スリコギヅタ Caulerpa chemnitzia var. laetevirens
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年6月28日(2020年12月17日更新)
 
スリコギヅタ(擂粉木蔦)
Caulerpa chemnitzia var. laetevirens (Montagne) Fernández-García & Riosmena-Rodriguez in Norris et al. 2017: 87.
 
緑藻植物門(Phylum Chlorophyta),アオサ藻綱(Class Ulvophyceae),ハネモ目(Order Bryopsidales),サボテングサ亜目(Suborder Halimedineae),イワヅタ科(Family Caulerpaceae),イワヅタ属(Genus Caulerpa),イワヅタ亜属(Subgenus Caulerpa),イワヅタ節(Section Caulerpa
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:緑藻綱(Class Chlorophyceae),イワヅタ目(Order Caulerpales),イワヅタ科(Family Caulerpaceae),イワヅタ属(Genus Caulerpa)*Caulerpa racemosa var. laetevirensとして
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:緑藻綱(Class Chlorophyceae),イワヅタ目(Order Caulerpales),イワヅタ科(Family Caulerpaceae),イワヅタ属(Genus Caulerpa)*Caulerpa chemnitziaとして
 
Basionym
  Caulerpa laetevirens Montagne 1842: 13.
Homotypic synonym
  Chauvinia laetevirens (Montagne) Trevisan 1849: 138.
  Caulerpa racemosa var. laetevirens (Montagne) Weber Bosse 1898: 366, 367. Pl. 33, Figs 16, 20; 岡村 1902: 184; 1913: 68. Pl. 119, Figs 2-5; 1936: 102. Fig. 51; Enomoto & Ohba 1987: 169-175. Figs 1-25; Ohba & Enomoto 1987: 179. Figs 1, 3, 4, 6, 7; 榎本・大葉 1994: 274-275. Fig. 135; 吉田 1998: 101.
 
Type locality: Toud Island (Warrior Islet), Torres Strait, Australia
Holotype specimen: PC MA 10323 (Muséum National d'Histoire Naturelle, Paris, France)
 
分類に関するメモ:スリコギヅタはCaulerpa laetevirensとして記載された後,C. racemosaの変種C. racemosa var. laetevirensとされてきました。Belton et al. (2014) は,世界各地から蒐集したサンプルの遺伝子解析を行い,スリコギヅタ(C. racemosa var. laetevirens),エツキヅタ(C. racemosa var. chemnitzia),タカツキヅタ(C. racemosa var. peltataなどは種あるいは変種として区別することが出来ないとして,これらの種をC. chemnitziaにまとめました。Fernández-García et al. (2016) はスリコギヅタをC. chemnitziaのecad(エケード)C. chemnitzia ecad laetevirensとしました。Norris et al. (2017) は,ecadの表記を認めず,スリコギヅタをC. chemnitziaの変種C. chemnitzia var. laetevirensとしました。
 
スリコギヅタ Caulerpa chemnitzia var. laetevirens
 
スリコギヅタ Caulerpa chemnitzia var. laetevirens
撮影地:台湾 屏東縣 恆春鎮 萬里桐;撮影日:2012年3月18日;撮影者:鈴木雅大
 
スリコギヅタ Caulerpa chemnitzia var. laetevirens
押し葉標本(採集地:台湾 基隆市 潮境;採集日:2009年5月11日;採集者:鈴木雅大)
 
スリコギヅタ Caulerpa chemnitzia var. laetevirens
押し葉標本(採集地:東京都 八丈町 三根 底土海岸;採集日:2004年5月4日;採集者:鈴木雅大)
 
スリコギヅタ,タカツキヅタ,エツキヅタは,Caulerpa chemnitziaにまとめられた。
 
スリコギヅタ/タカツキヅタ類(Caulerpa racemosa-peltata complex)は生育環境によって直立枝の形が大きく変わることが知られており,Enomoto & Ohba (1987) は,スリコギヅタが培養条件によってタカツキヅタのような形態や両者の中間的あるいは移行的な形態を示すことを実験によって確かめており,両者は生育環境によって生じる同種のエケード(ecad)であると述べています。エケードは同種内で形態が異なるものに対して用いる用語です。Belton et al. (2014) は,世界各地から蒐集したサンプルの遺伝子解析を行い,スリコギヅタ(C. racemosa var. laetevirens),エツキヅタ(C. racemosa var. chemnitzia),タカツキヅタ(C. racemosa var. peltata)などは種あるいは変種として区別することが出来ないとして,これらの種をC. chemnitziaにまとめました。Belton et al. (2014) などの結果を受け,日本産海藻目録(2015年改訂版)では,スリコギヅタ,タカツキヅタ,エツキヅタをC. chemnitziaにまとめる見解が採用されました。スリコギヅタとタカツキヅタは直立枝の形が全く異なっており,この3種が同種とされたことには少なからず驚きました。とはいえ,Enomoto & Ohba (1987)の培養実験,これまで行われた遺伝子解析の結果をみると,3種を同種とするのは妥当と考えられます。
 
エケード(ecad)か変種(varietas)か?
 
スリコギヅタとタカツキヅタCaulerpa chemnitziaとする分類学的結論は出ているものの,C. chemnitziaにまとめられた"スリコギヅタ"と"タカツキヅタ"をどう扱ったら良いか,C. chemnitziaの和名をどうするかが問題として残されました。日本産海藻目録(2015年改訂版)ではC. chemnitziaの和名を決めることが出来ず,和名を付けないまま掲載されました。C. chemnitziaの学名に直接対応させるならばエツキヅタと呼ぶのが適当かもしれませんが,スリコギヅタとタカツキヅタは両者とも良く浸透した名前であるため,これらの和名を使わないのもかえって混乱を招く可能性があったからです。「スリコギヅタ型」の個体,「タカツキヅタ型」の個体は,見た目ではっきりと区別されるため,これらの個体を呼び分ける方が便利だという意見は少なくありませんでした。Fernández-García et al. (2016) はスリコギヅタ/タカツキヅタ類(C. racemosa-peltata complex)について,種はC. chemnitziaとしながら,C. chemnitzia ecad laetevirensC. chemnitzia ecad peltataという表記で2つのタイプを掲載しました。「ecad ~~~」という表記は,Enomoto & Ohba (1987)以降の文献で散見し,近年の図鑑(Ohba et al. 2007, Coppejans et al. 2017など)でもこの表記が用いられています。C. chemnitziaのエケードであることを示しつつ,両者を区別して掲載するというなかなかうまい表記方法だと思いました。この掲載方法ならば,スリコギヅタはC. chemnitzia ecad laetevirens,タカツキヅタはC. chemnitzia ecad peltataとして,それぞれの和名を生かすことが出来ます。種としてのC. chemnitziaの和名には学名との対応としてエツキヅタを充てるのが適当でしょう。この掲載方法は,スリコギヅタ/タカツキヅタ類のように形態的特徴と遺伝子解析とが一致せず,種あるいは種内分類群の境界を定められないものを区別するには適当かもしれません・・・と,思っていました。ところが,表記の問題が解決したと思ったとたん,エケードを用いるのは妥当ではないとして,スリコギヅタとタカツキヅタをC. chemnitziaの変種(varietas)として扱うという論文が発表されました。Norris et al. (2017) は,Fernández-García et al. (2016)の研究と見解に敬意を示しつつ,国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN)に従った方法で名前を付けた方が良いと述べ,スリコギヅタをC. chemnitzia var. laetevirens,タカツキヅタをC. chemnitzia var. peltataとしました。C. chemnitzia var. laetevirens の学名は,Norris et al. (2017)の中で新組合せとして発表されたもので,著者名にFernández-Garcíaの名前があることからFernández-García et al. (2016)の著者らも納得しているものと思われます。表記が二転三転するのは褒められたものではないと思いますが,種内分類群の名前として用いることは悪いことではないでしょう。ただし,スリコギヅタ,タカツキヅタは遺伝的構造が不明瞭で,種内分類群とした場合でも境界は分かりません。Norris et al. (2017) は地理的分布,生態,細胞構造も踏まえて,変種の階級が妥当と述べていますが,スリコギヅタ/タカツキヅタ類は世界各地の亜熱帯~熱帯域で見られるため,地理的構造は認められないと思いますし,「スリコギヅタ型」あるいは「タカツキヅタ型」の個体が生じる生態学的意義,細胞学的意義も不明瞭です。種内分類群の階級としては変種より下の品種(forma)が妥当ではないでしょうか。もっとも,変種,品種の基準はあいまいで,分類群の歴史的背景などによっても扱いが異なります。加えて,スリコギヅタとタカツキヅタを区別するのは利便上の問題であり,サイエンスとしての分類学とは異なる問題です。表記や呼び方の問題が解決するならばエケードでも変種でも構わないでしょう。本サイトではNorris et al. (2017) に従い,スリコギヅタを変種C. chemnitzia var. laetevirensとしました。スリコギヅタ/タカツキヅタ類の扱いや表記は,これまで何度も変わっており,本サイトでも3, 4回は更新していると思います。いい加減,安定して欲しいと願っています。
 
スリコギヅタ Caulerpa chemnitzia var. laetevirens
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 筑波大学下田臨海実験センター 屋外流水槽;採集日:2005年5月13日;採集者:鈴木雅大)
 
この標本は野外で採集したものではなく,筑波大学下田臨海実験センターの屋外流水槽に生えていたものです。2005年に採集した時はクロキヅタ(Caulerpa scalpelliformisとともに水槽の水路に繁茂していましたが,現在は水槽自体が無くなってしまい,完全に絶えてしまいました。クロキヅタは隠岐の島で採集されたものを水槽に移植したものですが,スリコギヅタは自然に出てきたものだそうで,水槽の場所によってスリコギヅタ型のものやタカツキヅタ型のものが見られたそうです(注)。

注.A.K.博士から知らせて頂きました(2020年12月17日)。

 
参考文献
 
Belton, G.S., Prud'Homme van Reine, W.F., Huisman, J.M., Draisma, S.G.A. and Gurgel, C.F.D. 2014. Resolving phenotypic plasticity and species designation in the morphologically challenging Caulerpa racemosa-peltata complex (Caulerpaceae, Chlorophyta). Journal of Phycology 50: 32-54.
 
Coppejans, E., Prathep, A., Lewmanomont, K., Hayashizaki, K., De Clerck, O., Leliaert, F. and Terada, R. 2017. Seaweeds and seagrasses of the southern Andaman sea coast of Thailand. 244 pp. Kagoshima University Museum, Kagoshima.
 
榎本幸人・大葉英雄 1994. スリコギヅタ.In: 堀 輝三(編) 藻類の生活史集成 第1巻 緑色藻類. pp. 274-275. 内田老鶴圃, 東京.
 
Enomoto, S. and Ohba, H. 1987. Culture studies on Caulerpa (Caulerpales, Chlorophyceae) II. Morphological variation of C. racemosa var. laetevirens under various culture conditions. Japanese Journal of Phycology 35: 178-188.
 
Fernández-García, C., Wysor, B., Riosmena-Rodríguez, R., Peña-Salamanca, E. and Verbruggen, H. 2016. DNA-assisted identification of Caulerpa (Caulerpaceae, Chlorophyta) reduces species richness estimates for the Eastern Tropical Pacific. Phytotaxa 252: 185-204.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2018. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 23 September 2018.
 
Montagne, C. 1842. Prodromus generum specierumque phycearum novarum. 16 pp. apud Gide, editorem, Paris.
 
Norris, J.N., Aguilar-Rosas, L.E. and Pedroche, F.F. 2017. Conspectus of the Benthic Marine Algae of the Gulf of California: Rhodophyta, Phaephyceae, and Chlorophyta. Smithsonian Contributions to Botany. 106: 1-125.
 
Ohba, H. and Enomoto, S. 1987. Culture studies on Caulerpa (Caulerpales, Chlorophyceae). II. Morphological variation of C. racemosa var. leatevirens under various culture conditions. Japanese Journal of Phycology 35: 178-188.
 
Ohba, H., Victor, S., Golbuu, Y and Yukihara, H. 2007. Tropical marine plants of Palau. 153 pp. Palau International Coral Reef Center; Japan International Cooperation Agency, Koror.
 
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙. 276 pp. 敬業社,東京.
 
岡村金太郎 1913. 日本藻類圖譜 第3巻 第4集. 東京.*自費出版
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌. 964 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 
Trevisan de Saint-Léon, V.B.A. 1849. Caulerpearum sciagraphia. Linnaea 22: 129-144.
 
Weber-van Bosse, A. 1898. Monographie des Caulerpes. Annales du Jardin Botanique de Buitenzorg 15: 243-401, Pls. XX-XXXIV.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌. 1222 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189.
 

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