ヒトエグサ Monostroma nitidum
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2011年7月2日(2021年5月5日更新)
 
ヒトエグサ(一重草)
Monostroma nitidum Wittrock 1866: 41. Pl. 2, Fig. 7.
 
緑藻植物門(Phylum Chlorophyta),アオサ藻綱(Class Ulvophyceae),ヒビミドロ目(Order Ulotrichales),カイミドリ科(Family Gomontiaceae),ヒトエグサ属(Genus Monostoma
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:緑藻綱(Class Chlorophyceae),アオサ目(Order Ulvales),ヒトエグサ科(Family Monostromataceae),ヒトエグサ属(Genus Monostoma
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:緑藻綱(Class Chlorophyceae),ヒビミドロ目(Order Ulotrichales),カイミドリ科(Family Gomontiaceae),ヒトエグサ属(Genus Monostoma
 
Heterotypic synonym
  ヒロハノヒトエグサ Monostroma latissimum Wittrock 1866: 32. Pl. 1, Fig. 4.
  Porphyra crispata Kjellman 1897: 15. Pl. 1, Figs 4, 5.
  Monostroma kuroshioense Bast 2015: 54. Fig. 7.
 
Syntype localities: Friendly Islands, Australia; China.
Type specimen: S ?
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
撮影地:神奈川県 三浦市 三崎町 小網代 荒井浜;撮影日:2010年4月29日;撮影者:鈴木雅大
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
撮影地:兵庫県 南あわじ市 津井(淡路島);撮影日:2021年4月15日;撮影者:鈴木雅大
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
撮影地:兵庫県 南あわじ市 津井(淡路島);撮影日:2018年6月12日;撮影者:鈴木雅大
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
押し葉標本(採集地:千葉県 館山市 沖ノ島;採集日:2007年3月1日;採集者:鈴木雅大)
 
春の短い時期ですが,関東地方の磯の上部は本種が岩を覆い尽くすように繁茂し,緑の絨毯を敷いたように見えます。日本各地で見られる普通種ですが,分類学的には問題を抱えています。かつて,体の幅が広く大きくなるものは,ヒロハノヒトエグサ(Monostroma latissimum)として区別されてきました。その後,ヒトエグサとヒロハノヒトエグサは同種であると考えられ,「新日本海藻誌」や吉田ら(2015)ではヒトエグサ = M. nitidum とされています。Bast (2015) などは,遺伝子解析から,「ヒトエグサ」はM. nitidum, M. latissimumとは別種とし,新種 M. kuroshioenseとすることを提唱しています。残念ながらBast (2015) は分類学的に不備が多く(注),無条件に採用して良いか疑問があります。命名規約上,M. kuroshioeseという種類は認められるのですが,「ヒトエグサ」をM. kuroshioeseとして良いか,著者には判断がつきませんでした。問題を複雑化している原因は2つあり,一つ目は,「ヒトエグサ」が1種類なのか複数の種類を含むのかが不明瞭な点,もう一つはM. nitidumM. latissimumという種類の実態が分からないという点です。Monostroma nitidumM. latissimumは,どちらも記載された場所が明確に特定出来ません。Monostroma nitidumはオーストラリア又は中国のサンプルを元に記載されたと考えられ,M. latissimumはヨーロッパ,北米,ニュージーランドのいずれかと考えられています。基準となるタイプ標本において,M. nitidumはストックホルムの自然歴史博物館にあると考えられていますが,M. latissimumは所在不明です。これらの分類学的問題を解決するのは容易ではないと思いますが,本サイトでは,「ヒトエグサ」の分類が整理されるまで,吉田ら(2015)に従い,ヒトエグサ = M. nitidumとしました。

注.同定の誤りを基礎異名として引用したり,種小名を"kuroshiensis"とするなど,命名法上の不備がある他,M. kuroshioenseM. nitidumM. latissimumと別種とする分類学的な根拠が不明瞭です。著者は論文として発表されているものは実体不明種であってもリストに掲載する方針ですが,M. kuroshioenseにおいては論文の不備が看過できないレベルで,おそらくまともな査読を受けて発表されたものではないと考えられるため,ノートとして触れるに留めました。

 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
押し葉標本(採集地:新潟県 佐渡郡 小木町 沢崎(現 佐渡市 沢崎)採集日:2003年2月22日;採集者:鈴木雅大)
 
高潮線付近の岩上に生育します。体は高さ2-4 cm,嚢状になりません。葉状,膜質,円形で縁辺は波打ちます。手触りは柔らかく,生時は黄緑色。上の標本写真は,標本を作製してから5年以上経っているため,色が褪せてしまっています。
 
ヒトエグサの表面観
スケッチ:体縁辺部の表面観
 
細胞は不規則に並びます。細胞は四角形又は多角形で角は丸く,長さ8-14 µm, 幅7-10 µm。この図では葉緑体が示されていませんが,各細胞に板状の葉緑体を1個含み,葉緑体は1個のピレノイドを含みます(矢頭)。
 
ヒトエグサの横断面
体の横断面のスケッチ
 
体は1層の細胞層から成り,厚さ22-27 µm。
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
 
ヒトエグサ Monostroma nitidum
撮影地:沖縄県 糸満市 名城ビーチ;撮影日:2000年3月28日;撮影者:鈴木雅大
 
南西諸島のリーフでは,潮の引いたリーフ一面が本種で覆われています。
 
沖縄のアーサ汁
 
アーサ
 
アーサ汁
 
本種は沖縄では「アーサ」あるいは「アオサ」と呼ばれ,汁ものとして食べられています。ただし,アオサの仲間(Ulva)とは目のレベルで異なり,分類学的には全く別の仲間です。
 
参考文献
 
Bast, F. 2015. Taxonomic reappraisal of Monostromataceae (Ulvophyceae: Chlorophyta) based on multi-locus phylogeny. Webbia: Journal of Plant Taxonomy and Geography 2015: 1-15.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2011. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 2 July 2011.
 
Kjellman, F.R. 1897. Japanska arter af slägtet Porphyra. Bihang til Kongliga Svenska Vetenskaps-Akademiens Handlingar 23(Afd. III, 4): 1-34.
 
名倉誾一郎 1921. 海藻調査報告第六.愛知県水試報告 24: 1-18.
 
Wittrock, V.B. 1866. Foersoek til en monographie oefver algslaegtet Monostroma. Riis, Stockholm.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ緑色植物亜界アオサ藻綱ヒビミドロ目
 
日本産海藻リスト緑藻植物門アオサ藻綱ヒビミドロ目カイミドリ科ヒトエグサ属ヒトエグサ
 
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