ホソメコンブ Saccharina japonica var. religiosa |
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作成者:鈴木雅大 作成日:2011年2月26日(2020年7月19日更新) |
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ホソメコンブ(細め昆布) |
Saccharina japonica var. religiosa (Miyabe) Yotsukura, Kawashima, T.Kawai, T.Abe & Druehl 2008: 174. |
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不等毛植物門(Phylum Heterokontophyta),クリシスタ(Chrysista),褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ亜綱(Subclass Fucophycidae),コンブ目(Order Laminariales),ネコアシコンブ科(Family Arthrothamnaceae),コンブ属(Genus Saccharina) |
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*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),コンブ目(Order Laminariales),コンブ科(Family Laminariaceae),コンブ属(Genus Laminaria)*Laminaria religiosaとして |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),コンブ目(Order Laminariales),コンブ科(Family Laminariaceae),コンブ属(Genus Saccharina) |
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掲載情報 |
中庭 2020: 62. |
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Basionym |
Laminaria religiosa Miyabe in Okamura 1902: 131; 1936: 250; 宮部 1902: 32. Pl. 3; Tokida et al. 1980: 325. Figs 14, 15; 川嶋 1989: 33. Pl. 4, Fig. 5; 吉田 1998: 354. |
Homotypic synonym |
Laminaria japonica var. religiosa (Miyabe) Tokida & Yabu in Yabu 1965: 67. nom. inval. [非正式名] |
Saccharina religiosa (Miyabe) C.E.Lane, C.Mayes, Druehl & G.W.Saunders 2006: 509. |
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Type locality: 北海道 増毛 |
Lectotype specimen: SAPA (北海道大学 農学部) |
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茨城県版レッドデータブック2020年版:絶滅危惧II類 |
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分類に関するメモ:ホソメコンブは,独立の種(Saccharina religiosa又はLaminaria religiosa)として扱われてきましたが,Yotsukura et al. (2008)はホソメコンブをマコンブ(Saccharina japonica var. japonica)の変種としました。 |
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押し葉標本(採集地:茨城県 日立市 川尻;採集日:2001年5月26日;採集者:鈴木雅大) |
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茨城県日立市川尻の漁港内に生育しているホソメコンブ(Saccharina japonica var. religiosa)です。後述する通り,三陸地域及びコンブ類の南限とされる茨城県日立市に生育する幅の狭いコンブを「ホソメコンブ」としているのですが,三陸地域のコンブ類を網羅的に調べた分類学的研究は少なく,ホソメコンブとして正しいのかどうか現在のところ良く分かりません。Yotsukura et al. (2016) によると,岩手県釜石のコンブ5個体は,AFLP法によるSTRUCTURE解析ではいずれもホソメコンブの傾向が見られますが,マイクロサテライトマーカーを用いた解析ではリシリコンブ(S. japonica var. ochotensis)の傾向を示すものが4個体見られました。少なくとも釜石にはリシリコンブと遺伝的交流のあるホソメコンブがある,あるいはその逆という解釈になるかと思います。マコンブならともかく,まさかリシリコンブが関係してくるとは思わなかったので驚きました。Yotsukura et al. (2008)でも触れられた通り,「マコンブ」,「ホソメコンブ」,「リシリコンブ」,「オニコンブ(S. japonica var. diabolica)」と呼ばれている各地域の個体群間で遺伝的交流があるのは明らかで,「種」としてはマコンブ(S. japonica)にまとめるのが妥当なのですが,変種のレベルでどのように区別したら良いか判断に困るところです。Yotsukura et al. (2016) では,マコンブ(S. japonica)にはある程度の地理的,遺伝的な傾向が認められたものの,遺伝的なクラスター分けと,変種との相関関係は不明瞭でした。このため分類学的に三陸地域の「マコンブ」,「ホソメコンブ」をどう整理したら良いか判断がつきません。著者個人の見解としては,北海道小樽市忍路で見たホソメコンブとは雰囲気が異なる印象を受けるのですが,本サイトでは従来通り,体の幅の広いものはマコンブ(ドテメ),幅の狭いものはホソメコンブとしています。カジメ類のように「変種」を遺伝的に区別することが出来れば良いのでしょうが,単純にcox1遺伝子やrbcL遺伝子の配列を決定するだけでは難しそうです。「変種」のレベルなので,そこまで分類にこだわっても仕方がないと言えばそうなのですが,どうしても気になってしまうのが分類学者の性というものでしょうか・・・。 |
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コンブの南限 |
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押し葉標本(採集地:茨城県 日立市 川尻港;採集日:2001年5月26日;採集者:鈴木雅大) |
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茨城県日立市は,日本沿岸に自生するコンブ属(Saccharina)の太平洋側における南限として知られています。「ホソメコンブ」と呼ばれてきたもので,種類はマコンブ(S. japonica),変種としてはホソメコンブ(S. japonica var. religiosa)に充てられています。著者が2001年に訪れた際は,港のスロープや岸壁に群生していました。 |
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三陸地域のミツイシコンブ? |
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撮影地:岩手県 下閉伊郡 山田町 田の浜荒神;撮影日:2014年8月30日;撮影者:鈴木雅大 |
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押し葉標本(採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 田の浜荒神;採集日:2004年7月1日;採集者:鈴木雅大) |
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三陸地域では幅の広いコンブを「マコンブ(ドテメ)」,幅の狭いコンブを「ホソメコンブ」と呼んでいますが,川嶋(1954)は長内(現 久慈市)でミツイシコンブ(Saccharina angustata)を報告しています。それ以降の文献ではマコンブ(S. japonica var. japonica)とホソメコンブ(S. japonica var. religiosa)のみが報じられていますが,「ミツイシコンブ」とラベルされた標本はチラホラ出てきます。著者が通っていた岩手県山田町において,船越半島の外海側に近い磯で採集した「ホソメコンブ」も形態的には「ミツイシコンブ」の方が近いかもしれません。東日本大震災において三陸地域からカナダ,アメリカ西海岸に流れ着いた津波漂流物を調べた研究では,幅が狭いマコンブを"S. japonica, angustata form" としており(Hansen et al. 2017),山田町の「ホソメコンブ」はまさに"S. japonica, angustata form" に相当します。ただし,Hansen et al. (2017) によるとS. japonicaと"S. japonica, angustata form" は遺伝的にかなり近い(nearly identical)ので,種レベルで異なるミツイシコンブではなく,マコンブの1形態と考えるのが妥当だと思います。Hansen et al. (2017) はあくまでも津波漂流物に着生していた個体を調べたもので,三陸地域のコンブ類に対して無条件に当てはめて良いものではありませんが,「ミツイシコンブ」の有無について大変参考になると思います。いずれにしても,三陸地域のコンブ類をどのように同定すればよいのか,何という変種に相当するのか,ミツイシコンブがあるかないかも含め,今後の検討を俟ちたいと思います。 |
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参考文献 |
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Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2020. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 19 July 2020. |
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Hansen, G.I., Hanyuda, T. and Kawai, H. 2017. Benthic marine algae on Japanese tsunami marine debris. - a morphological documentation of the species. Part 2. The brown algae. 61 pp. OSU Scholars Archive, Corvallis. http ://hdl.handle. 1957/61871. |
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川嶋昭二 1954. 岩手縣沿岸産海藻目録 I.緑藻類及び褐藻類.藻類 2: 61-66. |
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川嶋昭二 1989. 日本産コンブ類図鑑.206 pp. 北日本海洋センター,札幌. |
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Lane, C.E., Mayes, C., Druehl, L.D. and Saunders, G.W. 2006. A multi-gene molecular investigation of the kelp (Laminariales, Phaeophyceae) supports substantial taxonomic re-organization. Journal of Phycology 42: 493-512. |
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宮部金吾 1902. 北海道水産調査報告巻三 昆布採取業.216 pp. 40 pls. 北海道廳内務部水産課. |
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中庭正人 2020. ホソメコンブ.In: 茨城における絶滅のおそれのある野生生物 蘚苔類・藻類・地衣類・菌類編 2020年版(茨城県版レッドデータブック).p. 62. 茨城県民生活環境部自然環境課,水戸. |
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岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京. |
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岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京. |
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Tokida, J., Nakamura, Y. and Druehl, L.D. 1980. Typification of species of Laminaria (Phaeophyta, Laminariales) described by Miyabe and taxonomic notes on the genus in Japan. Phycologia 19: 317-328. |
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Yabu, H. 1965. Early development of several species of Laminariales in Hokkaido. Memoirs of the Faculty of Fisheries Hokkaido University 12: 1-72. |
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吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京. |
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吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
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Yotsukura, N., Kawashima, S., Kawai, T., Abe, T. and Dreuhl, L.D. 2008. A systematic re-examination of four Laminaria species: L. japonica, L. religiosa, L. ochotensis and L. diabolica. Journal of Japanese Botany 83: 165-176. |
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Yotsukura, N., Maeda, T., Abe, T., Nakaoka, M. and Kawai, T. 2016. Genetic differences among varieties of Saccharina japonica in northern Japan as determined by AFLP and SSR analyses. Journal of Applied Phycology 28: 3043-3055. |
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