オオイシソウ Compsopogon caeruleus
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年1月15日(2017年4月26日更新)
 
オオイシソウ(大石藻)
Compsopogon caeruleus (Balbis ex C. Agardh) Montagne 1846: 154.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),原始紅藻亜門(Subphylum Proteorhodophytina),オオイシソウ綱(Class Compsopogonophyceae),オオイシソウ目(Order Compsopogonales),オオイシソウ科(Family Compsopogonaceae),オオイシソウ属(Genus Compsopogon
 
*熊野(2000)「世界の淡水産紅藻」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),原始紅藻亜綱(Subclass Bangiophycidae),オオイシソウ目(Order Compsopogonales),オオイシソウ科(Family Compsopogonaceae),オオイシソウ属(Genus Compsopogon
 
Basionym
  Conferva caerulea Balbis ex C. Agardh 1824: 122.
Heterotypic synonyms
  Lemanea corinaldii Meneghini 1841: 189.
  Compsopogon corinaldii (Meneghini) Kützing 1857: 35.
  Pericystis aeruginosus J. Agardh 1847: 6.
  Compsopogon chalybeus Kützing 1849: 432.
  イバラオオイシソウ Compsopogon aeruginosus (J. Agardh) Kützing 1849: 433.
  インドオオイシソウ Compsopogon hookeri Montagne 1846: 157, pl. 46: fig. 3; pl. 47: fig. 1.
  Compsopogon leptoclados Montagne 1850: 298.
  Compsopogonopsis leptoclados (Montagne) V.K. Krishnamurthy 1962: 219.
  Compsopogon oishii Okamura 1915: 128, pls. CXXXII, CXXXIII.
  Compsopogon minutus C.C. Jao 1941: 249, pl. I: figs 2-8.
  オオイシソウモドキ Compsopogonopsis japonica Chihara 1976: 289, figs 1, 2 A-I.
  Compsopogon lusitanicum M.P. Reis 1977.
  アツカワオオイシソウ Compsopogon corticrassus Chihara & Tak. Nakamura 1980: 136, figs 1, 2A-J, 3A-L, 4A-C.
  Compsopogon aegyptiacus A.A. Aleem 1981: 60.
  ムカゴオオイシソウ Compsopogon prolificus Yadava & Kumano 1985: 19, figs 1-7.
  Compsopogon tenellus Y.J. Ling & S.L. Xie in Xie & Ling 1998: 81, pl. 1: figs 1-7.
 
Type locality: 'In mari Antillarum'
 
環境省レッドリスト2019:絶滅危惧II類(VU);千葉県レッドリスト植物・菌類編(2017年度改訂版):一般保護生物(D)
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
撮影地:静岡県 賀茂郡 南伊豆町 青野川;撮影日:2011年6月18日;撮影者:鈴木雅大
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
押し葉標本(採集地:静岡県 賀茂郡 南伊豆町 青野川;採集日:2008年11月2日;採集者:鈴木雅大)
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
採集地:千葉県 山武郡 成東町 木戸川;採集日:2011年6月14日;採集者:吉﨑 誠・鈴木雅大
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
押し葉標本(採集地:千葉県 八千代市 勝田川;採集日:2001年12月15日;採集者:鈴木雅大)
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
押し葉標本(採集地:千葉県 香取郡 栗源町 中白観音(現 香取市 栗源町);採集日:2005年12月4日;採集者:鈴木雅大)
 
日本のオオイシソウ類はオオイシソウ(Compsopogon caeruleus)1種のみ
 
 オオイシソウ(Compsopogon caeruleus)(注)は,淡水域から汽水域に生育する紅藻類です。「紅」藻類とは思えない,青緑がかった体色をしています。オオイシソウ属の種の分類は長い間混乱が続いてました。イバラオオイシソウ(C. aeruginosus),アツカワオオイシソウ(C. corticrassus),インドオオイシソウ(C. hookeri),ムカゴオオイシソウ(C. prolificus)などの種類を認めるか,オオイシソウモドキ(Compsopogonopsis japonica)を含む多くの種をオオイシソウ(C. caeruleus)1種にまとめるかを巡って,専門家の間で10年以上もの間,論争が続いていたと思います。Necchi et al. (2012),Carlile & Sherwood (2013) などによれば,世界各地で採集したオオイシソウ属(Compsopogon)のサンプルは,遺伝子解析においてほとんど差異が無く,世界的にC. caeruleus 1種とするのが妥当なようです。Necchi et al. (2012),Carlile & Sherwood (2013) 以降,オオイシソウ属14種がオオイシソウ(C. caeruleus)1種類にまとめられ,これまで日本で報告された種類は全てオオイシソウ(C. caeruleus)1種類に含まれることになりました。日本産種を用いた遺伝子解析は少ないのですが,著者が実施した幾つかのサンプルの遺伝子情報もC. caeruleusと一致あるいは近似していました。現在の藻類の分類のスタンダードに従えば,Necchi et al. (2012)とCarlile & Sherwood (2013) の結論は妥当で,著者も日本に生育するオオイシソウ属はオオイシソウ(C. caeruleus)1種類のみと考えています。

 日本において,これまで報告されたオオイシソウ属は全て絶滅危惧種に指定されており,環境省のレッドリスト2017では,オオイシソウモドキ,イバラオオイシソウ,アツカワオオイシソウ,インドオオイシソウ,ムカゴオオイシソウが絶滅危惧I類(CR+EN),オオイシソウは絶滅危惧II類(VU)のカテゴリーに指定されています。「種」としては全てオオイシソウにまとめられたことから,絶滅危惧I類(CR+EN)だった5種が全て無くなります。著者が委員として参加した「千葉県レッドリスト植物・菌類編(2017年改訂版)」では,千葉県におけるカテゴリーで消息不明・絶滅生物(X)に位置付けられていたインドオオイシソウとムカゴオオイシソウ,最重要・重要保護生物(A-B)に位置付けられていたアツカワオオイシソウの3種がオオイシソウにまとめられました。千葉県レッドリストにおけるオオイシソウのカテゴリーは一般保護生物(D)です。カテゴリーが絶滅危惧II類(VU),一般保護生物(D)に下がったことから,オオイシソウ類の絶滅の危険性が低くなったと解釈できますが,むしろオオイシソウのカテゴリーを絶滅危惧I類(CR+EN)や要保護生物(C)に引き上げた方が良いのではないかとも思います。1種にまとめられたオオイシソウをどのカテゴリーで扱うのが適当なのか,大変悩ましい問題です。

注.学名Compsopogon caeruleusの種小名の"caeruleus"について,"coeruleus"としている文献が散見しますが,"coeruleus"は誤用で,"caeruleus"が正しい綴りとなります。

 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus   オオイシソウ Compsopogon caeruleus
体先端近くの枝
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
体中部の枝の表面観(左)と髄部(右)
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
体の先端部と中部のスケッチ
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus
体の横断面。皮層細胞の一部が内側に向かって伸長している(矢印)。
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus   オオイシソウ Compsopogon caeruleus
単胞子嚢(矢印)を形成した枝
 
形態的特徴が遺伝子情報を反映しない?
 
 オオイシソウ属は外形に加え,皮層の細胞層数,内側の皮層細胞が内部に向かって伸長する,単胞子嚢の大きさなどの形態的特徴で区別されてきました。これらの形態的特徴は,他の紅藻類では種かそれ以上の違いに相当しますが,rbcLやcox1などの遺伝子情報は,形態的特徴を反映しませんでした。一方,インドオオイシソウにおける"小胞子嚢"のように疑わしい構造(後述)については,"小胞子嚢"の実態は分からないものの,種の特徴ではないことが示唆されました。 大型藻類の形態が,生育環境などによって,同じ種類とは思えないくらい変化することがあるのは良く知られています(例.ヒラムカデ Grateloupia lividaダルス Palmaria cf. mollis)。しかし,著者の"感覚"としては,外形や大きさはともかく,皮層の細胞層数の違いや特別な細胞を形成するなどの特徴が単なる形態変異とは考えにくく,生育環境による影響があるとしても,何らかの遺伝的な違いがあるのではないかと考えています。cox1遺伝子よりも進化速度の速い遺伝子を分子マーカーとして使う,マイクロサテライトマーカーを開発する,次世代シーケンサを使いオルガネラゲノム単位で比較する,RAD-seq解析を基に遺伝的交流の有無や系統解析を行うなど,より精密な解析を行えば,遺伝的集団のまとまりが見えてくるかもしれません。
 
"小胞子嚢"の謎
 
オオイシソウ Compsopogon caeruleus   オオイシソウ Compsopogon caeruleus
"小胞子嚢" (?)(採集地:静岡県 賀茂郡 南伊豆町 青野川;採集日:2010年6月19日;採集者:吉﨑 誠・鈴木雅大)
 
オオイシソウ属は無性生殖のみが知られており,単胞子嚢を形成します。単胞子嚢から放出された単胞子は,基質に着生,発芽後,分裂を繰り返してオオイシソウの体へと発達します(瀬戸 1993,中村 1993)。オオイシソウ属として記載された種類の内,インドオオイシソウ(Compsopogon hookerii),オオイシソウ(C. caeruleus),イバラオオイシソウ(C. aeruginosus)の3種は,単胞子嚢と共に"小胞子嚢"と呼ばれる胞子嚢を形成することが知られています(中村・千原 1978,中村 1993など)。日本においては,特にインドオオイシソウと同定されている種類の特徴の一つとして"小胞子嚢"が重視されてきたように思います。ただし,"小胞子嚢"自体は他の種でも報告されているので,"小胞子嚢"を形成することに加えて,皮層が1~数層で,皮層細胞の一部が体の内側に向かって仮根状に伸長すること(注),単胞子嚢の大きさが直径 20μm未満であることがインドオオイシソウの正しい種の特徴になります。前述の通り,オオイシソウ属はオオイシソウ(C. caeruleus)1種のみにまとめられたので,"小胞子嚢"の有無及びその他の形態的特徴は種を区別する特徴ではなくなりました。分類学的な問題は一応解決をみましたが,"小胞子嚢"については未だ不明な点が残されています。

注.皮層細胞が体の内側に向かって伸長することは,オオイシソウ(C. caeruleus)とC. iyengariiでも報告されており,インドオオイシソウだけの特徴ではありません。

"小胞子嚢"の形成は,中村・千原 (1978) をはじめとして国内外で数件報告されています。この内,"小胞子嚢"の形成過程を観察したのは中村・千原 (1978)のみ,"小胞子嚢"から"小胞子"の放出を観察したのはBrühl & Biswas (1923) のみです。放出された"小胞子"の発芽やその後の発生は知られていません。中村 (1993) は,小胞子嚢塊が母体から遊離しても分裂を続けると述べています。これらの観察結果から,"小胞子嚢"を生殖細胞とすることを疑問視する声があり,そもそもオオイシソウの体組織ではなく,オオイシソウの体表に着生する別の生物ではないかという意見もありました。著者の恩師 故 吉﨑 誠 博士(東邦大学名誉教授)は,"小胞子嚢"を「オオイシソウゴノミ」と呼び,何らかの着生藻類と考えておられました。著者も着生藻類の可能性が高いと考えており,シアノバクテリア(ラン藻類)かベニミドロ綱(Stylonematophyceae)に所属する紅藻類のいずれかではないかと予想しています。著者は海産藻類の専門家なので,今後オオイシソウに触れる機会は少ないと思いますが,"小胞子嚢"をDAPI染色して核か核様体を観察する,"小胞子嚢"を単離して培養する,単離した"小胞子嚢"からDNAを抽出・解析するといった方法が可能であれば,"小胞子嚢"の実態を明らかに出来るのではないかと考えています。

 
参考文献
 
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写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門オオイシソウ綱

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