アラメ Eisenia bicyclis |
作成者:鈴木雅大 作成日:2013年11月11日(2020年1月26日更新) |
アラメ(荒布) |
Eisenia bicyclis (Kjellman) Setchell 1905: 129. |
不等毛植物門(Phylum Heterokontophyta),クリシスタ(Chrysista),褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ亜綱(Subclass Fucophycidae),コンブ目(Order Laminariales),ネコアシコンブ科(Family Arthrothamnaceae),アラメ属(Genus Eisenia) |
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),コンブ目(Order Laminariales),コンブ科(Family Laminariaceae),アラメ属(Genus Eisenia) |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),コンブ目(Order Laminariales),カジメ科(Family Lessoniaceae),アラメ属(Genus Eisenia) |
掲載情報 |
岡村 1927: 140. Pls 238, 239; 1936: 268. Fig. 150; 新崎 1953: 49. Fig. 1; 川嶋 1989: 138. Pl. 45, Fig. 35; 寺脇 1993: 132, 133. Fig. 66; 吉田 1998: 346, 347. |
Homotypic synonyms |
Ecklonia bicyclis Kjellman in Kjellman & Petersen 1885: 269; 岡村 1890: 242-244. Pl. 9; 1902: 135; 1916: 176. |
Eisenia arborea f. bicyclis (Kjellman) Yendo 1911: 410. Figs 128, 129. |
Heterotypic synonym |
Capea elongata G. Martens 1868: 113-114. Pl. 5. |
Misapplied names |
Capea flabelliformis auct. non (A.Richard) Hooker f. & Harvey (1845: 528): Martens 1868: 113. |
Ecklonia cava auct. non Kjellman in Kjellman & Petersen (1885: 273. Pl. 10, Figs 7, 8): 岡村 1890: 275. Pl. 10, Figs 1, 2. |
Syntype localities: 横浜,長崎. |
Type specimen: 情報なし。 |
撮影地:静岡県 下田市 須崎 恵比須島;撮影日:2017年5月28日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:静岡県 下田市 須崎 恵比須島;撮影日:2014年5月14日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:神奈川県 三浦市 三崎町 小網代 荒井浜;撮影日:2014年5月18日;撮影者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 大浦海岸;採集日:2005年5月10日;採集者:鈴木雅大) |
Rothman et al. (2015) は,アラメ属(Eisenia)をアントクメ属(Eckloniopsis)と共にカジメ属(Ecklonia)に含めました。Rothman et al. (2015) による分子系統解析では,アラメ属とカジメ属が単系統群を形成するものの,解像度は高くありませんでした。Kawai et al. (2020)は解析に用いる遺伝子を増やし,アントクメを含むカジメ属は単系統群となるものの,アラメ属は側系統群としてカジメ属と分かれることから,アラメ属を独立の属として再評価しました。カジメ属とは分かれたものの,アラメ属は側系統群となるため,アラメ属を1つのまとまった属と扱って良いのか,複数の属に分けるのが妥当かなど,アラメ属を分類学的にどう扱うかは更なる検討が必要でしょう。
属もさることながら,アラメは種の分類に問題を抱えています。Eisenia bicyclisの学名が一般的に使われていますが,アラメに相当する種の学名として,Harvey (1860) が下田で記載したEcklonia wrightii とMartens (1868) が江戸(東京)で記載したCapea elongataの2種類が知られています(注1)。いずれもアラメであると考えられ,記載された年からすると,命名規約における優先権の原則から,最も先に記載されたEc. wrightiiがアラメの正しい種名となる可能性があります。Ecklonia wrightiiについてはDawson (1959) に形態の詳細が掲載されており,吉田(1998)はEc. wrightiiが命名法上,Ei. bicyclisに優先する可能性について言及しています。1995年に函館市立函館博物館で開催された「黒船が採集した箱館の植物標本里帰り展」では,下田で採集されたEc. wrightiiの押し葉標本を「アラメ」の名前で展示しており(注2),Ec. wrightiiがアラメであることはほぼ間違いないと思われます。アラメの分類を正しく整理するならば,現在一般的に用いられているEi. bicyclisを保存名として提唱するか,Ec. wrightiiをEisenia属に組み替え,Ei. bicyclisを"Eisenia wrightii"の異名同種(シノニム)とするかのいずれかではないかと思いますが,Ec. wrightiiは複数の文献で取り上げられ,それなりに知られている学名なので,Ei. bicyclisの保存名の提唱は難しいかもしれません。いずれにしろ分類学的研究が俟たれてます。 注1. 岡村(1890, 1902)は,Capea elongataをアラメの異名としています。 注2.Harvey (1860)が記載した日本産海藻は,黒船(ペリー艦隊とロジャース艦隊)が日本に寄港した際に採集されたもので,Ec. wrightiiはロジャース艦隊に乗船していたチャールズ・ライト(Charles Wright, 1811-1886)が下田で採集したものです。 |
千葉県銚子半島のアラメ |
撮影地:千葉県 銚子市 長崎町 酉明浦;撮影日:2017年5月12日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:千葉県 銚子市 外川町;撮影日:2013年6月23日;撮影者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:千葉県 銚子市 犬若 外川漁港;採集日:2005年1月8日;採集者:鈴木雅大) |
千葉県銚子半島に生育するアラメは,アラメの特徴の一つである葉状部の皺が無いか,あってもわずかな程度しか発達しません。銚子半島以外でもこのようなアラメが生育している場所があるのか,あるならば生育環境に共通点があるのかなどを知りたいところです。 |
参考文献 |
新崎盛敏 1953. アラメに就て.藻類 1: 49-53. |
Dawson, E.Y. 1959. William H. Harvey's report on the marine algae of the United States North Pacific exploring expedition of 1853-1856. Pacific Naturalist 1: 1-40. |
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 11 November 2013. |
Harvey, W.H. 1860. Characters of new algae, chiefly from Japan and adjacent regions, collected by Charles Wright in the North Pacific Exploring Expedition under Captain James Rodgers. Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences 4: 327-335. |
Hooker, J.D. and Harvey, W.H. 1845. Algae Novae Zelandiae. London Journal of Botany 4: 521-551. |
Kawai, H., Akita, S., Hashimoto, K. and Hanyuda, T. 2020. A multigene molecular phylogeny of Eisenia reveals evidence for a new species, Eisenia nipponica (Laminariales), from Japan. European Journal of Phycology 55: 234-241. |
川嶋昭二 1989. 日本産コンブ類図鑑.215 pp. 北日本海洋センター,札幌. |
Kjellman, F.R. and Petersen, J.V. 1885. Om Japans Laminariaceer. Vega-expeditionens Vetenskapliga Iakttagelser, Stokholm 4: 255-280. |
黒船が採集した箱館の植物標本里帰り展開催運営委員会 編.1995. ペリー生誕200周年 黒船が採集した箱館の植物標本里帰り展 図録.71 pp. 黒船が採集した箱館の植物標本里帰り展開催運営委員会,函館. |
Martens, G. von 1868. Die Tange. Die Preussische Expedition nach Ost-Asien. Nach amtlichen Quellen. Botanischer Theil. 152 pp. Verlag de Königlichen Geheimen Ober-Hofbuchdruckerei, Berlin. |
岡村金太郎 1890. 本邦産かぢめ屬の種類及養殖.植物學雑誌 4: 242-244, 275, 276. |
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京. |
岡村金太郎 1916. 日本藻類名彙 第2版.362 pp. 成美堂,東京. |
岡村金太郎 1927. 日本藻類圖譜 第5巻 第8集.東京.*自費出版 |
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京. |
Rothman, M.D., Mattio, L., Wernberg, T., Anderson, R.J., Uwai, S., Mohring, M.B. and Bolton, J.J. 2014 '2015'. A molecular investigation of the genus Ecklonia (Phaeophyceae, Laminariales) with special focus on the southern hemisphere. Journal of Phycology 51: 236-246. |
Setchell, W.A. 1905. Post-embryonal stages of the Laminariaceae. University of California Publications in Botany 2: 115-138. |
寺脇利信 1993. Eisenia bicyclis (Kjellman in Kjellman et Petersen) Setchell(アラメ).In: 堀 輝三(編) 藻類の生活史集成 第2巻 褐藻・紅藻類.pp. 132, 133. 内田老鶴圃,東京. |
遠藤吉三郎 1911. 海産植物学.748 pp. 博文館,東京. |
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌. 1222 pp. 内田老鶴圃, 東京. |
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189. |
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