真核生物ドメイン Domain Eucarya
2010年6月26日作成(2019年6月1日更新)
 

 真核細胞,すなわち膜に包まれた核と細胞小器官を持つ生き物です。真核生物は古細菌に近縁な祖先生物が真正細菌を細胞内共生して誕生したキメラ生物(融合生物)で,例えば葉緑体は真正細菌のシアノバクテリア様の祖先生物(色素体/葉緑体の成立と多様性),ミトコンドリアは真正細菌のαプロテオバクテリア様の祖先生物が細胞内共生したものです。他の2つのドメインと比べて高度に特殊化した細胞構造をしており,また体の大型化にも成功しました。私たちが自然景観の中で目にする生き物のほとんどは真核生物です。 

 本サイトではWoese et al. (1990) に従い,真核生物を「真核生物ドメイン Domain Eucarya」としました。ドメインは分類階級ではありません。Cavarier-Smith (2004)は真核生物ドメインに対して真核生物園又は真核生物帝(Empire Eukaryota Chatton 1925)という分類名を提唱しています。 また,Ruggiero et al. (2015) は,生物全体の高次分類体系を整理し,「真核生物ドメイン」を「真核生物上界 Superkingdom Eukaryota」としています。

 真核生物をどのように分類するか。大系統の議論のハイライトです。グループ間の進化・系統関係は現在も議論が紛糾しており,決着を見ておらず,未だ所属不明の真核生物も残されています。Ruggiero et al. (2015) は,界,亜界,下界などの分類階級を用いて真核生物を整理していますが,彼らの分類体系には問題のある分類群や系統関係を無視している箇所が幾つかあり,そのまま用いて良いか今後の議論と検討が必要だと思います。本サイトでは,Adl et al. (2012, 2019) を参考にしました。

 
この図はAdl et al. (2019)を参考に作図したものです。前回の更新ではAdl et al. (2012)の図を改変する形で作図しましたが,Adl et al. (2019)では概略図(Fig.1)のみで詳細な系統樹はなかったため,前回の図で用いた代表的なグループについて,Adl et al. (2019)のFig. 1を参考に一から作図しました。分岐順はAdl et al. (2019)の階層を参考にしましたが,枝の長さは作図上の都合によるもので,分岐年代などの特別な理由はありません。系統的位置が定まらないグループは「?」で示し,色素体を持つ種を含むグループは色素体の色別にカラーで示しました。CRuMsなどの所属不明な真核生物は図に含めませんでした。クリプト藻類の位置について,Adl et al. (2019)ではアーケプラスチダ(Adl et al. 2019のFig. 1ではChloroplastida)の左側にありますが,暫定的にSARに含む便宜上,アーケプラスチダの右側に変更しました。
 
この図は,上図を元に各グループを系統樹として描いたものです。 前回の更新では,スーパーグループ間の関係が不明瞭だったので,6つのスーパーグループを並列としましたが,Adl et al. (2012, 2019) に倣い,アメーボゾアとオピストコンタを単系統群とし,アーケプラスチダとSARを単系統群としました。エクスカバータは単系統群にならず,また真核生物の中でも所属不明となっています。
 
ドメイン アモルフェア Domain Amorphea
Adl et al. (2012, 2019)は,アメーボゾアとオピストコンタをAmorpheaというドメインでまとめました。ドメインは分類階級ではなく便宜上の名称です。アメーボゾアとオピストコンタを合わせたものがユニコンタ(Unikonta)と呼ばれたことがありますが,Amorpheaとの関係は分かりませんでした。
 
スーパーグループ アメーボゾア Supergroup Amoebozoa
アメーバ,細胞性粘菌,変形菌などを含みます。アメーバ状生物の内,ピリミジン合成遺伝子の融合遺伝子を持つグループです。
 
スーパーグループ オピストコンタ Supergroup Opisthokonta
動物,菌類(キノコ,カビ),襟鞭毛虫類を含みます。一本の鞭毛を持ち,鞭毛とは反対の方向に泳ぐという特徴でまとめられるグループで,系統的にも良くまとまっています。和名として「後方鞭毛生物」が用いられることもあります。
 
ドメイン ディアフォレチケス Domain Diaphoretickes
Adl et al. (2012, 2019)は,アーケプラスチダとSARをDiaphoretickesというドメインでまとめました。ドメインは分類階級ではなく便宜上の名称です。アーケプラスチダとSARをまとめたグループは,Nozaki et al. (2003, Nozaki 2005)が提唱した「”超”植物界(“Super” Plant Kingdom)」に相当すると思います。
 
スーパーグループ アーケプラスチダ Supergroup Archeplastida
緑色植物/緑色藻類,紅藻類,灰色藻類を含みます。一次植物のみから構成されることから,最初の植物または真の植物という意味でアーケプラスチダ(Archaeplastida)と呼んでいます。五界説などにおける植物界(Kingdom Plantae)とほぼ同義であるため,従来通りプランテ(Plantae)と呼ばれることもあります。
 
S A R
黄色生物,卵菌類,ラビリンチュラ類,渦鞭毛藻類,繊毛虫,マラリア病原虫,クロメラ類,クロララクニオン藻類,ポーリネラ,ケルコモナス類,ネコブカビ類,有孔虫,放散虫,ハプト藻類,有中心粒太陽虫,クリプト藻類などを含みます。これまで別々のスーパーグループとして扱われていたストラメノパイル,アルベオラータ,リザリアを一つのグループとしてまとめたものです。ストラメノパイル(Stramenopiles),アルベオラータ(Alveolata),リザリア(Rhizaria)の頭文字をとって「SAR」と呼んでいます。ストラメノパイルとアルベオラータを合わせてクロムアルベオラータ(Chromalveolata)と呼ばれたこともあります。ハプチスタ(ハプト藻類,有中心粒太陽虫など)とクリプチスタ(クリプト藻類)の系統的位置は未だ不確定ですが,本サイトではAdl et al. (2019)に従い,暫定的ですがSARに含めました。
 
所属不明の真核生物 Incertae sedis
 
スーパーグループ エクスカバータ Supergroup Excavata
ユーグレナ(ミドリムシ),トリパノゾーマ,ランブル鞭毛虫類などを含みます。エクスカベート(Excavate)と呼ばれる事もあります。エクスカバータは単系統群にはならず,真核生物の中で未だ所属が決まらないグループです。本サイトでは便宜上,広義のエクスカバータとしてまとめました。
 
CRuMs
 
       
アンキロモナス目        
Ancyromonas sp.        
撮影:大田修平;ノルウェー オスロ フィヨルド        
 
スーパーグループと五界説およびCavalier-Smith の六界説との関係(真核生物のみ表記)
 
生物全体の分類・系統を学ぶ上で欠かせないのが五界説です。Whittaker (1969),Margulis (1975), Whittaker & Margulis (1978) などが良く知られています。現在ではほぼ否定された仮説であるものの,その分かり易さゆえ,現在でも高等学校の生物の教科書等で広く紹介されてきました。近年は,3ドメインやスーパーグループが教科書や資料集に登場するようになってきたようです。著者の一人,鈴木は大学で生物の系統関係を教えることがありますが,現在のような百花繚乱かつ混乱の多い分類・系統関係と比べて,これほど優秀な仮説はないと思っています。五界説を払しょくするのは容易ではないと思いますが,少なくとも生物の世界には「動物」でも「植物」でもない生物がたくさん存在するということを教えていきたいと思っています。
 

スーパーグループ
Supergroup
Adl et al. (2012)

五界説
Five Kingdom System
Whittaker (1969)

六界説
Six Kingdom System
Cavalier-Smith (2004, 2010)

アメーボゾア

原生動物界

原生動物界

オピストコンタ

動物界,菌界,原生動物界*

動物界,菌界,原生動物界*

アーケプラスチダ(プランテ)

植物界

植物界

SAR

原生動物界

クロミスタ界

エクスカバータ

原生動物界

原生動物界

* 襟鞭毛虫類は,五界説・六界説では原生動物界に含められていますが,本サイトでは動物界のページに含めて紹介しています。
 
 
Adl et al. (2019) に基づく真核生物の図(前回の更新(Adl et al. 2012)で使用した図はこちら   ホイタッカーの五界説 (Whittaker 1969 を基に作図)
 
 左の図の中から,「動物」,「菌類」,「陸上植物」を探してみてください。これらはホイタッカーの五界説における植物界(緑),菌界(黄),動物界(青)に相当します。真核生物全体を眺めてみれば,大部分の分類群がホイタッカーの五界説における「原生生物界」に相当する事が分かります。大系統を学ぶ上で藻類と原生生物を学ばねばならない事が良く分かると思います。
 
一滴の水の中に見られる生物多様性
 

この2枚の写真は,大田がノルウェーのオスロのフィヨルドでプランクトンネットを引いた時のものです。プランクトンネットサンプルのなかに驚くべき多様性が秘められています。→一滴の水の中に見られる生物多様性

 
参考文献
 
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