Sheathia jiugongshanensis | ||||
作成者:鈴木雅大 作成日:2024年11月22日 | ||||
Sheathia jiugongshanensis J.F.Han, F.R.Nan & S.L.Xie in Han et al. 2020: 51. Fig. 2a-c | ||||
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),カワモズク目(Order Batrachospermales),カワモズク科(Family Batrachospermaceae),チャイロカワモズク属(Genus Sheathia) | ||||
掲載情報 | ||||
Kitayama & Suzuki 2024b: 138. Fig. 10. | ||||
Type locality: Jiugong Mountain, Hubei Prov., China(湖北省 九官山) | ||||
Holotype specimen: SXU-HB17926 (Herbarium of Shanxi University) | ||||
分類に関するメモ:Kitayama & Suzuki (2024b) は,埼玉県和光市からSheathia jiugongshanensisを報告しました。本種は,胞子体(シャントランシア期)の状態で生育し,配偶体は確認されていません。 | ||||
採集地:埼玉県 和光市 市場峡公園;採集日:2012年2月21日;採集者:鈴木雅大 | ||||
埼玉県和光市で採集したチャイロカワモズク属(Sheathia)の胞子体(シャントランシア期)です。Kitayama et al. (2021) の中で,"Sheathia sp."としてrbcL遺伝子の配列(LC643713)を公開しました。Kitayama et al. (2021) が実施した系統解析において,中国で記載されたS. jiugongshanensisに近いことが示唆されたものの,公開されていたS. jiugongshanensisのrbcL遺伝子の配列(MK746106)が797 bpと短いこと,"S. jiugongshanensis"の名前で公開されているcox1遺伝子の配列(MK746110)に疑義があったことから,結論は出ませんでした。その後,新しく公開されたS. jiugongshanensisのrbcL遺伝子の配列(MW264814, 1141bp)との比較,及び現在"S. jiugongshanensis"の名前で公開されているcox1遺伝子の配列(MK746110, MW264827)はS. shimenxiaensis (MW264828)であることが確認されたことから,和光市の"Sheathia sp."は,S. jiugongshanensisであると判断し,Kitayama & Suzuki (2024a) の中で,cox1遺伝子の配列(LC775757)を公開しました。
日本新産種として正式に報告したかったのですが,あろうことか顕微鏡写真にスケールが入っておらず論文としては使えませんでした。採集した当時はシャントランシアを観察しても仕事にならないと思っていたため,撮影時にスケールを入れるのをサボっていたようです。2021年に写真を見直して頭を抱えました。改めて採集出来れば良かったのですが,市場峡公園ではその後,カワモズク類が確認されておらず(2024年11月時点),2012年2月に採集した押し葉標本が唯一のサンプルとなってしまいました。やむを得ず,Kitayama & Suzuki (2024b)の中で,押し葉標本の写真を掲載し,新産報告の代わりとしました。 Sheathia jiugongshanensisは,Han et al. (2020) が中国湖北省九官山で記載した種類です。和名を付けるとすれば,産地と種小名に因み「ジウゴンシャンカワモズク(九官山川水雲,九官山川藻付)」が適当でしょうか。本種は,胞子体(シャントランシア期)のみを基に記載されたもので,配偶体は知られていません。カワモズク類は,配偶体の形態的特徴を基に記載,区別されますが,近年,本種と同様に胞子体のみしか知られていないチャイロカワモズク属(Sheathia)が記載されており(S. plantuloides, S. qinyuanensis, S. shimenxiaensis),日本ではキタノマルカワモズク(S. yedoensis)が胞子体の観察と遺伝子解析を基に記載されました(Kitayama & Suzuki 2024b)。胞子体の形態的特徴としては,分枝する際の角度や,細胞・単胞子嚢の大きさなどが挙げられます。Sheathia jiugongshanensisの特徴は,分枝の角度が25°以上あり,高さ1cmに達することです。これらの特徴により,キタノマルカワモズクとは形態的に区別されます。しかし,日本産チャイロカワモズク属全種の胞子体を比較したわけではない上,中国等で報告されたチャイロカワモズク属の胞子体の特徴は,互いに重複しているため,形態的特徴のみで種を区別するのは困難と考えられます(Kitayama & Suzuki 2024b)。このため,胞子体から種を同定するには,遺伝子解析以外に有効な手段がなさそうです。将来的に配偶体が確認され,種の形態的特徴が明らかになることが期待されます。 本種とキタノマルカワモズクは,形態的特徴によって種を認識することが困難なことから,これまで見落とされてきたと考えられます。正直なところ,形態的特徴で区別出来ない種に魅力を感じないのですが,生物多様性に関わる者として「見落とされてきた」という点は見過ごせません。著者が専門とする海産藻類の現状を鑑みても,本種のように見落とされている種は,山ほど残されていると考えられます。生物多様性を正しく認識するためには,普段見向きもしないようなサンプルでも調べる必要があるという教訓となりました。 |
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参考文献 | ||||
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2024. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 22 November 2024. | ||||
Han, J.-F., Nan, F.-R., Fen, J., Lv, J.P., Liu, Q., Liu, X.D. and Xie, S.L. 2020. Affinities of four freswater putative "Chantransia" stages (Rhodophyta) in Southern China from molecular and morphological data. Phytotaxa 441: 47-59. | ||||
Kitayama, T., Kiyosue, Y., Kozono, J., Hanyuda, T. and Suzuki, M. 2021. First record of Sheathia abscondita Stancheva, Sheath & M.L.Vis (Batrachospermaceae, Rhodophyta) from Japan. Bulletin of the National Science Museum, Series B (Botany) 47: 175-182. | ||||
Kitayama, T. and Suzuki, M. 2024a. Phenology of Sheathia abscondita Stancheva, Sheath & M.L.Vis (Batrachospermaceae, Rhodophyta) in Hokkaido, Japan. Bulletin of the National Science Museum, Series B (Botany) 50: 93-103. | ||||
Kitayama, T. and Suzuki, M. 2024b. Sheathia yedoensis, a new species of the freshwater red alga (Batrachospermaceae, Rhodophyta) from Kitanomaru Park, adjacent to the Imperial Palace, Tokyo, Japan. Bulletin of the National Science Museum, Series B (Botany) 50: 131-140. | ||||
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