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ベンテンモ Benzaitenia yenoshimensis
 
作成者:鈴木雅大 作成日:2013年11月10日(2018年7月1日更新)
 
ベンテンモ(弁天藻)
Benzaitenia yenoshimensis Yendo 1913: 283. Pl. 14, Figs 1-10.
 
紅藻植物門(Phylum Rhodophyta),真正紅藻亜門(Subphylum Eurhodophytina),真正紅藻綱(Class Florideophyceae),マサゴシバリ亜綱(Subclass Rhodymeniophycidae),イギス目(Order Ceramiales),フジマツモ科(Family Rhodomelaceae),ヤナギノリ連(Tribe Chondrieae),ベンテンモ属(Genus Benzaitenia
 
*1. 吉田(1998)「新日本海藻誌」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),真正紅藻亜綱(Subclass Florideophycidae),イギス目(Order Ceramiales),フジマツモ科(Family Rhodomelaceae),ベンテンモ属(Genus Benzaitenia
*2. 吉田ら(2015)「日本産海藻目録(2015年改訂版)」における分類体系:紅藻綱(Class Rhodophyceae),イギス目(Order Ceramiales),フジマツモ科(Family Rhodomelaceae),ベンテンモ属(Genus Benzaitenia
 
掲載情報
稲垣 1933: 72; 岡村1936: 806. Fig. 387; Morril 1976: 203. Figs 1-26; 吉田 1998: 1008.
 
Type locality: 北海道 焼尻島.
Holotype specimen: TI herb. Yendo(東京大学植物標本庫)*SAP(北海道大学大学院理学研究院植物標本庫)に永久貸与
 
ベンテンモ Benzaitenia yenoshimensis
 
ベンテンモ Benzaitenia yenoshimensis
 
ベンテンモ Benzaitenia yenoshimensis
撮影地:神奈川県 中郡 大磯町 照ヶ崎;撮影日:2012年4月7日;撮影者:横澤敏和 氏
 
ベンテンモ Benzaitenia yenoshimensis
 
ベンテンモ Benzaitenia yenoshimensis
押し葉標本(採集地:静岡県 下田市 須崎 恵比須島;採集日:2005年5月11日;採集者:鈴木雅大)
 

紅藻類のユナ(Chondria crassicaulisの体に寄生する寄生紅藻です。黄色い粒が集まった塊状の体を持ち,ユナの体上で良く目立ちます。名前の話題に事欠かない紅藻で,和名の「弁天」及び属の学名である「Benzaitenia」は,神奈川県江ノ島の弁財天にちなんだもので,種形容語を合わせた学名は「Benzaitenia yenoshimensis(江ノ島の弁天様)」です。形から連想されたものではなく,江ノ島で採集されたことからつけられた名前と考えられています。このため,本種は江ノ島で記載された海藻と思われがちですが,遠藤吉三郎先生が遺された標本の中に江ノ島産のベンテンモは1枚もなく,吉田(1991)は,本種の基準標本(タイプ標本)として北海道焼尻島産のものを選定しました。従って,本種が記載されたのは江ノ島ではなく,北海道焼尻島ということになります。著者も北海道大学総合博物館(SAP)で遠藤先生のコレクションを調査したことがありますが,江ノ島産のベンテンモは見つけることが出来ませんでした。遠藤先生がなぜ江ノ島産の標本を遺されなかったのか,日本藻類学の謎の一つとなっています。

ベンテンモと江ノ島に絡む問題はまだあります。上述の通り,本種は江ノ島にちなんだ海藻ですが,著者の知る限り,ベンテンモは江ノ島で数十年以上確認されていません。博物館に収蔵されている標本の記録では1951年3月に採集されたものが最後のようです。近隣の神奈川県大磯町では本種が確認出来るのですが,どういうわけか現在の江ノ島のユナには本種が寄生していません。同じことが,本種同様,江ノ島の弁財天にちなんでつけられたベンテンアマノリ(Pyropia ishigecola)にも起こっており,現在の江ノ島でベンテンアマノリは生育していません。この他,他地域では普通に見られる海藻であるヒトエグサ(Monostroma nitidumイワヒゲ(Myelophycus simplexハナフノリ(Gloiopeltis complanataヒロハノムカデノリ(Grateloupia subpectinata(注)なども江ノ島において50年以上生育が確認されておらず,江ノ島における絶滅種あるいは消息不明種と考えられています(横澤 2008など)。「1960年代のヨットハーバー建設によって環境が変わった」とする仮説が広く受け入れられており,著者も否定出来ないと考えていますが,大磯町など近隣に生育しているにもかかわらず,なぜ江ノ島に戻って来れないのでしょうか?現在の江ノ島の環境がベンテンモやベンテンアマノリなどにとって良くないのでしょうか?そうだとすると,これらの種の生育を妨げる要因は何なのでしょうか?考えれば考えるほど分からない,不可思議極まりない海藻です。

注.ヒロハノムカデノリは著者が2018年6月15日に江ノ島で採集・確認しました。

 
参考文献
 
Guiry, M.D. and Guiry, G.M. 2013. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. https://www.algaebase.org; searched on 10 November 2013.
 
稲垣貫一 1933. 忍路湾及び其れに近接せる沿岸の海産紅藻類.北海道帝国大学理学部海藻研究所報告 2: 1-77.
 
Morrill, J. 1976. Notes on parasitic Rhodomelaceae, I: The morphology and systematic position of Benzaitenia yenoshimensis Yendo, a parasitic red alga from Japan. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia 127: 203-215.
 
岡村金太郎 1936. 日本海藻誌.964 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
Yendo, K. 1913. Some new algae from Japan. Nyt Magazin for Naturvidenskaberne 51: 275-288.
 
横澤敏和 2008. 藻類採集地案内 江ノ島(神奈川県藤沢市).藻類 56: 213-216.
 
吉田忠生 1991. 東京大学総合研究資料館所蔵藻類タイプ標本目録.東京大学総合研究資料館 標本資料報告 第24号.
 
吉田忠生 1998. 新日本海藻誌.1222 pp. 内田老鶴圃,東京.
 
吉田忠生・鈴木雅大・吉永一男 2015. 日本産海藻目録(2015年改訂版).藻類 63: 129-189.
 
 
写真で見る生物の系統と分類真核生物ドメインスーパーグループ アーケプラスチダ紅藻植物門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イギス目フジマツモ科
 
日本産海藻リスト紅藻植物門真正紅藻亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イギス目フジマツモ科ヤナギノリ連ベンテンモ属ベンテンモ
 
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