Chondracanthus okamurae
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2019年10月14日(2023年4月9日更新)
 
Chondracanthus okamurae I.A. Abbott 1998: 103, 104. Fig. 14.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),スギノリ目(Order Gigartinales),スギノリ科(Family Gigartinaceae),スギノリ属(Genus Chondracanthus
 
掲載情報
Yang & Kim 2016: 520, 523. Fig. 3.
 
その他の異名
  Gigartina intermedia auct. non Suringar (1867: 259); 岡村 1908: 172. Pl. 35, Figs 1-5. p.p.
  Chondracanthus intermedius auct. non (Suringar) Hommersand (1993); Nam & Kang 2015: 8-11. Figs 1-3.
 
Type locality: 本州中部.
Holotype: 岡村(1908)の第35圖版のfig. 3.
 
分類に関するメモ:Chondracanthus okamuraeは,Abbott (1998)がカイノリ(C. intermediusに充てられていたサンプルの中から新種として区別,記載した種類です。Masuda et al. (1999) はC. okamuraeを認めず,カイノリの異名同種(シノニム)としましたが,Yang & Kim (2016) は,rbcL遺伝子とcox1遺伝子の配列を用いた遺伝子解析を基にC. okamuraeを再評価し,独立の種であることを示しました。
 
Chondracanthus okamurae
撮影地:兵庫県 洲本市 由良(淡路島);撮影日:2016年3月23日;撮影者:鈴木雅大
 
Chondracanthus okamurae
撮影地:兵庫県 淡路市 岩屋 松帆海岸(淡路島);撮影日:2021年5月26日;撮影者:鈴木雅大
 
Chondracanthus okamurae
採集地:兵庫県 淡路市 岩屋 田ノ代海岸(淡路島);採集日:2018年8月11日;撮影者:鈴木雅大
 
Yang & Kim (2016) は,日本と韓国においてカイノリ(Chondracanthus intermediusと呼ばれてきた種の見直しを行い,カイノリ(C. intermedius),C. okamuraeC. cincinnusの3種に分けました。カイノリ(C. intermedius)とC. okamuraeは,本州太平洋沿岸において同じ分布域に生育していることが示唆されており,著者がこれまでカイノリ(C. intermedius)と同定していたサンプルの中にもC. okamuraeが混じっているかもしれません。カイノリ(C. intermedius)とC. okamuraeの違いは,枝が円柱形に近いかどうかで,C. okamuraeは枝の基部近くで円柱形に近くなります。このため2種を同定するには,採集時に良くばらし,基部の形態を確かめる必要があります。本サイトで公開している兵庫県淡路島のサンプルはDNA鑑定により,C. okamuraeであることを確かめています。DNA鑑定の結果を受け,改めて観察してみると,後述の通り体の基部近く及び体下部の枝が扁圧又は円柱形に近く,扁平になる枝はほとんどありませんでした。淡路島のサンプルしか確かめていませんが,枝の形態を基に2種を区別することは可能なようです。

兵庫県淡路島において「カイノリ」と呼ばれてきたものがC. okamuraeであることは確かなのですが,臨海実習において同定する際,和名がないからという理由で学生には「カイノリ」として教えることがしばしばあります。実習として教える分には「カイノリ」としても大きな間違いではないのかもしれませんが,分類学者としては納得のいかないところです。Chondracanthus okamuraeは,カイノリほど枝の幅が広くならないので,和名として「ホソバカイノリ」を提唱したいと思っているのですが,新和名を提唱する場(出版物中での提唱)がなくて困っています。2016年から,藻類の和名を提唱する場として日本藻類学会に和名検討委員会の立ち上げが検討されているのですが,2023年の時点でも立ち上げには至っておらず,和名を提唱する機会がないまま現在に至っております。

 
Chondracanthus okamuraeの同定
 
Chondracanthus okamurae
 
Chondracanthus okamurae
 
Chondracanthus okamurae
採集地:兵庫県 淡路市 岩屋 松帆海岸(淡路島);採集日:2023年4月9日;撮影者:鈴木雅大
 
Chondracanthus okamuraeは,カイノリ(C. intermedius)と比べて体の基部近くの枝が扁圧または円柱形に近いことで区別されています。同定するには採集したサンプルをばらし,基部近くを観察する必要があります。ただし,藻体が小形なこともあり,ばらしてみても枝の形がどうなっているのか分からないことが多いのではないかと思います。恥ずかしながら著者の目には,基部近くと他で違いがあるようには見えませんでした。
 
体の基部近くの横断面
体の基部近くの横断面
 
体上部の枝の横断面
体上部の枝の横断面
 
肉眼では判断が付かなかったことから,体の基部近くと体上部の枝の横断切片を作製しました。断面の形を観察するだけなので雑な切片ですが,体の基部近くの横断面は円柱形に近い扁圧で,体上部の枝の横断面は扁平であることが分かると思います。カイノリとの区別に悩んだ際は,体の基部近くの枝の横断切片を観察するのが確実ではないかと思いました。
 
参考文献
 
Abbott, I.A. 1998. Some new species and new combinations of marine red algae from the central Pacific. Phycological Research 46: 97-109.
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2019. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 14 October 2019.
 
Masuda, M., Abe, T., Kawaguchi, S. and Phang, S.M. 1999. Taxonomic notes on marine algae from Malaysia I. six species of Rhodophyceae. Botanica Marina 42: 449-458.
 
Nam, K.W. and Kang, P.J. 2015. Algal flora of Korea. Volume 4, Number 11. Rhodophyta: Florideophyceae, Gigartinales: Gigartinaceae: Cystocloniaceae, Kallymeniaceae. Marine red algae. 146 pp. National Institute of Biological Resources, Incheon.
 
岡村金太郎 1908. 日本藻類圖譜 第1巻 第7集.pp. 147-177. 東京.*自費出版
 
Suringar, W.F.R. 1867. Algarum iaponicarum Musei Botanici L.B. index praecursorius. Annales Musei Botanici Lugduno-Batavi 3: 256-259.
 
Yang, M.Y. and Kim, M.S. 2016. Molecular phylogeny of the genus Chondracanthus (Rhodophyta), focusing on the resurrection of C. okamurae and the description of C. cincinnus sp. nov. Ocean Science Journal 51: 517-529.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱スギノリ目スギノリ科
 
日本産海藻リスト紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱スギノリ目スギノリ科スギノリ属Chondracanthus okamurae
 
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