オオカナダモを用いた光合成の実験

作成:鈴木雅大 作成日:2010年9月14日(2010年12月10日更新)

光合成とは
 光合成は,植物が行う生化学反応の中で最も重要な反応です。植物の植物たる所以と言っても過言ではなく,植物を学ぶ上で欠かすことの出来ないテーマです。植物は光のエネルギーを利用して,二酸化炭素と水から炭水化物(ブドウ糖 C6H12O6)などを生成し,その過程の中で酸素を発生します。化学反応式では,6CO2 +12H2O+光エネルギー→C6H12O6 +6H2O+6O2で示されます。光合成は非常に複雑な過程です。光合成の仕組みを詳細に調べてみると,そのあまりの複雑さに驚かされます。これを勉強するのは大変ですが,その緻密かつダイナミックな反応系は光合成の専門家でなくとも引き込まれるものがあり,大学で生物学を学ぶ学生さん達にはぜひその詳細を勉強して欲しいと思っています。ここでは,光合成の詳細については踏み込みませんが,光合成が大きく2つの反応過程に分けられている事は覚えておきましょう。最初の過程は,光エネルギーを化学エネルギーに変換する反応で,葉緑体のチラコイド膜で行われます。光エネルギーを化学エネルギー(ATP)に変換する過程で水が分解され,廃棄物として酸素を発生します。この過程は光に関係していることから明反応といいます。次の過程は葉緑体のストロマで行われます。気孔から取り込まれた大気中の二酸化炭素を明反応で変換された化学エネルギー(ATP)を使ってブドウ糖に変換します。この過程をカルビン回路といいます。
 
光合成の図(作成中)
 
オオカナダモを用いた光合成の実験
 ここでは,オオカナダモを使い,植物が光合成をしていることを実験によって確かめます。また,気泡の数を数えて「光の強さと光合成の関係」のグラフを描き,実験結果を科学的に検証します。各実験手順は何のために行っているのか,BTB溶液の色の変化から何が分かったかがポイントです。定番の実験ですが,「気泡が出ない」,「光源の距離を変えても結果は変わらない」などのトラブルが頻繁に起こります。失敗しないためのポイントを学ぶ必要もあります。
 
実験を始める前に
 理科の実験では,物事を科学的に検証する事が求められます。「観察」は見た物がどういうものなのかを理解するためのものですが,「実験」は仮説を検証するために行うものです。理科の実験を行い,仮説を検証するためには,その実験がどういう目的で行われ,得られた結果からどのような事が導き出されるのかをきちんと理解していなければなりません。この実験は,光合成がどういう反応か理解していないと各手順が何を意味しているかが分からなくなってしまいます。そこで,実験を行う前に,以下の問題を解いてみましょう。
オオカナダモを用いた光合成の実験に関する問題(pdfファイル)
 
用意する物

オオカナダモ,試験管(2本),200 mlビーカー(各班1個),ピンセット(人数分),両刃カミソリ(各班1枚),パラフィルム(サランラップでも可),ものさし(各班1台),照度計(各班1台),光源(ライトスタンド各班1台),ストロー(各班1本),時計,BTB溶液,グラフ用紙(人数分)

*この実験は材料の状態によって全てが左右されます。オオカナダモは,出来る限り元気なものを使います。オオカナダモは丈夫な水草なので,ほおっておいても枯れることはありませんが,条件が良くないと白っぽくなり,光合成の活性が悪くなってしまいます。水温は,オオカナダモが光合成を行うのに最適な25℃前後,二酸化炭素が十分に供給された水槽で栽培すると良いでしょう。また,窒素源の確保のためにメダカなどを一緒に飼うのもおすすめです。

 
BTB溶液(ブロムチモールブルー溶液):溶液中のpHによって色が変わる試薬。
BTB溶液色とpHの関係の目安…酸性:黄色,中性:緑色,アルカリ性:青色
 

実験手順

1. 200 mlビーカーに水を約150 ml入れ,BTB溶液を約40滴たらし,水の色が何色か確認します。
 

水の色は青色 従って水道水はアルカリ性
 
2. 水の色が緑色になるまでストローで呼気を吹き込みます。
 水の色が変わったのは,呼気に二酸化炭素が含まれているから。*二酸化炭素は水に溶けると酸性を示す。
 

     
 
3. 2本の試験管にビーカーの水を入れます。水の色が不明瞭な時は,BTB溶液をさらに数滴加えます。
 *この時,水温を一定に保つため,スタンドを使い試験管を水の入ったビーカーに入れることが望ましい。
 

4. オオカナダモの茎の基部をカミソリで斜めに切断し,切り口を上にして片方の試験管に入れます。切り口と水面までの間が3~5 cm位になるようにします。

 *切断する角度が鋭くなると気泡が小さくなる傾向があります。細かい泡がたくさん発生し,計測しづらい場合は角度を鈍く,逆に気泡が出にくい時は,鋭角に切ります。
 
   
 
5. 両方の試験管の口をパラフィルムで密封します。
     
 
     
6. 両方の試験管を光源から10 cmの位置に置きます。
 
7. 部屋を暗くし,光源のスイッチをONにし,光を当てます。
 
     
8. 水草の切断面から気泡が出るのを確認します。この気泡には約50~70%の窒素と,約30-50%の酸素が含まれています。
 
9. 気泡が規則正しく出るようになったら,時計で5分間計測し,5分間に出た気泡の数を数えます。
 
*気泡の出が悪い時は,1個の気泡を放出するのにかかった時間を計測し,それを5分間に換算するか,相対速度を求めます。相対速度は1個の気泡を放出するのにかかった時間に反比例するので,以下の式で求めます。
 
相対速度=1/1個の気泡を放出するのにかかった時間 *小数点があると見づらいため,値を1000倍し,×10-3(マイナス3乗)とします。
    例.1個の気泡を放出するのに40秒かかった場合
    光合成の相対速度=1/40×1000=25×10-3
 
10. 光源と試験管との距離を10 cmずつ遠ざけ,それぞれの距離での照度(光の明るさ)を照度計で測定した後,手順8と同様に気泡の数を数えます。材料次第ですが,50 cm位で気泡が出なくなるため40 cm位で計測を止めると良いでしょう。*光飽和点などを求めたい場合は距離を5 cmずつにするなどデータ取りを厳しくする必要があります。
 
*照度計が無い場合は,距離を基に光の相対強度を求めます。光の相対強度は,距離の2乗に反比例するため,以下の式で求めます。
 
光の相対強度=1/(距離)2(2乗)*小数点があると見づらいため,値を10000倍し,単位を×10-4(マイナス4乗)とします。
   例.距離10 cmの時の光の相対強度
   光の相対強度=1/(10)2×10000=100×10-4
 
11. 手順9, 10の結果を表にまとめます。
         

試験管と光源との距離

40 cm

30 cm

20 cm

10 cm

照度(lux)又は光の相対強度

 

 

 

 

気泡の数又は光合成の相対速度

 

 

 

 

 
12. 全ての測定が終了後,試験管の水の色を確認します。
 
 
 
オオカナダモなし:緑色,オオカナダモ入り:青色
 
13. BTB溶液を入れた試験管を2本用意し,片方の試験管にオオカナダモを入れ,前の晩から暗所に静地しました。試験管の水の色は何色でしょうか。*この実験では,BTB溶液に呼気を吹き込まず,アルカリ性のまま実験に用いています。
 

 
 
オオカナダモなし:青色,オオカナダモ入り:緑色
 
14. 手順10で作成した表を基に光の強さと光合成の関係を示したグラフを書きましょう。X軸には照度又は光の相対強度,Y軸には気泡の数又は光合成の相対速度をとります。
 

*対照実験とは

本実験では,オオカナダモを入れたものと,入れていないものと必ず2本の試験管を用意しています。BTB溶液の色の変化がオオカナダモの光合成あるいは呼吸によって変化したものであることを証明するためです。ある条件以外は全く同じ実験条件にして実験を行い,両者を比べることを対照実験といい,科学実験の基本です。結果があらかじめ分かっている実験条件(本実験ではオオカナダモの入っていない試験管)のことを対照またはコントロールといいます。
 
この実験から分かる事

 BTB溶液の色の変化から,光合成によって二酸化炭素を消費すること,呼吸によって二酸化炭素を発生することを確かめました。また,光の強さと光合成の関係を示したグラフから,光合成は光が強くなるほど活発に行われることが分かりました。これらを踏まえて科学的なレポートをまとめます。

 
この実験の問題点
 材料の入手が容易なこと,実験が単純で,時間配分も楽なことから定番中の定番として,日本各地の中学・高等学校で行われていますが,失敗する事が少なくありません。最後に,実験の失敗例と対策及び著者が未だ解けずにいる疑問を挙げます。
 
1. 気泡が出ない
 最も良くあるケースです。原因はオオカナダモの生育状態が悪い場合がほとんどです。オオカナダモを栽培しているとフシマダラ(Pithophora, 緑藻)の仲間やヒザオリ(Mougeotia,接合藻)などが繁茂し,オオカナダモの生育を害することが良くあります。これらの藻類を定期的に除去する必要があるでしょう。また,実験を行う際の水温にも原因がありそうです。著者は水道水をそのまま使うと水温が低すぎるので汲み置きした水を使っていますが,光を当てると水温が高くなりすぎます。水温を一定に保つための工夫が必要でしょう。
 
2. 実験後,BTB溶液の色が薄いか変化が少ない
 BTB溶液が少なかったのが原因と考えられます。実験手順3の時,オオカナダモの水分でBTB溶液が希釈されてしまう事もあります。実験手順3の際,新たにBTB溶液を加えるなどして,実験前のBTB溶液の色が鮮明である事を確認する必要があるでしょう。
 
3. オオカナダモが気泡を生じるのはなぜか
 著者の勉強不足で恐縮ですが,オオカナダモを始めとした水草や海草,一部の緑藻が光を当てると気泡を生じる仕組みが分かりません。著者はプロダクトメーターを使って褐藻や紅藻の光合成量を測った事がありますが,気泡を生じるという事はありませんでした。「水中の酸素濃度が飽和状態にあるので溶けきらない酸素が気泡になる」という説明を聞いた事があります。その証拠に煮沸して溶存酸素を除いた水で実験すると気泡が出てきません。また,発生した酸素が気泡となるのは水草の体構造と関係があるようでもあります。

 また,気泡の成分の内,酸素は30~50%しか含まれていないのも疑問です。空気中や水中の酸素濃度は約20%ですから,光合成によって酸素を生じた事は疑いようもありませんが,酸素が100%でない理由や気泡を生じない褐藻や紅藻では,発生した気体の酸素濃度が何%なのか知りたいところです。どなたか答えを知りませんか?

 

たくさんの気泡を生じた緑藻(アオサ藻)(大田修平博士がパラオにて撮影)

 

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