マリモ Aegagropila linnaei
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2012年5月19日(2015年9月12日更新)
 
マリモ(毬藻)
Aegagropila linnaei Kützing 1843: 272.
 
緑藻植物門(Phylum Chlorophyta),アオサ藻綱(Class Ulvophyceae),シオグサ目(Order Cladophorales),アオミソウ科(Family Pithophoraceae),マリモ属(Genus Aegagropila
 
Homotypic synonym
  Cladophora aegagropila var. linnaei (Kützing) Rabenhorst 1868: 344.
Heterotypic synonym
  Cladophora sauteri (Nees von Eisenbeck ex Kützing) Kützing.
   Cladophora aegagropila var. sauteri (Nees von Eisenbeck ex Kützing) Rabenhorst 1868: 344.
  Cladophora aegagropila var. thermalis Wolle
  Conferva aegagropila Linnaeus 1753: 1167.
   Cladophora aegagropila (Linnaeus) Trevisan 1845: 19.
  Aegagropila bulnheimii Rabenhorst 1859.
   ≡ Cladophora aegagropila var. bulnheimii (Rabenhorst) Rabenhorst 1868: 345.
  Cladophora aegagropila var. holsatica (Kützing) Rabenhorst 1868: 344.
  Cladophora aegagropila var. martensii (Meneghini ex Kützing) Rabenhorst 1868: 344.
  Cladophora aegagropila var. muscoides (Meneghini ex Kützing) Rabenhorst 1868: 344.
  Cladophora aegagropila var. daldinii (Cesati & De Notaris ex Bertoloni) Rabenhorst 1868: 344.
  トロマリモ Cladophora sauteri f. toroensis Kanda
  ヒメマリモ Aegagropila sauteri f. minima Okada in Kobayashi & Okada 1953
   ≡ ヒメマリモ Aegagropila minima (Okada) Okada 1957: 4.
   ≡ ヒメマリモ Cladophora minima (Okada) Sakai 1964: 79.
  フトヒメマリモ Cladophora minima (Okada) Sakai f. crassa Sakai 1964: 83. Pl. 10,1. Fig. 40.
 
Type locality: Sweden
Holotype specimen: L (Naturalis, Leiden, Netherlands)
 
環境省レッドリスト2019・カテゴリー:絶滅危惧I類(CR+EN)
 
阿寒湖チョウルイ湾
 
マリモ Aegagropila linnaei
 
撮影地:北海道 阿寒湖 チョウルイ湾;撮影日:2012年9月22日;撮影者:鈴木雅大
 
淡水紅藻の調査で阿寒湖を訪れた際に撮影したものです。ボート上から箱メガネで見ると茶色い石がゴロゴロしているように見えます。
 
マリモ Aegagropila linnaei
撮影地:北海道 阿寒湖 チョウルイ湾;撮影日:2012年9月22日;撮影者:若菜 勇
 
マリモ Aegagropila linnaei
撮影地:北海道 阿寒湖 チョウルイ島;撮影日:2007年8月29日;撮影者:吉﨑 誠
         
  マリモ Aegagropila linnaei   マリモ Aegagropila linnaei  
マリモの枝(採集地:北海道 阿寒湖;採集日:2007年8月29日;採集者:吉﨑 誠)
 
著者の恩師 故吉﨑 誠博士(東邦大学名誉教授)が生前撮影されたマリモの枝です。顕微鏡でマリモの枝ぶりを熱心にスケッチしておられました。吉﨑先生は,A2サイズの大きなスケッチを何枚も描かれましたが,墨入れの前に急逝され,残されたスケッチは国立科学博物館と名古屋大学博物館に収蔵されています。
 
着生型のマリモ
着生型のマリモ(撮影地:北海道 阿寒湖;撮影日:2012年9月22日;撮影者:鈴木雅大)
 
マリモには幾つかの形態があり,球形にならず岩に付着している形態のもの(着生型のマリモ)も見られます。付着型のマリモも球形のマリモも遺伝的には近似しており,種レベルでは同一種と考えられています。マリモは北半球の各地で報告されていますが,球状の形態をとるマリモが見られるのはアイスランドのミーヴァトン湖と阿寒湖だけです。阿寒湖のマリモが球形となるのは阿寒湖独特の地形と環境によるものと考えられています。マリモは稀少種として,環境省のレッドリストでは絶滅危惧I類(CR+EN)に指定されていますが,阿寒湖のマリモは国の特別天然記念物にも指定されています。
 
マリモの学名について
 
マリモの学名を巡っては,属,種共に数々の変遷がありましたが,Hanyuda et al. (2002),Boedeker et al. (2010, 2012) などによる18S rDNAを用いた分子系統解析が実施されてからは Aegagropila linnaei という種類が充てられ,マリモの学名はAegagropila linnaei で安定していると思います。また,Boedeker et al. (2010, 2012) は,マリモが全世界的に1種類であると結論付けました。日本と中国にはタテヤママリモ(Aegagropilopsis moravicaという近似種が生育していますが,これはマリモとは属レベルで異なる種類です。
 
マリモの変種(varietas)・品種(forma)
 
マリモには,球形になるもの以外にも様々な形態をとるものが知られていることから,種より下の分類群(種内分類群)としてたくさんの変種,品種が記載されています。これらの変種,品種を認めるかどうか,研究者によって見解が分かれていますが,Boedeker et al. (2010) によるリボソーマルDNAのITS領域を用いた解析により,マリモの種内の遺伝的な差異が低いことから,変種・品種の区別をしないのが世界的な見解となっているようです。ただし,遺伝的な差異が低いといっても100%一致するというわけではなく,Boedeker et al. (2010) は5つの遺伝子型(genotype)を認めています。これらの遺伝子型と変種・品種との対応関係は分かっていません。
 
フジマリモ Aegagropila sauteri var. yamanakaensis Okada, 1957 について
 
フジマリモはOkada (1957)がマリモの変種として山中湖で記載したものです。当時,マリモはAegagropila sauteriという種類に充てられていたので,フジマリモはAegagropila sauteriの変種 A. sauteri var. yamanakaensisとして記載されました。マリモについて変種・品種を認めない風潮の中で,フジマリモだけはマリモの変種として認められています(芹澤ら 2009, 2015)。結果は示されていませんが,芹澤ら(2015)によると,フジマリモのITS領域はBoedeker et al. (2010) が認めた遺伝子型の内,Genotype C に相当するといいます。ヨーロッパで報告されているGenotype C に相当するマリモがフジマリモと形態的に同じ特徴を示すのであれば,マリモの変種としてフジマリモを認めても構わないのではないでしょうか。ただし,マリモがAegagropila linnaeiという種に充てられていることから,フジマリモをAegagropila linnaeiの変種とする新組合せを正式に発表する必要があるでしょう(注)。
 
注.Wikipediaなどでは,フジマリモの学名が「Aegagropila linnaei var. yamanakaensis」とされていますが,著者が調べた限りでは,「Aegagropila linnaei」と変種「var. yamanakaensis」との新組合せを正式に発表した文献はありません。著者名がOkadaのままであることから単なる間違いか,種と変種の組み合わせは自由に変更できると勘違いされたのかいずれかだろうと思います。国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN)において,「Aegagropila sauteri」と「Aegagropila linnaei」は異なる学名であり異なる種です。分類学的に両者が同一種であることが明らかとなったとしても,「Aegagropila sauteri」の変種である「var. yamanakaensis」を命名規約に従って正式に発表することなく,「Aegagropila linnaei」の変種とすることは出来ません。属や種が変更された場合の種内分類群の扱いには注意する必要があると思います。フジマリモは比較的知名度が高く,絶滅危惧種としても知られる藻類です。間違った学名が横行する前に,正式な新組合せが発表されることを願っております。
 
フジマリモとタテヤママリモについて
 
国立科学博物館のホットニュースプレスリリースによると,山梨県山中湖で「フジマリモ」と呼ばれてきたマリモ状藻類は,マリモとタテヤママリモの2種を含み,その内,1958年に山中湖で採集,栽培されてきた「フジマリモ」はタテヤママリモに近縁という事です。この「フジマリモ」が,Okada (1957) が記載したフジマリモ(Aegagropila sauteri var. yamanakaensis)と同一のものかどうか,分類学的検討が必要です。仮に「フジマリモ」と「タテヤママリモ」が同種であるならば,種は Aegagropilopsis moravica としても,和名を「フジマリモ」と「タテヤママリモ」のどちらにするかが問題になるかもしれません。
 
参考文献
 
Boedeker, C., Eggert, A., Immers, A. and Wakana, I. 2010. Biogeography of Aegagropila linnaei (Cladophorophyceae, Chlorophyta): a widespread freshwater alga with low
effective dispersal potential shows a glacial imprint in its distribution. Journal of Biogeography 37: 1491–1503.
 
Boedeker, C., O'Kelly, C.J., Star, W.and Leliaert, F. 2012. Molecular phylogeny and taxonomy of the Aegagropila clade (Cladophorales, Ulvophyceae), including the description of Aegagropilopsis gen. nov. and Pseudocladophora gen. nov. Journal of Phycology 48: 808-825.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2012. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 19 May 2012.
 
Hanyuda, T., Wakana, I., Arai, S., Miyaji, K., Watano, Y. and Ueda, K. 2002. Phylogenetic relationships within Cladophorales(Ulvophyceae, Chlorophyta)inferred from 18SrRNA gene sequences, with special reference to Aegagropila linnaei. Journal of Phycology 38: 564-571.
 
Hoek, C. van den 1963. Revision of the European species of Cladophora. Proefschrift...Rijksuniversiteit te Leiden. 248 pp. E.J. Brill, Leiden.
 
Kützing, F.T. 1843. Phycologia generalis oder Anatomie, Physiologie und Systemkunde der Tange... Mit 80 farbig gedruckten Tafeln, gezeichnet und gravirt vom Verfasser. pp. 143-458. F.A. Brockhaus, Leipzig.
 
Linnaeus, C. 1753. Species plantarum, exhibentes plantas rite cognitas, ad genera relatas, cum differentiis specificis, nominibus trivialibus, synonymis selectis, locis natalibus, secundum systema sexuale digestas. Vol. 2 pp. 561-1200. Impensis Laurentii Salvii, Holmiae.
 
Nagai, M. 1940. Marine algae of the Kurile Islands, I. Journal of the Faculty of Agriculture, Hokkaido Imperial University 46: 1-137.
 
Okada, Y. 1957. On a new variety of Aegagropila sauteri found in Lake Yamanaka. Bulletin of the Faculty of Fisheries,Nagasaki University 5:30-33.
 
Sakai, Y. 1964. The Species of Cladophora from Japan and its Vicinity. Scientific papers of the Institute of Algological Research, Faculty of Science, Hokkaido University 5: 1-104.
 
芹澤(松山)和世・金原昂平・米谷雅俊・渡邊広樹・白澤直敏・田口由美・神谷充伸・芹澤如比古 2015. 富士北麓、精進湖と本栖湖におけるフジマリモの発見(予報).富士山研究 9: 1-6.
 
芹澤(松山)和世・安田泰輔・中野隆志・芹澤如比古 2009. 山中湖におけるフジマリモの再発見.富士山研究 3: 13-18.
 
Trevisan, V.B.A. 1845. Nomenclator algarum, ou collection des noms imposées aux plantes de la famille des algues. Vol. 1 pp. 1-80. Padoue.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ緑色植物亜界アオサ藻綱シオグサ目
 
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