渦鞭毛下門 Infraphylum Dinozoa
 
作成日:2010年12月23日(2023年8月18日更新)
 
渦鞭毛上綱 Superclass Dinoflagellata
 
単細胞で細胞を一周する横溝とそれに直交する縦溝を持ちます。横溝と縦溝に沿って鞭毛を持ち,横鞭毛はリボン状に巻いています。細胞を鎧版で覆うもの(有殻渦鞭毛類)と鎧板を持たないもの(無殻渦鞭毛類)があります。生活様式は多様で光合成をするもの,他の生物を捕食するもの,サンゴなどの動物と共生するもの(シンビオディニウム Symbiodinium の仲間)など様々です。紅藻の色素体を二次細胞内共生したと考えられ,色素体は3枚の包膜で包まれます。光合成色素としてクロロフィルa, c, ペリディニンなどを持ちます。色素体を失ったものも多く,光合成をしないものは活発な捕食者で,様々な方法で他の単細胞生物を捕食します。キタカンムリムシ (Dinophysis norvegica) Nusuttodinium aeruginosumのように,他の生物から色素体を奪って自身の色素体とするもの(盗色素体現象),シアノバクテリアを共生させるものなども知られています。
 
渦鞭毛虫/渦鞭毛動物/渦鞭毛藻類/渦鞭毛植物の名称について
上述の通り,このグループは多様な生活様式を持っており,色素体を持ち,光合成をするもの,他の生物を捕食するもの,盗色素体を持ち,捕食と光合成の両方を行っているものなど様々です。伝統的に,捕食生活をするものは「原生動物」あるいは「動物」であるとして,「渦鞭毛虫」,「渦鞭毛動物」と呼び,光合成をするものは「藻類」あるいは「植物」であるとして,「渦鞭毛藻類」,「渦鞭毛植物」と呼ばれてきました。分類学的研究の基準となる命名規約においても,「動物的」と判断されたものは国際動物命名規約(ICZN)に従って記載され,「藻類/植物的」と判断されたものは国際植物命名規約(ICBN,現 国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN))に従って記載されてきました。例えば,渦鞭毛動物門はICZNに従って記載された「Dinozoa」,渦鞭毛植物門はICBN(現 ICN)に従って記載された「Dinophyta」になります。

系統学的研究が進み,現在の真核生物の分類体系において,これらの仲間は系統的に「動物」,「植物」とは異なり,「黄色生物」と呼ばれる大きなグループに含まれています。「渦鞭毛虫/動物」と「渦鞭毛藻類/植物」は互いに近縁な仲間であり,生活様式の違いは色素体の獲得様式の違いなどによってもたらされたと考えられています(色素体/葉緑体の成立と多様性)。伝統的に呼び分けてきたものが同じグループの生き物であることが判明したわけですが,この場合,「渦鞭毛虫/動物」あるいは「渦鞭毛藻類/植物」を何と呼べばよいか,判断に困ります。「渦鞭毛生物」と呼ぶか,英名の「dinoflagellate」を直訳して「渦鞭毛類」と呼ぶのが適当かと思いますが,現在のところ正式な呼び名は決まっていません。本サイトでは,便宜上「虫」や「藻」を外し,「渦鞭毛~」としました。

分類学的にも大きな問題があり,同じ分類階級や種類に対し,ICZNとICBN(現 ICN)という異なる命名規約に基づいて記載された学名が2つ生じてしまっています。両命名規約は互いに不可侵なものであり,命名法上,ICZNとICBN(現 ICN)のどちらも有効となるため,どちらの規約を用いるべきか判断が難しいところです。本サイトでは,Ruggiero et al. (2015) に従い,下門(Infraphylum)と上綱(Superclass)の階級はICZNにおいて記載された「Dinozoa」と「Dinoflagellata」を用いました。

 
渦鞭毛綱 Class Dinophyceae
 
カンムリムシ亜綱 Subclass Dinophysoidia
 
カンムリムシ目 Order Dinophysidales
             
       
  カンムリムシ科   カンムリムシ科   カンムリムシ科  
  キタカンムリムシ   オナガカンムリムシ   Dinophysis sp.  
  撮影:大田修平;ノルウェー オスロ   撮影:鈴木雅大;兵庫県 淡路島 岩屋   撮影:鈴木雅大;兵庫県 神戸市 神戸港  
 
ヨロイオビムシ亜綱 Subclass Gonyaulacoidia
 
ヨロイオビムシ目 Order Gonyaulacales
*ツノモ科,ピロキスチス科などを含みます。
 
ハダカオビムシ目 Order Gymnodiniales
*ハダカオビムシ(ギムノディニウム)の仲間を含みます。
 
ウズオビムシ(ヒシオビムシ)亜綱 Subclass Peridinoidia
 
ウズオビムシ(ヒシオビムシ)目 Order Peridiniales
*ウズオビムシ(ヒシオビムシ,ペリディニウム)属,スケオビムシ(プロトペリディニウム)属などを含みます。
 
フタヒゲムシ目 Order Prorocentrales
 
         
  フタヒゲムシ科   フタヒゲムシ科      
  ツノフタヒゲムシ   Prorocentrum sp.(底生)      
  撮影:鈴木雅大;兵庫県 神戸市 神戸港   撮影:鈴木雅大;兵庫県 淡路島 江井海岸      
 
スエシア亜綱 Subclass Suessioidia
 
スエシア目 Order Suessiales
 
           
  シンビオディニウム科          
  Symbiodiniaceae sp.          
  撮影:鈴木雅大;神奈川県 三浦市 三崎町          
 
亜綱,目の所属不明 Incertae sedis
 
           
  アンフィドマ科          
  Azadinium cf. spinosum          
  撮影:大田修平;ノルウェー オスロ          
 
ヤコウチュウ綱 Class Noctilucea
このグループ全体に言えることですが,国際動物命名規約(ICZN)の下で学名を扱うか,国際植物命名規約(ICBN,現 国際藻類・菌類・植物命名規約(ICN))の下で扱うかで名称が異なります。ヤコウチュウの場合,ICZNにおいて記載された綱(class)はNoctilucea,ICBN(現 ICN)において記載された綱はNoctilucophyceaeとなります。本サイトでは,Ruggiero et al. (2015) に従い,Noctiluceaを用いました。
 
ヤコウチュウ目 Order Noctilucida
ICZNにおいて記載された目(order)はNoctilucida,ICBN(現 ICN)において記載された目はNoctilucalesになります。本サイトでは,Ruggiero et al. (2015) に従い,Noctilucidaを用いました。
 
           
  ヤコウチュウ科          
  ヤコウチュウ          
  撮影:鈴木雅大;兵庫県 淡路島 富島          
 
参考文献
 
Ruggiero, M.A., Gordon, D.P., Orrell, T.M., Bailly, N., Bourgoin, T., Brusca, R.C., Cavalier-Smith, T., Guiry, M.D. and Kirk, P.M. 2015. A higher level classification of all living organisms. PLoS ONE 10: e0119248.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインS A Rアルベオラータ上門
 
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