ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata
作成者:鈴木雅大 作成日:2013年1月27日(2017年8月14日更新)
 
ミゾオゴノリ(溝海髪)
Gracilaria incurvata Okamura 1931: 41. Pl. 273, Figs 1-6.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),オゴノリ目(Order Gracilariales),オゴノリ科(Family Gracilariaceae),オゴノリ亜科(Subfamily Gracilarioideae),オゴノリ連(Tribe Gracilarieae),グラシラリア属(Genus Gracilaria),グラシラリア亜属(Subgenus Gracilaria
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),オゴノリ目(Order Gracilariales),オゴノリ科(Family Gracilariaceae),オゴノリ属(Genus Gracilaria
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),オゴノリ目(Order Gracilariales),オゴノリ科(Family Gracilariaceae),オゴノリ属(Genus Gracilaria
 
掲載情報
岡村 1936: 633; Ohmi 1958: 38. Fig. 19; Pls 8C, 9B; 山本 1973: 57. Figs 1, 2; 1978: 124. Pls 15, 16. Pl. 43, Figs 5, 6; Pl. 44, Figs 1, 2; 1998: 820-821. Pl. 3-75, Fig. B; Kim et al. 2010: 391. Figs 2-7; Yang & Kim 2015: Fig. 2c.
 
その他の異名
  "Gracilaria cuneifolia" auct. non Kim et al. 2006: 524. Figs 3, 4.
  "Gracilaria cuneifolia" auct. non Muangmai et al. 2012: 414-415. Figs 3a-3c.
 
Type locality: 神奈川県 三浦市 三崎町
Lectotype specimen: SAP herv. Okamura(北海道大学大学院理学研究科植物標本庫 岡村金太郎コレクション)
 
ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata
 
ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata
撮影地:千葉県 館山市 沖ノ島;撮影日:2016年4月28日;撮影者:鈴木雅大
 
ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata
撮影地:静岡県 下田市 須崎漁港;撮影日:2017年5月28日;撮影者:鈴木雅大
 
ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata
撮影地:神奈川県 三浦市 三崎町 小網代 荒井浜;撮影日:2014年5月18日;撮影者:鈴木雅大
 
ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata
撮影地:神奈川県 三浦市 三崎町 小網代 荒井浜;撮影日:2012年5月9日;撮影者:鈴木雅大
 
ミゾオゴノリ Gracilaria incurvata
押し葉標本(採集地:千葉県 安房郡 富山町 小浦漁港(現 南房総市 小浦漁港);採集日:2006年1月1日;採集者:鈴木雅大)
 
生時は,名前の通り葉状部が内側に巻き込むので,他種と容易に区別出来ます。しかし,これが押し葉標本となると,特徴である巻き込みが分からなくなってしまうため,近似種のカバノリ(Gracilaria textoriiGracilaria sp.1との区別が難しくなります。経験を積んだ海藻学者でも押し葉標本だけ見るとどちらか判断が付かないことがあり,種同定に注意が必要な種類です。
 
GenBankに登録された本種のrbcLとpsbA遺伝子の配列について
Kim et al. (2006) は,ミゾオゴノリのrbcLとpsbA遺伝子の配列をキヌカバノリ(Gracilaria cuneifolia)として発表しました。Kim et al. (2006) の"キヌカバノリ"の形態は,ミゾオゴノリの特徴である「葉状部の巻き込み」があり,また,比較的深所に生育するはずのキヌカバノリが潮間帯で採集されていることから,著者は発表当時から同定に疑問を持っていました。また,オゴノリ類の専門家で,著者が台湾でポスドクをしていた時のボスである台湾海洋大学のShowe-Mei Lin博士も,著者らと共に千葉県で採集したミゾオゴノリが,Kim et al. (2006) の「キヌカバノリ」と近似することから結果を疑問視していました。2010年,著者はミゾオゴノリのタイプ産地である神奈川県三崎で,形態的にミゾオゴノリと断定出来るサンプルを採集する機会を得ました。採集したサンプルをLin先生に送ると共に,著者自身も2014年に三崎で採集したミゾオゴノリのrbcL遺伝子の配列を決定しました。その結果,三崎のミゾオゴノリのrbcL遺伝子の配列はKim et al. (2006) の"キヌカバノリ"と100%一致し,著者の疑念は確信に変わりました。この間違いをどうやって訂正したものかと悩んでいたのですが,2015年に入り,Yang & Kim (2015) は遺伝子配列に基づいたオゴノリ類の種同定に関する論文を発表し,新たに神奈川県三崎で採集したミゾオゴノリのrbcL遺伝子の配列を元に,Kim et al. (2006) において"ミゾオゴノリ","キヌカバノリ"とした種がそれぞれ異なることを報じました。著者が確認したところ,Yang & Kim (2015) が用いたミゾオゴノリのrbcL遺伝子とcox1遺伝子の配列は,著者が三崎で採集したミゾオゴノリのものと100%一致したことから,Yang & Kim (2015) が発表した遺伝子の配列は正しいと考えられます。しかし,GenBank上の配列名の訂正等は行われていないため,GenBankには現在もミゾオゴノリの名前で,ミゾオゴノリでは無い種の遺伝子配列が掲載されています。

本種は,近似種との区別が難しいことから遺伝子配列を用いた分子同定,すなわちDNA鑑定が行わることがしばしばあります。しかし,Yang & Kim (2015) によって正しい配列が発表されるまで,別種の遺伝子配列に基づいて種を同定してしまったと思われる文献が幾つかあります。著者が気が付いたものでは,Muangmai et al. (2012) がrbcL遺伝子の配列に基づいて博多湾で報告した"キヌカバノリ"はミゾオゴノリです。近年,海藻の"DNA鑑定"はごく当たり前のものになりつつあり,著者もしばしばDNA鑑定に頼っていますが,参考にする遺伝子配列が違っていては,DNA鑑定が意味を成さないばかりか,更なる混乱を呼ぶことになってしまいます。遺伝子配列を登録する際,あるいは遺伝子配列を決定する時の種同定は極めて慎重に行わねばなりません。また,間違いではなくとも,研究が進み,名前が変更になるケースも良くみられます。DNA鑑定を行う際は,参考にする配列や種類の分類学的背景をある程度抑えておく必要があるでしょう。ミゾオゴノリのようなケースは著者にとっても決して他人事では無いため,遺伝子配列を用いた仕事をする際は肝に銘じるようにしています。

 
正しいミゾオゴノリ(Gracilaria incurvata)の遺伝子配列 *GenBankのAccession No.と産地
  rbcL: JQ026024, LC595297(神奈川県三崎)
  cox1 (COI): HQ322017, HQ322023, HQ322026, LC595298(神奈川県三崎), HQ322018, HQ322019, HQ322020, HQ322021, HQ322060(Jeju, Korea)
キヌカバノリ(Gracilaria cuneifolia)とされているがミゾオゴノリと考えられる遺伝子配列
  rbcL: DQ095787(Jeju, Korea),DQ095788(Jeju, Korea),DQ095789(Tongyoung, Korea),HQ880636(福岡県勝馬)
  psbA: DQ095827(Jeju, Korea),DQ095828(Tongyoung, Korea)
ミゾオゴノリ(Gracilaria incurvata)とされているがGracilaria sp.1と考えられる遺伝子配列
  rbcL: DQ095790(千葉県),DQ095791(千葉県銚子),DQ095792(静岡県下田)
  psbA: DQ095829(千葉県),DQ095830(千葉県銚子), DQ095831(静岡県下田)
*Kim et al. (2006) における"キヌカバノリ"に相当すると思いますが,Yang & Kim (2015) は,キヌカバノリではなくGracilaria sp.1に訂正しました。著者もYang & Kim (2015) に同意します。
 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 26 January 2013.
 
岡村金太郎 1931. 日本藻類圖譜 第6巻 第5集.東京. *自費出版
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌. 964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
Kim, M.-S., Yang, E.C. and Boo, S.M. 2006. Taxonomy and phylogeny of flattened species of Gracilaria (Gracilariaceae, Rhodophyta) from Korea based on morphology and protein-coding plastid rbcL and psbA sequences. Phycologia 45: 520-528.
 
Kim, M.S., Yang, M.Y. and Cho, G.Y. 2010. Applying DNA barcoding to Korean Gracilariaceae (Rhodophyta). Cryptogamie Algologie 31: 387-401.
 
Muangmai, N., Yamagishi, Y., Terada, R. and Kawaguchi, S. 2012. A morphological and molecular study on the Gracilariaceae (Gracilariales, Rhodophyta) around the Hakata Bay, Northern Kyushu, Japan. Journal of the Faculty of Agriculture, Kyushu University 57: 411-420.
 
Ohmi, H. 1958. The species of Gracilaria and Gracilariopsis from Japan and adjacent waters. Memoirs of the Faculty of Fisheries Hokkaido University 6: 1-66.
 
山本弘敏 1973. ミゾオゴノリの雄性生殖器官とその発達.藻類 21: 57-59.
 
Yamamoto, H. 1978. Systematic and anatomical study of the genus Gracilaria in Japan. Memoirs of the Faculty of Fisheries Hokkaido University 25: 97-152.
 
山本弘敏 1998. 3. 13 おごのり目. In: 吉田忠生 著. 新日本海藻誌. pp. 810-826. 内田老鶴圃,東京.
 
Yang, M.Y. and Kim, M.S. 2015. Molecular analyses for identification of the Gracilariaceae (Rhodophyta) from the Asia-Pacific region. Genes and Genomics 37: 775-787.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版). 藻類 63: 129-189.
 

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