ムカデノリ "Grateloupia" asiatica |
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年3月21日(2022年7月18日更新) |
ムカデノリ(百足海苔) |
"Grateloupia" asiatica Kawaguchi & H.W. Wang in Kawaguchi et al. 2001: 435. Figs 1, 2. |
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イソノハナ目(Order Halymeniales),ムカデノリ科(Family Grateloupiaceae),"ムカデノリ属(Genus Grateloupia)" |
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),ムカデノリ科(Family Halymeniaceae),ムカデノリ属(Genus Grateloupia)*G. filicinaとして |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),スギノリ目(Order Gigartinales),ムカデノリ科(Family Halymeniaceae),ムカデノリ属(Genus Grateloupia) |
掲載情報 |
増田ら 2004: 52; Nam & Kang 2013: 32-35. Figs 21-23. |
その他の異名 |
Grateloupia filicina auct. non. (J.V. Lamouroux) C. Agardh (1822: 223); Martens 1868: 117; 岡村 1902: 88; 1936: 538. Fig. 253; 遠藤 1911: 726. Fig. 202; 稲垣 1933: 25; 吉田・川口 1998: 713. Pl. 3-52, Figs A-H. p.p. |
Type locality: 福岡県 津屋崎 (Kawaguchi et al. 2001: 435. Fig. 1) |
Holotype specimen: SAP 088175(北海道大学大学院理学研究科植物標本庫)(Kawaguchi et al. 2001: 435. Fig. 1) |
分類に関するメモ:ムカデノリは"Grateloupia filicina"に充てられてきましたが,Kawaguchi et al. (2001) は,ムカデノリが"G. filicina"とは別種であるとして,新種G. asiaticaを記載しました。
ムカデノリは和名の通りムカデノリ属(Grateloupia)のメンバーですが,Carderon et al. (2014) ,Kim et al. (2014) などによる遺伝子解析において,ムカデノリ属が多系統群であることが示されました。ムカデノリはヒラキントキ属(Prionitis)のクレードに含まれることが示唆されており,属の所属について今後の検討が必要と考えられます。本サイトでは,ムカデノリを暫定的にムカデノリ属のメンバーとしました。 |
撮影地:新潟県 佐渡市 豊岡漁港(佐渡島);撮影日:2011年8月6日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 竹野 大浦湾;撮影日:2019年5月8日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:兵庫県 豊岡市 竹野町 竹野 大浦湾;撮影日:2015年5月8日;撮影者:鈴木雅大 |
撮影地:福岡県 福津市 津屋崎;撮影日:2018年4月18日;撮影者:鈴木雅大 |
採集地:福岡県 福津市 津屋崎;採集日:2018年4月18日;撮影者:鈴木雅大 |
押し葉標本(採集地:新潟県 両津市 浦川漁港(現 佐渡市 浦川漁港);採集日:2003年7月23日;採集者:鈴木雅大) |
押し葉標本(採集地:新潟県 両津市 豊岡漁港(現 佐渡市 豊岡漁港);採集日:2002年4月27日;採集者:鈴木雅大) |
押し葉標本(採集地:岩手県 下閉伊郡 山田町 田の浜 荒神;採集日:2003年9月11日;採集者:鈴木雅大) |
Grateloupia filicinaは世界各地に分布するコスモポリタンな種類と考えられてきましたが,1990年代後半から始まった遺伝子解析の発達により,北太平洋西岸で"G. filicina"として報告されてきたものはG. filicinaとは別種かつ複数の種類を包含していることが示唆されました。日本で"G. filicina"(=ムカデノリ)と呼ばれてきた種類について,Wang et al. (2000)はウツロムカデ(G. catenata)を,Faye et al. (2004)は,ヒロハノムカデノリ(G. subpectinata)を再評価し,「ムカデノリ」はKawaguchi et al. (2001) によって,新種G. asiaticaの和名とされました。従って,日本でこれまで「ムカデノリ」と呼ばれてきた種類は,ウツロムカデ(G. catenata),ムカデノリ(G. asiatica),ヒロハノムカデノリ(G. subpectinata)の3種に分けられます。この内,体が中空であるウツロムカデは容易に区別が付きますが,ムカデノリとヒロハノムカデノリを区別するのは容易ではありません。この2種は分子系統解析のみならず,雌性生殖器官である助細胞ampullaの形態に違いがあるので,分類学上ははっきりと区別されるのですが,生殖器官が無い場合,外形や体構造で種同定するのは極めて難解ですし,生殖器官が見つかっても専門家でないと観察は困難です。ムカデノリ(G. asiatica)は,俗に「日本海型ムカデノリ」と呼ばれてきたように,体の幅が狭く繊細なものが典型的です。ですが,この仲間の外形は生育地によって大きく変化します。特に淡水が入るような場所では,同種とは思えない程激しく形が変わるため(豊岡産の押し葉標本を参照),典型的なもの同士を比較しなければ,体の幅を基準にムカデノリとヒロハノムカデノリを区別する事は出来ません。ムカデノリとヒロハノムカデノリとを確実に区別出来る形態的特徴を探しています。
ムカデノリとヒロハノムカデノリは,上述の通り外形が酷似しており,種同定に困る種類ですが,さらに困ったことに本州太平洋沿岸中部や四国,九州では両種の分布域が被っていることが分かってきました(Kawaguchi et al. 2001, Faye et al. 2004, 嶌田 2014, Yang et al. 2021)。著者の経験則になりますが,ムカデノリは日本海側から太平洋側,北海道から九州までの全国的に分布し,ヒロハノムカデノリは千葉県以南の本州太平洋沿岸や四国・九州に分布しているようです。ただし,島根県隠岐の島や韓国の済州島などでヒロハノムカデノリが報告されていることから(Nelson et al. 2013),ヒロハノムカデノリが本州日本海沿岸に広く分布している可能性も十分あり得ると思います。分布や生育地によって区別出来れば良いと思っていたのですが,どうやら難しいようです。 |
参考文献 |
Agardh, C.A. 1822. Species algarum. pp. 169-398. ex officina Berlingiana, Lundae. |
Calderon, M.S., Boo, G.H. and Boo, S.M. 2014. Morphology and phylogeny of Ramirezia osornoensis gen. & sp. nov. and Phyllymenia acletoi sp. nov. (Halymeniales, Rhodophyta) from South America. Phycologia 53: 23-36. |
Faye, E.T., Wang, H.W., Kawaguchi, S., Shimada, S. and Masuda, M. 2004. Reinstatement of Grateloupia subpectinata (Rhodophyta, Halymeniaceae) based on morphology and rbcL sequences. Phycological Research 52: 59-68. |
稲垣貫一 1933. 忍路湾及び其れに近接せる沿岸の海産紅藻類.北海道帝国大学理学部海藻研究所報告 2: 1-77. |
Kawaguchi, S., Wang, H.W., Horiguchi, T., Sartoni, G. and Masuda, M. 2001. A comparative study of the red alga Grateloupia filicina (Halymeniaceae) from the northwestern Pacific and Mediterranean with the desciption of Grateloupia asiatica, sp. nov.. Journal of Phycology 37: 433-442. |
Kim, S.Y., Manghisi, A., Morabito, M., Yang, E.C., Yoon, H.S., Miller, K.A. and Boo, S.M. 2014. Genetic diversity and haplotype distribution of Pachymeniopsis gargiuli sp. nov. and P. lanceolata (Halymeniales, Rhodophyta) in Korea, with notes on their non-native distributions. Journal of Phycology 50: 885-896. |
Martens, G. von 1868. Die Tange. Die Preussische Expedition nach Ost-Asien. Nach amtlichen Quellen. Botanischer Theil. 152 pp. Verlag de Königlichen Geheimen Ober-Hofbuchdruckerei (R.Y. Decker), Berlin |
増田道夫・小亀一弘・加藤亜記・谷 昌也・阿部剛史 2004. 海藻.In: 北大自然史タイプコレクション ―128年 知の伝承―.pp. 5-55. 21世紀COE「新・自然史科学創成」/北海道大学総合博物館,札幌. |
Nam, K.W. and Kang, P.J. 2013. Algal Flora of Korea Volume 4, Number 9. Rhodophyta: Florideophyceae: Halymeniales: Halymeniaceae, Tsengiaceae. Marine Red Algae. 132 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon. |
Nelson, W.A., Kim, S.Y., D'Archino, R. and Boo, S.M. 2013. The first record of Grateloupia subpectinata from the New Zealand region and comparison with G. prolifera, a species endemic to the Chatham Islands. Botanica Marina 56: 507-513. |
岡村金太郎 1902. 日本藻類名彙.276 pp. 敬業社,東京. |
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京. |
嶌田 智 監修.2014. 海の観察ガイド 千葉県館山市沖ノ島 海の植物編.88 pp. お茶の水女子大学湾岸生物教育研究センター,館山. |
Wang, H.-W., Kawaguchi, S., Horiguchi, T. and Masuda, M. 2000. Reinstatement of Grateloupia catenata (Rhodophyta, Halymeniaceae) on the basis of morphology and rbcL sequences. Phycologia 39: 228-237. |
Yang, M.Y., Kim, S.Y. and Kim, M.S. 2021. Verification of hotspots of genetic diversity in Korean population of Grateloupia asiatica and G. jejuensis (Rhodophyta) show low genetic diversity and similar geographic distribution. Genes & Genomics 43: 1463-1469. |
遠藤吉三郎 1911. 海産植物学.748 pp. 博文館,東京. |
吉田忠生・川口栄男 1998. むかでのり科 Halymeniaceae.In: 吉田忠生 著.新日本海藻誌.pp. 697-734. 内田老鶴圃,東京. |
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
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