タマイタダキ Delisea japonica
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年2月8日(2022年7月10日更新)
 
タマイタダキ(玉戴)
Delisea japonica Okamura 1908: 139. Pl. 29, Figs 1-10.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),カギノリ目(Order Bonnemaisoniales),カギノリ科(Family Bonnemaisoniaceae),タマイタダキ属(Genus Delisea
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),カギケノリ目(Order Bonnemaisoniales),カギケノリ科(Family Bonnemaisoniaceae),タマイタダキ属(Genus Delisea
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),カギケノリ目(Order Bonnemaisoniales),カギケノリ科(Family Bonnemaisoniaceae),タマイタダキ属(Genus Delisea
 
掲載情報
吉田 1998: 649-650. Pl. 3-41, Figs F, G. Pl. 3-43, Fig. A; Kim 2013: 124-128. Figs 85-87.
 
その他の異名
  Delisea pulchra auct. non (Greville) Montagne (1844: 128); Yamada 1930: 28-29; 岡村 1936: 428. Fig. 199; Lee 2008: 230. Figs A-C.
  Delisea fimbriata auct. non (J.V. Lamouroux) J.V. Lamouroux in Léman (1819: 42); Chihara 1962: 27. Figs 21, 22, 24-27; Chihara & Yoshizaki 1971: 151. Figs 1, 2; 吉﨑 1993: 240, 241. Fig. 119; 1998: 512. Fig. 5-438.
 
Type locality: 千葉県根本
Type specimen: SAP herb. Okamura(北海道大学大学院理学研究科植物標本庫 岡村金太郎コレクション)
 
分類に関するメモ:Lee (2008)はDelisea japonicaD. pulchraの異名同種(シノニム)としました。本サイトでは,Kim (2013) に従い,D. japonicaを独立の種としました。
 
タマイタダキ Delisea japonica
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 田牛 二穴洞窟;採集日:2006年5月16日;採集者:鈴木雅大)
 
タマイタダキ Delisea japonica
嚢果を付けた枝(矢印)
 
タマイタダキは球形の嚢果を枝の先端付近に生じることが特徴で,和名「タマイタダキ」は玉(=嚢果)を枝の先に戴くという意味です。「タマを取ってこい」という意味ではありません。*かつてこのネタでしょうもない笑いを取っていた方がおられました。
 
カギノリ目の多くは異型世代交代をする事が知られています。日本産種ではカギケノリ(Asparagopsis taxiformisカギノリ(Bonnemaisonia hamiferaが異型世代交代をする事が知られていますが,タマイタダキは胞子体がまだ見つかっていません。オーストラリアに産するDelisea pulchraは,同型世代交代をする点を除けば,形態的にタマイタダキと近似しています。このためYamada (1930), 岡村(1936), Lee (2008)はD. japonicaD. pulchraの異名同種(シノニム)としています。本サイトでは,D. japonicaが異型世代交代をする可能性が残されている事や,D. pulchraとの詳細な形態の比較や遺伝子の塩基配列の比較(注)が成されていないことから,従来通りD. japonicaを用いました。

注.タマイタダキのrbcL遺伝子とcox1遺伝子の配列を決定し,国際塩基配列データベースで公開されているDelisea属の配列と比較したところ,タマイタダキは,少なくとも南極半島で採集されたD. pulchraとは異なるようです。オーストラリア産のD. pulchraの遺伝子配列データは未だ公開されていないので,確定とは言えませんが,タマイタダキは独立した種である可能性が高いと思われます。

 
タマイタダキの腺細胞
 
タマイタダキの腺細胞
 
タマイタダキの腺細胞
タマイタダキの枝の表面観
 
タマイタダキ(Delisea japonica)は,皮層部に腺細胞(gland cell)と呼ばれる特別な細胞を持っています。タマイタダキは,外形がキジノオ(Phacelocarpus japonicusに良く似ており,嚢果を付けていない個体では,キジノオとの区別に悩むことが良くあります。恥ずかしながら著者は外形だけで判断してタマイタダキとキジノオを間違えたことがあります。以後,タマイタダキあるいはキジノオを採集した際は,切片を作製し,横断面を確認しています(注)。ただ,タマイタダキは腺細胞を持っているので,切片を作らずとも,枝の表面を顕微鏡で観察し,腺細胞を確認することで同定可能です。タマイタダキが腺細胞を持っていることは,Chihara & Yoshizaki (1971) が報じています。タマイタダキ属(Delisea)は,腺細胞を持つ種と持たない種があるとされていますが,海外ではBonin & Hawkes (1988) とWomersley (1996) がD. compressa, D. elegans, D. hypnoides, D. plumosaが腺細胞を持つことを報じており,基本的に腺細胞を持っていると考えられます。どういうわけかタマイタダキの腺細胞は,吉田(1998)や図鑑等に記述されていないのですが,著者はキジノオと区別する上で重要な特徴の1つと考えています。

注.タマイタダキとキジノオのきれいな切片写真を撮っていないので公開出来ませんが,機会があれば両種の横断面の画像を公開したいと考えております。

 
参考文献
 
Bonin, D.R. and Hawkes, M.W. 1988. Systematics and life histories of New Zealand Bonnemaisoniaceae (Bonnemaisoniales, Rhodophyta): II. The genus Delisea. New Zealand Journal of Botany 26: 619-632.
 
Chihara, M. 1962. Life cycle of the Bonnemaisoniaceous algae in Japan (2). Science Reports of the Tokyo Kyoiku Daigaku Section B 11: 27-53.
 
Chihara, M. and Yoshizaki, M. 1971. Morphological study of the thallus structure and reproductive organs of Delisea fimbriata (Florideophycidae, Rhodophyta). Phycologia 10: 149-154.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 14 January 2011.
 
Kim, H.-S. 2013. Algal Flora of Korea Volume 4, Number 8. Rhodophyta: Florideophyceae: Rhodymeniales, Bonnemaisoniales, Sebdeniales, Peyssonneliales. Marine Red Algae. 183 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon.
 
Lee, Y.P. 2008. Marine algae of Jeju. 477 pp. Academy Publication, Seoul.
 
Léman, D.S. 1819. Delisea. Dictionnaire des Sciences Naturelles, édition 2 [F. Cuvier] 13: 41-42.
 
Montagne, C. 1844. Quelques observations touchant la structure et la fructification des genres Ctenodus, Delisea et Lenormandia, de la famile des Floridées. Annales des Sciences Naturelles, Botanique, Troisième série 1: 151-161.
 
岡村金太郎 1908. 日本藻類圖譜 第1巻 第6集.pp. 121-146. pls 26-30. 東京.*自費出版.
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
Womersley, H.B.S. 1996. The marine benthic flora of southern Australia - Part IIIB - Gracilariales, Rhodymeniales, Corallinales and Bonnemaisoniales. 392 pp. Australian Biological Resources Study with assistance from the State Herbarium of South Australia, Canberra & Adelaide.
 
Yamada, Y. 1930. Notes on some Japanese algae I. Journal of the Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 1: 27-36.
 
吉田忠生. 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
吉﨑 誠 1993. Delisea fimbriata (Lamouroux) Lamouroux(タマイタダキ).In: 堀 輝三(編) 藻類の生活史集成 第2巻 褐藻・紅藻類.pp. 240, 241. 内田老鶴圃,東京.
 
吉﨑 誠 1998. 第5章 海の藻類 第2節 1-5. カギノリ目 Bonnemaisoniales.In: 千葉県史料研究財団(編)千葉県の自然誌本編4 千葉県の植物1.pp. 511-512. 千葉県.
 
 
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