スギモクの新産地
執筆:鈴木雅大 作成日:2010年8月19日(2015年10月28日更新)
 
 スギモク(Coccophora langsdorfii (Turner) Greville)は日本海を代表する海藻です。吉田(1998)と寺田ら(2008)によると,北海道西岸から九州福岡までの日本海沿岸に広く分布し,周防灘に面する大分県や山口県でも生育が確認されています。太平洋沿岸では青森県尻屋が北限とされていましたが,1996年,吉﨑 誠 博士(東邦大学名誉教授)は,山田湾の最奥部にてスギモクの群落を発見しました。著者は2000年から毎年,山田町を訪れていますが,スギモクの群落は決して大きくはないものの毎年維持されているようです。日本海の海藻であるスギモクが山田町で見つかったことは,生物地理学的に大変重要な発見です。
*山田町のスギモクを報告する論文が出版されました。→ 鈴木ら (2015) *pdf ファイルで開きます。
 
 
岩手県 下閉伊郡 山田町   スギモクの採集地
 
 山田町は岩手県の三陸沿岸,宮古市の下に位置しています。穏やかな山田湾と外海に突き出した船越半島があり,多種多様な海藻が生育しています。
 

スギモクの生態写真(撮影地:岩手県 下閉伊郡 山田町 浦の浜;撮影日:2003年6月18日;撮影者:鈴木雅大)

 
 

スギモクの押し葉標本

採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 浦の浜 採集日:2002年6月27日
  スギモク 糸状の葉(上)と鱗片状の葉(下)
 
 スギモクは,瘤状の付着器から数本の茎を生じ,一年目の茎は,糸状の葉を多数生じます。二年目になると茎から枝を生じます。枝には鱗片状の葉を生じます。
     
 

スギモクの押し葉標本

採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 浦の浜 採集日:2006年5月5日
 

スギモクの生殖器床

 
 山田町では,3月~5月上旬頃にかけて卵形の生殖器床を生じます。
 
 山田町のスギモクは,日本海のスギモクと比べると,形態的にはそれほど違いがないものの,大きく異なる点があります。それは,付着藻が非常に多い事です。日本海佐渡島で採集したスギモクにも,クロガシラの仲間,フクリンアミジスジウスバノリなどが付着していましたが,山田町のスギモクはその比ではありません。標本を作る際に,出来る限り付着藻を外しているため,上の標本写真では付着藻が少ないように見えますが,実際はスギモク本体が見えない程に着生しています。主なものは,緑藻:アオサ・アオノリの仲間,ウチウミハネモ,褐藻:クロガシラの仲間,アミジグサネバリモ,ウスカワフクロノリ,ハバモドキ,紅藻:マクサユカリナンブワツナギソウコスジフシツナギオイワケキヌイトグサイソムラサキ,イトグサの仲間ですが,ここに挙げた以外にも,未同定のシオグサ属,シアノバクテリア,珪藻類,シオミドロ属,ナミマクラ属,無節サンゴモ類などがびっしりと付着しています。標本を作るためにこれら付着藻を外すだけで一仕事で,スギモク1本で10枚(10種)以上の押し葉標本が作れるほどです。これは三陸沿岸が親潮流域であるため,海藻が生育するためのミネラルが豊富なためと考えていますが,一度きちんと比較してみたいと思っています。山田町の海はとても豊かです。
 
なぜ山田町にスギモクが生育しているのか
 スギモクは日本海特産種の代名詞です。日本海の海藻であるスギモクがなぜ太平洋側の山田町に生育しているのでしょうか。これは,日本周辺を流れる4つの海流の内の一つである対馬暖流と大きく関わっていると考えられます。下図は日本周辺を流れる海流を示したものですが,対馬暖流は日本海を北上した後,津軽海峡を越え,津軽暖流と名前を変えて太平洋沿岸に注いでいます。山田町にスギモクが生育している理由,それは対馬暖流が山田町までその影響を及ぼしている証拠と考えられています。
 

日本周辺を流れる海流

日本の周辺には暖流の黒潮と対馬暖流,寒流の親潮とリマン海流が流れている。
 
 山田町には,スギモク以外にも日本海に分布の中心を持つと考えられる海藻が多く生育しています。フシスジモクアキヨレモクマルバツノマタカタノリなどです。また,山田湾に生息するキヌバリ(魚類)は,横縞の数が7本の日本海型である事が知られています(太平洋型は横縞が6本)。
 
参考文献
 
鈴木雅大・北山太樹・山岡容子・鈴木まほろ 2015. 岩手県山田町で発見された日本海特産海藻スギモク. 分類 15: 179-183.
 
寺田竜太 ・吉田忠生・新井章吾・村瀬 昇 2008. スギモク Coccophora langsdorfii (Turner) Greville(褐藻綱ヒバマタ目)の. 分布と基準産地:特に周防灘における分布と南限群落について.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌 1222 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 

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