アヤニシキ Martensia jejuensis |
作成者:鈴木雅大 作成日:2013年11月3日(2017年7月2日更新) |
アヤニシキ(綾錦) |
Martensia jejuensis Y.P.Lee 2004: 256. Figs 2-21. |
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),ウスバノリ亜科(Subfamily Nitophylloideae),アヤニシキ連(Tribe Martensieae),アヤニシキ属(Genus Martensia) |
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),アヤニシキ属(Genus Martensia)*M. fragilisとして |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),イギス目(Order Ceramiales),コノハノリ科(Family Delesseriaceae),アヤニシキ属(Genus Martensia) |
掲載情報 |
Nam & Kang 2012: 50-52. Figs 37-39; Kang et al. 2015: 154, 155, 158, 160. Figs 3-5, 7, 9-39. |
Heterotypic synonyms |
セトウチアヤニシキ Martensia taeniosa Yagi 1961: 48; 1964: 34. nom. nud. [裸名] |
Martensia bibarii Y.P.Lee 2004: 258, 260, 261. Figs 22-27; Nam & Kang 2012: 43-47. Figs 29-32. |
Martensia palmata Y.P.Lee 2005: 280. Figs 1-3; Nam & Kang 2012: 52, 53. Figs 40, 41. |
Martensia projecta Y.P.Lee 2005: 287. Figs 4-6; Nam & Kang 2012: 53-55. Figs 42, 43. |
Misapplied names |
アヤニシキ Martensia australis auct. non Harvey (1855: 537); 大久保 1887: 99. Pl. 12; 岡村 1893: 75-76. Figs 1-3; 1902: 48; Nam & Kang 2012: 42, 43. Figs 27, 28. |
アヤニシキ Martensia elegans auct. non K.Hering (1841: 92); 岡村 1909: 5. Pl. 53, Figs 1-9. |
アヤニシキ Martensia denticulata auct. non Harvey (1855: 537); 岡村 1936: 789. Fig. 380. |
アヤニシキ Martensia fragilis auct. non Harvey (1854: 145); Yoshida & Mikami 1996: 101. Figs 1, 4-18; 吉田 1998: 981-982. Pl. 3-96, Fig. I; Nam & Kang 2012: 48-50. Figs 35, 36. |
Type locality: Jongdal, Jeju Island, Korea. |
Holotype specimen: LYP-1586 (Herbarium of the Department of Biology, Cheju National University) |
分類に関するメモ:日本において,アヤニシキはM. denticulata, M. australis, M. elegans, M. fragilisと様々な名前に充てられてきました。Lin et al. (2013) は,タイプ産地で採集したMaretnsia fragilisを基に,太平洋,インド洋の各地で報告されてきたM. fragilisの種を整理しました。日本のアヤニシキは韓国で記載されたM. jejuensisと同種と結論付けられました。 |
撮影地:愛媛県 松山市 興居島 船越;撮影日:2017年5月26日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:愛媛県 松山市 興居島 船越;撮影日:2016年6月17日;撮影者:鈴木雅大 |
採集地:愛媛県 松山市 興居島 船越;採集日:2016年6月17日;採集者:鈴木雅大 |
撮影地:兵庫県 淡路市 大磯(淡路島);撮影日:2016年7月20日;撮影者:鈴木雅大 |
網状部の顕微鏡写真(採集地:兵庫県 淡路市 大磯(淡路島);採集日:2016年7月20日) |
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 沖ノ島;採集日:2007年3月6日;採集者:鈴木雅大) |
押し葉標本(採集地:新潟県 佐渡郡 小木町 矢島・経島(現 佐渡市 小木);採集日:2002年7月30日;採集者:鈴木雅大) |
押し葉標本(採集地:愛媛県 西宇和郡 伊方町 明神;採集日:2006年2月18日;採集者:鈴木雅大) |
アヤニシキは,M. denticulata, M. australis, M. elegans, M. fragilisと様々な名前に充てられてきました。Lin et al. (2013) は,タイプ産地で採集したMaretnsia fragilisを基に,太平洋,インド洋の各地で報告されてきたM. fragilisの種を整理しました。日本のアヤニシキは韓国で記載されたM. jejuensisと同種と結論付けられました。Kang et al. (2015) は,北太平洋西岸で採集されたアヤニシキの仲間について,より多くのサンプルを用いた遺伝子解析を実施し,M. bibarii, M. palmata, M. projectaなどがM. jejuensisと同種であることを確認しました。
Lin et al. (2013) , Kang et al. (2015) によると,北太平洋西岸に分布するアヤニシキ属(Martensia)は,M. albida, ミナミアヤニシキ(M. australis),エツキアヤニシキ(M. flabelliformis), M. formosana, アヤニシキ(M. jejuensis), M. kentingii, M. leei, M. lewisiaeの8種となります。日本周辺で報告されているのは,ミナミアヤニシキ,エツキアヤニシキ,アヤニシキの3種のみですが,南西諸島などでは,他の種類が出てきてもおかしくはないと考えられます。特にM. albidaは,韓国で多くのサンプルが見つかっており,未確認ですが九州以南でM. albidaに相当するサンプルがあるとの情報もあります。M. albidaの形態は,日本で「ミナミアヤニシキ」と呼んでいるものに近似しており,九州以南及び南西諸島に分布するアヤニシキ属については,同定や分類について改めて検討する必要があると考えられます。 |
セトウチアヤニシキについて |
亜熱帯に分布するアヤニシキの仲間は,同定や分類に注意する必要があるものの,暖温帯域に分布する種については,今のところアヤニシキ(M. jejuensis)1種とみて良さそうです。アヤニシキは網状部の形態が生育地や生育時期によって激しく変化する種類で,Lee (2004, 2005) は,アヤニシキを形態の違いによってM. bibarii, M. jejuensis, M. palmata, M. projectaの4種に分けました。前述の通り,これらの種は1種にまとめられ,学名としてはM. jejuensisが採用されました。学名の問題はともかく,アヤニシキの網状部の形態の違いは連続的で,種の違いとは言えないことは,Yoshida & Mikami (1996) が指摘しており,形態は激しく変化するものの,網状部の先端などで二次的に形成された網状部を持つという共通の特徴があり,この特徴で他種と区別されます。 アヤニシキの分類学的問題は,アヤニシキがM. jejuensisであるということで解決済です。ただ,日本周辺を含む各地に広く分布する種に"jejuensis"というのは違和感があるので,Lin et al. (2013) を読んだ後,他に有効な先行名がないか調べてみました。著者が気になっていたのは,瀬戸内海,特に愛媛県周辺で「セトウチアヤニシキ」と呼ばれている種でした。故八木繁一氏は,愛媛県及び瀬戸内海に生育するアヤニシキは他地域とは種が異なるとしてセトウチアヤニシキ(M. taeniosa Yagi)を提唱しました(八木 1961)。Yoshida & Mikami (1996) は、セトウチアヤニシキはアヤニシキの形態変異の一つと考えており,著者もセトウチアヤニシキとアヤニシキは同種と考えています。従って,セトウチアヤニシキが正式に発表された種であったなら,アヤニシキの学名はM. jejuensisではなくM. taeniosaになるのではと思い,八木先生の文献を精査してみました。初出が1958年1月1日より前であれば,国際藻類・菌類・植物命名規約(深圳規約 2018)の40.1条,44.1条,44.2条の解釈次第で正式発表となる可能性があったからです。しかし,八木先生の発表された論文の中で,セトウチアヤニシキの名前が最も早く掲載されたのは1961年で,種の記載については,たった1行で「質うすく,嚢果なし,体形の変化著しい,他の藻体につく。」と書かれているのみで,図や写真もありませんでした。あまりにもあっさりとしているので,他に正式な記載があるのではないかと思うのですが,「セトウチアヤニシキ」の名前を見つけられたのは八木(1961, 1964)のみで,記載に当たるような記述は見つかりませんでした。このためYoshida & Mikami (1996) が指摘したように,裸名(nomen nudum)とする他ないようです。M. taeniosaを再評価出来ればと思ったのですが,残念ながら適いませんでした。 |
参考文献 |
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 1 Nobember 2013. |
Harvey, W.H. 1854. Short characters of three new algae from the shores of Ceylon. Hooker's Journal of Botany and Kew Garden Miscellany 6: 143-145. |
Harvey, W.H. 1855. Some account of the marine botany of the colony of western Australia. Transactions of the Royal Irish Academy 22: 525-566. |
Hering, K. 1841. Diagnoses algarum novarum a cl. Dre. Ferdinand Krauss in Africa Australi lectarum. Annals and Magazine of Natural History [Series 1] 8: 90-92. |
Kang, J.C., Yang, M.Y., Lin, S.-M. and Kim, M.S. 2015. Reappraisal of nine species of Martensia (Delesseriaceae, Rhodophyta) reported from Korea based on morphology and molecular analyses. Botanica Marina 58: 151-166. |
Lee, Y.-P. 2004. Two new species of Martensia (Delesseriaceae, Rhodophyta) from Jeju Island, Korea. Phycological Research 52: 255-265. |
Lee, Y.-P. 2005. New red algae of Martensia (Delesseriaceae), M. palmata sp. nov. and M. projecta sp. nov. from Jeju Island, Korea. Algae 20: 279-294. |
Lin, S.-M., Yang, W.-C., Huisman, J., De Clerck, O. and Lee, W.J. 2013. Molecular phylogeny of the widespread Martensia fragilis complex (Delesseriaceae, Rhodophyta) from the Indo-Pacific region reveals three new species of Martensia from Taiwan. European Journal of Phycology 48: 173-187. |
Nam, K.W. and Kang, P.J. 2012. Algal flora of Korea. Volume 4, Number 7 Rhodophyta: Florideophyceae: Ceramiales: Delesseriaceae: 22 genera including Acrosorium. 129 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon. |
岡村金太郎 1893. Martensia australis Harv.の造構に就きて.植物学雑誌 7: 75-76. |
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京. |
岡村金太郎 1909. 日本藻類圖譜 第2巻 第1集.東京.*自費出版 |
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京. |
大久保三郎 1887. 伊豆巡島記.植物学雑誌 1: 95-101. Pl. 12. |
八木繁一 1961. 伊予の海藻目録.愛媛県科学教育研究会 64 pp. |
八木繁一 1964. 伊予の海藻目録.愛媛県立博物館研究報告 4: 1-52. |
Yoshida, T. and Mikami, H. 1996. Observations on Japanese species of the genus Martensia (Delesseriaceae, Rhodophyta), with the description of Neomartensia gen. nov. Phycological Research 44: 101-106. |
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京. |
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
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