タンスイベニマダラ Hildenbrandia jigongshanensis
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年6月10日(2021年2月23日更新)
 
タンスイベニマダラ(淡水紅斑)
Hildenbrandia jigongshanensis F. Nan & S. Xie in Nan et al. 2017: 245. Fig. 1.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),ベニマダラ亜綱(Subclass Hildenbrandiophycidae),ベニマダラ目(Order Hildenbrandiales),ベニマダラ科(Family Hildenbrandiaceae),ベニマダラ属(Genus Hildenbrandia
 
掲載情報
Vieira et al. 2021: Fig. 2.
 
Heterotypic synonym
  Hildenbarandia japananensis F. Nan, J. Han, J. Feng, J. Lv, Q. Liu, X. Liu & S. Xie 2019: 69-70. Fig. 1. "H. japananense" (Type locality: 滋賀県 米原市 醒井養鱒場の水路 Holotype specimen: SXU-JAP18001 (Herbarium of Shanxi University))
その他の異名
  Hildenbrandia rivularis auct. non (Liebmann) J. Agardh (1851); 瀬戸ら 1974: 11, 15. Figs 1-5; 瀬戸 1977: 129-133. Fig. 3; 熊野・廣瀬 1977: 173. Pl. 62, Figs 2a-f; 吉﨑 1996: 277-278. Fig. 7-14; 1998: 333-334. Fig. 5-72; 熊野 2000: 294. Pl. 155; 2002: 293. Pl. 179; 熊野ら 2002: 33-34; 2007: 213; 小林 2005: 25; 守屋ら 2013: 83-85. Figs 1, 2,4; 北山 2014: 98. Pl. 1-21, Fig. 4; 白井 2014: 70: Figs 2-4.
 
Type locality: Jigongshan Mountain, Henan Province, China.
Holotype specimen: SXU-HN15006 (Herbarium of Shanxi University)
 
環境省レッドリスト2019:準絶滅危惧(NT);千葉県レッドリスト植物・菌類編(2017年度改訂版):一般保護生物(D)
 
分類に関するメモ:タンスイベニマダラは"Hildenbrandia rivularis" に充てられてきましたが,Vieira et al. (2021) はタンスイベニマダラが"H. rivularis"とは別種であることを示し,中国で記載されたH. jigongshanensisとしました。また,滋賀県で記載されたH. japananensisH. jigongshanensisの異名同種(シノニム)としました。H. jigongshanensisの和名には"H. rivularis"の和名だった「タンスイベニマダラ」を充てるのが適当でしょう。
 
タンスイベニマダラ Hildenbrandia rivularis
 
タンスイベニマダラ Hildenbrandia rivularis
 
タンスイベニマダラ Hildenbrandia rivularis
撮影地:鹿児島県 川辺郡 川辺町 清水;撮影日:2006年3月30日;撮影者:鈴木雅大
 
岩の上に殻状に張り付いています。オキチモズク(Nemalionopsis shawiiと共に生育していました。
 
タンスイベニマダラ Hildenbrandia rivularis
 
タンスイベニマダラ Hildenbrandia rivularis
撮影地:東京都 世田谷区 成城;撮影日:2012年1月22日;撮影者:鈴木雅大
 
タンスイベニマダラ Hildenbrandia rivularis
 
タンスイベニマダラ Hildenbrandia rivularis
撮影地:岩手県 下閉伊郡 山田町 関口不動尊;撮影日:2014年8月31日;撮影者:鈴木雅大
 
タンスイベニマダラは"Hildenbrandia rivularis" に充てられてきましたが,Vieira et al. (2021) によってH. jigongshanensisであることが明らかとなりました。日本産としては,Nan et al. (2019) が琵琶湖近くにある醒井養鱒場の水路から新種記載したH. japananensisが知られていましたが,Vieira et al. (2021) は18S rDNAとrbcL遺伝子の配列を基にH. japananensisH. jigongshanensisの異名同種(シノニム)としました。Nan et al. (2019) 及びH. japananensisはかなり突っ込みどころの多い論文,種類だったので(例1~3参照),タンスイベニマダラがH. japananensisとなるのはいかがなものかと思っていたのですが,H. jigongshanensis の異名同種(シノニム)となり,ほっとしました。ただし,Vieira et al. (2021)は遺伝子解析においてITS1領域を用いていないため,H. jigongshanensisH. japananensisを同種として良いか疑問が残ります。Nan et al. (2019) が図示したITS1領域の二次構造の模式図が正しければ,H. jigongshanensisH. japananensisは別種である可能性が高いと考えられます。rbcL遺伝子の配列の差異が小さくても種レベルで区別される例は少なくないため,ITS領域の二次構造を根拠に2種を別種とすることは否定出来ません。著者個人としては,タンスイベニマダラをH. jigongshanensisとする見解を支持したいのですが,H. jigongshanensisH. japananensisの関係は遺伝子解析において不明瞭な点が残されています。

例1. 新種記載に用いたサンプルが養鱒場の水路,すなわち人工環境から採集されたものです。自然環境で絶えてしまったものや,源泉となる水系がはっきりしているものなどで,人工環境で採集したサンプルを用いることはありますが,余程の事情がない限り,人工環境に生育するサンプルを分類学的研究に用いることはないと思います。

例2. 琵琶湖(Lake Biwa)の地名が"Lake Pipa"とされており,どこの湖だか分からず首をかしげました。中国語で琵琶を"Pipa"と読むそうなので,中国では琵琶湖をLake Pipaと呼んでいるのかもしれません。地名は採集地の国の呼び名で著すのが通例ですし,Lake Biwaは国際的に用いられている地名なので,"Lake Pipa"は間違いと言っても良い表記だと思います。

例3. 種小名の"japananensis"はラテン語としておかしいと思います。Nan et al. (2019) は採集地に因んで命名したと述べているのですが,「Japan = 日本」をラテン語化するならば"japonica"ですし,「Japanese = 日本人」をラテン語化しても"japonensis"なので,"japananensis"だと意味不明です。なお,Nan et al. (2019) は種小名を"japananense"と綴りましたが,属名のHildenbradiaの性は女性なので"japananensis"が正しい綴りとなります。

 
参考文献
 
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Vieira, C., Akita, S., Uwai, S., Hanyuda, T., Shimada, S. and Kawai, H. 2021. Hildenbrandia (Hildenbrandiales, Florideophyceae) from Japan and taxonomic lumping of H. jigongshanensis and H. japananensis. Phycological Research DOI: 10.1111/pre.12456.
 
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吉﨑 誠 1998. 第4章 第2節 1-(1) 大形緑藻と紅藻類.第5章 陸と淡水の藻類 第2節 1. 紅藻綱 Rhodophyceae. In: 千原光雄 編集代表. 千葉県の自然誌本編4 千葉県の植物1. pp. 242-245, 331-334. 千葉県.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱
 
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