ヤツマタモク Sargassum patens
作成者:鈴木雅大 作成日:2012年5月3日(2019年5月11日更新)
 
ヤツマタモク(八ツ股藻屑)
Sargassum patens C. Agardh 1820: 27.
 
黄藻植物(オクロ植物)門(Phylum Ochrophyta),褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ亜綱(Subclass Fucophycidae),ヒバマタ目(Order Fucales),ホンダワラ科(Family Sargassaceae),ホンダワラ属(Genus Sargassum),ホンダワラ亜属(Subgenus Sargassum
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ目(Order Fucales),ホンダワラ科(Family Sargassaceae),ホンダワラ属(Genus Sargassum
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:褐藻綱(Class Phaeophyceae),ヒバマタ目(Order Fucales),ホンダワラ科(Family Sargassaceae),ホンダワラ属(Genus Sargassum
 
Homotypic synonym
  Halochloa patens (C. Agardh) Kützing 1843:
Heterotypic synonym
  Fucus patens C. Agardh 1815: 242. nom. illeg.
 
Type locality: in mari Japonico. 日本沿岸のどこか。長崎附近と考えられています。
Type specimen: LD. herb. Agardh 2838. (Lund University, Sweden)
 
日本海側で撮影・採集したもの
 
ヤツマタモク Sargassum patens
 
ヤツマタモク Sargassum patens
 
ヤツマタモク Sargassum patens
 
ヤツマタモク Sargassum patens
撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 大浦湾;撮影日:2015年5月8日;撮影者:鈴木雅大
 
撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 大浦湾;撮影日:2019年5月8日;撮影者:鈴木雅大
 
日本海沿岸では藻場の代表種として知られています。兵庫県竹野(日本海沿岸)で調査をしたときは高さ3メートルを超える本種が見事な海中林を形成していました。また,ほとんど全ての個体にモズク(Nemacystis decipiensエゴノリ(Campylaephora hypnoidesが着生しており,有用海藻の着生基質(宿主)として重要な役割を担っていると思いました。
 
ヤツマタモク Sargassum patens
 
ヤツマタモク Sargassum patens
 
ヤツマタモク Sargassum patens
撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 大浦湾;撮影日:2016年12月26日;撮影者:鈴木雅大
 
ヤツマタモク Sargassum patens
押し葉標本(採集地:新潟県 佐渡郡 小木町 矢島(現 佐渡市 小木 矢島);採集日:2002年11月7日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤツマタモク Sargassum patens
葉と気胞
 
ヤツマタモク Sargassum patens
押し葉標本(採集地:新潟県 両津市 鷲崎(現 佐渡市 鷲崎);採集日:2002年3月10日;採集者:鈴木雅大)
 
本州太平洋沿岸中部で採集した標本
 
多くのホンダワラ類と同じく,本種も日本海側と太平洋側とで形態が大きく異なります。以下は太平洋側で採集した標本です。太平洋側の個体は日本海側のものと比べて葉が幅広い傾向があります。
 
ヤツマタモク Sargassum patens
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 大浦海岸;採集日:2005年5月10日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤツマタモク Sargassum patens
 
ヤツマタモク Sargassum patens
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 沖ノ島;採集日:2006年1月1日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤツマタモク Sargassum patens
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 沖ノ島;採集日:2006年2月4日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤツマタモク Sargassum patens
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 船形;採集日:2006年2月4日;採集者:鈴木雅大)
 
ヤツマタモク Sargassum patens
分岐した葉
 
形態変異の激しい種類で,同種なのか別種なのか専門家でも判断に悩みます。特に葉の形態は時期や場所によって全く異なる様相を呈することが良くあります。千葉県館山市で採集した標本の葉は,細くて糸状に近いものから幅が広く縁に鋸歯を持つものなど様々ですが,気胞に冠葉を持つことからマメタワラ(Sargassum piluliferumエンドウモク(S. yendoiなどの近似種と区別しています。Yendo (1907) が藻体の一部を基に記載したシロコモク(S. kushimotense)がこれに相当するかもしれないと悩んだこともありました。シロコモクは,選定基準標本が藻体の一部であることなどから未だ分類学的な問題があるものの,島袋 (2016b) は現時点でシロコモクと同定出来るサンプルの形態的特徴を詳細に観察しており,シロコモクの特徴の一つとして「生殖器床に棘が生じること」を挙げています。残念ながら千葉県館山のサンプルで生殖器床を付けた個体はこれまで一度も採集出来ていないため,確実な同定とは言えませんが,島袋 (2016b) が示した特徴の中で,気胞の冠葉が「その個体の葉に類似し,細長い披針形で縁辺は波打ち,細かな鋸歯が生じている」という特徴には当てはまらないことから,千葉県館山のサンプルをヤツマタモクであると判断しました。,島袋 (2016a, b)が挙げた2種の分布を見ても,千葉県産のサンプルはヤツマタモクである可能性が高いと思います。

千葉県館山などで,ヤツマタモクかシロコモクか分からない個体が多数見つかる件で,「何かしらの雑種ではないか?」と考えることがあります。いくら探しても生殖器床を付けた個体が見つからないのは,雑種第一代(F1)のため,生殖能力を持たないとは考えられないでしょうか。ホンダワラに近い仲間では,ニュージーランドの固有属であるCarpophyllumで雑種形成が確認されています(Hodge et al. 2010)。今のところ,著者の憶測の域を出ないものですが,このグループの形態変化を読み解く一つのヒントになるかもしれません。

 
参考文献
 
Agardh, C.A. 1815. Anmårkningar om Fucus Pilulifer Turn. och beskrifning af tvenne nya dermed nårslågtade arter. Kungliga Vetenskaps Akademiens Handlingar 1815: 241-245.
 
Agardh, C.A. 1820. Species algarum. Vol. 1. 168 pp. ex officina Berlingiana, Lundae.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2012. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 3 May 2012.
 
Hodge, F.J., Buchanan, J. and Zuccarello, G.C. 2010. Hybridization between the endemic brown algae Carpophyllum maschalocarpum and Carpophyllum angustifolium (Fucales): Genetic and morphological evidence. Phycological Research 58: 239-247.
 
島袋寛盛 2016a. 日本産南方系ホンダワラ属 20回目:南日本産ヤツマタモクSargassum patens. 海洋と生物 38: 89-93.
 
島袋寛盛 2016b. 日本産南方系ホンダワラ属 21回目:シロコモクというホンダワラ. 海洋と生物 38: 177-182.
 
Yendo, K. 1907. The Fucaceae of Japan. Journal of the College of Science, Tokyo Imperial University 21: 1-174.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌. 1222 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189.
 

写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインS A Rストラメノパイル黄藻植物(オクロ植物)門褐藻綱 ヒバマタ目ホンダワラ科ホンダワラ属

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