アミジグサ "Dictyota dichotoma"
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2013年10月18日(2024年5月11日更新)
 
アミジグサ(網地草)
Dictyota dichotoma auct. non (Hudson) J.V.Lamouroux (1809: 42)
 
黄藻植物(オクロ植物)門(Phylum Ochrophyta),褐藻綱(Class Phaeophyceae),アミジグサ亜綱(Subclass Dictyotophycidae),アミジグサ目(Order Dictyotales),アミジグサ科(Family Dictyotaceae),アミジグサ連(Tribe Dictyoteae),アミジグサ属(Genus Dictyota
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),アミジグサ目(Order Dictyotales),アミジグサ科(Family Dictyotaceae),アミジグサ属(Genus Dictyota
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),アミジグサ目(Order Dictyotales),アミジグサ科(Family Dictyotaceae),アミジグサ属(Genus Dictyota
 
掲載情報
岡村 1902: 111; 1913: 39. Pl. 111; 1916: 185: 1936: 160. Fig. 82; 川口 1993: 96, 97. Fig. 48; 吉田・田中 1998: 213. Pl. 2-5. Figs A-F.
 
分類に関するメモ:アミジグサは”Dictyota dichotoma”に充てられていますが,太平洋で報告されている"D. dichotoma"は大西洋のD. dichotomaとは種類が異なり,大西洋のD. dichotomaとは別種と考えられる他,D. dimorphosaなど複数の種類を包含していると考えられます(De Clerk 2003, Hwang et al. 2005; De Clerk et al. 2006, Tronholm et al. 2010; Ni-Ni-Win et al. 2024など)。

国際塩基配列データベースには,"D. koreana"という名前で公開されている遺伝子配列があり,韓国で"D. dichotoma"と呼ばれている種に対応していると考えられますが,記載文や判別文を伴って発表されたことはなく,調べた限りでは学術的出版物に掲載されたこともないため,裸名(nomen nudum)に相当すると考えられます。

 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
撮影地:神奈川県 中郡 大磯町 照ヶ崎;撮影日:2011年7月15日;撮影者:横澤敏和 氏
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2015年5月7日;撮影者:鈴木雅大
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2022年5月29日;撮影者:鈴木雅大
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
撮影地:新潟県 佐渡市 風島弁天(佐渡島);撮影日:2011年8月6日;撮影者:鈴木雅大
         
  アミジグサ Dictyota cf. dichotoma   アミジグサ Dictyota cf. dichotoma  
押し葉標本(採集地:青森県 青森市 浅虫 裸島;採集日:2002年11月20日;採集者:鈴木雅大)
 
アミジグサは,"Dictyota dichotoma"に充てられていますが,太平洋西岸で報告されている"D. dichotoma"は大西洋のD. dichotomaとは種類が異なる他,複数種(少なくとも2種)を含むことが示唆されています(De Clerck 2003, Hoshina et al. 2004, De Clerk et al. 2006, Tronholm et al. 2010; Ni-Ni-Win et al. 2024など)。アミジグサはD. dichotomaとは別種であることはほぼ間違いないと考えられ,Ni-Ni-Win et al. (2024) は,日本や韓国で"D. dichotoma"とされてきたものの一部を新種D. dimorphosaとして記載しました。「アミジグサ」の和名をD. dimorphosaに充てて良いかどうかや,遺伝子解析においてD. dimorphosaとは異なるクレードとなった"D. dichotoma"の検討などが俟たれています。本サイトで公開している「アミジグサ」の多くは,D. dimorphosaである可能性が高いですが,「アミジグサ "D. dichotoma"」の分類が整理されるまで,暫定的に"D. dichotoma"として掲載しています。
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
体先端部の頂端生長細胞。1.0%エリスロシン水溶液で染色
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
体先端部の表面観のスケッチ
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
縁辺部の横断面。1.0%エリスロシン水溶液で染色
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
縁辺部の横断面のスケッチ(上段は毛を生じた皮層)
 
  アミジグサ Dictyota cf. dichotoma   アミジグサ Dictyota cf. dichotoma  
体縁辺部の横断面。体の中部以下ではしばしば皮層細胞が二層以上になる。
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
体縁辺部の横断面のスケッチ
 
アミジグサは,横断面において皮層が1層の細胞層から成ることが特徴です。しかし,著者がこれまで観察してきた「アミジグサ」の中には,皮層の大部分が1層の細胞層から成るものと,皮層部に部分的に2層の細胞層が混ざるものがありました。サナダグサ(Dictyota coriaceaのように皮層の大部分が2層の細胞層からなるものとも異なるようです。日本で「アミジグサ」と呼ばれているものは複数種を含んでいることが示唆されており,皮層の細胞層の違いは種の違いなのかもしれません。機会があれば遺伝子解析して確かめてみたいところですが,著者はこのグループの専門家ではないので,解析を保留しています。将来的に日本の「アミジグサ」の分類が整理され,正しい名前が付くことを祈っております。
 
  アミジグサ Dictyota cf. dichotoma   アミジグサ Dictyota cf. dichotoma  
先端部の縦断面。1.0%エリスロシン水溶液で染色
 
アミジグサ Dictyota cf. dichotoma
体下部の横断面。皮層細胞から仮根状糸を生じる。
 
 
参考文献
 
De Clerck, O. 2003. The genus Dictyota in the Indian Ocean. Opera Botanica Belgica 13: 1-205.
 
De Clerck, O., Leliaert, F., Verbruggen, H., Lane, C.E., De Paula, J.C., Payo, D.I. and Coppejans, E. 2006. A revised classification of the Dictyoteae (Dictyotales, Phaeophyceae) based on rbcL and 26S ribosomal DNA sequence data analyses. Journal of Phycology 42: 1271-1288.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 18 October 2013.
 
Hoshina, R., Hasegawa, K., Tanaka, J. and Hara, Y. 2004. Molecular phylogeny of the Dictyotaceae (Phaeophyceae) with emphasis on their morphology and its taxonomic implication. Journal of Japanese Phycology 52 (suppl.): 189-194.
 
川口栄男 1993. Dictyota dichotoma (Hudson) Lamouroux(アミジグサ).In: 堀 輝三(編) 藻類の生活史集成 第2巻 褐藻・紅藻類.pp. 96, 97. 内田老鶴圃,東京.
 
Lamouroux, J.V.F. 1809. Exposition des caractères du genre Dictyota, et tableau des espèces qu'il renferem. Journal de Botanique [Desvaux] 2: 38-44.
 
Ni-Ni-Win, Hanyuda, T., Mya-Kyawt-Wai, Mardiansyah, Putri, L.S.E., Geraldino, P.J.L. and Kawai, H. 2024. Two new species of Dictyota (Dictyotales, Phaeophyceae), D. dimorphosa sp. nov. and D. recumbens sp. nov., based on morphological and molecular investigations. Phycologia 2: 38-44.
 
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京.
 
岡村金太郎 1913. 日本藻類圖譜 第3巻 第3集.pp. 39-54. pls CXI-CXV. 内田老鶴圃,東京.
 
岡村金太郎 1916. 日本藻類名彙 第2版.362 pp. 成美堂,東京.
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
Tronholm, A., Steen, F., Tyberghein, L., Leliaert, F. Verbruggen, H., Siguan, M.A.R. and De Clerck, O. 2010. Species delimitation, taxonomy, and biogeography of Dictyota in Europe (Dictyotales, Phaeophyceae). Journal of Phycology 46: 1301-1321.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189.
 
吉田忠生・田中次郎 1998. 2.5 あみじぐさ目 Dictyotales. In: 吉田忠生 著.新日本海藻誌.pp. 205-234. 内田老鶴圃,東京.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインS A Rストラメノパイル不等毛植物門褐藻綱アミジグサ目
 
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