ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum |
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年12月2日(2021年10月29日更新) |
ヤレウスバノリ(破れ薄葉海苔) |
Acrosorium flabellatum Yamada 1930: 31. Pl. 4, Fig. 3. |
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),カシワバコノハノリ亜科(Subfamily Phycodryoideae),カクレスジ連(Tribe Cryptopleureae),ハイウスバノリ属(Genus Acrosorium) |
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),ハイウスバノリ属(Genus Acrosorium) |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),ハイウスバノリ属(Genus Acrosorium) |
掲載情報 |
岡村 1936: 785; Noda 1987: 400-401; 三上 1988: 43. Figs 1-15; 吉田 1998: 959. Pl. 3-94, Fig. E; Nam & Kang 2012: 62-63. Figs 49, 50; 中庭 2020: 69; Kang et al. 2021: 3-6. Figs 3-6. |
Heterotypic synonyms |
カクレスジ Cryptopleura membranacea Yamada 1935: 28. Pl. 12, Fig. 1; 岡村 1936: 788; 三上 1976: 13. Figs 1-17; Noda 1981: 30-31. Fig. 5; 1987: 404. Fig. 298; 吉田 1998: 970-971. Pl. 3-98, Fig. H; Nam & Kang 2012: 76-78. Figs 62-64. |
ホソバノカクレスジ Cryptopleura hayamensis Yamada 1941: 200. Pl. 43, Fig. 2; 吉田 1998: 970. |
トガリウスバノリ Acrosorium okamurae Noda in Noda & Kitami 1971: 45. Fig. 12; 1987: 401. Fig. 295. "A. okamurai" |
その他の異名 |
カギウスバノリ Nitophyllum uncinatum auct. non (Turner) J. Agardh (1852: 654); 岡村 1902: 49; 1908: 121, 123. Pl. 26. |
カギウスバノリ Acrosorium uncinatum auct. non (Turner) Kylin (1924: 78. Fig, 61); 岡村 1936: 786. Fig. 379; 三上 1980: 113. Figs A, B; Noda 1987: 402. Fig. 297, No. 6. |
カギウスバノリ Acrosorium venulosum auct. non (Zanardini) Kylin (1924: 77. Fig. 60); 吉田 1998: 960. |
カギウスバノリ Acrosorium ciliolatum auct. non (Harvey) Kylin (1924: 78); Nam & Kang 2012: 58-61. Figs 46-48. |
Type locality: 千葉県 大原 |
Type specimen: SAP 12344(北海道大学大学院理学研究科植物標本庫) |
茨城県版レッドデータブック2020年版:準絶滅危惧 |
分類に関するメモ:Kang et al. (2021) は,カギウスバノリ(Acrosorium ciliolatum auct. non (Harvey) Kylin 1924),カクレスジ(Cryptopleura membranacea),ホソバノカクレスジ(C. hayamensis)をヤレウスバノリ(A. flabellatum)の異名(シノニム)としました。 |
採集地:千葉県 いすみ市 大原漁港 *エビ網に絡む;採集日:2019年8月2日;撮影者:鈴木雅大 |
体の中ほどから上部は急に細くなり,しばしば鉤状の枝(矢印)を形成します。 |
押し葉標本(採集地:千葉県 いすみ市 大原漁港 *エビ網に絡む;採集日:2019年8月2日;採集者:鈴木雅大) |
ヤレウスバノリのタイプ産地である千葉県大原で採集したもので,体の上部で幅が狭くなり,タイプ標本に良く似ています。関東地方周辺では,大原のヤレウスバノリを基準として種同定していました。 |
押し葉標本(採集地:神奈川県 鎌倉市 七里ヶ浜 *打上げ;採集日:2004年4月9日;採集者:鈴木雅大) |
神奈川県七里ヶ浜で採集したヤレウスバノリです。千葉県大原のヤレウスバノリのように,体の上部で枝が細くなります。 |
「カギウスバノリ」または「カクレスジ」と同定していたもの |
採集地:福岡県 福津市 津屋崎;採集日:2018年4月18日;採集者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:福岡県 福津市 津屋崎;採集日:2018年4月18日;採集者:鈴木雅大) |
福岡県津屋崎で採集したもので,枝が細いことから「カギウスバノリ(A. ciliolatum)」と同定していたのですが,遺伝子解析の結果,ヤレウスバノリであることが示唆されました。 |
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 沖ノ島;採集日:2002年4月19日;採集者:鈴木雅大) |
千葉県沖ノ島で採集した「カギウスバノリ(A. ciliolatum)」です。Kang et al. (2021) に従えば,ヤレウスバノリと考えられます。 |
採集地:兵庫県 淡路市 江井(淡路島);採集日:2019年3月14日;撮影者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:兵庫県 淡路市 江井(淡路島);採集日:2019年3月14日;採集者:鈴木雅大) |
兵庫県淡路島で「ヤレウスバノリ」と呼ばれているものです。関東地方のヤレウスバノリと違い,枝の先端付近で細くなることがないため,初めて採集した時は,別種ではないかと思ったのですが,遺伝子解析の結果,ヤレウスバノリとするのが妥当と判断しました。 |
撮影地:愛媛県 松山市 興居島;撮影日:2016年6月17日;撮影者:鈴木雅大 |
採集地:愛媛県 松山市 興居島;採集日:2016年6月17日;撮影者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:愛媛県 松山市 興居島;採集日:2016年6月17日;採集者:鈴木雅大) |
撮影地:新潟県 佐渡市 蚫;撮影日:2017年4月25日;撮影者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:新潟県 両津市 蚫(現 佐渡市 蚫);採集日:2003年2月25日;採集者:鈴木雅大) |
採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 浦の浜;採集日:2011年3月5日;撮影者:鈴木雅大 |
愛媛県興居島,新潟県佐渡島,岩手県山田町で採集したもので,著者はこれらを「カクレスジ(Cryptopleura membranacea)」と同定していました。rbcL遺伝子の配列を決定して比較したところ,興居島と佐渡島のサンプルのrbcL遺伝子の配列は,千葉県大原のヤレウスバノリと近似しており,少なくともカクレスジ属(Cryptopleura)ではありませんでした。これらのサンプルは枝の幅が上部と下部でほとんど変化がなく,著者が認識していたヤレウスバノリの形態とは大きく異なっており,遺伝子解析の結果を見て唖然としました。改めて各サンプルを比較してみると,佐渡島のサンプルは体の先端部で枝が細くならないものの,鉤状枝を持ち,ハイウスバノリ属(Acrosolium)の仲間と言われればそのように見えてきます。しかし,興居島のサンプルはゴワゴワとした手触りや雰囲気から,ハイウスバノリ属とはとても思えない形をしています。興居島のサンプルは佐渡島のサンプルとrbcL遺伝子の配列が100%一致し,cox1遺伝子も1bpしか差異がないことから,この2サンプルは同種として間違いないと思われ,それだけ形態変異の激しい種類と考えるのが妥当かもしれません。千葉県のヤレウスバノリと佐渡島・興居島の「カクレスジ」のrbcL遺伝子の配列は0.5%の差異があり,極めて近縁ではあるものの同種とするには若干差異が大きいかもしれません。もしcox1遺伝子である程度の差異があるならば,別種としても良いかもしれないとも考えていましたが,cox1遺伝子の差異は約1%で,現在のコノハノリ科の分類の傾向からみると,同種として扱うのが妥当と考えられます。
Kang et al. (2021) は,韓国と日本でカギウスバノリ(Acrosorium ciliolatum auct. non (Harvey) Kylin 1924),カクレスジ(Cryptopleura membranacea)と呼ばれていたサンプルの遺伝子解析を実施し,これらの種とホソバノカクレスジ(C. hayamensis)をヤレウスバノリ(A. flabellatum)の異名(シノニム)としました。カクレスジとホソバノカクレスジについては,両種の基準産地周辺で採集したサンプルあるいは基準標本の遺伝子解析が出来ていないため,同定及び分類学的検討に疑問の余地がないわけではありませんが,少なくとも各地で「カクレスジ」と同定されてきたサンプルをヤレウスバノリとすることに異論はありません。 |
参考文献 |
Agardh, J.G. 1852. Species genera et ordines algarum. pp. 577-720. C.W.K. Gleerup, Lundae. |
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 2 December 2011. |
Kang, J.C., Lin, S.-M., Miller, K.A. and Kim, M.S. 2021. Taxonomic revision of hook-forming Acrosorium (Delesseriaceae, Rhodophyta) from the Northwestern Pacific based on morphology and molecular data. Plants 10: 1-15. |
Kylin, H. 1924. Studien über die Delesseriaceen. Acta Universitatis Lundensis 20: 1-111. |
三上日出夫 1976. カクレスジ(紅藻,コノハノリ科)について.藻類 24: 13-19. |
三上日出夫 1988. ヤレウスバノリ(紅藻,コノハノリ科)について.藻類 36: 43-47. |
中庭正人 2020. ヤレウスバノリ.In: 茨城における絶滅のおそれのある野生生物 蘚苔類・藻類・地衣類・菌類編 2020年版(茨城県版レッドデータブック).p. 69. 茨城県民生活環境部自然環境課,水戸. |
Nam, K.W. and Kang, P.J. 2012. Algal flora of Korea. Volume 4, Number 7. Rhodophyta: Florideophyceae: Ceramiales: Delesseriaceae: 22 genera including Acrosorium. 129 pp. National Institute of Biological Resources, Ministry of Environment, Incheon. |
Noda, M. 1981. On some marine algae to be newly added to the marine flora of Tobishima Island (Yamagata Pref.) on the Japan Sea. Bulletin of the Niigata College of Pharmacy 1: 27-32. |
Noda, M. 1987. Seaweeds of the Japan Sea. 557 pp. Kazamashobo, Tokyo. |
Noda, M. and Kitami, T. 1971. Some species of marine algae from Echigo Province facing the Japan Sea. Scientific Reports Niigata University, Ser. D. (Biology) 8: 35-52. |
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京. |
岡村金太郎 1908. 日本藻類圖譜 第1巻 第6集.東京.*自費出版 |
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京. |
Yamada, Y. 1930. Notes on some Japanese algae, I. Journal of the Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 1: 27-36. |
Yamada, Y. 1935. Notes on some Japanese algae, VI. Scientific Papers of the Institute of Algological Research, Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 1: 27-35. |
Yamada, Y. 1941. Notes on some Japanese algae, IX. Scientific Papers of the Institute of Algological Research, Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 2: 195-215. |
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京. |
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
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