ムラサキウニの放精・放卵と人工受精まで |
執筆:鈴木雅大 作成日:2022年6月18日 |
ムラサキウニ(Heliocidaris crassispina)を放精,放卵させ,人工受精させるまでの手順を紹介します。 |
漁協から購入したムラサキウニ |
ムラサキウニは漁協から購入しました。 |
ムラサキウニの裏面と口器(矢印) |
ウニの棘を切る |
ムラサキウニはバフンウニ(Hemicentrotus pulcherrimus)と違い,棘が長くて扱いづらいので,最初に棘をハサミで切り落とします(注)。ムラサキウニの棘は硬いので,強く掴むと刺さることがあるため,軍手かグローブをはめます。また,切り落とした棘が飛び散ると,目に当たったり,破片で怪我をすることがあるので,著者は厚手のビニール袋の中で作業しています。保護メガネをしても構いませんが,ビニール袋の方が棘の破片などの処理が楽なのでビニール袋を使っています。 注.ウニを乗せる腰高シャーレなどの大きさ次第ですが,棘を切らずに実験を行うことも可能です。 |
棘を切ったムラサキウニ |
水道水で軽く洗う |
ウニの体表に精子などが付着していることがあるので,水道水で軽く洗います。 |
口器にハサミを入れる |
ピンセットで口器を取り除く |
ハサミとピンセットを使い,口器を取り除きます。 |
腰高シャーレに乗せる |
口器を取り除いた側を上向きにして,濾過海水で満たした腰高シャーレ又はビーカーの上に乗せます。 |
0.5M KClを数滴垂らす |
KCl(塩化カリウム)のカリウムイオンにより,放精または放卵が起こります。 |
放精 |
精子は白い糸状の状態で放出されます。 |
放精が始まった個体をペトリ皿に移す |
放精が確認された個体(雄)は,ペトリ皿に移します。ここでは腰高シャーレの蓋を用いています。 |
ペトリ皿に放精した精子 |
精子を50mlの濾過海水で薄める |
ペトリ皿に移した精子を50mlの濾過海水で薄めます。 |
放卵 |
卵はオレンジ色で,糸を引くように速く落ちます。 |
放出した卵の上澄みを捨てる |
放出した卵の上澄みを捨て,濾過海水で洗った後,卵を大型の腰高シャーレなどに移します。 |
大型の腰高シャーレに移した卵 |
卵を移した腰高シャーレに濾過海水で薄めた精子を加え,人工受精を行います。 |
人工受精後 |
人工受精後は,エアレーションを行い,時間ごとに各ステージを顕微鏡で観察します。→ 「ムラサキウニの発生過程の観察(プルテウス幼生まで)」
*エアレーションを始めたら,水温及び室温が25℃前後になるようにエアコン等を調節した方が良いと思います。著者が担当した実習ではありませんが,7月末に実験を行った際,エアコンをつけ忘れ,翌日全滅していたということがありました。なお,一度水を替えればエアレーションは不要という意見もあり,実際に試してみたところ,エアコンで25℃に調節した部屋に置いておいた受精卵は,翌日プリズム幼生になって元気に泳いでいました。 |
ムラサキウニの発生過程に要する時間 *出典となる文献を探しています。 |
温度 | 2細胞 | 8細胞 | 桑実胚 | 胞胚 | 原腸胚 | プリズム幼生 | プルテウス幼生 |
25℃ | 1時間 | 2時間 | 4時間 | 7時間 | 10-12時間 | 15時間 | 30時間 |
受精後,受精卵の発生が進んでいきます。発生過程に要する時間を参考に各ステージを観察します。プルテウス幼生まで観察するには2日かかりますが,実習時間等の兼ね合いから,前日夜にあらかじめ受精させておくなどして,1日あるいは半日の実習で全ステージを観察することもあります。 |
放精・放卵の失敗例 |
「ウニの実験はほとんど失敗がない」と言われてます。実際その通りで,著者は約20年間で数十回行っていますが,失敗例は2件のみで,いずれも人為的なミスによるものでした。1件目は上述したエアコンのつけ忘れで,夏場に水温が上がり過ぎて全滅しました。
2件目は,漁協から購入したウニの保管に失敗し,実験所に到着した時点でウニが全て死んでいたという事例です。高校から依頼された実習で,月曜に実験を予定していたので,金曜にウニを購入し,土日に高校の生物室の水槽に入れていたそうなのですが,到着した箱を開けると猛烈な腐敗臭がしていました。やるだけやってみたいとのことで,腐臭漂う実験室で放精・放卵を試みましたが,うまくいくはずもありませんでした。なお,どう考えても高校側の過失なのですが,死んだウニの購入費を生徒達に請求していて驚きました。さすがに苦言を呈したところ,翌年からは高校の実習費で購入することにしたそうです。実験当日にウニを調達するのが難しい場合は,冷蔵便で送ってもらうか,前日に購入したウニを海水で湿らせた新聞紙で包み,保冷剤を入れたクーラーボックスに入れておくと一晩位はもつと思います。 他,失敗ではないのですが,購入したウニの性比が偏っていて,数十個体中,オスが1個体しかいなかったということことがありました。たまたまなのか,季節などの要因かもしれないのですが,かなり焦ったことを覚えています。 |
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