ヒカリモ Chromophyton vischeri
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年11月26日(2022年5月8日更新)
 
ヒカリモ(光藻)
Chromophyton vischeri (Bourrelly) Couté 1983.
 
黄藻植物(オクロ植物)門(Phylum Ochrophyta),クリシスタ(Chrysista),黄金色藻綱(Class Chrysophyceae),ヒッバーディア目(Order Hibberdiales),ヒッバーディア科(Family Hibberdiaceae),ヒカリモ属(Genus Chromophyton
 
Basionym
  Ochromonas vischeri Bourrelly 1957: 142. Pl. I, Figs 15-18; 井上 96, 97. Fig. 47.
 
竹岡の黄金井戸
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
撮影地:千葉県 富津市 竹岡;撮影日:2006年3月5日;撮影者:鈴木雅大
 
千葉県富津市竹岡の黄金井戸は,ヒカリモが毎年発生する場所として知られています。千葉県はヒカリモの発生地が多いことで知られていますが(川名 1974, 1998など),黄金井戸をはじめとして富津市竹岡周辺はヒカリモの発生地が特に集中しています。水戸黄門で知られる徳川光圀公もかつてこの地域でヒカリモを見たと伝えられています。
 
水神様の通った跡
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
撮影地:千葉県 富津市 竹岡;撮影日:2006年4月15日;撮影者:鈴木雅大
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
撮影地:千葉県 富津市 竹岡;撮影日:2019年5月19日;撮影者:鈴木雅大
 
竹岡の黄金井戸には水神様が祭られています。黄金の水面にはしごのような道ができることがあり,これを「水神様の通った跡」と考えたことに由来するそうです(川名 1974)。著者が二度目に訪れた際,「水神様の通った跡」を見ることができました。この跡を付けた正体はアメンボ(Aquarius paludumなのですが,気付かなければ何かが通った道のように見えるのもうなづけます。
 
沼のヒカリモ
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
撮影地:千葉県 館山市 沼;撮影日:2006年4月15日;撮影者:鈴木雅大
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
 
ヒカリモ Chromophyton vischeri
撮影地:千葉県 館山市 沼;撮影日:2022年5月3日;撮影者:鈴木雅大・鈴木瑛子
 
ヒカリモはクロロフィルa, cを含む黄色い色素体(葉緑体)を持つ単細胞藻類で,これが大量発生した際に水面が黄金色に輝いて見えます。千葉県ではアブラナ(菜の花,Brassica rapaの開花時期(菜の花どき)に良くみられる現象として知られています。細胞が水面上に浮遊し,色素体を通った光が反射する事で黄金色に光り輝くと考えられています。幻想的な藻類ですが,水面に立ち上がるメカニズムや光を反射するメカニズムの詳細は分かっていません。また,正しい学名,何種類いるのか,生活史などの基本的なことも良く分かっておりません。分類学者としては正しい種名(学名)を知りたいところですが,ヒカリモと呼ばれているものに複数の種類が含まれている可能性や,ヒカリモの学名としてしばしば用いられるChromophyton rosanoffiiとの関係を明らかにする必要があるなど,分類学的問題の解決は容易ではなさそうです。本サイトでは,横山・横山(2009)を参考に,竹岡と沼のヒカリモの学名をChromophyton vischeriとしましたが,千葉県産のヒカリモについてピレノイドの構造の観察や遺伝子解析が行われていないため,正確な同定ではありません。
 
参考文献
 
Bourrelly, P. 1957. Recherches sur les Chrysophycées. Morphologie, phylogénie, systématique. Revue Algologique: Mémoire Hors-Série 1: 1-412.
 
Couté, A. 1983. Ultrastructure de Chromophyton rosanoffii Woronin emend. Couté et Chr. vischeri (Bourrel.) nov. comb. (Chrysophyceae, Ochromonadales, Ochromonadaceae). Protistologica 19: 393-416.
 
井上 勲 1993. Ochromonas vischeri Bourrelly(ヒカリモ).In: 堀 輝三(編) 藻類の生活史集成 第3巻 単細胞性・鞭毛藻類.pp. 96, 97. 内田老鶴圃,東京.
 
川名 興 1974. 富津市荻生のヒカリモ発生地について(中間報告).千葉生物誌 23(2): 53-69.
 
川名 興 1998. 竹岡のヒカリモ(国指定天然記念物)の輝き具合と季節.千葉生物誌 48(1): 89-96.
 
中山 剛・山口晴代 2018. プランクトンハンドブック.144 pp. 文一総合出版,東京.
 
Woronin, M. 1880. Chromophyton rosanoffii. Bot. Zeitung (Berlin) 38: 625-631, 641-648.
 
横山亜紀子・横山 潤 2009. 伊豆沼の底泥から発生したヒカリモ(黄金色藻綱).伊豆沼・内沼研究報告 3: 25-30.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインSARストラメノパイル黄藻植物(オクロ植物)門黄金色藻綱
 
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