ジャガイモとサツマイモの貯蔵デンプンの観察

作成:鈴木雅大 作成日:2010年9月14日(更新日:2011年1月25日)

はじめに
 同化デンプンが葉緑体からほかの場所に輸送される時には,ふたたびブドウ糖に分解されてから,可溶性のショ糖の形にかえられて輸送されます。これを転流といいます。ショ糖は師管を通って生長の盛んな組織に運ばれ,細胞壁,脂質,タンパク質の合成に使われるほかにデンプン,脂質,タンパク質などに合成されて果実,種子,根茎などに貯蔵物質として貯えられます。貯蔵組織の細胞に運ばれて来たショ糖は,アミロプラストというデンプンを形成する能力をもつ色素体内で,再びデンプン分子の形で貯蔵されます。この状態のデンプン粒を貯蔵デンプンといいます。貯蔵デンプンには臍(サイ)とよばれる小粒があり,これを中心として層状の構造が見られます。貯蔵デンプンには幾つかの種類がありますが,大きく単粒と複粒とに分けられます。1個のアミロプラストの中に,1個のデンプン粒しか形成されないものが単粒です。これに対して,1個のアミロプラストの中に複数のデンプン粒が形成されたものが複粒です。貯蔵デンプンの形は植物によって異なり,また,貯蔵する場所も種子,果実,塊茎,貯蔵根など様々です。貯蔵デンプンの形が単粒か複粒かは,植物の系統関係や貯蔵場所をある程度反映しているものの,デンプンの形が植物の生存戦略にどのように関わっているかは不明です。ただし,デンプンの形の違いは,デンプンを糊として利用する際の融点や,食べた際の食感の違いに顕れています。本実習では,貯蔵デンプンの塊である「いも」を観察します。
 ジャガイモの「いも」は漢字では「薯」と書きます。馬鈴薯(バレイショ)の薯です。これに対してサツマイモの「いも」は「藷」と書きます。甘藷(カンショ)の藷です。漢字の違いが著すように,両者の「いも」は,器官と貯蔵デンプンの種類が大きく異なっています。ジャガイモの「薯」は,地下茎が肥大した塊茎ですが,サツマイモの「藷」は根です。貯蔵デンプンは,ジャガイモは単粒でサツマイモは複粒です。単粒と複粒の違いを学ぶことが観察のポイントです。
 
なぜショ糖の形で転流するのか?
 光合成で生じたグルコース(ブドウ糖)が直ちにデンプン分子の形に変えられるのと同様に(「オオカナダモの同化デンプンの観察」参照),グルコースが師管を通って貯蔵器官に運ばれることはありません。光合成産物が師管を移動する際は,同化デンプンがショ糖の形に転流して運ばれます。これはグルコースのアルデヒド基がタンパク質のアミノ基と反応するのを防ぐためと,水溶性のショ糖の方が師管を移動しやすいためと考えられています。
 
用意する物
顕微鏡,ジャガイモ,サツマイモ,ピンセット(人数分),シャーレ(人数分),両刃又は片刃カミソリ(人数分),スライドガラス(人数分),カバーガラス(人数分),面相筆,ティッシュペーパー(キムワイプ)(一班当たり1箱)
 
観察手順
1. ジャガイモを包丁で5-7 mm角のブロックに切り,水を入れたシャーレに入れます。
 
2. ブロックを,親指と人さし指でつまみ,切り口を上にし,カミソリ刃を手前に引きながら薄い切片を作ります。
 
3. 切り取った切片を,カミソリの刃ごとシャーレの水の中に入れてやさしく洗い落とします。
 
4. 切片を水で洗い,余分な澱粉を洗い流します。シャーレの水の中から,薄く切れた切片を面相筆で拾い,スライドガラスの上に乗せます。
 
5. 切片が乾燥しないように,水を一滴たらし,カバーガラスをかけて検鏡します。
 
6. ジャガイモの観察が終わったら,同様にサツマイモを観察します。
 
顕微鏡で観察する
 4倍または10倍の対物レンズで良く切れた切片を探します。デンプン粒が良く詰まっている細胞を1個選び,スケッチします。
 

ジャガイモ

 
ジャガイモの貯蔵デンプン:細胞中に大小様々なアミロプラストを多数含む
 
 
アミロプラスト:1個のアミロプラストの中に1個のデンプン粒を形成する単粒です。臍を中心とした生長線が見られます。
 
 
切片をヨウ素ヨウ化カリウム溶液で染色したもの:アミロプラストが青色に染まっている。
 
ジャガイモの貯蔵デンプンのスケッチ
 
サツマイモ
 
 
    *ひどい写真なので機会をみて差し替えます。
 
サツマイモの貯蔵デンプン:1個のアミロプラストの中に複数の臍(左下図 矢頭)を生じる複粒です。複粒の貯蔵デンプンは,切片を作る際に容易にバラバラになります(右下図)。こうなると単粒と区別が付かないため,はっきりと複粒が確認出来る場所を探す必要があります。
     
サツマイモの貯蔵デンプンのスケッチ
 

観察のポイント

アミロプラスト デンプン粒を形成する色素体です。葉緑体も色素体の一種です。
   
単粒 1個のアミロプラストの中に1個のデンプン粒を形成するものです。
   
複粒 1個のアミロプラストの中に複数のデンプン粒を形成するものです。貯蔵デンプンの多くは複粒に分類されます。複粒はさらにサトイモ型やイネ型などに分類されます。
 
学生実習の実際
 1枚のケント紙に1個の細胞を大きく描かせ,細胞中にデンプン粒をスケッチさせます。アミロプラストの大きさ,形,臍や生長線を正しく描けているかがポイントです。単粒のスケッチはほぼ問題ありませんが,複粒の場合は,切片を作った際にバラバラになってしまうため,はっきりと複粒が確認出来る場所を探す必要があります。単粒と複粒の違いは,芋を食べた時の食感の違いや糊化する時の融点の違いにつながる事から,身近な野菜であるジャガイモとサツマイモを用いています。この他,サトイモやバナナなどの貯蔵デンプンも観察出来る材料です。材料はスーパーマーケットや八百屋で入手出来るので,準備に苦労する事はありませんが,なるべく新鮮なものを購入しなければなりません。著者は,材料費をけちっておつとめ品となっていたサツマイモを用いたところ,芋にみずみずしさが全く無く,切片を作りにくい上にデンプンがとても見づらかったという苦い経験があります。

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