トゲナシマダラ Leptofauchea leptophylla |
作成者:鈴木雅大;作成日:2013年12月12日 |
トゲナシマダラ(棘無斑) |
Leptofauchea leptophylla (Segawa) Mas. Suzuki, Nozaki, R. Terada, Kitayama, Tetsu. Hashimoto & Yoshizaki 2012: 482. Figs 1-15. |
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),マサゴシバリ目(Order Rhodymeniales),マダラグサ科(Family Faucheaceae),トゲナシマダラ属(Genus Leptofauchea) |
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),マサゴシバリ目(Order Rhodymeniales),マサゴシバリ科(Family Rhodymeniaceae),マダラグサ属(Genus Fauchea)*Fauchea leptophyllaとして |
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),マサゴシバリ目(Order Rhodymeniales),マダラグサ科(Family Faucheaceae),トゲナシマダラ属(Genus Leptofauchea) |
掲載情報 |
Kim 2013: 44-49. Figs 26-30; Filloramo & Saunders 2015: 378. Figs 9-15. |
Basionym |
Fauchea leptophylla Segawa 1941: 264. Fig. 10. Pl. 58, Fig. 1; Silva et al. 1987: 52. |
Homotypic synonym |
Gloiocladia leptophylla (Segawa) N. Sánchez & Rodríguez-Prieto in Rodríguez-Prieto et al. 2007: 160; Lee 2008: 409. Figs A-E. |
その他の異名 |
ヘイゴコロ Leptofauchea rhodymenioides auct. non W.R. Taylor (1942: 114. Pl. 3, Figs 7, 8. Pl. 17, Figs 1, 2); Suzuki et al. 2010: 119, Figs 1-25; Kim 2013: 49-54. Figs 31-34. |
Type locality: 東京都 神津島 (Segawa 1941: 264) |
Holotype specimen: SAP 61738(北海道大学大学院理学研究科植物標本庫)(Segawa 1941: Pl. 58, Fig. 1; Suzuki et al. 2012: 482. Fig. 4) |
分類に関するメモ:Filloramo & Saunders (2015) は,韓国で採集したサンプルを元にヘイゴコロ("L. rhodymenioides")をトゲナシマダラ(L. leptophylla)と同種としました。 |
撮影地:鹿児島県 鹿児島市 桜島 袴腰;撮影日:2009年3月10日;撮影者:寺田竜太博士 |
採集地:鹿児島県 鹿児島市 与次郎;採集日:2009年4月7日;撮影者:寺田竜太博士 |
押し葉標本(採集地:鹿児島県 鹿児島市 与次郎;採集日:2009年4月7日) |
トゲナシマダラ(Leptofauchea leptophylla)は,水深30 m付近かそれ以深に生育している深所性紅藻の1種です。構造色を持つ海藻で,光の干渉により海中では青白く見えます。2009年,著者は鹿児島大学の寺田竜太先生から,鹿児島市周辺の海底でトゲナシマダラが多数生育しているとの情報を得ました。著者の主な研究対象がマサゴシバリ目に属する紅藻だったため,サンプルを送って頂き,分類学的研究を開始しました。当時,分類学的研究でを行う上で研究対象は自分自身で採集,観察することで正しく認識出来るというこだわりから,2010年に鹿児島大学を訪ね,寺田博士の案内の下,スキューバダイビングによりトゲナシマダラを採集しました。その後,形態観察とDNA解析の結果を基に,トゲナシマダラをヒシブクロ属(Gloiocladia)からLeptofauchea属に移しました(Suzuki et al. 2012)。
分類学的研究としてはオーソドックスなスタイルで特筆すべきものはないのですが,この論文は著者にとって初めての「まともな」論文で,著者の分類学者としての在り方を決めたものといっても過言ではないかもしれません。著者は形態観察の手法は恩師 故吉﨑 誠 先生(東邦大学名誉教授)から「見て覚える」という形で受け継いだものの,論文の書き方は誰からも教えてもらう機会がなく(注),大学院博士課程の間に書いた3本の論文は見よう見まねで投稿し,どういうわけか査読者からのコメント,修正も難しいものではなかったため,不幸にも論文の作成・投稿のイロハを学ばないまま学位授与,ポスドクとしてデビューすることになりました。それまで通りのやり方でトゲナシマダラの論文をPhycologia(国際藻類学雑誌)に投稿したところ,これまでとは打って変わり,クリティカルで厳しいレビューが返ってきました。レビュー結果が届いたときは,若気の至りで「なんでこんなことを言われるんだ?」などと調子こいたことを思ったものですが,当時のラボのボスから30分を超えるガチの説教を受け,自分が今までいかになめきった態度で論文を書いていたかを思い知りました。心を入れ替えて臨んだリバイス作成,再投稿,アクセプトを経て,論文を出版するとはどういうことかを学び,この論文こそが自分が書いた初めての論文だと思いました。分類学的研究としてはありふれたものですが,この経験がなければおそらく現在も分類学者を続けていられなかったのではないかと思っており,極めて個人的な理由ですがトゲナシマダラは著者にとって思い入れの深い種類となりました。 注.論文の投稿や学位論文の作成に当たり,師匠からは特に何のコメントや修正もなく,責任著者も著者が務めました。学位論文に至っては副査の先生方から細かい訂正があったものの,主査である師匠からは特に何の指摘もありませんでした。一般的な研究室ではあり得ない事例で,ポスドクとして勤めるようになってから,周りの学位取得者との違いに戸惑いました。師匠が論文作成についてなぜ放任したのか,未だ理解出来てはいないのですが,図らずも海藻類の分類学者として研究を続けることが出来ており,著者の将来を案じた師匠の配慮だったのかもしれないと思うようになりました。 |
体の横断面(1%コットンブルーで染色) |
ネマテシアを生じた部位の横断面(1%コットンブルーで染色) |
ネマテシア内に形成された四分胞子嚢(1%コットンブルーで染色) |
ネマテシアを生じた部位の横断面のスケッチ |
嚢果の縦断面(1%コットンブルーで染色) |
トゲナシマダラの論文を発表した2012年当時,著者は自身の研究成果をHPなどで公開するというところまで考えておらず,論文に使用した画像以外には良い画像を残しておりませんでした。生態写真は寺田竜太博士から頂いた大変きれいな写真が複数あるものの,著者自身が作成,撮影した体の切片や生殖器官の写真は論文に使用したものと比べると数段落ちるものしか残っておらず,本ウェブサイトで公開するときになって後悔しました。トゲナシマダラ以降,生態写真や切片の写真などを複数枚撮影するようになり,画像の質や公開の仕方も変わってきたように思います。 |
参考文献 |
Filloramo, G.V. and Saunders, G.W. 2015. A re-examination of the genus Leptofauchea (Faucheaceae, Rhodymeniales) with clarification of species in Australia and northwest Pacific. Phycologia 54: 375-384. |
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 12 December 2013. |
Kim, H.-S. 2013. Algal flora of Korea. Volume 4, Number 8. Rhodophyta: Florideophyceae: Rhodymeniales, Bonnemaisoniales, Sebdeniales, Peyssonneliales. Marine Red Algae. 183 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon. |
Lee, Y. 2008. Marine algae of Jeju. 177 pp. Academy Publication, Seoul. |
Rodríguez-Prieto, C., Freshwater, D.W. and Sánchez, N. 2007. Vegetative and reproductive morphology of Gloiocladia repens (C. Agardh) Sanchez et Rodriguez-Prieto comb. nov. (Rhodymeniales, Rhodophyta), with a taxonomic re-assessment of the genera Fauchea and Gloiocladia. European Journal of Phycology 42: 145-162. |
Segawa, S. 1941. New or noteworthy algae from Izu. Scientific Papers of the Institute of Algological Research, Faculty of Science, Hokkaido Imperial University 2: 251-271, pls. 55-58. |
Silva, P.C., Menez, E.G. and Moe, R.L. 1987. Catalogue of the benthic marine algae of the Philippines. Smithsonian Contributions to the Marine Science 27: 1-179. |
Suzuki, M., Hashimoto, T., Nakayama, T. and Yoshizaki, M. 2010. Morphology and molecular relationships of Leptofauchea rhodymenioides (Rhodymeniales, Rhodophyta), a new record for Japan. Phycological Research 58: 116-131. |
Suzuki, M., Nozaki, H., Terada, R., Kitayama, T., Hashimoto, T. and Yoshizaki, M. 2012. Morphology and molecular relationships of Leptofauchea leptophylla comb. nov. (Rhodymeniales, Rhodophyta) from Japan. Phycologia 51: 479-488. |
Taylor, W.R. 1942. Caribbean marine algae of the Allan Hancock Expedition, 1939. Allan Hancock Atlantic Expedition Report 2: 1-193. |
吉田忠生 1998 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京. |
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189. |
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