ユイキリ Gelidium yoshidae
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2014年8月18日(2016年6月7日更新)
 
ユイキリ(結い切り)
Gelidium yoshidae G.H.Boo & R.Terada in Boo et al. 2016: 368.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),テングサ目(Order Gelidiales),テングサ科(Family Gelidiaceae),テングサ属(Genus Gelidium
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),テングサ目(Order Gelidiales),テングサ科(Family Gelidiaceae),ユイキリ属(Genus Acanthopeltis)*Acanthopeltis japonicaとして
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),テングサ目(Order Gelidiales),テングサ科(Family Gelidiaceae),ユイキリ属(Genus Acanthopeltis)*Acanthopeltis japonicaとして
 
Replaced synonym
  Acanthopeltis japonica Okamura in Yatabe 1892: 157. Pl. 39; 岡村 1901:15. Pl. 6; 1902: 22-23; 1936: 469. Fig. 216; 遠藤 1911: 578. Fig. 163; Fan 1961: Figs 2a-2f. Pl. 38; 宮田 1998: 513. Fig. 5-440; 吉田 1998: 629. Pl. 3-39, Fig. A; Shimada et al. 1999: 532-534. Figs 4-6, 10; 神田 2006: 77; Kim & Hwang 2015: 10-12. Fig. 1.
 
Type locality: 神奈川県 三崎
Type specimen: TI herb. Yendo(東京大学植物標本庫)*SAP(北海道大学大学院理学研究院植物標本庫)に永久貸与
 
分類に関するメモ:ユイキリは,ユイキリ属(Acanthopeltis)の1種としてテングサ属(Gelidium)と区別されていましたが,Boo et al. (2016)は,遺伝子解析を基にユイキリ属をテングサ属に含めました。ユイキリをテングサ属に移すに当たり,オニクサ(G. japonicumの後続同名になるのを避けるため,新名G. yoshidaeを提唱しました。
 
ユイキリ Gelidium yoshidae
撮影地:静岡県 下田市 須崎;撮影日:2014年5月14日;撮影者:鈴木 雅大
 
別名「トリノアシ」とも呼ばれる海藻で,テングサの仲間です。本来は細い円柱形の体をしていますが,海綿動物の仲間と共生しており,ゴワゴワとした質感をしています。

本種はユイキリ属(Acanthopeltis)としてテングサ属(Gelidium)と区別されていましたが,Boo et al. (2016)は,ユイキリ属をテングサ属に含めました。海綿と共生しているため,見た目はテングサ属とかけ離れていますが,海綿を外した状態の体構造や四分胞子嚢の付け方はテングサ属の特徴を持つことから,テングサ属に含めるのは妥当であると考えられます。むしろ問題は,ユイキリの近縁種として記載されているヤタベグサ(Gelidium hirsutaG. longiramulosumとの関係で,国際塩基配列データベースに登録されている3種のrbcL遺伝子の配列は互いにゼロから数塩基の違いしかありません。Shimada et al. (1999) はユイキリとヤタベグサの間の遺伝的差異が小さいことを指摘しつつ,両種は形態的に区別できること,中間的な形態のものがないこと,培養条件下での分枝パターンが異なることから,別種とすべきとしています。テングサ類は全体的にrbcL遺伝子の差異が他のグループと比べて小さいので,rbcLだと種の識別が出来ないという可能性もありますが,Boo et al. (2016) による複数遺伝子を用いた系統解析及びcox1遺伝子を用いた解析においても3種を明確に区別出来ていません。他のテングサ属の種類はcox1遺伝子でほぼ問題なく区別できていることから,遺伝子解析だけをみると,3種は同一種とみなされると思います。形態的特徴と遺伝子解析が一致しないケースとして知られているカジメ / クロメ / ツルアラメスリコギヅタ / タカツキヅタのような関係なのかもしれません。3種を分類学的にどう扱うべきか,今後の検討が俟たれています。

完全に個人的な妄想で,根拠も何もない仮説なのですが,ユイキリ,ヤタベグサ,G. longiramulosumの形の違いは,共生している海綿の種の違いによるもの・・・ということはないでしょうか?気になったので調べてみたのですが,ユイキリやヤタベグサに共生している海綿がどういう種なのか,属はおろか科,目すら分かりませんでした。機会があれば海綿動物の専門家に確認して頂けないかと考えているものの,現在のところ全く当てがありません。仮説の検討はともかく,共生している海綿が何という種類か位は知りたいものですが,なかなか難しそうです・・・。

 
参考文献
 
Boo, G.H., Le Gall, L., Miller, K.A., Freshwater, D.W., Wernberg, T., Terada, R., Yoon, K.J. and Boo, S.M. 2016. A novel phylogeny of the Gelidiales (Rhodophyta) based on five genes including the nuclear CesA, with descriptions of Orthogonacladia gen. nov. and Orthogonacladiaceae fam. nov. Molecular Phylogenetics and Evolution 101: 359-372.
 
Fan, K.-C. 1961. Morphological studies of the Gelidiales. University of California Publications in Botany 32: 315-368. Plates 33-46.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2014. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 18 August 2014.
 
神田正人 2006. 大分県の海藻.117 pp. 大分県.*自費出版
 
Kim, H.-S. and Hwang, I.-K. 2015. Algal Flora of Korea Volume 4, Number 10. Rhodophyta: Florideophyceae: Gelidiales, Gracilariales, Procamiales. Marine Red Algae. 140 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon.
 
宮田昌彦 1998. 第5章 海の藻類 第2節 1-6. テングサ目 Gelidiales.In: 千葉県史料研究財団(編)千葉県の自然誌本編4 千葉県の植物1.pp. 512-517. 千葉県.
 
岡村金太郎 1901. 日本海藻圖説 第1巻 第2冊.敬業社,東京.
 
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京.
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
Shimada, S., Horiguchi, T. and Masuda, M. 1999. Phylogenetic affinities of genera Acanthopeltis and Yatabella (Gelidiales, Rhodophyta) inferred from molecular analyses. Phycologia 38: 528-540.
 
Yatabe, R. 1892. Iconographia florae japonicae. pp. 67-165. Z.P. Maruya & Co., Tokyo.
 
遠藤吉三郎 1911. 海産植物学.748 pp. 博文館,東京.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃, 東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
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