ミゾオキツノリ Fredericqia chiharae
作成者:鈴木雅大 作成日:2021年3月31日
 
ミゾオキツノリ(溝興津海苔)
Fredericqia chiharae Mas. Suzuki & Kityama 2021: .
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),オキツノリ科(Family Phyllophoraceae),ミゾオキツノリ属(Genus Fredericqia
 
その他の異名
  Gymnogongrus incurvatus Chihara nom. nud. [裸名]
 
Type locality: 千葉県 銚子市 外川町
Holotype specimen: TNS-AL 209185(国立科学博物館 植物研究部 標本庫)
 
分類に関するメモ:吉﨑 (2008) は,ミゾオキツノリ(Gymnogongrus incurvatus Chihara)を未発表種(nomen ineditus)として掲載しました。国立科学博物館植物研究部標本庫に収められていた標本に付けられていたラベルを引用したもので,裸名(nomen nudum)に相当します。Suzuki & Kitayama (2021)はミゾオキツノリをFredericqia属の新種として記載しました。
 
ミゾオキツノリ Fredericqia chiharae
 
ミゾオキツノリ Fredericqia chiharae
撮影地:千葉県 銚子市 外川町;撮影日:2017年5月12日;撮影者:鈴木雅大
 
ミゾオキツノリ Fredericqia chiharae
雌性配偶体(採集地:千葉県 銚子市 外川町;採集日:2017年5月12日;採集者:鈴木雅大)
 
正基準標本(Holotype)としたサンプルです。
 
ミゾオキツノリ Fredericqia chiharae
 
ミゾオキツノリ Fredericqia chiharae
撮影地:千葉県 銚子市 外川町;撮影日:2013年6月23日;撮影者:鈴木雅大
 
ミゾオキツノリは,千葉県銚子半島の波当たりが強い岩上に生育する紅藻で,一部の藻類研究者の間では長い間銚子半島の未記載種として知られてきました。国立科学博物館植物研究部の標本庫には「ミゾオキツノリ Gymnogongrus incurvatus」とラベルの付いた標本が80点以上収蔵されており,その内の58点は故 千原光雄先生(筑波大学名誉教授)が1970年代に銚子半島で採集し,標本とされたものです。ミゾオゴノリ(Gracilaria incurvataのように枝が内側に反るのが特徴です。本州太平洋沿岸では他に見間違えそうな種類はなく,どちらかと言えば同定しやすい種類ですが,どういうわけか40年以上もの間,未記載種として取り残されておりました。著者の恩師 故吉﨑 誠先生(東邦大学名誉教授)は,銚子半島の採集地案内においてミゾオキツノリを未記載種として掲載しましたが(吉﨑 2008),紹介に留めたのみで,依然として裸名(nomen nudum)となっていました。著者は銚子半島で海藻採集を行うことが多いのでミゾオキツノリのサンプルは持っていたのですが,オキツノリ科の分類や生殖器官の観察を行ったことがなく,どちらかと言えば苦手意識があったため,存在は知りつつも研究対象とすることはありませんでした。しかし,2017年から鹿児島県馬毛島沖の紅藻を網羅的に観察するようになり,オキツノリ科の分類について学ぶ機会が増えました。観察に足る知識と技術がある程度身に付いてきたことから,改めてミゾオキツノリの観察を始め,遺伝子解析と形態観察を元にFredericqia属の新種として記載しました。

ミゾオキツノリを正式に記載するに当たり,学名はミゾオキツノリの発見・命名者である千原光雄先生を著者名に入れた"Fredericqia incurvata (Chihara) Mas. Suzuki & Kitayama"としたかったのですが,ミゾオキツノリがオキツノリ属(Gymnogongrus)ではなくFredericqia属であったため,著者名として"Chihara"を入れることが出来ませんでした。国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN)において,著者名は正式発表された著者しか引用することが出来ないため(ICN 46.1条),"Gymnogongrus incurvatus Chihara"を基礎異名としてFredericqia属との新組み合わせを行うためには,"Gymnogongrus incurvatus Chihara ex Mas. Suzuki & Kitayama"を正式に記載した後,Fredericqia属に組み替える必要があります。しかし,ICNにおいて,1本の論文上で種の記載と属の組み替えを同時に行うことは出来ないことから(ICN 36.2条,注),悩んだ末,千原先生に献名する形でFredericqia chiharae Mas. Suzuki & Kitayamaとしました。

注."Gymnogongrus incurvatus"を記載する論文と,"G. incurvatus"をFredericqia属に組み替える論文を別々に出せば可能ではありますが,さすがにそこまでは出来ませんでした。

後日,ある方から「千原先生,吉﨑先生,鈴木先生と3代受け継がれたミゾオキツノリが日の目を見たことは実に感慨深いです」とのメールを頂きました。千原先生は吉﨑先生の先生であるため,著者は千原先生の孫弟子に当たります。そこまで深く考えてはいなかったのですが,改めて「Fredericqia chiharae」という名前を眺め,不思議な縁を感じました。

 
体の横断面
体の横断面
 
嚢果を付けた枝
嚢果を付けた枝
 
嚢果を付けた枝の横断面
 
嚢果を付けた枝の横断面
嚢果を付けた枝の横断面
 
 
参考文献
 
Suzuki, M. and Kitayama, T. 2021. Fredericqia (Phyllophoraceae, Rhodophyta) in the northwestern Pacific, with the description of Fredericqia chiharae sp. nov. Phycologia DOI: 10.1080/00318884.2021.1892399.
 
吉﨑 誠 2008. 藻類採集地案内 千葉県銚子半島. 藻類 56: 217-224.
 

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