Gracilaria sp.1
作成者:鈴木雅大 作成日:2016年4月12日(2018年6月17日更新)
 
Gracilaria sp.1
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),オゴノリ目(Order Gracilariales),オゴノリ科(Family Gracilariaceae),オゴノリ亜科(Subfamily Gracilarioideae),オゴノリ連(Tribe Gracilarieae),グラシラリア属(Genus Gracilaria),グラシラリア亜属(Subgenus Gracilaria
 
キヌカバノリ Gracilaria cuneifolia
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2018年5月29日;撮影者:鈴木雅大
 
キヌカバノリ Gracilaria cuneifolia
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2018年6月14日;撮影者:鈴木雅大
 
キヌカバノリ Gracilaria cuneifolia
 
キヌカバノリ Gracilaria cuneifolia
採集地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);採集日:2015年6月19日;撮影者:鈴木雅大
 
キヌカバノリ Gracilaria cuneifolia
押し葉標本(採集地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);採集日:2015年6月19日;採集者:鈴木雅大)
 
Kim et al. (2006) が"キヌカバノリ Gracilaria cuneifolia"とした種類です。本来のキヌカバノリは,比較的深所に生育し,葉状部が撚れたり,巻き込むことがありません。Kim et al. (2006)がミゾオゴノリ(Gracilaria incurvataと本種のDNA配列を取り違えて発表したことから,本種とミゾオゴノリ及びキヌカバノリを巡って混乱が起こりました。Muangmai et al. (2012) が"キヌカバノリ"とした種はミゾオゴノリと考えられます。Yang & Kim (2015) は,ミゾオゴノリと"キヌカバノリ"の関係を整理し,"キヌカバノリ"としていた種をGracilaria sp.1と呼んでいます。今のところ正式な名前は付いていません。未記載種であることが確かめられれば新種になると考えられます。

Gracilaria sp.1に相当する種は潮間帯に生育し,葉状部が撚れてゴワゴワした形になります。Gracilaria sp.1は今のところ千葉県,神奈川県,伊豆半島下田から見つかっており,著者は千葉県富津市と兵庫県淡路島南東部でGracilaria sp.1を採集しています。Gracilaria sp.1はミゾオゴノリ(Gracilaria incurvataほど葉状部が巻き込みませんが,撚れたり部分的に巻き込んだりします。また,葉状部の幅が広いのでカバノリ(Gracilaria textoriiのようにも見えます。Kim et al. (2006) によって指摘されなければ,「ミゾオゴノリのようなカバノリ」としていたかもしれません。おそらくは日本各地の潮間帯に分布していると考えられ,カバノリまたはミゾオゴノリと混同されていると予想されます。

 
Gracilaria sp.1とミゾオゴノリの遺伝子配列の取り違え
 
Kim et al. (2006) は,ミゾオゴノリ(Gracilaria incurvataGracilaria sp.1のDNA配列を取り違えて発表し,間違った名前のまま国際遺伝子配列データベースで公開されています。このため,DNA配列に基づいて種同定を行った結果,Gracilaria sp.1とミゾオゴノリの同定に混乱が起こりました。論文として出版されているものでは,Muangmai et al. (2012) が"キヌカバノリ"とした種はミゾオゴノリであると考えられます(注)。Yang & Kim (2015) によって,ミゾオゴノリとGracilaria sp.1の関係が整理されましたが,間違いに気が付いた時点で取り違えた配列を修正してくれれば良いのにと思いますが,Kim et al. (2006)が発表したDNA配列は未だ間違った名前のまま公開されています。

注.Muangmai et al. (2012)が報告し,国際遺伝子配列データベースで公開している配列の中にはオゴノリとカバノリを取り違えたと考えられるものもあり,2重に混乱を引き起こしています。

 
Yang & Kim (2015)がGracilaria sp.1とした種の遺伝子配列 *GenBankのAccession No.と産地
  rbcL: JQ026050, JQ02651(日本*詳細な産地不明)
  cox1(COI): JQ026052, JQ02653(日本*詳細な産地不明)
ミゾオゴノリ(Gracilaria incurvata)とされているがGracilaria sp.1と考えられる遺伝子配列
  rbcL: DQ095790(千葉県),DQ095791(千葉県銚子),DQ095792(静岡県下田)
  psbA: DQ095829(千葉県),DQ095830(千葉県銚子), DQ095831(静岡県下田)
キヌカバノリ(Gracilaria cuneifolia)とされているがミゾオゴノリと考えられる遺伝子配列
  rbcL: DQ095787, DQ095788(韓国済州島),DQ095789(韓国統営市),HQ880636(福岡県勝馬)
  psbA: DQ095827(Jeju Island),DQ095828(韓国統営市)
 
Gracilaria sp.1かキヌカバノリか?
 
Yang & Kim (2015) がGracilaria sp.1としている種類は,外形や生育帯位がキヌカバノリ(G. cuneifolia)とは異なっており,Yang & Kim (2015)が"sp."としたのもうなずけます。ただ,著者が千葉県大原の深所から採集した「キヌカバノリ」と思われるサンプルのDNA配列は,Gracilaria sp.1の遺伝子配列と近くもないが遠くもないという中途半端な結果となりました。DNA解析と形態的特徴に基づいて分類学的検討を行うのが理想的ですが,DNA解析の結果の解釈が大変難しいのが現状で,解決の目途が立っておりません。Gracilaria sp.1あるいはキヌカバノリに相当するサンプルを増やせばDNA解析でより正確な検討が出来るかもしれません。加えて,"真の"キヌカバノリを明らかにするため,キヌカバノリのタイプ標本の遺伝子解析も必要でしょう。問題種なのは明らかですが,解決への道のりはなかなか厳しいようです。
 
参考文献
 
Kim, M.-S., Yang, E.C. and Boo, S.M. 2006. Taxonomy and phylogeny of flattened species of Gracilaria (Gracilariaceae, Rhodophyta) from Korea based on morphology and protein-coding plastid rbcL and psbA sequences. Phycologia 45: 520-528.
 
Lee, I.K. and Kurogi, M. 1977. On the taxonomic position of Rhodymenia cuneifolia. Bulletin of the Japanese Society for Phycology 25 (Suppl.): 113-118.
 
Muangmai, N., Yamagishi, Y., Terada, R. and Kawaguchi, S. 2012. A morphological and molecular study on Gracilariaceae (Gracilariales, Rhodophyta) around the Hakata Bay, northern Kyushu, Japan. Journal of the Faculty of Agriculture, Kyushu University 57: 411-420.
 
Okamura, K. 1934. Notes on algae dredged from the Pacific coast of Tiba Prefecture. Records of Oceanographic Works in Japan 6: 13-18, Plate VII.
 
嶌田 智 監修. 2014. 海の観察ガイド 千葉県館山市沖ノ島 海の植物編. 88 pp. お茶の水女子大学 湾岸生物教育研究センター,館山.
 
Yang, M.Y. and Kim, M.S. 2015. Molecular analyses for identification of the Gracilariaceae (Rhodophyta) from the Asia-Pacific region. Genes and Genomics 37: 775-787.
 

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