ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年12月2日(2019年8月31日更新)
 
ヤレウスバノリ(破れ薄葉海苔)
Acrosorium flabellatum Yamada 1930: 31. Pl. 4, Fig. 3.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),カシワバコノハノリ亜科(Subfamily Phycodryoideae),カクレスジ連(Tribe Cryptopleureae),ハイウスバノリ属(Genus Acrosorium
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),ハイウスバノリ属(Genus Acrosorium
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),ハイウスバノリ属(Genus Acrosorium
 
掲載情報
岡村 1936: 785; 三上 1988: 43. Figs 1-15; 吉田 1998: 959. Pl. 3-94, Fig. E.
 
Heterotypic synonym
  トガリウスバノリ Acrosorium okamurae Noda in Noda & Kitami 1971: 45. Fig. 12. "A. okamurai"
その他の異名
  Nitophyllum uncinatum auct. non (Turner) J. Agardh (1852); 岡村 1908: 121, 123, Pl. 26, Figs 2, 3. p.p.
 
Type locality: 千葉県 大原
Type specimen: SAP 12344(北海道大学大学院理学研究科植物標本庫)
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
採集地:千葉県 いすみ市 大原漁港 *エビ網に絡む;採集日:2019年8月2日;撮影者:鈴木雅大
 
体の中ほどから上部は急に細くなり,しばしば鉤状の枝(矢印)を形成します。
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
押し葉標本(採集地:千葉県 いすみ市 大原漁港 *エビ網に絡む;採集日:2019年8月2日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
押し葉標本(採集地:神奈川県 鎌倉市 七里ヶ浜 *打上げ;採集日:2004年4月9日;採集者:鈴木雅大)
 
ハイウスバノリ属(Acrosorium)の仲間は同定が難しいことに加え,複数の未記載種を含んでいる可能性があります。このため,著者はこの仲間を採集しても種の同定はあきらめ,ハイウスバノリ属の1種(Acrosorium sp.)とすることが多いのですが,関東地方周辺地域に限っては,体の上部で幅が狭くなるものをヤレウスバノリ(A. flabellatum)と同定しています。タイプ産地である千葉県いすみ市大原周辺で採集されるものは,基本的にタイプ標本と良く似た形態を示すので,大原で採集した個体を判断基準としています。しかし,後述の通り体の上部で幅が狭くならないサンプルの遺伝子配列が大原のサンプルの遺伝子配列と近似していたことから,本種の形態は地域によって大きく異なる可能性があります。未記載種と思われていたものも実はヤレウスバノリなのかもしれません。日本各地で「ヤレウスバノリ」と呼ばれているサンプルを精査し,本種の特徴や形態変異の幅などを整理する必要があるでしょう。
 
体の幅が上部と下部でほとんど変化のないヤレウスバノリ(?)
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
採集地:愛媛県 松山市 興居島;採集日:2016年6月17日;撮影者:鈴木雅大
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
押し葉標本(採集地:愛媛県 松山市 興居島;採集日:2016年6月17日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
撮影地:新潟県 佐渡市 蚫;撮影日:2017年4月25日;撮影者:鈴木雅大
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
押し葉標本(採集地:新潟県 両津市 蚫(現 佐渡市 蚫);採集日:2003年2月25日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤレウスバノリ Acrosorium flabellatum
採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 浦の浜;採集日:2011年3月5日;撮影者:鈴木雅大
 
愛媛県興居島,新潟県佐渡島,岩手県山田町で採集したもので,著者はこれらを「カクレスジ(Cryptopleura membranacea」と同定していました。rbcL遺伝子の配列を決定して比較したところ,興居島と佐渡島のサンプルのrbcL遺伝子の配列は,千葉県大原のヤレウスバノリと近似しており,少なくともカクレスジ属(Cryptopleura)ではありませんでした。これらのサンプルは枝の幅が上部と下部でほとんど変化がなく,著者が認識していたヤレウスバノリの形態とは大きく異なっており,遺伝子解析の結果を見て唖然としました。改めて各サンプルを比較してみると,佐渡島のサンプルは体の先端部で枝が細くならないものの,鉤状枝を持ち,ハイウスバノリ属(Acrosolium)の仲間と言われればそのように見えてきます。しかし,興居島のサンプルはゴワゴワとした手触りや雰囲気から,ハイウスバノリ属とはとても思えない形をしています。興居島のサンプルは佐渡島のサンプルとrbcL遺伝子の配列が100%一致しているため,この2サンプルは同種として間違いないと思われ,それだけ形態変異の激しい種類と考えるのが妥当かもしれません。千葉県のヤレウスバノリと佐渡島・興居島の「カクレスジ」のrbcL遺伝子の配列は0.5%の差異があり,極めて近縁ではあるものの同種とするには若干差異が大きいかもしれません。形態変異の激しい種類であると考えられることから,著者は佐渡島・興居島のサンプルをヤレウスバノリと同種と考えても良いかと考えていますが,結論を出すには各地で「ヤレウスバノリ」あるいは「カクレスジ」と呼ばれているサンプルを採集し,多くのサンプルを用いて遺伝子解析を実施,検討することや,rbcL遺伝子だけではなくcox1遺伝子なども比較して検討する必要があります。

ヤレウスバノリの分布範囲や形態変異の幅も気になるところですが,カクレスジの実体についても検討が必要かもしれません。佐渡島のサンプルはともかく,興居島のサンプルは外形や四分胞子嚢を縁辺部に付ける様子などがYamada (1935) と三上(1976)におけるカクレスジの特徴と一致しているため,「カクレスジ」と同定して間違いないだろうと考えていました。遺伝子解析の結果を見て,カクレスジはヤレウスバノリと同種,あるいはCryptopleura属ではなくハイウスバノリ属の1種なのではないかと思い始めましたが,単なる著者の誤同定かもしれません。ハイウスバノリ属とCryptopleura属の形態的な違いは果胞子体や四分胞子嚢の形成過程にあるため,簡単に確認できるものではなく,興居島のサンプルが「カクレスジ」かどうか結論は出ませんでした。カクレスジの実体を確かめるには,カクレスジの基準産地である熊本県二江及びその周辺でカクレスジのサンプルを入手,解析するか,カクレスジの基準標本そのものを解析する必要があるでしょう。

 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 2 December 2011.
 
三上日出夫 1976. カクレスジ(紅藻,コノハノリ科)について.藻類 24: 13-19.
 
三上日出夫 1988. ヤレウスバノリ(紅藻,コノハノリ科)について.藻類 36: 43-47.
 
Noda, M. and Kitami, T. 1971. Some species of marine algae from Echigo Province facing the Japan Sea. Scientific Reports Niigata University, Ser. D. (Biology) 8: 35-52.
 
岡村金太郎 1908. 日本藻類圖譜 第1巻 第6集.東京.*自費出版
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
Yamada, Y. 1930. Notes on some Japanese algae, I. Journal of the Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 1: 27-36.
 
Yamada, Y. 1935. Notes on some Japanese algae, VI. Scientific Papers of the Institute of Algological Research, Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 1: 27-35.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イギス目コノハノリ科カシワバコノハノリ亜科
 
日本産海藻リスト紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イギス目コノハノリ科カシワバコノハノリ亜科カクレスジ連ハイウスバノリ属ヤレウスバノリ
 
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