ムラサキウニの発生過程の観察(プルテウス幼生まで) |
執筆:鈴木雅大 作成日:2022年6月14日 |
ムラサキウニを放精・放卵させ,人工受精を行ったら,精子,未受精卵,受精卵からプルテウス幼生に至るまでを顕微鏡で観察します。 |
精子 |
精子は鞭毛を含めても卵の30-40%程度の大きさしかありません。1個の精子の姿を捉えるのは容易ではありませんが,鞭毛を持った細胞が泳ぎ回っている様子は観察出来ると思います。 |
未受精卵 |
放卵直後の卵です。受精前は卵の外側に受精膜がありません。 |
受精卵 |
受精卵の周りに集まった精子 |
受精が起こると受精卵の外側に受精膜が発達し,多精受精を阻みます。これを表層反応といいます。 |
2細胞期(受精後約1時間後) |
縦に卵割(縦割)が起こり,大きさの等しい2個の割球が出来ます。 |
4細胞期 |
2回目の縦割が起こり,大きさの等しい4個の割球が出来ます。写真は動物極側から見たものです。 |
8~16細胞期(受精後約2時間後) |
8細胞期になると,赤道面に沿った横の卵割(横割)が起こり,大きさの等しい8個の割球が出来ます。16細胞期になると,動物極側では縦割,植物極側では横割が起こり,大きさの異なる16個の割球が出来ます。写真は16細胞期もしくは8細胞期から16細胞期に移る途中と考えられますが,割球の大きさが異なっているのが分かると思います。 |
桑実胚期(受精後約4時間後) |
割球が小さくなり,内部に腔所(卵割腔)が出来ます。クワ(桑)の実の形に似ることから「桑実胚」と呼ばれています。 |
胞胚期(受精後約7時間後) |
卵割腔が胞胚腔となります。繊毛を生やし回転をはじめ,受精膜を破ってふ化します。 |
初期の原腸胚 *1990年代?に作られたプレパラート。固定・染色方法は分かりません。 |
原腸胚期(受精後約10-12時間後) |
植物極側の割球が内側に陥入します。陥入する場所を原口(矢印,後の肛門),内部を原腸と呼びます。 |
プリズム幼生(受精後約15時間後) |
原腸胚からプリズム幼生に至るステージ*1990年代?に作られたプレパラート。固定・染色方法は分かりません。 |
原腸の先端が体壁に達し,口が開きます。 |
プルテウス幼生(受精後約30時間後) |
口が形成された後,原腸は食道,胃,腸などになります。腕は4本から6本,8本となります。 |
プルテウス幼生以降の発生 |
プルテウス幼生になると,珪藻類などを食べ始めます。8腕プルテウス幼生の体内にウニ原基が作られ,ウニ原基の発達に伴い,8腕プルテウス幼生は退化していきます。ウニ原基から棘と管足が発達し,稚ウニへと変態します。稚ウニへの変態は,紅藻類のサンゴモの仲間や緑藻(アオサ藻)類のアワビモの仲間(Ulvella spp.)が出すジブロモメタンによって誘導されることが知られています。 |
余談 |
プルテウス幼生以降も観察したいというのは,ウニの発生実験を行っている多くの方々が思っていることでしょう。2000年代始め頃だったと思うのですが,「マイ・ポケットウニ」という飼育法が話題となり,学生だった著者も師匠と共に稚ウニを育てたことがあります。海藻を扱っているのでサンゴモ類は容易に手に入るため,ピリヒバ(Corallina pilulifera)を砕き,プルテウス幼生を入れた瓶に加えたりしていました。しかし,餌の調達と人工海水の調達・交換が面倒になり,結局一度切りで止めてしまいました…。
*現在,「マイ・ポケットウニ」又は「マイ・ウニ」はウニのポケット飼育法として広く知られ,各地で実践されているそうです(川口 2001,小川 2017, 2020) |
参考文献 |
小川博久 2017. ウニの受精から成体まで-生命を実感するマイウニ飼育の実践.遺伝 71: 360-369. |
小川博久 2020. マイ・ウニ飼育から海を学び、考える -ウニの受精から放流までの学習活動を通して.学術の動向 25: 94-97. |
川口 実 2001. バフンウニの受精・発生からプルテウスのポケット飼育へ.サイエンスネット 12: 11-13. |
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© 2022 Masahiro Suzuki |