イワアミジ Dictyota adhaerens
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2021年9月26日
 
イワアミジ(岩網地)
Dictyota adhaerens Noda 1965: 29. Figs 1-5.
 
黄藻植物(オクロ植物)門(Phylum Ochrophyta),褐藻綱(Class Phaeophyceae),アミジグサ亜綱(Subclass Dictyotophycidae),アミジグサ目(Order Dictyotales),アミジグサ科(Family Dictyotaceae),アミジグサ連(Tribe Dictyoteae),アミジグサ属(Genus Dictyota
 
掲載情報
Noda 1969: 36; 1987: 136-137. Fig. 110.
 
Type locality: 新潟県 佐渡島 達者
Type specimen: 所在不明?
 
分類に関するメモ:吉田・田中(1998)は,イワアミジ(Dictyota adhaerens)の原記載(Noda 1965)においてタイプを明記していないことから国際植物命名規約(現 国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN))において,非正式名(invalid name)としました。ICN(2018, 深圳規約)の第40.3条と第40.6条によると,1990年1月1日より前に記載された種では,「タイプ」や「タイプ標本」が明示されていなくても,タイプに関する詳細が引用されていればタイプ指定として受け入れられます。イワアミジの原記載には採集地と採集日が記されており,標本番号は無いもののタイプの引用とみなされる可能性があります。ただし,Noda (1965)のFig.1には複数の図が描かれており,単一の標本かどうか議論の余地があります。解釈が難しいところですが,本サイトでは本種を正式発表されているものと判断しました。
 
イワアミジ Dictyota adhaerens
 
イワアミジ Dictyota adhaerens
押し葉標本(採集地: 新潟県 佐渡郡 相川町 達者(現 佐渡市 達者);採集日:2003年3月6日;採集者:鈴木雅大)
 
イワアミジ Dictyota adhaerens
 
イワアミジ Dictyota adhaerens
押し葉標本(採集地: 新潟県 佐渡郡 小木町 矢島(現 佐渡市 小木 矢島);採集日:2002年7月30日;採集者:鈴木雅大)
 
イワアミジは,新潟県佐渡島の低潮線付近に生育するアミジグサ類です。高さ2 cm程度であることと,体下面から仮根状枝を生じ,基質に匍匐することが特徴です。佐渡島西部の磯で波打ち際ギリギリを探すと,Noda (1965, 1987) の記述に合致するアミジグサ属(Dictyota)が生えており,おそらくこれがイワアミジなのだろうと考えています。イワアミジは日本においてほぼ認められていない種類で,吉田・田中(1998) ,吉田ら(2015)には掲載されていません。吉田・田中(1998)がイワアミジを掲載していないのは命名法上の理由ですが,著者はイワアミジといわゆるアミジグサ(Dictyota dichotoma auct. non (Hudson) J.V. Lamouroux 1809)とは区別出来ないと考えており,本サイトに画像を掲載することを控えてきました。佐渡島では,Noda (1965) の記載通りのイワアミジが見つかりますが,すぐそばにはアミジグサが生えており,体下面から仮根状枝を生じるのは,アミジグサ類全体を通して良くみられる特徴であることから,著者はイワアミジはアミジグサの形態変異の1つと考えています。しかし,アミジグサがD. dichotomaではなく,複数種を含むことがほぼ確実であることを踏まえると,イワアミジは「アミジグサ」の学名候補の1つに挙げられると考えられます。命名法上の問題があること,タイプ標本の所在が不確定であること,一般的な「アミジグサ」の特徴とはかけ離れていることなど,問題のある種なので,イワアミジを再評価することには,少なからず抵抗があるのですが,「アミジグサ」の分類学的研究において避けては通れない種であることから,著者が佐渡島で採集したイワアミジの標本画像を掲載することにしました。イワアミジがいわゆる「アミジグサ」の1つとして再評価されるかどうか,今後の分類学的研究が俟たれています。
 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2021. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 26 September 2021.
 
Noda, M. 1965. The species of Dictyotaceae from Sado Island in the Japan Sea. Scientific Reports Niigata University, Ser. D. (Biology) 2: 27-35.
 
Noda, M. 1969. The species of Phaeophyta from Sado Island in the Japan Sea. Scientific Reports Niigata University, Ser. D. (Biology) 6: 1-64.
 
Noda, M. 1987. Marine algae of the Japan Sea 557 pp. Kazamashobo, Tokyo.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
吉田忠生・田中次郎 1998. 2.5 あみじぐさ目 Dictyotales. In: 吉田忠生 著.新日本海藻誌.pp. 205-234. 内田老鶴圃,東京.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインS A Rストラメノパイル黄藻植物(オクロ植物)門褐藻綱アミジグサ目
 
日本産海藻リスト黄藻植物門褐藻綱アミジグサ亜綱アミジグサ目アミジグサ科アミジグサ連アミジグサ属イワアミジ
 
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