イシモズク Sphaerotrichia firma
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2014年3月31日(2018年7月22日更新)
 
イシモズク(石水雲,石藻付)
Sphaerotrichia firma (E. Gepp) Zinova 1958: 1469.
 
黄藻植物(オクロ植物)門(Phylum Ochrophyta),褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ亜綱(Subclass Fucophycidae),シオミドロ目(Order Ectocarpales),ナガマツモ科(Family Chordariaceae),イシモズク属(Genus Sphaerotrichia
 
* 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),ナガマツモ目(Order Chordariales),ナガマツモ科(Family Chordariaceae),イシモズク属(Genus Sphaerotrichia
 
掲載情報
Kim et al. 2003: 185. Figs 2, 3, 7.
 
Basionym
  Chordaria firma E. Gepp 1904: 162. Pl. 460, Figs 7, 8; 岡村 1915: 183. Pl. 143. Pl. 145, Figs 1-9; 1936: 196.
 
Type locality: China”.
Type specimen: ?
 
イシモズク Sphaerotrichia firma
採集地:青森県 西津軽郡 深浦町;採集日:2016年7月1日;撮影者:鈴木雅大
 
イシモズク Sphaerotrichia firma
押し葉標本(採集地:青森県 西津軽郡 深浦町;採集日:2016年7月1日)
 
イシモズク(Sphaerotrichia firma)は,かつてクサモズク(Sphaerotrichia divaricataと同種と考えられており,2種を合わせて「イシモズク Sphaerotrichia divaricata」と呼ばれていました。Kim et al. (2003) は,Sphaerotrichia divaricataSphaerotrichia firmaが別種であることを示しました。クサモズクとの違いは,体に明瞭な主軸を持つことで,クサモズクは主軸が不明瞭です。また,和名が示す通り,イシモズクは石などに着生し,クサモズクは他の海藻の体上に着生します。日本海側で採集,販売されているものの多くはイシモズクのようですが,クサモズクも日本海沿岸に分布しているのでイシモズクとクサモズクが混同されているところもあるかもしれません(注記)。

イシモズクとクサモズクは概ね外形で区別がつき,同定はそれほど難しくないかもしれませんが,日本産イシモズク属にイシモズクとクサモズクの2種が認められていることは,一般的に浸透しているとは言い難く,むしろほとんど知られていないのが現状のように思えます。Kim et al. (2003) 以降,一般の方が読める雑誌や図鑑・図録等で2種が紹介されていなかったこと,Sphaerotrichia firmaS. divaricataに相当する和名が知られていなかったことが原因ではないかと思います。日本産海藻目録(2015年改訂版)においても,Sphaerotrichia divaricataは「イシモズク」,S. firmaは「和名なし」となっていました。日本産イシモズク属の種の和名は定まっていないものと考えられてきましたが,2008年に出版された「新牧野日本植物圖鑑,北隆館」のモズクの項目の中に,「主に石上に生えるイシモズク Sphaerotrichia firma E. Geppと、ホンダワラ類の体上、またはアマモ、スガモなどの葉上に着生するクサモズク S. divaricata (C. Agardh) Kylinがある。」という記述がありました。従って,Sphaerotrichia firmaを「イシモズク」,Sphaerotrichia divaricataを「クサモズク」と呼ぶのが妥当と考えられます。日本産海藻目録(2015年改訂版)の出版前に気が付けば良かったのですが,日本藻類学会が発行している和文誌「藻類」第64巻第5号の,「日本産海藻目録(2015年改訂版)の訂正について」という記事の中でSphaerotrichia firmaを「イシモズク」,Sphaerotrichia divaricataを「クサモズク」として修正・掲載しました。

注記.著者は本記事の中で、「日本海側で販売されている「もずく」の多くはイシモズクか,イシモズクとクサモズクを混同したものと考えられます」と掲載しておりましたが,「「もずく」の名前で販売されているのはモズク(Nemacystus decipiensではないか」とのご指摘を頂きました。全くその通りで,なぜモズクを失念していたのか我ながらビックリでした。ご指摘くださったD.F.先生に深く感謝申し上げます。(2018年7月22日 鈴木雅大)

 
イシモズク Sphaerotrichia firma
同化糸の顕微鏡写真(採集地:青森県 西津軽郡 深浦町;採集日:2016年7月1日)
 
同化糸の頂端の細胞が球形に膨らむのがイシモズク属(Sphaerotrichia)の特徴です。顕著な特徴なので,他の属と間違えることはまずないと思います。
 
イシモズク Sphaerotrichia firma
体基部近くの横断面(採集地:青森県 西津軽郡 深浦町;採集日:2016年7月1日)
 
Kim et al. (2003) によると,体基部近くでは中実になるのがイシモズクのもう一つの特徴とされているのですが,著者が観察したサンプルは,体基部近くでも中空なものがほとんどでした。著者の観察方法が悪いのか,観察したサンプルがまだ若い,あるいは古いのか,いずれにしろイシモズクの内部構造が種の特徴となり得るかどうか検討が必要だと思います。
 
参考文献
 
Gepp, E.S. 1904. Chinese marine algae. Journal of Botany, London 42: 161-166..
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 18 October 2013.
 
川井浩史(改訂)2008. 4840.モズク.牧野富太郎(原著).大橋広好・邑田 仁・岩槻邦男(編).新牧野日本植物圖鑑.p. 1210. 北隆館,東京.
 
Kim, S.-H, Peters, A.F. and Kawai, H. 2003. Taxonomic revision of Sphaerotrichia divaricata (Ectocarpales, Phaeophyceae), with a reappraisal of S. firma from the north-west Pacific. Phycologia 42: 183-192
 
岡村金太郎 1915. 日本藻類圖譜 第3巻 第9集.東京.*自費出版
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
吉田忠生・鈴木雅大 2016. 日本産海藻目録(2015年改訂版)の訂正について.藻類 64: 161.
 
Zinova, A.D. 1958. A contribution to the knowledge of the species of the genus Sphaerotrichia Kyl.. Botanicheski Zhurnal 63: 1462-1469.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインS A Rストラメノパイル黄藻植物(オクロ植物)門褐藻綱シオミドロ目ナガマツモ科
 
日本産海藻リスト黄藻植物門褐藻綱ヒバマタ亜綱シオミドロ目ナガマツモ科イシモズク属イシモズク
 
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