キシュウモズク Cladosiphon umezakii |
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作成者:鈴木雅大 作成日:2016年3月13日(2019年5月11日更新) |
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キシュウモズク(紀州水雲,紀州海蘊,紀州藻付) |
Cladosiphon umezakii Ajisaka in Ajisaka et al. 2007: 197. Figs 2-11. |
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不等毛植物門(Phylum Heterokontophyta),クリシスタ(Chrysista),褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ亜綱(Subclass Fucophycidae),シオミドロ目(Order Ectocarpales),ナガマツモ科(Family Chordariaceae),オキナワモズク属(Genus Cladosiphon) |
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* 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),ナガマツモ目(Order Chordariales),ナガマツモ科(Family Chordariaceae),オキナワモズク属(Genus Cladosiphon) |
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Type locality: 和歌山県 串本町 錆浦 |
Holotype specimen: SAP100676(北海道大学大学院理学研究科植物標本庫) |
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撮影地:三重県 志摩市 志摩町 片田;撮影日:2017年4月14日;撮影者:鈴木雅大 |
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撮影したときは気が付きませんでしたが,本種の後ろ(左上)にムチモ(Mutimo cylindricus)が映り込んでいます。共に細い円柱形をしているため,気にしていないと見過ごすことがあります。 |
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撮影地:三重県 志摩市 志摩町 片田;撮影日:2017年4月14日;撮影者:鈴木雅大 |
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体が太めでフトモズク(Tinocladia crassa)のように見える個体です。切片を作製し,顕微鏡で確認・同定しました。モズク類の同定は,切片作製と顕微鏡観察が重要です(後述)。 |
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体構造(上)と単子嚢を形成した枝(下)の顕微鏡写真 |
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オキナワモズク属(Cladosiphon)には内皮層がなく,髄層と皮層が密に接しています。本種と見間違える可能性が最も高いであろうフトモズク(Tinocladia crassa)とは,内皮層の有無で区別されます。また,皮層を構成する同化糸が長いことが本種の特徴で,同属のオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)と種を分ける特徴の一つとなっています。Ajisaka et al. (2007)によると,本種は同化糸の長さが400-800 μm,同化糸を構成する細胞数が26-90個ですが,オキナワモズクでは同化糸の長さが150-250 μm,同化糸を構成する細胞数が5-20個です。 |
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撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2016年3月10日;撮影者:鈴木雅大 |
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本種はオキナワモズク(Cladosiphon okamuranus)に近縁な種で,オキナワモズクが沖縄及び南西諸島に分布しているのに対し,本種は紀伊半島,淡路島南東部,徳島県,本州日本海沿岸中部,長崎県,熊本県などで生育が確認されています。著者は2016年まで本種の存在を認識していなかったのですが,ある日,ラボのボスから「フトモズク(Tinocladia crassa)を採ってきて欲しい」という依頼を受け,採集したのが本種でした。採集した際,「フトモズクにしては細いし,オキナワモズクみたいだな。」と多少引っかかるものはあったのですが,特に気にせず「フトモズク」として届けたところ,ボスに「これキシュウモズクだよ!」と言われ,愕然としました。著者を始め,海藻学を学ぶ人の多くは,ある地域の海藻相を調べ,様々な海藻を覚えるところから海藻研究が始まっています。海藻類の勉強の中で,「モズク類の属の違い」は基本中の基本で,体構造を顕微鏡で観察し,属の違いを勉強します。オキナワモズク属(Cladosiphon)とフトモズク属(Tinocladia)は,顕微鏡で観察すれば違いが一目瞭然で,顕微鏡観察をサボらなければ誤同定はあり得ません。採集した時に違和感があったのに,なぜ顕微鏡で観察して確かめなかったのか…。師匠である故 吉﨑 誠 先生(東邦大学名誉教授)がおられたら,「この未熟者め!」とお叱りを受けたかもしれません。海藻研究において顕微鏡観察をサボってはいけないという良い教訓(何度目だろうか…)になりました。2017年に三重県志摩町で本種を採集したときは間違えませんでした。 |
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撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 竹野 大浦湾;撮影日:2019年5月8日;撮影者:鈴木雅大 |
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兵庫県竹野の水深3 m位で撮影したキシュウモズクです。竹野は2016年にタジマモズク(Cladosiphon takenoensis)という新種が記載された場所です。Kawai et al. (2016)によると,キシュウモズクとタジマモズクは混生し,同じ岩の上に2種類生えることもあるそうです。タジマモズクは同化糸が長く,水中でもキシュウモズクと見分けることが出来るようですが,残念ながら著者が撮影したものの中にタジマモズクらしいものは見つかりませんでした。 |
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参考文献 |
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Ajisaka, T., Kim, S.-H., Uwai, S. and Kawai, H. 2007. Cladosiphon umezakii sp. nov. (Ectocarpales, Phaeophyceae) from Japan. Phycological Research 55: 193-202. |
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Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2016. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 13 March 2016. |
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Kawai, H., Hanyuda, T., Kim, S.-H., Ichikawa, Y., Uwai, S. and Peters, A.F. 2016. Cladosiphon takenoensis sp. nov. (Ectocarpales s.l., Phaeophyceae) from Japan. Phycological Research 64: 212-218. |
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吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
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