カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年2月8日(2022年5月22日更新)
 
カワモズク(川水雲,川藻付)
Batrachospermum gelatinosum (Linnaeus) De Candolle 1801: 21.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),カワモズク目(Order Batrachospermales),カワモズク科(Family Batrachospermaceae),カワモズク属(Genus Batrachospermum
 
* 熊野(2000)「世界の淡水産紅藻」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),ウミゾウメン亜綱(Subclass Nemaliophycidae),カワモズク目(Order Batrachospermales),カワモズク科(Family Batrachospermaceae),カワモズク属(Genus Batrachospermum
 
掲載情報
Entwisle & Foard 1997: 352-356. Fig. 11; 吉﨑 1998: 332. Fig. 5-70E; 熊野 2000: 87, 89, 91. Pl. 40, Figs 1-5. Pl. 41; 2002: 86, 88. Pl. 46, Figs 1-5. Pl. 47; 2015: 364; 熊野ら 2002: 30; 2007: 211-212; 小林 2005: 24; 2014: 544; Zhixin 2006: 51-53. Pl. 29, Figs 1-6. Pl. 84, Figs 1-4; Eloranta et al. 2011: 51. Pl. 19, Fig. 2. Pl. 20, Figs 1-6; Pl. 21, Figs 1-6. Pl. 22, Figs 1-6; 原口 2013: 87. Fig. 1; 石戸・原田 2020: 137.
 
Basionym
  Conferva gelatinosa Linnaeus 1753: 1166.
Heterotypic synonyms
  カワモズク Batrachospermum moniliforme Roth 1800: 480. nom. illeg. [非合法名]; 岡村 1902: 12; 1936: 409. Fig. 189; 熊野ら 1962: 200-203; 原口・小林 1969: 63-64. Figs 1-15; 1970: 117. Fig. 2; Mori 1975: 473. Pl. 2, Fig. 6; 熊野・廣瀬 1977: 265. Pl. 58, Figs 1a-d.
  Batrachospermum moniliforme var. rubescens Sirodot 1884: 212. Pl. 1, Figs 1-2. (Type locality: Campénéac, France)
    ≡ アカカワモズク Batrachospermum rubescens (Sirodot) M. Mori 1975: 470-471.
  Batrachospermum moniliforme var. helminthoideum Sirodot 1884: 212-213. Pl. 4, Figs 1-2. (Syntype localities: France)
    ≡ Batrachospermum helminthoideum (Sirodot) M. Mori 1975: 474. nom. illeg. [非合法名]
  Batrachospermum moniliforme var. scopula Sirodot 1884: 213. Pl. 9, Figs 1-5; Kumano 1982: 186. (Type locality: France)
  ヒラカワモズク Batrachospermum decaisneanum Sirodot 1884: 214-216. Pl. 1, Fig. 4. Pl. 10, Figs 1-10; Mori 1975: 471-472. Pl. 2, Fig. 9. (Type locality: Coulon, France)
  Batrachospermum radians Sirodot 1884: 218-219. Pl. 1, Fig. 5. Pl. 2, Figs 4, 6-13; Mori 1975: 471. Pl. 1, Fig. 19. Pl. 2, Fig. 20. Pl. 7, Fig. 2; 1977: 189-191. Fig. 9. (Type locality: Côtes-du-Nord, France)
  ベニカワモズク Batrachospermum reginense Sirodot 1884: 219-222. Pl. 15, Fig. 5. Pl. 16, Figs 6-10; Mori 1975: 471. Pl. 7, Fig. 4; 1977: 189-191. Fig. 3. (Type locality: Guichen, France)
  Batrachospermum corbula Sirodot 1884: 226-228. Pl. 5, Figs 1-3. Pl. 6, Figs 9-11; 森 1970: 3-5. Pl. 1, Fig. 2. Photo 1, Figs 5, 6. (Type locality: Saint-Jacques-de-la-Lande, France)
  Batrachospermum densum Sirodot 1884: 228-230. Pl. 12, Figs 1, 2. Pl. 13, Figs 1-11. Pl. 14, Figs 1-8. (Type locality: Chapelle-Chaussée, France)
  Batrachospermum pygmaeum Sirodot 1884: 230-232. Pl. 19, Figs 1-7. (Type locality: Plélan-le-Grand, France)
  Batrachospermum pyramidale Sirodot 1884: 232-235. Pl. 15, Figs 1-4. Pl. 16, Figs 1-5. Pl. 17, Figs 1-6. nom. illeg. (Type locality: France)
  コカワモズク Batrachospermum godronianum Sirodot 1884: 235-238. Pl. 18, Figs 1-9; Mori 1975: 470. Pl. 1, Fig. 13. Pl. 2, Figs 10, 18. Pl. 7, Fig. 3; Ratnasabapathy & Kumano 1982: 16. (Type locality: Bourgbarré, France)
  ニホンカワモズク Batrachospermum japonicum M. Mori 1975: 470. Pl. 3; 熊野ら 2002: 30; 2007: 212; 2015: 365; Yoshizaki 2002: 124, 126. Figs 1-4; 洲澤ら 2010: 4-5. Fig. 4; 河地 2020: 84. (Type locality: 栃木県 足利市 神明宮. Holotype specimen: TNS-AL 35555(国立科学博物館植物研究部標本庫))
  フサナリカワモズク Batrachospermum polycarpum M. Mori 1975: 474. Pl. 1, Fig. 15. Pl. 2, Figs 8, 11, 12. Pl. 5, Figs 1-11. Pl. 6, Fig. 4. (Type locality: 長野県 須坂市 井上.Holotype specimen: TNS-AL 35594(国立科学博物館植物研究部標本庫))
  この他多数の異名(シノニム)が知られています(Kumano 2002, Algaebase参照)。
その他の異名
  カワモズク Batrachospermum confusum auct. non (Bory) Hassall (1845); 松村 1895: 45; 斎田 1910: 138.
 
Type locality: Europe.
Type:
 
環境省レッドリスト2020:絶滅危惧II類(VU);青森県レッドデータブック(2020年版):要調査野生生物(D);茨城県版レッドデータブック2020年版:絶滅危惧II類;埼玉県レッドデータブック(2011):絶滅危惧I類(CE);千葉県レッドリスト植物・菌類編(2017年度改訂版):一般保護生物(D);東京都レッドリスト(本土部)2020年版:絶滅危惧II類(VU);神奈川県レッドリスト植物編(2020):絶滅危惧I類;福井県レッドデータブック(植物編 2004):県域準絶滅危惧;兵庫県版レッドデータブック2020:A;愛媛県レッドデータブック2014:絶滅危惧I類(CR+EN);長崎県レッドリスト(2011):準絶滅危惧種(NT)
 
分類に関するメモ:異名(シノニム)は熊野(2000, 2002)と北山・加藤(2021)に従いました。
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
撮影地:千葉県 柏市;撮影日:2022年4月30日;撮影者:鈴木雅大
 
千葉県柏市で確認したカワモズク(Batrachospermum gelatinosum)です。千葉県では,千葉市,四街道市,君津市などで報告があるものの,ヤツダカワモズク(Sheatha yoshizakiiなどのチャイロカワモズク類と考えられ,カワモズクと同定されるサンプルは確認されていませんでした。柏市で採集したサンプルもヤツダカワモズクだと考えていたのですが,遺伝子解析と顕微鏡観察により,ヤツダカワモズクとカワモズクが混生していることが分かりました。
 
輪生枝嚢
輪生枝嚢
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
二次輪生枝(矢印)
二次輪生枝(矢印)
 
精子嚢を付けた枝
精子嚢を付けた枝
 
杓子形の受精毛を付けた造果器
杓子形(杓文字形)の受精毛を付けた造果器
 
カワモズク(Batrachospermum gelatinosum)の特徴の1つである杓子形又は杓文字形(inflat-clavate)の受精毛を付けた造果器です。チャイロカワモズク類などに見られる棍棒形(clavate)の受精毛との区別は容易ではなく,受精毛の形も良く変わり,棍棒形を呈することもあるため,多くのサンプルを観察するなどして,見極める必要があります。
 
発達した果胞子体
発達した果胞子体
 
栃木県足利市神明宮の「ニホンカワモズク」
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
撮影地:栃木県 足利市 南大町 神明宮(芋の森神社 弘法の池);撮影日:2008年7月13日;撮影者:鈴木雅大
 
カワモズク Batrachospermum gelatinosum
押し葉標本(採集地:栃木県 足利市 南大町 神明宮(芋の森神社 弘法の池);採集日:2008年9月29日;採集者:鈴木雅大)
 
ニホンカワモズクは栃木県 足利市 神明宮で記載された日本固有種です。熊野 (2000) はニホンカワモズクをカワモズク(B. gelatinosum)の異名同種(シノニム)とし,Algaebaseにおいてもカワモズクの異名同種(シノニム)とされていますが,環境省のレッドリスト等ではニホンカワモズクが独立した種として扱われています。著者の恩師である故吉﨑 誠博士(東邦大学名誉教授)は,生前カワモズクの仲間を研究され,ニホンカワモズクについて,体構造と生殖器官の詳細を報告しました(Yoshizaki 2002)。これがレッドリスト等で本種が独立の種として扱われるようになった根拠だと言われています(故 熊野 茂博士 私信,注)。

注. 吉﨑先生がニホンカワモズクを独立種と考えていることは明白なのですが,Yoshizaki (2002) において,ニホンカワモズクとB. gelatinosumとの比較は行われておらず,B. gelatinosumとの違いについてもはっきりとは述べられていないため,ニホンカワモズクとB. gelatinosumを形態的に区別する根拠は不明です。

2010年頃,著者は吉﨑先生から,カワモズクの仲間のDNA抽出と分子系統解析を頼まれました。著者と吉﨑先生が栃木県 足利市 神明宮(タイプ産地)で採集した(注)ニホンカワモズクのrbcL遺伝子とcox1遺伝子の塩基配列は,両遺伝子ともにスペイン,イギリス,フランス,アメリカ,カナダ産のB. gelatinosumと近似しており,ニホンカワモズクはB. gelatinosumと同種とするのが妥当と考えられます。本サイトでは,熊野 (2000)及びAlgaebaseに従い,ニホンカワモズクをカワモズクの異名同種(シノニム)としています。普通に考えれば,「ニホンカワモズクとカワモズクは同種でした」で済むのですが,ニホンカワモズクをカワモズクに含めることに抵抗がある方は少なくないようです。ニホンカワモズクは足利市指定の天然記念物に指定されているので,ニホンカワモズクが日本固有種ではなく,日本及び世界各地に広く分布するB. gelatinosumというのは色々と問題があるのかもしれません。そうは言ってもB. japonicumが独立の種ではないことは明らかで,少なくとも関東地方で「ニホンカワモズク B. japonicum」,「カワモズク B. gelatinosum」と呼んでいるものが同種であることは遺伝子解析と形態的特徴の双方から支持されると思います。「東京都レッドリスト(本土部)2020年版」では,ニホンカワモズクはカワモズクの異名とされています(北山・加藤 2021)。

注.本サイトで掲載している写真及び採集したサンプルは,神明宮及びニホンカワモズク保存会の関係者の立ち合いのもと調査,採集したものです。

著者は分類学者なので種を正しく認識することを第一としており,ニホンカワモズクはカワモズクと同種であると考えています。しかし,足利市神明宮において,「ニホンカワモズク自生地」のために払われた努力は並々ならぬものがあり,吉﨑先生が遺されたゼミのレジュメには,「ニホンカワモズク保存会」の立ち上げや会誌の発行,観察会の実施の他,ニホンカワモズクを維持するために行われた弘法の池の掃除,周辺の草刈り,着生基質を確保するために渡良瀬川から大量の玉石を運び入れるなどの積年の努力の歴史が綴られています。単なる庭園,公園然とした池ではなく,ニホンカワモズクの生育に適した自然環境を構築し,維持し続けているというのは,生物の保全として大きな成功例ではないかと思います。ニホンカワモズクがカワモズクと同種であるとしても,稀少な淡水産紅藻であることに変わりはなく,神明宮の「ニホンカワモズク」については歴史的価値を尊重しても良いかもしれません。「ニホンカワモズク」をどう扱うのが適当か,分類学者として大変悩ましいところです。

 
参考文献
 
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写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱ウミゾウメン亜綱
 
日本淡水産紅藻リスト(仮)紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱ウミゾウメン亜綱カワモズク目カワモズク科カワモズク属カワモズク
 
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