ナガミヒナゲシ Papaver dubium
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年5月5日(2018年4月21日更新)
 
ナガミヒナゲシ(長実雛罌粟)
Papaver dubium Linnaeus, 1753
 
維管束植物門(Phylum Tracheophyta),種子植物亜門(Subphylum Spermatophytina),被子植物("Angiospermae"),モクレン綱(Class Magnoliopsida),キンポウゲ上目(Superorder Ranunculanae),キンポウゲ目(Order Ranunculales),ケシ科(Family Papaveraceae),ケシ亜科(Subfamily Papaveroideae),ケシ属(Genus Papaver
 
新エングラー体系:被子植物門(Phylum Angiospermae),双子葉植物綱(Class Dicotyledoneae),古生花被植物亜綱(Subclass Archichlamydeae),ケシ目(Order Papaverlales),ケシ科(Family Papaveraceae)
クロンキスト体系:被子植物門(Phylum Magnoliophyta),モクレン綱(Class Magnoliopsida),モクレン亜綱(Subclass Magnoliidae),ケシ目(Order Papaverlales),ケシ科(Family Papaveraceae)
 
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
 
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
撮影地:千葉県 柏市 豊四季;撮影日:2011年5月4日;撮影者:鈴木雅大
 
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
 
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
 
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
撮影地:千葉県 柏市 豊四季;撮影日:2010年5月16日;撮影者:鈴木雅大
 
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
 
ナガミヒナゲシ Papaver dubium
撮影地:千葉県 柏市 加賀第一公園;撮影日:2018年4月16日;撮影者:鈴木雅大
 
地中海地方原産の外来種で,1961年に東京都世田谷でみつかり,現在は市街地や道端の至るところでみられます。2000年代初め頃,著者が所属していた故 吉﨑 誠 先生(東邦大学名誉教授)の研究室では,セイヨウタンポポブタナなどの帰化植物の千葉県における分布や種子発芽特性などを研究テーマとしていました。著者自身は海藻を専門にしていたので,本格的に研究に取り組んだのは学部の3~4年次まででしたが,卒業研究や高等学校の先生方の研究を間近で見せて頂くことが出来ました。当時,千葉県においてナガミヒナゲシの分布が年々広がっていると考えられたことから,種子発芽特性に注目し,種子の発芽率,種子の数などを調べていました。残念ながら種子発芽実験はうまくいかず,発芽率は0.5%以下となり,休眠・貯蔵など,発芽に何らかの条件が必要なことは示唆されたものの,解明には至りませんでした。その後,吉田ら (2009) がナガミヒナゲシの種子発芽特性を調べ,種子の貯蔵及び変温条件にすることで高い発芽率を得られることが分かりました。
 
ナガミヒナゲシの種子の数
 
ナガミヒナゲシの果実(蒴果)と種
果実(蒴果)と種(採集地:千葉県 柏市 豊四季;採集日:2010年5月16日)
 
過去のゼミのレジュメを読み返していると,ナガミヒナゲシの種子の数について,吉﨑先生が面白いデータを残されていました。ケシの仲間の種子は「けし粒」と呼ばれるように,長径0.7 mm程度しかなく,しかも1個の果実(蒴果)に1,000個以上の種子が入っています。これを正確に数えるのは至難の業かと思うのですが,吉﨑先生は,単に種子の数を数えるだけではなく,稔った種子と不稔の種子(秕)とをきっちり分けて数えておられました。植物の種子は,全てが発芽するわけではなく,実入りが悪く発芽しない種子,すなわち不稔の種子もあります。発芽率を正確に測るには,1個体あるいは1個の果実当たりの稔った種子と不稔の種子とを区別する必要があります。とはいえ,「けし粒」のような種子の中からどうやって不稔の種子を見分ければ良いのでしょうか。吉﨑先生は,薬包紙の上で,種子が転がるかどうかで区別しておられました。不稔の種子は転がらないので,転がる種子,転がらない種子を選別し,それぞれの種子の数を計測されました。計測はピンセットで1個ずつ取り分けるという「超」が付くほど地道な作業です。一心不乱に種子を数える師匠の背中は忘れられません。吉﨑先生によると1個の果実の種子を数えるのに45分から1時間かかったそうです。かくして吉﨑先生が数えた種子の数は以下の通りです。
 
25個の果実(蒴果)の平均:2,245個(採集地:千葉県習志野市大久保;採集日:2009年5月14日)*全種子数。不稔の種子は区別せず。
15個の果実(蒴果)の平均:稔った種子 3,114個,不稔の種子 710個(採集地:千葉県習志野市花咲;採集日:2009年5月22日)
 
結果として,2地点で種子の数に大きな差が出ました。果実の大きさは2地点でほぼ変わらないので,この違いが何を示すものなのか,今のところ良く分かりません。また,藤井 (2011) は,ナガミヒナゲシの1個の果実当たりの種子数は約1,600粒と述べています。データが多くないので何とも言えませんが,ナガミヒナゲシの生産種子数は場所や生育条件によってかなりバラつきがあるのかもしれません。各地のナガミヒナゲシの種子数を計測し,比較する必要があるでしょう。
 
参考文献
 
藤井義晴 2011. 春に気をつける外来植物:ながみひなげし.農環研ニュース 90: 3-5.
 
邑田 仁 監修.米倉浩司 著.2012. 日本維管束植物目録.379 pp. 北隆館,東京.
 
米倉浩司・梶田忠 2003-「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info(2011年2月1日閲覧).
 
吉田光司・金澤弓子・鈴木貢次郎・根本正之 2009. 種子発芽特性からみたナガミヒナゲシの日本の生育地.雑草研究 54: 63-70.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ緑色植物亜界有胚植物上門被子植物キンポウゲ上目ケシ科
 
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