ユナ Chondria crassicaulis
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2012年5月19日(2023年4月9日更新)
 
ユナ(湯菜)
Chondria crassicaulis Harvey 1860: 330.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イギス目(Order Ceramiales),フジマツモ科(Family Rhodomelaceae),ヤナギノリ連(Tribe Chondrieae),ヤナギノリ属(Genus Chondria
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),イギス目(Order Ceramiales),フジマツモ科(Family Rhodomelaceae),ヤナギノリ属(Genus Chondria
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),イギス目(Order Ceramiales),フジマツモ科(Family Rhodomelaceae),ヤナギノリ属(Genus Chondria
 
掲載情報
Holmes 1896: 256. Pl. 8, Fig. 4; 岡村 1907: 12. Pl. 3, Figs 1-15; 1936: 844. Fig. 395; 稲垣 1933: 58; Masuda et al. 1995: 193. Fig. 2; 吉田 1998: 1014; 山岸・三輪 2008: 30-31. Fig. 6; Nam 2011: 152-156. Figs 120-123.
 
Type locality: 静岡県 下田 (Masuda et al. 1995: 193)
Lectotype specimen: TCD (Trinity College, Dublin, Ireland) (Masuda et al. 1995: 193. Fig. 2)
 
ユナ Chondria crassicaulis
撮影地:兵庫県 淡路市 江井(淡路島);撮影日:2017年4月10日;撮影者:鈴木雅大
 
ユナ Chondria crassicaulis
 
ユナ Chondria crassicaulis
撮影地:兵庫県 淡路市 岩屋 松帆海岸(淡路島);撮影日:2023年4月9日;撮影者:鈴木雅大
 
ユナ Chondria crassicaulis
撮影地:千葉県 いすみ市 大原 丹ヶ浦;撮影日:2016年4月27日;撮影者:鈴木雅大
 
ユナ Chondria crassicaulis
撮影地:千葉県 銚子市 外川町;撮影日:2013年6月23日;撮影者:鈴木雅大
 
ユナ Chondria crassicaulis
押し葉標本(採集地:新潟県 佐渡郡 相川町 達者(現 佐渡市 達者);採集日:2003年3月4日;採集者:鈴木雅大)
 
ユナ Chondria crassicaulis
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 須崎 恵比須島;採集日:2005年5月11日;採集者:鈴木雅大)
 
ユナ Chondria crassicaulis
押し葉標本(採集地:千葉県 銚子市 君ヶ浜;採集日:2004年10月15日;採集者:鈴木雅大)
 
生育地によって形態が激しく変化する種類ですが,独特の「ユナ臭」のおかげで同定に困ることはほとんどありません。「ユナ臭」のインパクトは強烈で,一口かじってみれば一発で本種だと分かると思います。この「ユナ臭」のせいで,形態変異の激しい種類という印象が薄くなっているような気さえします。著者の師匠である故 吉﨑 誠先生(東邦大学名誉教授)が実施されていた臨海実習では,ユナの枝を学生に食べさせ,顔をしかめる学生達に海藻の種同定における「味」の重要さを説くのが定番でした。一部の地域では食用にもなりますが,「ユナ臭」に慣れるのはなかなか大変かもしれません。著者にとっても「ユナ臭」は好ましいものではありませんが,毎年,実習で枝をかじっていたせいか,食べるごとに慣れていき,最終的には特に気にならなくなりました。味覚は成長(摩耗)するものだと思いました。
 
ユナの語源は「湯菜」?
 
海藻を扱う仕事をしていると,「ユナ」という和名の語源についてしばしば論争になります。藻類屋の間では「湯女」が一般的です。しかし,「なぜ湯女なのか?」と聞かれると回答に困るのが正直なところです。見た目から「湯女」を連想させるとは思えないので,独特の「ユナ臭」が関係していると思うのが自然ですが,湯女と「ユナ臭」との関係が分かりません。湯女を「湯上りの女」とするか「遊女」とするかでも意味合いが異なってくるため,結局のところ著者には由来が分かりません。地方の方言に由来しているという方が自然な気がします。また,「油菜」という漢字を充てることもあるようです。「油の臭いのする草」という意味ならば,ユナの特徴にかなり近いのではないでしょうか。

国立科学博物館の北山太樹博士は,生物研究社が刊行の隔月雑誌『海洋と生物』にて連載中の「海藻標本採集者列伝(26)」において,「ユナ」の語源について言及しています(北山 2017)。残念ながら博識の北山先生をもってしても「ユナ」の語源を確定することは出来なかったのですが,故 岡村金太郎博士が「ユナ」の和名として山口県萩市の地方名(方言)を採用したことを指摘し(岡村 1907),「ユナ」の語源を「湯菜 = 湯に通して食べる野菜」とする説を唱えられています。萩市と同じ山口県の下関市,島根県や京都府の一部の地域など,ユナを食用とする地域では,ユナを湯通ししてから食べていることから,「ユナ = 湯菜」はなかなか説得力のある説だと思いました。また,「ユナ = 油菜」については,読みが重箱読みであることと,「油菜」の語源は維管束植物のアブラナ(Brassica rapa var. oleiferaであることから,「ユナ」の由来とは考えにくいと述べられています。確かに「ユナ」を「油菜」とするのは,語源というよりも後から付けられた当て字のような印象を受けます。そう考えると「ユナ = 湯女」も単なる当て字なのかもしれません。

結局のところ「ユナ」の語源は誰にも分からないのかと諦めておりましたが,思わぬところから有力な情報が得られました。「ものと人間の文化史 11・海藻」(宮下 章 著.1974年)のp. 272のユナの項目の中で,「黄色だが,熱湯を注ぐと青菜のようにまっ青になるのでこの名が生まれた。もとは山口県萩地方の方言である。」という記述がありました(注)。この記述通りであれば,「ユナ = 湯菜」であると考えられます。流石は北山先生だと思いました。本サイトでは,宮下(1974)と北山(2017)を根拠として,「ユナ = 湯菜」説を推したいと思います。

注.北山太樹博士から知らせて頂きました(2018年12月12日)。

 
ユナの配偶体
 
ユナ Chondria crassicaulis
 
ユナの生殖器官
採集地:兵庫県 淡路市 岩屋 田ノ代海岸(淡路島);採集日:2020年2月6日;撮影者:鈴木雅大
 
ヒジキ(Sargassum fusiformeに着生していたユナです。嚢果を付けています。そもそもユナとは思えない姿ですが,枝をひとつまみ噛んで見るとお馴染みのユナ臭が口の中に広がりました。雄性又は雌性生殖器官を付けたユナは珍しいと言われており,日本では山岸・三輪(2008)が広島県因島から報告するまで配偶体が見つかっておりませんでした。因島で報告されたユナの雌雄配偶体は,淡路島で採集したユナと同様にヒジキの体上に着生しており,ユナの配偶体は他の海藻に着生するものなのかもしれません。
 
ヒジキに着生したユナ
 
ヒジキに着生したユナ
撮影地:兵庫県 淡路市 岩屋 田ノ代海岸(淡路島);撮影日:2021年3月17日;撮影者:鈴木雅大
 
ヒジキに着生したユナ
 
ヒジキに着生したユナ
撮影地:兵庫県 淡路市 岩屋 松帆海岸(淡路島);撮影日:2021年5月26日;撮影者:鈴木雅大
 
2020年にヒジキに着生するユナを見つけてから気になっていたのですが,2021年3月に磯に出てみたところ,探すまでもなくヒジキの体上に着生するユナがたくさん見られました。他の海藻に着生する種という印象はなかったのですが,認識を改めざるを得ません。淡路島周辺及び瀬戸内海が特別なのか,もともとそういう性質の種類だったのかは分かりません。普通種であってもまだまだ分からないことが山積みだと思いました。
 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G. M. 2012. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 19 May 2012.
 
Harvey, W.H. 1860. Characters of new algae, chiefly from Japan and adjacent regions, collected by Charles Wright in the North Pacific Exploring Expedition under Captain James Rodgers. Proceedings of the American Academy of Arts and Sciences 4: 327-335.
 
Holmes, E.M. 1896. New marine algae from Japan. Journal of the Linnean Society of London, Botany 31: 248-260.
 
稲垣貫一 1933. 忍路湾及び其れに近接せる沿岸の海産紅藻類.北海道帝国大学理学部海藻研究所報告 2: 1-77.
 
北山太樹 2017. 海藻標本採集者列伝(26)長澤利英(1850-1905).海洋と生物 39 (2): 144-145.
 
Masuda, M., Kudo, T., Kawaguchi, S. and Guiry, M.D. 1995. Lectotypification of some marine red algae described by W. H. Harvey from Japan. Phycological Research 43: 191-202.
 
宮下 章 1974. ものと人間の文化史 11・海藻.315 pp. 法政大学出版局,東京.
 
Nam, K.W. 2011. Algal flora of Korea. Volume 4, Number 3. Rhodophyta: Florideophyceae, Ceramiales: Rhodomelaceae: Laurencia, Chondrophycus, Palisada, Chondria. Marine red algae. 198 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon.
 
岡村金太郎 1907. 日本藻類圖譜 第1巻 第1集.22 pp. 東京.*自費出版.
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
山岸幸正・三輪泰彦 2008. 瀬戸内海中央部因島・福山の海藻相.福山大学生命工学部年報 7: 21-33.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イギス目フジマツモ科ヤナギノリ連
 
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