チャイロカワモズク Sheathia arcuata auct. non (Kylin) Salomaki & M.L. Vis (2014)
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2021年10月31日(2021年12月12日更新)
 
チャイロカワモズク(茶色川水雲,茶色川藻付)
Sheathia arcuata auct. non (Kylin) Salomaki & M.L. Vis (2014)
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),カワモズク目(Order Batrachospermales),カワモズク科(Family Batrachospermaceae),チャイロカワモズク属(Genus Sheathia
 
* 熊野(2000)「世界の淡水産紅藻」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),カワモズク目(Order Batrachospermales),カワモズク科(Family Batrachospermaceae),カワモズク属(Genus Batrachospermum)*B. arcuatumとして
 
掲載情報
比嘉 2018: 583-584; 河地 2020: 85.
 
その他の異名
 ナツノカワモズク Batrachospermum ectocarpum auct. non Sirodot (1884); 松村 1895: 45; 斎田 1910: 138; 熊野ら 1962: 200-203; 森 1970: 1-6. Pl. 1, Figs 1, 3, 4. Pl. 2. Photo I, 2-4; 1975: 473-474. Pl. 1, Figs 14, 17, 20. Pl. 2, Figs 1, 7, 21, 23; 1977: 189-191. Fig. 8; 熊野・廣瀬 1977: 165. Pl. 58, Figs 2a-e.
 ナツノカワモズク Batrachospermum stagnale auct. non (Bory) Hassal (1845);
 ナツノカワモズク Batrachospermum anatinum auct. non Sirodot (1884); 熊野 2000: 91. Pl. 42. Pl. 43, Figs 1-6; 2002: 88, 92. Pl. 48. Pl. 49, Figs 1-6; 熊野ら 2002: 31; 小林 2005: 24.
 チャイロカワモズク Batrachospermum arcuatum auct. non Kylin (1912); 熊野ら 1970: 116-117. Fig. 1; 2002: 31; 2007: 212; 森 1970: 3. Photo 1, Fig. 1; 熊野 2000: 95, 96. Pl. 43, Figs 7-11. Pl. 44 (a); 2002: 93. Pl. 49, Figs 7-11. Pl. 50; 小林 2005: 24; 2014: 543; 洲澤ら 2010: 3-4. Fig. 2; 原口 2013: 85-86; 石戸・原田 2020: 137.
 
環境省レッドリスト2020:準絶滅危惧(NT);青森県レッドデータブック(2020年版):要調査野生生物(D);茨城県版レッドデータブック2020年版:準絶滅危惧;栃木県版レッドリスト(2018年版):要注目;埼玉県レッドデータブック(2011):絶滅危惧I類(CE);千葉県レッドリスト植物・菌類編(2017年度改訂版):一般保護生物(D);東京都レッドリスト(本土部)2020年版:情報不足(DD);神奈川県レッドリスト植物編(2020):準絶滅危惧;福井県レッドデータブック(植物編 2004):要注目;長野県レッドリスト(2014):準絶滅危惧(NT);兵庫県版レッドデータブック2020:C;愛媛県レッドデータブック2014:準絶滅危惧(NT);福岡県レッドデータブック2011:準絶滅危惧;レッドデータブックくまもと2019:準絶滅危惧(NT);鹿児島県レッドリスト(2015):準絶滅危惧;沖縄県版レッドデータブック第3版(2018):絶滅危惧II類(VU)
 
分類に関するメモ:チャイロカワモズクあるいはナツノカワモズクと呼ばれてきたものは,熊野ら(2007)によって,Batrachospermum arcuatum(現 Sheathia arcuata)1種にまとめられました。Vis et al. (2020), Suzuki & Kitayama (2021), Kitayama et al. (2021) などによると,Sheathia arcuataの分布はヨーロッパに限られ,日本で"S. arcuata"とされているものは別種と考えられます。また,複数種を含んでいると考えられ,チャイロカワモズク(ナツノカワモズク)とされていたものから,コウゼンジカワモズク(S. absconditaヤツダカワモズク(S. yoshizakiiが区別され,それぞれ日本新産種,新種として報告,記載されています。Kitayama et al. (2021) によると,日本産のチャイロカワモズク属(Sheathia)には,コウゼンジカワモズクとヤツダカワモズク以外にも複数の未記載・未報告種が含まれていることが示唆されており,今後の分類学的検討が俟たれています。
 
Sheathia jiugongshanensis ?
 
 
     
採集地:埼玉県 和光市 市場峡公園;採集日:2012年2月21日;採集者:鈴木雅大
 
埼玉県和光市で採集したチャイロカワモズク属(Sheathia)の胞子体(チャントランシア期)です。Kitayama et al. (2021) の中で,"Sheathia sp."としてrbcL遺伝子の配列(LC643713)を公開しました。Kitayama et al. (2021) が実施した系統解析において,中国で記載されたS. jiugongshanensisに近いことが示唆されたものの,公開されていたS. jiugongshanensisrbcL遺伝子の配列(MK746106)が797 bpと短いこと,"S. jiugongshanensis"の名前で公開されているcox1遺伝子の配列に疑義があったことから,結論は出ませんでした。その後,新しく公開されたS. jiugongshanensisrbcL遺伝子の配列(MW264814, 1141bp)との比較,及び現在"S. jiugongshanensis"の名前で公開されているcox1遺伝子の配列(MK746110, MW264827)はS. shimenxiaensis (MW264828)であることが確認されたことから,和光市の"Sheathia sp."は,S. jiugongshanensisである可能性が高いことが示唆されています。

Sheathia jiugongshanensisは,Han et al. (2020) が中国湖北省で記載した種類です。胞子体(チャントランシア期)のみを基に記載されたもので,配偶体は知られていません。カワモズク類は,配偶体の形態的特徴を基に記載,区別されますが,近年,胞子体のみしか知られていないチャイロカワモズク属(Sheathia)が記載されています(S. jiugongshanensisS. plantuloides, S. qinyuanensis, S. shimenxiaensis)。チャイロカワモズク属の他種の胞子体の形態も含めて精査する必要がありますが,胞子体の形態的特徴(細胞や単胞子嚢の大きさなど)で種を区別するのは難しく,胞子体のみしか知られていない種は,遺伝子解析によってのみ区別,認識されています。奇しくも著者が和光市で採集したサンプルも胞子体のみでした。和光市のサンプルと,S. jiugongshanensis及び確認されているチャイロカワモズク属の胞子体との間に明確な形態差はありません。Han et al. (2020) などと同様に,胞子体の観察のみで日本新産種として報告することもできるかもしれませんが,日本産チャイロカワモズク類を整理するならば,胞子体だけではなく配偶体の形態も観察し,他種との区別を明確にするのが望ましいと思います。和光市または他地域で「チャイロカワモズク」と呼ばれているものの中で,遺伝子解析によりS. jiugongshanensisに相当する配偶体を確認し,形態の詳細を観察する必要があると思います。

 
参考文献
 
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日本淡水産紅藻リスト(仮)紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱ウミゾウメン亜綱カワモズク目カワモズク科チャイロカワモズク属チャイロカワモズク
 
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