明 不明 不明 *注2/無
               
 
注1. 種数はAlgaebase (2020年8月29日検索)に基づく。
注2. Rhodosorus属とRodospora属は単細胞で,二分裂で増える。
注3. Rhodosorus属はアメーバ運動を行う。
注4. 単胞子,果胞子,四分胞子は運動性を示す。
注5. オオイシソウ目は部分的にピットコネクションを持つ。
注6. コンコセリス世代(Conchoseris-phase)は,ピットコネクションを持つ。
注7. Flintiella属の色素体は側壁性でピレノイドを欠く.
注8. 星状の色素体のみピレノイドを持つ。
注9. A= アンテラキサンチン,L = ルテイン,Z =ゼアキサンチン,α = α-カロテン,β= β-カロテン.カッコ内は一部の種がもつ.
注10. Di =ジゲネアシド(Digeneaside),Dis=ジサッカライド(Disaccharide),Du = ズルシトール(Dulcitol),F =フロリドシド(Floridoside),I = イソフロリドシド(Isofloridoside),M = マンニトール(Mannitol),S = ソルビトール(Sorbitol),T = トレハロース(Trehalose),Tr =トリサッカライド(Trisaccharide).カッコ内は一部の種のみがもつ.
注11. Cyanidioschizon属は二分裂。
 
表を基に各綱を比較してみた結果,ウシケノリ綱と真正紅藻綱以外の5綱を区別する特徴は,ゴルジ体の配置とLMWC(低分子炭水化物)のみでした。紅藻類のゴルジ体の配置は,ゴルジ体が核と隣接する(Golgi-Nu),ゴルジ体が小胞体と隣接する(Golgi-ER),ゴルジ体が小胞体とミトコンドリアに隣接する(Golgi-ER/Mt)の3つの型が知られています。通常,真核生物のゴルジ体は,Golgi-NuかGolgi-ERなので,Golgi-ER/Mtは紅藻独自の現象です。残念ながら現象として知られているのみで,紅藻のゴルジ体の配置に関する生物学的な意味は分かっていません。Low molecular weight carbohydrates (LMWC)を綱の特徴に用いるのも紅藻独自の試みです。Yoon et al. (2006) は,ゴルジ体の配置とLMWCによって,分子系統解析以外でも7綱を区別出来ると結論づけていましたが,黄藻植物門(Ochrophyta)や緑藻植物門(Chlorophyta)と比べると,根拠が弱いように思います。また,オオイシソウ綱は,オオイシソウ目(Compsopogonales),エリスロペルティス目(Erythropeltidales),Rhodochaetalesの3目を含んだ分子系統解析では,必ずしも単系統群とならない事や(Zuccarello et al. 2000, 2008),単系統群となってもベイズ法以外の統計的サポートが低いことから(West et al. 2007, Yokoyama et al. 2009),綱としてまとまるかどうか更なる検討が必要でしょう。そもそも,イデユコゴメ綱が紅藻植物門の中で最初に分岐することと,ウシケノリ綱と真正紅藻綱が最も派生的ということを除けば,紅藻植物門の綱の系統関係は解けていません。緑色植物の系統分類を参考に,3ゲノム(核,葉緑体,ミトコンドリア)を用いた系統解析を使うなどして,紅藻の進化の道筋を明らかにする必要があるでしょう。 決定的な特徴を欠いているものの,旧原始紅藻綱が多様な仲間を含んでいる事は明らかで,複数の綱に分ける事について異論はありません。ただ,Yoon et al. (2006) が提唱する分類体系が納得いくものとは言い難いのが現状です。最近,紅藻の多くの目について,カロテノイドの種類や細胞壁の構成成分などが明らかとなってきています。これらもふまえて,紅藻植物門の綱の分類体系についての更なる検討が待たれています。
 
参考文献
 
神谷充伸 2019. 紅藻類の系統と分類.海洋と生物 41: 499-506.
 
神谷充伸・長里千香子・川井浩史 2012. 2. 紅藻類.渡邉信(監修)藻類ハンドブック.pp. 113-122.エヌ・ティー・エス.東京.
 
Saunders, G.W. and Hommersand, M.H. 2004. Assessing red algal supraordinal diversity and taxonomy in the context of contemporary systematic data. American Journal of Botany 91: 1494-1507.
 
鈴木雅大 2014. 激変する真正紅藻綱の分類. 藻類 62: 166-171.
 
West, J.A., Zuccarello, G.A., Scott, J.L., West, K.A. and De Goer, S.L. 2007. Pulvinus veneticus gen. et sp. nov. (Compsopogonales, Rhodophyta) from Vanuatu. Phycologia 46: 237-246.
 
Yoon, H.S., Muller, K.M., Sheath, R.G., Ott, F.D. and Bhattacharya, D. 2006. Defining the major lineages of red algae (Rhodophyta). Journal of Phycology 42: 482-492.
 
Yokoyama, A., Scott, J.L., Zuccarello, G.C., Kajikawa, M., Hara, Y. and West, J.A. 2009. Corynoplastis japonica gen. et sp. nov. and Dixoniellales ord. nov. (Rhodellophyceae, Rhodophyta) based on morphological and molecular evidence. Phycological Research 57: 278-289.
 
Zuccarello, G.C., West, J.A., Bitans, A. and Kraft, G.T. 2000. Molecular phylogeny of Rhodochaete parvula (Bangiophycidae, Rhodophyta). Phycologia 39: 75-81.
 
Zuccarello, G.C., West, J.A. and Kikuchi, N. 2008. Phylogenetic relationships within the Stylonematales (Stylonematophyceae, Rhodophyta): biogeographic patterns do not apply to Stylonema alsidii. Journal of Phycology 44: 384-393.
 

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