カヤモノリ Scytosiphon lomentaria |
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年11月26日(2023年3月14日更新) |
カヤモノリ(萱藻海苔) |
Scytosiphon lomentaria (Lyngbye) Link 1833: 232. Pl. 28. nom. cons. |
不等毛植物門(Phylum Heterokontophyta),クリシスタ(Chrysista),褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ亜綱(Subclass Fucophycidae),シオミドロ目(Order Ectocarpales),カヤモノリ科(Family Scytosiphonaceae),カヤモノリ連(Tribe Scytosiphoneae),カヤモノリ属(Genus Scytosiphon) |
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),カヤモノリ目(Order Scytosiphonales),カヤモノリ科(Family Scytosiphonaceae),カヤモノリ属(Genus Scytosiphon) |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),カヤモノリ目(Order Scytosiphonales),カヤモノリ科(Family Scytosiphonaceae),カヤモノリ属(Genus Scytosiphon) |
掲載情報 |
岡村 1902: 118; 1908: 146. Pl. 30; 1936: 227. Fig. 121; 遠藤 1911: 261. Fig. 90; Taylor 1937: 168. Pl. 15, Fig. 2. Pl. 16, Fig. 3; 1960: 259; Noda 1969: 51. Pl. 4, no. 1; 1987: 177. Fig. 141; Abbott & Hollenberg 1975: 198. Fig. 162;Nakamura & Tatewaki 1975: 59-65. Figs 1-5. Pl. 1; 舘脇 1993: 54, 55. Fig. 27; Kogame 1998: 47-49, 51, 52. Figs 52-70; 吉田・小亀 1998: 314-315. Pl. 2-24, Figs A-D; 岩永 2018: 642-643; Hoshino et al. 2021: 422-425. Fig. 6.
注.Hoshino et al. (2021) 以外は,複数種を混同している可能性が高いと考えられます。 |
Basionym |
Chorda lomentaria Lyngbye 1819: 74. Pl. 18E. |
Homotypic synonym |
Scytosiphon filum var. lomentarius (Lyngbye) C.Agardh 1820: 162. |
Fucus lomentarius (Lyngbye) Sommerfelt 1826: 184. |
Heterotypic synonym |
Ulva simplicissima Clemente 1807: 320. nom. rej. [廃棄名] |
≡ Scytosiphon simplicissimus (Clemente) Cremades in Cremades & Perez-Cirera 1990: 492. |
この他複数の異名(シノニム)が知られています(Algaebase参照)。 |
Syntype localities: Faeroes and Bornholm, Denmark. |
Lectotype specimen: C herb. Lyngbye |
沖縄県版レッドデータブック第3版(2018):情報不足(DD) |
分類に関するメモ:Cremades & Perez-Cirera (1990) は,1807年に記載されたUlva simplicissimaを基礎異名とするScytosiphon simplicissimusがS. lomentariaに対する先行名であると主張しましたが,世界各地で広く用いられてきたS. lomentariaに対し,S. simplicissimusはほとんど用いられたことがないことから,Pedersen & Kristiansen (1994) はU. simplicissimaの廃棄を提案し,1999年にセントルイスで開催されたXVI International Botanical Congressにおいて認められました。
Hoshino et al. (2021)は,複数のクレードに分かれていたS. lomentariaの分類を整理し,日本でカヤモノリ(S. lomentaria)と呼ばれてきた種を,カヤモノリ(S. lomentaria),カクレカヤモノリ(S. arcanus),シバザキカヤモノリ(S. shibazakiorum),キタカヤモノリ(S. promiscuus),リュウキュウカヤモノリ(S. subtropicus),ナンカイカヤモノリ(S. tosaensis)の6種に分けました。 |
広義のカヤモノリ |
これまでカヤモノリ(S. lomentaria)と呼ばれてきた種は,複数種に分けられました。同定するには外形,体構造の詳細な観察及び遺伝子解析が必要です。本サイトで公開している「カヤモノリ」は,正確に同定したものではなく,従来「カヤモノリ」とされてきたものをまとめて掲載しているもので,カヤモノリ(S. lomentaria)及び複数種を混同していると考えられます。 |
撮影地:新潟県 佐渡市 三川 腰細城ヶ浜公園(佐渡島);撮影日:2017年4月25日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:兵庫県 淡路市 大磯(淡路島);撮影日:2017年3月29日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:愛媛県 松山市 高浜町 白石の鼻;撮影日:2016年4月9日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:北海道 函館市 住吉;撮影日:2012年4月7日;撮影者:鈴木雅大 |
体がくびれることが特徴のカヤモノリ類です。くびれが不十分でウスカヤモ(Planosiphon gracilis)との区別に悩むことがしばしばあるものの,基本的に同定には困らない種類・・・と思っていた時期が私にもありました。遺伝子解析によるとカヤモノリ(Scytosiphon lomentaria)は複数の種類を包含していると考えられるそうで,隠蔽種の数は1種類や2種類ではないそうです。日本藻類学会で学会発表を聴いた際は,「と言われてもなあ…。」と脱力してしまいました。
Hoshino et al. (2021)は,複数のクレードに分かれていたS. lomentariaの分類を整理し,日本でカヤモノリ(S. lomentaria)と呼ばれてきた種をカヤモノリ(S. lomentaria),カクレカヤモノリ(S. arcanus),シバザキカヤモノリ(S. shibazakiorum),キタカヤモノリ(S. promiscuus),リュウキュウカヤモノリ(S. subtropicus),ナンカイカヤモノリ(S. tosaensis)の6種に分けました。6種は外見が酷似しており,形態的特徴で同定するのは困難を極めると思われ,おそらく遺伝子解析によって同定した方が確実でしょう。生育する地域によって2, 3種位には絞れるようなので(注1),形態的特徴から同定を試みるとすると,採集地から種を絞った上で,Hoshino et al. (2021) が挙げた特徴を元に該当種を探すということになるかと思います。機会があれば遺伝子解析によって同定した上で,形態的特徴を観察してみたいと思っています(注2)。 注1.南西諸島に生育するものは,現在のところリュウキュウカヤモノリ(S. subtropicus)1種のみのようです。 注2. 2023年3月,淡路島で実施した臨海実習において,カヤモノリ類の分類を整理した研究者が参加されました。カヤモノリ類について,専門家に同定してもらえるものと期待したのですが,「隠蔽種なので分からない」とのことでした。記載した本人でも同定出来ない以上,形態的特徴を基に同定するのは極めて難しいものと思われます。 |
遺伝子解析によって確かめたカヤモノリ(Scytosiphon lomentaria) |
採集地:兵庫県 淡路市 岩屋 田ノ代海岸(淡路島);採集日:2017年2月25日;採集者:鈴木雅大 |
遺伝子解析により,カヤモノリ(Scytosiphon lomentaria)であることを確かめたサンプルです。体が良くくびれています。著者が遺伝子解析によって確かめることが出来たのは,今のところ淡路島岩屋のサンプルのみで,いずれもS. lomentariaでした。他の種が混ざっているかもしれないと思っていたので,いささか拍子抜けの結果ではありますが,学生実習で使用することもある材料なので,カヤモノリそのものであると確認出来たのは収穫でした。 |
体の横断面(採集地:兵庫県 淡路市 岩屋 田ノ代海岸(淡路島);採集日:2017年2月25日;採集者:鈴木雅大) |
体の表面に複子嚢を密生します。複子嚢がクチクラに覆われないため,複子嚢の間に隙間があり,切片を作ると複子嚢がすぐにバラバラになります。 |
三重県鳥羽市の「ケノリ」 |
乾燥風景(撮影地:三重県 鳥羽市;撮影日:2014年1月21日;撮影者:鈴木雅大) |
三重県鳥羽市では「ケノリ(毛海苔)」などの名で呼ばれ,乾燥したものを食用にします。 |
参考文献 |
Abbott, I.A. and Hollenberg, G.J. 1976. Marine algae of California. 827 pp. Stanford University Press, Stanford, California. |
Cremades, J. and Pérez-Cirera, J.L. 1990. Nuevas combinaciones de algas bentónicas marinas, como resultado del estudio del herbario de Simón de Rojas Clemente y Rubio (1777-1827). Anales del Jardin botánico de Madrid 47: 489-492. |
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 26 November 2011. |
Hoshino, M., Tanaka, A., Kamiya, M., Uwai, S., Hiraoka, M. and Kogame, K. 2020 '2021'. Systematics, distribution, and sexual compatibility of six Scytosiphon species (Scytosiphonaceae, Phaeophyceae) from Japan and the description of four new species. Journal of Phycology 57: 416-434. |
岩永洋志登 2018. カヤモノリ.In: 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 第3版(菌類編・植物編)-レッドデータおきなわ-.pp. 642-643. 沖縄県環境部自然保護課,沖縄. |
Kogame, K. 1998. A taxonomic study of Japanese Scytosiphon (Scytosiphonales, Phaeophyceae), including two new species. Phycological Research 46: 39-51. |
Link, H.F. 1833. Handbuch zur Erkennung der nutzbarsten und am häufigsten vorkommenden Gewächse. Dritter Theil. pp. i-xviii, 1-536. Haude & Spener, Berlin. |
Lyngbye, H.C. 1819. Tentamen hydrophytologiae danicae. 248 pp., 70 pls. typis Schultzianis, in commissis Librariae Gyldendaliae, Hafniae. |
Nakamura, Y. and Tatewaki, M. 1975. The life history of some species of the Scytosiphonales. Scientific Papers of the Institute of Algological Research, Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 6: 57-93. |
Noda, M. 1969. The species of Phaeophyta from Sado Island in the Japan Sea. Science Reports of Niigata University Series D (Biology) 6: 1-64. |
Noda, M. 1987. Marine algae of the Japan Sea. 557 pp. Kazama-shobo, Tokyo. |
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京. |
岡村金太郎 1908. 日本藻類圖譜 第1巻 第6集.東京.*自費出版 |
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌 964 pp. 内田老鶴圃,東京. |
Pedersen, P.M. and Kristiansen, A. 1994. (1111) Proposal to reject Ulva simplicissima Clemente, the basionym of Scytosiphon simplicissimus (Clemente) Cremades (Phaeophyceae). Taxon 43: 645. |
Roxas Clemente y Rubio, S. de 1807. Ensayo sobre las variedades de la vid comun. 324 pp. En la imprenta de Villalpando, Madrid. |
Sommerfelt, C. 1826. Supplementum Florae lapponicae quam edidit Dr. Georgius Wahlenberg auctore. 331 pp. typis Borgianis et Gröndahlianis, Christianiae. |
Taylor, W.R. 1937. Marine algae of the northeastern coast of North America. 427 pp. The University of Michigan Press, Ann Arbor. |
Taylor, W.R. 1960. Marine algae of the eastern tropical and subtropical coasts of the Americas. 870 pp. The University of Michigan Press, Ann Arbor. |
舘脇正和 1993. Scytosiphon lomentaria (Lyngbye) Link(カヤモノリ).In: 堀 輝三(編) 藻類の生活史集成 第2巻 褐藻・紅藻類. pp. 54, 55. 内田老鶴圃, 東京. |
遠藤吉三郎 1911. 海産植物学.748 pp. 博文館,東京. |
吉田忠生・小亀一弘 1998. 2.8 かやものり目 Scytosiphonales. In: 吉田忠生 著.新日本海藻誌.pp. 300-316. 内田老鶴圃,東京. |
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
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