ツルシラモ Gracilariopsis chorda
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2013年10月22日(2017年8月14日更新)
 
ツルシラモ(蔓白藻)
Gracilariopsis chorda (Holmes) Ohmi 1958: 50. Fig. 24. Pl. 10C, D.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),オゴノリ目(Order Gracilariales),オゴノリ科(Family Gracilariaceae),オゴノリ亜科(Subfamily Gracilarioideae),ツルシラモ連(Tribe Gracilariopsiseae),ツルシラモ属(Genus Gracilariopsis
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),オゴノリ目(Order Gracilariales),オゴノリ科(Family Gracilariaceae),オゴノリ属(Genus Gracilaria
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),オゴノリ目(Order Gracilariales),オゴノリ科(Family Gracilariaceae),ツルシラモ属(Genus Gracilariopsis
 
掲載情報
山本 1973: 86. Figs 1-5; Kim et al. 2008: 211-212. Fig. 1; Yang & Kim 2015: Fig. 2p.
 
Basionym
  Gracilaria chorda Holmes 1896: 253; 遠藤 1911: 647. Fig. 184; 岡村 1918: 41. Pl. 161; 1936: 629; 山本 1969: 22. Fig. 1. Pl. 1, Fig. 1; 1978: 119. Pls 1-4, 38-40; 1993: 276-277. Fig. 137; 1998: 814, 817. Pl. 3-73, Fig. A. Pl. 3-74, Figs A, B; 右田ら 1993: 150-151. Fig. 2A, C-E. Fig. 3; Muangmai et al. 2012: 413-414. Fig. 2.
その他の異名
  セイヨウオゴノリ Gracilaria lemaneiformis auct. non (Bory) Greville (1830); Chirapart et al. 1994: 119. Figs 1-4, "Gracilaria sp."; 1995: 412-413. Fig. 1; 山本 1998: 821.
  アガボオゴノリ Gracilaria lemaneiformis auct. non (Bory) Greville (1830); 吉﨑 1996: 504. Figs 12-21, 12-22; 1998: 281, 558, 559. Fig. 4-82.
 
Type locality: 静岡県 江の浦
Type specimen: BM (The Natural History Museum, London)
 

分類に関するメモ:Chirapart et al. (1994) は,高知県土佐湾からオゴノリ属の1種(Gracilaria sp.)を報告しました。Chirapart et al. (1995) は土佐湾のGracilaria sp.を"Gracilaria lemaneiformis"と同定し,山本(1998)は"G. lemaneiformis"にセイヨウオゴノリという和名を付けました。Gurgel et al. (2003) は,rbcL遺伝子を用いた分子系統解析により,セイヨウオゴノリと呼ばれているサンプルがG. lemaneiformisとは異なる種であることを指摘し,Kim et al. (2008) はセイヨウオゴノリをツルシラモであると結論づけました。

Gurgel et al. (2018) は,オゴノリ科の亜科,連,属を整理した際,ツルシラモについて言及しませんでしたが,これまで実施された遺伝子解析やGurgel et al. (2018)の系統解析によれば,Gracilariopsis属に所属させるのが適当と考えられます。

 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
撮影地:千葉県 千葉市 中央区 中央港 千葉ポートパーク;撮影日:2014年4月5日;撮影者:鈴木雅大
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
撮影地:神奈川県 三浦郡 葉山町 長者ヶ崎;撮影日:2014年4月30日;撮影者:鈴木雅大
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
撮影地:愛媛県 松山市 高浜町 白石ノ鼻;撮影日:2016年5月21日;撮影者:鈴木雅大
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 田牛 二穴洞窟;採集日:2006年5月16日;採集者:鈴木雅大)
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
押し葉標本(採集地:鹿児島県 鹿児島市 喜入 前之浜;採集日:2006年3月30日;採集者:寺田竜太博士)
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
押し葉標本(採集地:千葉県 銚子市 外川漁港;採集日:2004年10月29日;採集者:鈴木雅大)
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 鍋田浜;採集日:2005年5月9日;採集者:鈴木雅大)
 
オゴノリ類は形態変異の激しい種類が多いですが,ツルシラモはその中でも形が良く変わる種類で,体の太さや長さが激しく変わるため,しばしば他種と混同されます。Chirapart et al. (1994)が日本新産種として報告したセイヨウオゴノリ(Gracilariopsis lemaneiformis)がツルシラモの誤同定であったという例があります(Kim et al. 2008)。著者は,岩手県山田町や千葉県銚子市で採集したツルシラモをオオオゴノリ(Gracilaria gigasと誤同定したことがあり,さらには,静岡県下田や神奈川県長者ヶ崎で自信を持って「オオオゴノリ」と同定したサンプルがツルシラモの誤りだったこともあります。以後,出来る限り嚢果を付けた個体を採集し,構造をチェックするようにしています。逆に言えば,これまで「オオオゴノリ」に相当する種に出会ったことがありません。図鑑等を見ると,ツルシラモと何が違うのか分からないものが「オオオゴノリ」として掲載されていることがあり,「真の」オオオゴノリはどういうものなのか(そもそも存在するのか)気になっています。
 
ツルシラモ Gracilariopsis chorda
ツルシラモの嚢果の縦断面
 
ツルシラモ属の嚢果は果皮とゴニモブラスト(造胞子)の間に横断糸と呼ばれる細長い糸状の細胞を持たないのが特徴です。オオオゴノリ?やシラモなどのオゴノリ属との区別に悩んだときは,嚢果の縦断面を観察し,横断糸の有無をチェックしています。
 
千葉県館山市北条海岸の「アガボオゴノリ」
 
アガボオゴノリ Gracilaria lemaneiformis auct. non (Bory) Greville (1830)
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 北条海岸;採集日:2000年11月26日;採集者:鈴木雅大)
 
アガボオゴノリ Gracilaria lemaneiformis auct. non (Bory) Greville (1830)
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 北条海岸;採集日:2000年11月13日;採集者:鈴木雅大)
 
1993年から2000年頃,千葉県館山市北条海岸で赤くて細長いオゴノリ類が大量に打ち上げられ,海水浴の妨げや景観を害するとして問題になっておりました(ルックたてやま 1993年6号)。このオゴノリ類はツルシラモ(Gracilariopsis chorda)と呼ばれ,海水浴シーズンの前には地域の住人達がユンボなどで除去しておりました。著者の恩師 故吉﨑 誠先生(東邦大学 名誉教授)は,この赤いオゴノリ類についてルイジアナ大のSuzzane Fredericq博士に意見を求め,ツルシラモではなく,日本新産となるGracilariopsis lemaneiformisと結論付けると共に,和名をアガボオゴノリと名付けました(吉﨑 1996, 1998)。丁度同じ頃,Chirapart et al. (1994, 1995) も高知県土佐湾でGp. lemaneiformisGracilaria sp.及びGracilaria lemaneiformisとして)を確認,報告し,山本 (1998) はChirapartらが報告したG. lemaneiformisにセイヨウオゴノリという和名を付けました。こうして,同じ種類に対して「アガボオゴノリ」と「セイヨウオゴノリ」という和名が提唱され,その後,両方の和名が使われることになりました。ところが,土佐湾の「セイヨウオゴノリ」はGurgel et al. (2003)とKim et al. (2008) による遺伝子解析によって,ツルシラモの誤同定と結論付けられました。

「セイヨウオゴノリ」がツルシラモの誤同定であったことを受け,著者は「アガボオゴノリ」についても実体を確かめる必要があると考え,形態観察と遺伝子解析を始めました。ツルシラモは形態変異の激しい種類で,太さや長さが大きく変わります。また,うろ覚えですが1998~2000年頃,神奈川県鎌倉市の海水浴場では,ツルシラモが大量に打ち上がり,海水浴客から足に絡みついて気味が悪いとして駆除されたことがありました。これは千葉県館山市での「アガボオゴノリ」の発生状況に良く似ています。吉﨑(1996, 1998)において,「アガボオゴノリ」をGp. lemaneiformisとした形態的特徴は示されておらず,「アガボオゴノリ」の特徴は「赤い」ということしか分かりません。著者が「アガボオゴノリ」を観察したところ,生殖器官である嚢果の構造から,ツルシラモ属(Gracilariopsis)であることは確認出来ましたが,ツルシラモとの違いは分かりませんでした。この時点で最も有効なのは,「アガボオゴノリ」のDNA鑑定と考えられますが,標本の状態が悪かったのか,未だ遺伝子解析に成功していません。

「アガボオゴノリ」の標本を用いたDNA鑑定がうまくいかないことから,著者は千葉県館山市北条海岸にて生の「アガボオゴノリ」を探しました。かつて「アガボオゴノリ」は大量発生が問題になるほど繁茂しており,著者も2000年から2001年にかけて何枚もの押し葉標本を作製しました。ところが,現在,北条海岸の「アガボオゴノリ」は全くと言って良いほど見つかりません。駆除しすぎて絶滅してしまったのか,たまたま90年代にのみ大量発生が起こったのか,単に著者の探し方が悪いのか,理由は分かりませんが,かつてあれほど見られた赤いオゴノリ類はどこかにいってしまいました。

宮田ら(2002)は,土佐湾の「セイヨウオゴノリ」と,館山の「アガボオゴノリ」を同一種としています。遺伝子解析による裏付けが取れないのが気がかりではありますが,「アガボオゴノリ」とツルシラモに形態的な違いがないことから,暫定的ですが,本サイトでも「アガボオゴノリ」は「セイヨウオゴノリ」と同じくツルシラモの誤同定であると結論付けました。

 
参考文献
 
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