カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年2月8日(2021年4月22日更新)
 
カワモズク(川水雲,川藻付)
Batrachospermum gelatinosum (Linnaeus) De Candolle 1801: 21.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),カワモズク目(Order Batrachospermales),カワモズク科(Family Batrachospermaceae),カワモズク属(Genus Batrachospermum
 
* 熊野(2000)「世界の淡水産紅藻」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),カワモズク目(Order Batrachospermales),カワモズク科(Family Batrachospermaceae),カワモズク属(Genus Batrachospermum
 
掲載情報
吉﨑 1998: 332. Fig. 5-70E; 熊野 2000: 87, 89, 91. Pl. 40, Figs 1-5. Pl. 41; 2002: 86, 88. Pl. 46, Figs 1-5. Pl. 47; 熊野ら 2002: 30; 2007: 211-212; 小林 2005: 24.
 
Basionym
  Conferva gelatinosa Linnaeus 1753: 1166.
Heterotypic synonym
  カワモズク Batrachospermum moniliforme Roth 1800: 480. nom. illeg.; Mori 1975: 473. Pl. 2, Fig. 6; 熊野・廣瀬 1977: 265. Pl. 58, Figs 1a-d.
  ヒラカワモズク Batrachospermum decaisneanum Sirodot 1884: 214-216. Pl. 1, Fig. 4. Pl. 10, Figs 1-10; Mori 1975: 471-472. Pl. 2, Fig. 9. (Type locality: Coulon, France)
  Batrachospermum radians Sirodot 1884: 218-219. Pl. 1, Fig. 5. Pl. 2, Figs 4, 6-13; Mori 1975: 471. Pl. 1, Fig. 19. Pl. 2, Fig. 20. Pl. 7, Fig. 2. (Type locality: Côtes-du-Nord, France)
  ベニカワモズク Batrachospermum reginense Sirodot 1884: 219-222. Pl. 15, Fig. 5. Pl. 16, Figs 6-10; Mori 1975: 471. Pl. 7, Fig. 4. (Type locality: Guichen, France)
  Batrachospermum corbula Sirodot 1884: 226-228. Pl. 5, Figs 1-3. Pl. 6, Figs 9-11. (Type locality: Saint-Jacques-de-la-Lande, France)
  Batrachospermum densum Sirodot 1884: 228-230. Pl. 12, Figs 1, 2. Pl. 13, Figs 1-11. Pl. 14, Figs 1-8. (Type locality: Chapelle-Chaussée, France)
  Batrachospermum pygmaeum Sirodot 1884: 230-232. Pl. 19, Figs 1-7. (Type locality: Plélan-le-Grand, France)
  Batrachospermum pyramidale Sirodot 1884: 232-235. Pl. 15, Figs 1-4. Pl. 16, Figs 1-5. Pl. 17, Figs 1-6. nom. illeg. (Type locality: France)
  コカワモズク Batrachospermum godronianum Sirodot 1884: 235-238. Pl. 18, Figs 1-9; Mori 1975: 470. Pl. 1, Fig. 13. Pl. 2, Figs 10, 18. Pl. 7, Fig. 3. (Type locality: Bourgbarré, France)
  ニホンカワモズク Batrachospermum japonicum Mori 1975: 470. Pl. 3; 熊野ら 2002: 30; 2007: 212; Yoshizaki 2002: 124, 126. Figs 1-4; 洲澤ら 2010: 4-5. Fig. 4. (Type locality: 栃木県 足利市 神明宮. Holotype specimen: TNS-AL 35555(国立科学博物館植物研究部標本庫))
  フサナリカワモズク Batrachospermum polycarpum Mori 1975: 474. Pl. 1, Fig. 15. Pl. 2, Figs 8, 11, 12. Pl. 5, Figs 1-11. Pl. 6, Fig. 4. (Type locality: 長野県 須坂市 井上)
  この他多数の異名(シノニム)が知られています(Kumano 2002, Algaebase参照)。
 
Type locality: Europe.
Type:
 
環境省レッドリスト2019:絶滅危惧II類(VU);千葉県レッドリスト植物・菌類編(2017年度改訂版):一般保護生物(D);東京都レッドリスト(本土部)2020年版:絶滅危惧II類(VU)
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
撮影地:栃木県 足利市 南大町 神明宮(芋の森神社 弘法の池);撮影日:2008年7月13日;撮影者:鈴木雅大
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
押し葉標本(採集地:栃木県 足利市 南大町 神明宮(芋の森神社 弘法の池);採集日:2008年9月29日;採集者:鈴木雅大)
 
カワモズクの仲間は,里山や湧水で見られる代表的な淡水紅藻類です。身近な生き物,かつ稀少な生き物として紹介される事が多いのですが,種同定が難解な上,分類そのものが混乱しているグループです。

ニホンカワモズクは栃木県 足利市 神明宮で記載された日本固有種です。熊野 (2000) はニホンカワモズクをカワモズク(B. gelatinosum)の異名同種(シノニム)とし,Algaebaseにおいてもカワモズクの異名同種(シノニム)とされていますが,環境省のレッドリスト等ではニホンカワモズクが独立した種として扱われています。著者の恩師である故吉﨑 誠博士(東邦大学名誉教授)は,生前カワモズクの仲間を研究され,ニホンカワモズクについて,体構造と生殖器官の詳細を報告しました(Yoshizaki 2002)。これがレッドリスト等で本種が独立の種として扱われるようになった根拠だと言われています(故 熊野 茂博士 私信,注)。

注. 吉﨑先生がニホンカワモズクを独立種と考えていることは明白なのですが,Yoshizaki (2002) において,ニホンカワモズクとB. gelatinosumとの比較は行われておらず,B. gelatinosumとの違いについてもはっきりとは述べられていないため,ニホンカワモズクとB. gelatinosumを形態的に区別する根拠は不明です。

2010年頃,著者は吉﨑先生から,カワモズクの仲間のDNA抽出と分子系統解析を頼まれました。著者と吉﨑先生が栃木県 足利市 神明宮(タイプ産地)で採集したニホンカワモズクのrbcL遺伝子とcox1遺伝子の塩基配列は,両遺伝子ともにスペイン,イギリス,フランス,アメリカ,カナダ産のB. gelatinosumと近似しており,ニホンカワモズクはB. gelatinosumと同種とするのが妥当と考えられます。本サイトでは,熊野 (2000)及びAlgaebaseに従い,ニホンカワモズクをカワモズクの異名同種(シノニム)としています。普通に考えれば,「ニホンカワモズクとカワモズクは同種でした」で済むのですが,ニホンカワモズクをカワモズクに含めることに抵抗がある方は少なくないようです。ニホンカワモズクは足利市指定の天然記念物に指定されているので,ニホンカワモズクが日本固有種ではなく,日本及び世界各地に広く分布するB. gelatinosumというのは色々と問題があるのかもしれません。そうは言ってもB. japonicumが独立の種ではないことは明らかで,少なくとも関東地方で「ニホンカワモズク B. japonicum」,「カワモズク B. gelatinosum」と呼んでいるものが同種であることは遺伝子解析と形態的特徴の双方から支持されると思います。「東京都レッドリスト(本土部)2020年版」では,ニホンカワモズクはカワモズクの異名とされています(北山・加藤 2021)。

著者は分類学者なので種を正しく認識することを第一としており,ニホンカワモズクはカワモズクと同種であると考えています。しかし,足利市神明宮において,「ニホンカワモズク自生地」のために払われた努力は並々ならぬものがあり,吉﨑先生が遺されたゼミのレジュメには,「ニホンカワモズク保存会」の立ち上げや会誌の発行,観察会の実施の他,ニホンカワモズクを維持するために行われた弘法の池の掃除,周辺の草刈り,着生基質を確保するために渡良瀬川から大量の玉石を運び入れるなどの積年の努力の歴史が綴られています。単なる庭園,公園然とした池ではなく,ニホンカワモズクの生育に適した自然環境を構築し,維持し続けているというのは,生物の保全として大きな成功例ではないかと思います。ニホンカワモズクがカワモズクと同種であるとしても,稀少な淡水産紅藻であることに変わりはなく,神明宮の「ニホンカワモズク」については歴史的価値を尊重しても良いかもしれません。「ニホンカワモズク」をどう扱うのが適当か,分類学者として大変悩ましいところです。

 
参考文献
 
Candolle, A.P. de 1801. Extrait d'un rapport sur les conferves. Bulletin des Sciences par la Société Philomathique de Paris 3: 17-21.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2015. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 6 July 2015.
 
北山太樹・加藤 将 2021. 2. 藻類.In: 東京都環境局自然環境部(編).東京都の保護上重要な野生生物種(本土部)ー東京都レッドリスト(本土部)2020年版ー.pp. 71-75. 東京都環境局自然環境部,東京.
 
小林真吾 2005. 愛媛県において絶滅の恐れのある淡水産藻類の分布に関する記録.愛媛県総合博物館研究報告 10: 23-27.
 
熊野 茂 2000. 世界の淡水産紅藻.395 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
Kumano, S. 2002. Freshwater red algae of the world. 375 pp. Biopress Limited, Bristol.
 
熊野 茂・新井彰吾・大谷修司・香村真徳・笠井文絵・佐藤裕司・飯間雅文・洲澤 譲・田中次郎・千原光雄・中村 武・長谷井稔・比嘉 敦・吉﨑 誠・吉田忠生・渡邉 信 2007. 環境省「絶滅のおそれのある種のリスト」(RL)2007年度版(植物II・藻類・淡水産紅藻)について.藻類 55: 207-217.
 
熊野 茂・廣瀬弘幸 1977. 紅藻綱.In: 廣瀬弘幸・山岸高旺(編)日本淡水藻図鑑.pp. 157-173. 内田老鶴圃,東京.
 
熊野 茂・香村真徳・新井彰吾・佐藤裕司・飯間雅文・洲澤 譲・洲澤多美枝・羽生田岳昭・三谷 進 2002. 1995年以降に確認された日本産淡水産紅藻の産地について.藻類 50: 29-36.
 
Linnaeus, C. 1753. Species plantarum. pp. 561-1200. Impensis Laurentii Salvii, Holmiae.
 
Mori, M. 1975. Studies of the genus Batrachospermum in Japan. Japanese Journal of Botany 20: 461-484.
 
Roth, A.W. 1800. Tentamen florae Germanicae. 578 pp. In Bibliopolio Gleditschiano, Lipsiae.
 
Sirodot, S. 1884. Les Batrachospermes. 299 pp. G. Masson, éditeur Libraire de l'Académie de Médicine, Paris.
 
洲澤 譲・洲澤多美枝・福嶋 悟 2010. 神奈川県および周辺のカワモズク属(淡水紅藻)の分布.神奈川県自然誌資料 31: 1-7.
 
吉﨑 誠 1998. 第4章 第2節 1-(1) 大形緑藻と紅藻類.第5章 陸と淡水の藻類 第2節 1. 紅藻綱 Rhodophyceae.In: 千原光雄 編集代表 千葉県の自然誌本編4 千葉県の植物1.pp. 242-245, 331-334. 千葉県.
 
Yoshizaki, M. 2002. Morphology and taxonomy of the Japanese representative of Batrachospermales, Rhodophyta : thallus structure and reproductive organs of Batrachospermum japonicum Mori. Bulletin of the National Science Museum. Series B (Botany) 28: 121-128.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱ウミゾウメン亜綱
 
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