オオカナダモの同化デンプンの観察 |
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執筆:鈴木雅大 作成日:2010年9月14日(2011年1月25日更新) |
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はじめに | ||
光合成の結果生成されたグルコース(ブドウ糖)は,葉緑体の中でデンプン分子の形にかえられます。これを同化デンプンといいます。緑色植物は同化デンプンを葉緑体の中に生成します。十分に光合成をさせたオオカナダモ(Egeria densa)の葉をヨウ素液(ヨウ素ヨウ化カリウム溶液)で染めると葉緑体中の同化デンプンが青紫色に染まります。これをヨウ素デンプン反応といいます。デンプンはグルコース(C6H12O6)がらせん状に配列した構造をしています。このらせん構造の内部に赤紫色のヨウ素分子(I2)が入り込んで結合すると,デンプンが青紫色に染まります。オオカナダモの葉でヨウ素デンプン反応によって同化デンプンを観察するには,葉を熱湯に漬けた後,エタノールで湯煎します。これは,葉緑体中のクロロフィルやカロテノイドなどの光合成色素を溶出させ,同化デンプンを観察しやすくするためです。この観察は,中学校では定番の実習ですが,事前の準備や試薬の調整が正しく出来ていないと,失敗することが少なくありません。初めてこの実習を行う方は事前に何度か実験をしてコツをつかんでおく必要があるでしょう。 | ||
なぜグルコースをすぐにデンプン分子の形に変えるのか? | ||
光合成で生じたグルコース(ブドウ糖)は直ちにデンプン分子の形に変えられます。これはグルコースにはアルデヒド基があるためです。グルコースのようにアルデヒド基を持つ単糖類をアルドースと呼びます。アルデヒド基はタンパク質のアミノ基と反応し,タンパク質を凝固させる作用があります。生物の観察におけるホルマリン(ホルムアルデヒド)固定は,アルデヒド基がタンパク質を凝固させる性質を利用したものですし,糖尿病は過剰に高まった血中のグルコースがタンパク質を凝固させることによって人体に害を及ぼすものです。このようにアルデヒド基は,生物にとって有害なものが多く,過剰に作られたグルコースは植物にとっても有害であると考えられます。従って,光合成によって作られたグルコースは直ちにデンプン分子の形に変えられ,より安定した状態で貯蔵されると考えられます。 | ||
用意する物 | ||
顕微鏡(人数分),ピンセット(人数分),スライドグラス(人数分),カバーグラス(人数分)ティッシュペーパー(キムワイプ)(一班当たり1箱),エタノール,熱湯,ヨウ素液(100%の濃度で使うと濃すぎるため,使う前に水道水で50%以下に薄める) | ||
ヨウ素ヨウ化カリウム溶液 左:原液 右:水道水で薄めたもの | ||
事前準備 | ||
光合成の実験に用いたオオカナダモを用いても良いのですが,ヨウ素デンプン反応を行うには光合成が不十分なことが多く,事前に十分に光合成をさせた材料を用意します。最も元気なオオカナダモを選び,実習を始める1時間位前にオオカナダモに光を当て,光合成をさせます。光合成には光だけでなく,二酸化炭素濃度と温度が重要です。オオカナダモは,水温が高くなると光合成活性が低くなるので,大きめのビーカーなどに入れ,光を当てる時は光源を近づけすぎないように注意します。次に,光合成に必要な二酸化炭素を供給するためストローで息を吹き込みます。息を吹き込む代わりに炭酸水素カリウム(KHCo3)や炭酸水素ナトリウム(NaHCo3)又は水草飼育用に市販されている二酸化炭素添加剤を入れてもOKです。 | ||
観察手順 | ||
1. 十分に光合成をさせたオオカナダモを熱湯に30秒ほど漬けます。 | ||
2. 葉を一枚ちぎり,温めたエタノールに葉が白くなるまで漬けます。 | ||
*1の手順を省いても構わないようですが,著者は両方行った方が同化デンプンがはっきりと染まると思います。 | ||
注意!:エタノールには引火性と爆発性があるので,温める際,直接火にかける,電子レンジで温めるなどは厳禁。試験管にエタノールを1/3~半分程入れ,熱湯を入れたビーカーに試験管を浸して温めます。 | ||
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3. 葉を水洗し,スライドガラスに乗せます。 | ||
4. ティッシュペーパー(キムワイプ)で十分に水を取った後,50%以下に薄めたヨウ素液を1滴たらします。 | ||
5. 十分に染まったら,葉を水で軽く洗った後,カバーガラスをかけて検鏡します。 | ||
6. 葉緑体中の同化デンプン粒が何色に染まっているか確認します。 | ||
*葉の縁辺部と中肋(葉の中央を縦に走る葉脈)の周りが良く染まります。 | ||
葉緑体の色:赤紫~青紫色 *この写真はヨウ素液でやや染め過ぎています。 | ||
観察のポイント | ||
緑色植物では,同化デンプンを葉緑体の中に生成します。細胞中の葉緑体が青紫色に染まっている事を確認します。この観察は,学生がオオカナダモの葉緑体の形や大きさを理解している事が前提となります。著者は,細胞を観察する実習で,タマネギと口腔粘膜細胞の観察に加えて,オオカナダモの葉の細胞と原形質流動の観察を行っています。 | ||
学生実習の実際 | ||
この観察では,オオカナダモの葉緑体がヨウ素ヨウ化カリウム溶液で染まっている事を確かめるのが目的なので,スケッチをする必要はないでしょう。単独の観察とせず,光合成の実験と組み合わせる事で高い教育効果を得られると思います。 | ||
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